2015/08/19
読書メモ:アメリカの卑劣な戦争ー無人機と特殊作戦部隊の暗躍
2001年9月11日の同時多発テロ以来、「対テロ戦争」の名のもと、これまで世界が作り上げていた「戦争のルール」も、自国の法規制もかなぐり捨て、「テロリストの疑い」さえあれば、無人航空機であらゆる人間を爆撃することを可能にしたアメリカ。それは、とうとう自国民をも法的手続きなしに殺害することをも合法化した。全世界を戦場と化し、卑劣な戦争に埋没していく醜いアメリカの姿が、12年におよぶ詳細な取材により現れる。
「切迫した脅威」と判断されれば、誰でもどこにいようとも軍事作戦により殺害が可能とするアメリカの論理。「存立危機事態」などという、米軍とともに世界のどこでも自衛隊を派遣しようとする安倍政権が使う聞き慣れない言葉も、このアメリカの論理から生まれてきたのかと、疑わざるを得ない。
以下に重要点を書き出します。
アメリカの卑劣な戦争ー無人機と特殊作戦部隊の暗躍
ジェレミー・スケイヒル著 横山啓明訳 柏書房 2014年刊
上巻
(2001年)9・11の翌月、チェイニー、ラムズフェルドと彼らのチームは、官僚に自分たちの計画の邪魔をされず、これ以上ないというほどどす黒いアメリカの力を、チェックなしで使うことができるように大きな改革に乗り出した。(中略)
人を殺害するために軍事行動を起こす場合、複数の機関で検討することは、クリントン時代に普通に行われていたことだが、チェイニーはこれを骨抜きにしたかった。9・11後すぐにホワイトハウスは政権に仕えるベテラン法律専門家を招集し、拷問、誘拐、暗殺を合法化させようとした。このグループはみずからを”戦争委員会”と呼んだ。
p.52
(2002年イエメンでの小型無人機プレデターによる米軍の爆撃について)
「テロからアメリカを守る最善の方法は、テロリストが謀議したり潜伏したりしている場所まで追っていくことだ」無人機による攻撃のあと、ブッシュ大統領は毎週恒例のラジオ演説で述べた。「今後はこうしたことを世界中で行っていく」
p.139
「あれで戦闘ルールが変わった」と特殊作戦に精通した元CIA高官は『ロサンゼルス・タイムズ』紙に語った。あの攻撃こそ、アメリカ政府の新たな境界なき戦争の開始を告げる先制の一撃だった。
p.139
2004年春、ラムズフェルド国防長官はある秘密の命令書に署名した。これは<アルカーイダ・ネットワーク破壊遂行命令>と呼ばれる命令書で、統合特殊作戦コマンドの作戦遂行能力の効率化と、イラクおよびアフガニスタンの指定戦域外での標的攻撃を可能にするものだった。この命令書により、アルカーイダ工作員が活動中および潜伏中である、もしくはその可能性があるという情報があれば、統合特殊作戦コマンドは「世界中どこでも」作戦を遂行することができるようになった。(15ヶ月後この命令書は大統領の承認を得る)p.282
(統合特殊作戦コマンドの工作員・ハンターへのインタビュー)
「われわれ特殊部隊の工作員は世界中に派遣され、過激派組織との関与が疑われる人物を捕縛したり殺害したりしていた。同盟国(イスラム諸国のみならず、タイ、南米、ヨーロッパも含む)に送り込まれることもあった。」
「どのような情報があれば、指定戦域外での標的殺害作戦にゴーサインが出るのでしょう?」
「作戦遂行に必要とされるのは状況的な情報ばかりだ。(中略)決定的な情報は必ずしも必要とされなかった。それがこの作戦の一番の問題点だ。つまり、”戦場は全世界であり、われわれは戦争状態にある”という考え方に基づいたものだ。だからこそ、軍は国家安全保障という大義名分のもとに世界中どこでも好き放題ができるというわけだ。それは共和党が政権を取ろうが民主党が取ろうが同じことだ」
p.303
(2009年オバマ大統領就任・パキスタンでの無人機攻撃により民間人の犠牲がでたことを受けて)
(ヘイデンCIA長官長官からオバマ大統領は)このとき初めてCIAが行っていた<識別特性爆撃>なるものを聞かされた。ブッシュ政権が終了を迎える数ヶ月前から、CIAは正確な情報ではなくテロリストたちに特徴的な行動パターンに基づいて標的を特定するようになっていた。特殊地域の大集団に属するか、もしくは武装勢力およびテロリスト集団と疑わしき集団と接触歴のある”徴兵年齢になる男性”は、無人航空機による空爆の標的たり得るとCIAは考えていたのだ。つまり空爆の実施には確実な情報確認は必要ではなく、テロリストの疑いのある人物を特定する”識別特性”をいくつか見つけるだけでよかった。 それなりに納得できる説明をヘイデン長官から受けたオバマ大統領は、識別特性爆撃の継続を決断した。
pp.406-407
2009年10月、報道によれば、パキスタンで標的を捜索できる”目標面積”を拡大し、無人航空機の補充と秘密作戦に携わる準軍事工作員の増員をオバマ大統領はCIAに承認したという。大統領就任から10ヶ月のあいだにオバマが実施した無人航空機による空爆の回数は、ブッシュが8年間の在任期間中に行った回数と同じだった。
p.409
(同ページに、パキスタン・タリバンの指導者マフスードの暗殺作戦が記載されている。マフスードを暗殺するための無人機攻撃により何百人もの民間人の犠牲者を出しながら、家族と客人11人とともにマフスードは爆撃され、全員が殺害された。)
(民間人の犠牲については、下巻35章 ガルデーズの惨劇=アフガニスタンでの米軍の誤認による一家惨殺とそれを言い逃れるための虚偽報告が醜悪な事件=も象徴的であろう。)
下巻
(2010年初頭)憲法学の専門家でもあるジャーナリストのグレン・グリーンウォルドは当時こう述べている。
「実際の戦場にいるアメリカ軍兵士は、立ち向かってくる敵兵を殺害する権利を当然有している。たとえ相手がアメリカ市民であってもだ。それこそが戦争の本質なのだ。だからこそ、戦闘地域の実際の戦場で交戦状態にある兵士を殺害することは許容されるが、戦場で捕縛した捕虜への拷問などは許されない。とはいえ、現代の戦いはここで語っているものとはちがう。”暗殺リスト”に載っている人々は、就寝中でも、友人や家族とのドライブ中でも、どんなことをしている最中でも殺される可能性がある。そしてさらに危険なのは、オバマ政権はブッシュ前政権同様、全世界を戦場とみなしていることだ」
p.115
(2010年『無人航空機の年』)
大統領選当時、オバマは既知のテロリスト追跡のためにアメリカ軍に単独作戦を取らせることを公約のひとつに掲げてはいたものの、追跡の対象としたのはオサマ・ビンラディンとその腹心たちだけだった。しかし大統領就任後、彼が構築したシステムは、はるかに見境のないものになっていく。要するに、殺害リストは犯罪抑止処置の形を取り、テロリストの疑いのある生活パターンの個人を、法的に問題のない攻撃対象と見なした。識別特性爆撃の活用により、標的がアメリカに対する具体的なテロ計画や敵対活動に関わっていた事実はもはや必要とされなかった。将来そうした活動に手を染める可能性があれば、それが彼らを殺す大義名分となりうるのだ。ときには、パキスタンの特定地域に暮らす「兵役適齢男子」の区分に入っているというだけでテロ行為の充分な根拠とされ、無人機攻撃が行われた。イエメンでは、作戦立案者たちが爆撃対象の特定すらできていない場合でも、オバマは統合特殊作戦コマンドに標的への攻撃許可を与えた。そうした爆撃はテロ攻撃崩壊爆撃と名付けられた。
pp.157-158
「オバマと彼のチームが作り出したシステムでは人々がどんどん殺されていくというのに、そこにどんな根拠があるかわからず、状況を変える手段もない」元CIA局員フィリップ・ジラルディは言った。「世の中にテロリストがいないわけではないし、ときにはもっともな理由があって、テロリストを殺さなければならない場合もある。だが、わたしはそのもっともな理由というやつを知りたいのであり、ホワイトハウスの誰かさんから『わたしを信じたまえ』と言われたいわけじゃない。そんなセリフは聞き飽きている」
pp.160-161
(一線を越えた暗殺・・・
アンワル・アウラキ=イエメン出身のアメリカ国民・イスラム教指導者=暗殺計画)
(憲法権利センター弁護士)ケブリアイたちはアウラキに関する入手可能な事実を調べ、こう結論づけた。
「アウラキの説教やインタビューでのコメントは、多くのアメリカ人にとって不愉快ではあるが、合衆国憲法修正第一条によって保護された活動であることはまちがいないと考えられる。アウラキが実際になんらかの脅威であり、その行動が憲法に保証される範囲から逸脱する犯罪行為であるなら、告発し、裁判にかけ、適正な法の裁きを受けさせなければならない。ほかの人々、とりわけアメリカ国民と同じように扱う必要がある。宣戦布告もしていない国にいるアメリカ国民を告訴することもせずに殺害すれば、テロ容疑者の見つかった場所がどこであれ、アメリカは軍事力を持って容疑者を死に至らしめる権限があるので、それを行使すると宣言しているも同じことになるだろう。そのようなことをほのめかすのは、法的にも倫理的にも政治的にも、非常に恐ろしいことだと思う」
pp.184-185
(2011年9月30日、イエメンに(暗殺を逃れて)潜伏中のアンワル・アウラキは無人航空機ヘル・ファイヤーの爆撃により殺害される。また、2週間後の10月14日、イエメンの親戚の家に滞在していた当時16才の息子アブドゥルラフマン・アウラキも十代のいとこたち数人とともに無人航空機による爆撃により殺害された。このアメリカ国籍をもつ少年の死については、米軍は当初「21才のアルカーイダの工作員だったなどと弁明を図ったが、虚偽であることが判明。以後明確な説明はない。詳細は、『57章 息子もまた』)
2013年の初め、アメリカの司法省が作成した白書に、「アメリカ市民を標的とした殺害作戦の合法性」が論じられていることが明らかになった。政府の弁護団が、その16ページにわたる文書のなかで主張した内容は次のようなものだ。政府がアメリカの一市民を標的殺害の対象者として容認する際、その人物が特定の集団のメンバーとして、あるいはテロリストとして活動していることを示す確たる情報を入手している必要はない。その場合、「情報に精通した政府高官が」が、標的となる人物をアメリカにとって「切迫した脅威」だと判断すれば、アメリカの一市民の殺害を命じるに足る充分な根拠となりうる。とはいえ司法省の法律担当は、「切迫したという語義の広さ」を主張し、「切迫」という言葉の定義を改めようと試みた。彼らはこのように記している。
「アメリカ合衆国に暴力的な攻撃を仕掛ける脅威が『切迫している』と作戦の指揮者が申し立てれば、ごく近い将来に特定の攻撃が合衆国国民に向けて行われることを示す明確な証拠を国家が入手している必要はない。容疑者の標的殺害を先延ばしし、テロ攻撃に対する防備を整えたとしても、アメリカが自国を防御するための時間を充分に得ることにはならない。このような作戦は、自衛における合法的殺害に等しく、暗殺には当たらない」
アメリカ自由人権協会のジャミール・ジャファーは、この白書を「背筋が凍るような文書」とし、「アメリカ政府は司法手続きを踏まずに自国民を処刑する権限を持っている、と言っているようなものだ」と述べた。さらにジャファーは次のようにつづける。
「この権限は次期政権、またそれ以降の政権によっても行使が可能になる。アルカーイダとの戦いだけでなく、将来のあらゆる紛争においても行使できるものだ。またオバマ政権の意向次第で、地図上のごく限られた戦場だけでなく、世界中のあらゆる場にも拡大できる。まさに、全世界に多大な影響を及ぼすゆゆしき問題といえるだろう」
pp.416-417
(最後に、長年イエメンなどで極秘任務についてきたパトリック・ラング大佐の言葉)
「(アラビア半島のアルカイーダ)による脅威が、アメリカへの脅威であるとひどく誇張されている。アメリカ人にとって、飛行機に乗っているときやパーク・アヴェニューを歩いているようなときに殺されるという状況が最大の脅威だ。なぜなら日常生活のなかで危険な状況に遭遇しなくてすんでいるからだ。だから、あえて言うが、『(アラビア半島のアルカイーダ)はこの国にとって脅威なのか?』確かに、連中は飛行機を墜落させ、何百人もの人を殺す危険がある。だが、彼らは実際にアメリカの存在を脅かすものなのか?もちろんちがう。絶対にちがう。連中は誰ひとりとしてアメリカにとって生存を脅かすほどの脅威ではない。過剰反応しているだけだ。こういうヒステリックな反応こそが危険だ」pp.346-347
以上、( )による追加文、太文字による強調 by 小橋
=関連動画=
デモクラシー・ナウ!
・世界を戦場にしていい理由 9.11から無人機攻撃まで
http://democracynow.jp/video/20130517-1
=関連記事=
・米、無人機飛行を1・5倍へ 不安定地域拡大に対応
中日新聞2015年8月18日
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2015081801001029.html
上記記事によると、現在1日に約60回実施している無人機の飛行を今後4年間で約90回に増加させ、統合運用強化に向け、空軍中心から陸軍や特殊作戦軍を含む運用に切り替えるとしています。イエメンのように、この米軍無人機の暗殺攻撃で多くの一般人が巻き込まれ、一国の混乱を招きかけない。それも世界中で。。。
2015/08/14
〜放射線を浴びた〜X年後
8月9日、長崎に原爆が投下されてから70年のこの日、神戸大学で上映された映画「〜放射線を浴びた〜X年後」を観た。
1954~62年にかけてビキニ環礁を中心に太平洋で行われた大気圏内核実験。120発ほどの原爆・水爆が炸裂し、大量の放射能がばらまかれた。1954年3月の水爆ブラボーでの第五福竜丸の被ばくがよく知られるところだが、被ばくした船はそれだけではない。被ばくマグロも1954年だけの問題じゃない。
大気圏内核実験は1962年までずっと続いていたのだが、日本の政府もメディアも口を閉ざしたのは、1954年12月に、アメリカから2百万ドルの慰謝料を受け取り「問題の完全な解決」を了承したからだった。
当時被ばくしていたはずの大勢の漁船の乗組員。ある高校教師の調査で消息が分かった乗組員は241人。生存していれば50代から60代のこの時期に、既に3分の1が死亡していた。
この映画の監督伊東英明氏の言葉
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(太平洋での大気圏内核実験は)日本全土、アメリカほぼ本土を高濃度に汚染した巨大被ばく事件にも関わらず、これだけ完璧なまでに封印され、ほとんんどの人々の記憶から消し去られました。これは、世界的にみても、類をみない事件ではないかと思います。
(中略)
(311福島第一原発事故の後)日本中の人が、将来、どのような被害がでるのかを知りたがっています。その鍵が、このビキニ事件には隠されています。
加害者が何を行ったのか。
被害者であるはずの日本政府が何をしたのか。
被害者である国民がどうなったのか。
そして、特に強い被ばくをしたマグロ船乗組員たちがどうなったのか。
それらを解明すれば福島の今後も見えてきます。
封印された巨大被ばく事件を解き明かし、多くの人(被害者である日本人、そしてアメリカ国民)に伝えることは非常に大切なことだと思っています。
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書籍『〜放射線を浴びた〜X年後』伊東英明著 講談社2014年刊
添付資料「この本がうまれるまで~編集者からのことば~より
予告編だけでも見てください。
「〜放射線を浴びた〜X年後」予告編
関連サイト
・「〜放射線を浴びた〜X年後」公式サイト
・映画で紹介される貴重な資料と調査について
・Wikipeiaにて「核実験一覧」を検索してください。
ビキニだけでなく、アメリカ本土、旧ソ連(現カザフスタン)、中国(のウイグル自治区では1980年まで)、これだけの大気圏内核実験が行われていたのかと改めて知るだけでも、封印される被ばくの闇の輪郭が見えるでしょう。
【雑感】
1945年アメリカによる原爆投下、54~62年アメリカの核実験、2011年、アメリカにより導入された原発のメルトダウン事故。日本は今、アメリカによる3度目の被ばくに喘いでいると言えるのではないでしょうか。
この「占領国」による加害行為に、「被占領国」の日本政府がどのように対応し、国民がどのように扱われてきたか・・・。戦後70年の今になっても、三度同じことが繰り返されているように思えてなりません。
とは言え、被ばくの事実を隠されて、苦しんでいるのはアメリカ国民も同じ。この核の闇は、国境も人種も関係なく人類を覆う闇なのかもしれません。
・アメリカ本土の被ばくに関しては、鎌仲ひとみ監督「ヒバクシャ~世界の終わりに」をご覧ください。