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何故ロシアはインドに、共同開発した超音速ミサイルをフィリピンに輸出するのを許したのか?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/26、インドはロシアと共同開発した超音速巡航ミサイルをフィリピンに輸出すると発表した。ロシアがこれを許したのは、フィリピンが中国に対してパワー・バランスを調整するのを支援し、それによってフィリピンがEMCに参加する可能性を高めたいからだ。
Why’s Russia Letting India Export Jointly Produced Supersonic Missiles To The Philippines?



インドがフィリピンへ最新鋭ミサイルを輸出

 2024/01/26、インドの国防研究開発機構は、ロシアとインドが共同開発した世界最高レヴェルの「ブラモス(BrahMos)」超音速巡航ミサイルをフィリピンに輸出すると発表した。

 これは2022年1月に結んだ3億7,500万ドルの契約に基付いているが、当時は、ロシアはこれによって、インドを通じて東南アジアに於ける中国の影響力のバランスを取ることが出来ると分析した。

 米国は中国との戦争の可能性を控えて中国周辺の同盟諸国を纏め上げているが、中でもフィリピンは南シナ海に於ける係争をエスカレートさせており、これはインド太平洋版のNATOと言えるAUKUS+の統合に役立つので特に重要だ。

 新冷戦に於てフィリピンは間違い無く、米国の対中国陣営に属している。にも関わらず01/23、ロシア駐在フィリピン大使は、あらゆる分野のロシアの投資を受け入れる用意が有るとアピールしている。これは一体どう云うことなのだろうか。



ロシアはフィリピンのバランス調整を助けたい

 ロシア側は、フィリピンが西洋の対ロシア制裁要求に従わなかったことを高く評価しており、南シナ海係争に関してはフィリピンに好意的である様だ。これは2021/12/03のロシア・ヴェトナム共同声明で、そうした意見の不一致を規制する為にUNCLOS(海洋法に関する国際連合条約)に3回言及していることからも窺える。2016年にハーグ仲裁裁判所はUNCLOSに基付いてフィリピンに軍配を上げたが、中国は裁判への参加を拒否した。

 ロシアの観点からすれば、米国は南シナ海の領有権問題を中国を封じ込める為に利用し、フィリピンの様な国を中心にNATOの様な同盟を作ろうとしている。これはASEANを分断し、最悪の場合は熱い戦争を引き起こすことになる。

 こうした脅威を軽減する唯一の現実的な方法は、フィリピンに対する米国の有害な影響力を徐々に弱体化させることだ。従ってロシアはこの目的の為に、インドがフィリピンにミサイルを輸出することを許したのだ。これと似た様なことは南コーカサスでも起こっている。インドはアルメニアに武器を輸出しているが、これは西洋への傾斜を深めるアルメニアが米仏に過度に依存するのを防ぐ為の措置だ。ロシアも同様に、フィリピンが、東南アジアを分断統治しようとしている米国に対して軍事戦略的に完全に依存するのを阻止しようとしている。

 ロシアはこのたったひとつの間接的な軍事協定によって、フィリピンに対する米国の影響力を打ち砕けるなどと云う幻想は抱いていない。だが中国とのバランスを取る為には、やった方がやらないよりはマシだと計算している。

 ロシアの「軍事外交」は、ライヴァル関係に在る国家同士(アルメニアとアゼルバイジャン、中国とインド、シリアとトルコ等)の間のバランスを維持または回復することを目的としている。そうやっておいて武力に訴えるのではなく、政治的手段によって紛争を解決するよう奨励するのだ。これは常に成功するとは限らないが、その意図は米国とは正反対だ。米国はライヴァル関係が有れば一方の側だけを武装させてバランスを崩し、武力の行使を奨励する。ロシアはユーラシアの平和的統合の為に紛争を阻止しようとするが、米国はユーラシアを分断統治する為に紛争を誘発しようとする。ユーラシア超大陸に於ける両国の大戦略は完全に真逆を向いているのだ。

 フィリピンの問題に戻ると、米国がフィリピンをけしかけて中国との戦争を唆しているのに対し、ロシアはフィリピンと間接的な軍事協定を結ぶことによって、緊迫する係争をより適切に管理したいと望んでいる。最先端のミサイルを持つことによって、フィリピンは今以上に米国やAUKUS+に頼ること無く、中国とのパワー・バランスを取り戻すことが出来る。ロシアはフィリピンに、米国やAUKUS+との縁を切らせたい訳ではない(経済的・政治的結び付きが強いのでそれは現実的ではない)、フィリピンの主権を強化し、米国の命令でフィリピンが戦争を引き起こす可能性を減らしたいだけだ。

  今回の措置によってロシアとの信頼関係が強まることで、フィリピンが東方海洋回廊(EMC)に統合される可能性も高まるかも知れない。フィリピンと隣のヴェトナムが参加すれば、北東部(ロシア)、南東部(フィリピンとヴェトナム)、南アジア(インド)の3地域がこの回廊によって結び付くことになる。ユーラシア・リムランドは歴史的に米国の影響力が強いが、この回廊が発展すれば多極化プロセスが加速し、全参加国が、米国と中国との間でバランスを取り易くなるだろう。EMC拡大の第一歩は、戦略的パートナーシップで結ばれたロシアとインドが、今回のミサイル輸出の様な「軍事外交」を通じて、フィリピンやヴェトナム等の第三国との間の信頼を強化することだ。

 米国との中国との間でゼロサムの選択をしなければいけない訳ではなく、第三の道が存在しているのだとASEAN諸国に知らしめることで、中国との間に海洋係争を抱えている国々は、パワー・バランスを維持・回復する為に、米国よりもロシアやインドに頼ることが出来る様になる。これにより米国の命令によって戦争が勃発する可能性が減り、これらの国々もまたEMCに参加してユーラシア・リムランドの多極化プロセスを加速する可能性が高まる。



まとめ

 纏めると、インドがロシアと共同開発した最新鋭のミサイルをフィリピンへ輸出することをロシアが許したのは、フィリピンがより穏健で最終的に管理可能な方法で中国とのバランスを取ることを、ロシアが支援したいからだ。これはフィリピンのEMC参加に必要な信頼醸成が目的だ。但しこの問題は余りにもデリケートなので、公にこの計算を認めることは出来ない。だからこそ、真正の資格の有るアナリスト達が、当局の代わりに一般向けにそれらを解説すべきなのだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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