2013/06/07

 

被爆者医療から見た原発事故・その2

~プロモーションとイニシエーション:福島子ども調査を受けて~


6月5日付けの報道によると、東京電力福島第1原発事故による放射線の影響を調べている福島県の県民健康管理調査で、約17万4000人の18歳以下の子どものうち、甲状腺がんの診断が「確定」した人が12人、「がんの疑い」は15人になったことが4日、関係者への取材で分かったということです。



・福島子ども調査:甲状腺がん12人に 2月より9人増
毎日新聞 2013年06月05日 07時18分
http://mainichi.jp/select/news/20130605k0000e040174000c.html


上記の記事の最終文は、このように締めくくられています。
「これまで調査主体の福島県立医大は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが、事故の4〜5年後以降だったとして「放射線の影響は考えられない」と説明している。」

調査主体の福島県立医大は、ほんとうにチェルノブイリ事故の放射線の影響を知っているのでしょうか?ほんとうに自分の目で、頭で、その「がんが見つかったのが、事故の4〜5年後以降だった」という一文を検証したのでしょうか?


今回も、前回に引き続き、長崎原爆被爆者に寄り添いながら放射線の影響を調査し続ける郷地秀夫先生が講演会において言及された、この「がんが見つかったのが、事故の4〜5年後以降だった」という一文の検証となる部分を紹介したいと思います。


講演会で配布された郷地先生の資料の中に、チェルノブイリ原発事故により放射能汚染された地域(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)の住民の甲状腺がんの発生についてのグラフ*がありました。そこに示されているのは、確かに事故後5年ほど経ったあたりから甲状腺がんの発生が増加の一途をたどるという曲線ですが、よく見ると事故後1,2年に急増し、その後減少し、また増加に転ずるという年齢層があります。図ではyoung adultsとされる層で、18歳ごろの子どもたちだと思われます。


郷地先生の解説によると、がんをもたらす放射線の影響には、イニシエーション(がん発生)とプロモーション(がん促進)の2種類があるということです。イニシエーションとは正常な細胞が放射線被曝によりがん細胞となること、そしてプロモーションとは、これまで免疫力などによってなんとかがんになるのを抑えられてきた細胞が、放射線被曝による免疫力低下でがんとなること。つまり、チェルブイリ事故の1,2年後(すなわち福島第一原発事故後では、今現在)に現れる若年層の甲状腺がんは、このプロモーションによるものだとも考えられ、事故による放射線被曝の影響という可能性は捨てきれないのです。



報道からは、甲状腺がんを患う子どもたちの年齢などの詳細は分かりませんが、調査主体の福島県立医大には、可能な限り情報を公開し、多くの医師、科学者が検証できる体制を取ってもらいたいと願うとともに、まずは、「放射線の影響は考えられない」と判断するにいたった根拠を丁寧に説明してもらいたいと思います。


*講演会資料のグラフについては、後日なんらかの形で、グラフそのものをご紹介できればと考えています。




追記:もうひとつの気になる見解

・<福島の被ばく>発がん危険性を否定 国連科学委
毎日新聞 6月1日(土)0時5分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130601-00000000-mai-int


上記記事によると、「事故後1年間の甲状腺被ばく線量の推計値は、原発から30キロ圏外の福島県の1歳児で最大66ミリシーベルト、30キロ圏内から避難した1歳児でも最大82ミリシーベルトで、いずれもがんが増えるとされる100ミリシーベルトを下回った。」と報告書案にあったということです。

一歳児が82ミリシーベルトも被曝している現実を前に、「100ミリシーベルト以下だから発がん危険性を否定」などと、どうして言えるのでしょう?

「国際的な機関であるICRP(国際放射線防護委員会)は、一度に100ミリシーベルトまで、あるいは一年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合でも、線量とがんの死亡率の間に比例関係があると考えて、達成できる範囲で線量を低く保つように勧告しています。」(中川保雄著『放射線被曝の歴史』p.13より)


すなわち、100ミリシーベルト以下だからと言って、発がん危険性がないとは言えないのです。国連科学委の科学者たちが、このことを知らないとは思えません。なぜ、そのような報告をだすのでしょう?

また、上記の勧告を出したICRP(国際放射線防護委員会)も、実は原子力推進の理念をもとに動く集団であることにも注意しなければなりません。中川氏は著書の中で、ICRPの精神を、組織をこう断じています。

 「彼らが高らかにうたいあげているICRPの精神とは、被曝を、人の生命を、金勘定する精神である。原子力産業は、現代の死の商人である。彼らは被曝を可能な限り少なくしようなどと考えはしない。」(同書、p.263)



詳しくは昨年書いた記事ですが拙ブログをご覧ください。

Words for Peace:『放射線被曝の歴史』を読んで:ICRPの精神とは?
http://flowersandbombs.blogspot.jp/2012_03_01_archive.html

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