2013/05/30

 

被爆者医療から見た原発事故


5月26日、さよなら原発神戸アクション主催の「放射能社会を生きる」連続セミナー第1回となる、医師の郷地秀夫先生を講師にお招きしての講演会「被爆者医療から見た原発事故」に司会として参加させてもらいました。



先生のご著書『被爆者医療から見た原発事故』に出会ったのは2011年の秋。私は「花と爆弾」を通して、これまでもずっと白血病や小児ガンに苦しむイラクの子どもたちの治療を支援させてもらってきましたが、放射線被曝がどれほど人体に影響があるものなのか・・・、それは、まだまだ明らかになっていない、また明らかにされていない領域だということを感じてきました。郷地先生も、長崎原爆被爆者の方たちと関わってこられた中で、同じように感じ、気づかれ、自分で確かめ、そして医師としてできるだけのことをしようとされているではないかと、ご著書を拝読し感じました。



90分間の講演と60分間の質疑応答を通して、放射性物資のもたらす影響について懸命に語ってくださった郷地秀夫先生の講演の内容を、ここですべてご紹介することはできませんが、特に時間を割いて説明してくださった、内部被曝について、できるだけわかりやすく、簡潔にまとめさせてもらいたいと思います。



外部被曝・内部被曝

外部被曝とは、身体の外部に存在する放射性物質(建物や木、地表面などに付着しているものなど)が発する放射線を浴びることであり、その原則は「全身が均一に被曝することと仮定する」ものである。ICRP(国際放射性防護委員会)の言う被曝線量は、この外部被曝線量が中心である。



内部被曝とは、空気中に浮遊していたり、水や食べ物に沈着した放射性物質を、吸入、摂取することにより体内に取り込むことであり、福島第一原発事故により原子炉外部に放出された放射性物資による残留放射線被曝の中心は、内部被曝であると考えられる。



外部被曝との大きな違いは、内部被曝は「全身が均一に被曝する」ものではないという点だ。例えば呼吸により放射性物質粒子を吸い込めば、それは肺に付着することとなり、その箇所だけを集中的に、また長期間にわたって被曝することになる。



また、外部被曝では飛程距離の長いガンマ線が中心だが、内部被曝では、それに加えて、飛程距離の短いアルファ線、ベータ線にも曝される。例えば、福島第一原発事故で大量に放出されたセシウム137はガンマ線もベータ線も出す。このベータ線は空間で1.5mの飛程距離を持つものであるが、体内ではその短い距離の間にエネルギーを出し切ることになり、付近の組織はその猛烈に強い放射線に曝されことになる。外部被曝ではこのベータ線は換算しないことになっているが、内部被曝においては、強力なエネルギーを出すベータ線は決して無視できるものではない。



半減期の短い放射性物質も、外部被曝の観点からは「早く放射性物質ではなくなってくれる」という点で都合の良いように思えるが、内部被曝の観点からは要注意である。なぜならば、それらの放射性物質はその短い期間に多くの放射線を出すからだ。例えば、放射性ヨウ素の半減期は8日、セシウム137の半減期は30年とされているが、放射性ヨウ素は8日のうちに、セシウム137の30年分の放射線を出すということだろう。体内に留まる期間が短くても、被曝線量は増えるのだ。以下、内部被曝の特徴を簡潔にまとめてみる。



・放射性粒子を体内に取り込むことによる被曝という形をとることが多い

・飛程距離の短い放射線も怖い

・半減期の短い放射性物質も怖い

・狭い領域に、集中的に被曝をさせる

・低線量を長期間に渡って被曝させる(排出されにくいものもあるため)



すなわち、ICRPの被曝線量の計算ではあまり問題にされない内部被曝こそ、今回の福島第一原発事故で最も注意しなければならないことだと言える。





以上は、郷地先生の講演、また当日いただいた資料を参考に、できるだけわかりやすくまとめさせてもらったものですが、もしもお気づきの点、不明な点がおありでしたら、お知らせいただければ幸いです。



最後に、私が最も感銘を受けた、郷地先生の苦しむ患者さんたちに寄り添う姿勢について書かせてもらいたいと思います。福島第一原発事故の後、子どもたちが鼻血を出したとたくさんのお母さんたちが心配されていました。多くの専門家たちは「原発事故とは関係ない」と切り捨てていましたが、郷地先生はいろいろな可能性を考えられ、「もしかしたら放射性粒子が鼻の中にくっついて、鼻血を引き起こしているのかもしれない」と、その証拠を集めるために、福島を走る車のフィルターを収集、分析されたり、大熊町の植物を採取されたりして、放射線汚染を調査されています。



また、福島県民健康調査により、38000人の子どもたちの中から10人の甲状腺がんが見つかったこと(1万人に対して2.63人と高頻度)をご存知でしょうか? その後、弘前、長島、甲府の3市を対象にして行われた甲状腺エコー検査で、要精密検査のB判定となった比率が、福島よりも他の3市の方が高かったとの結果も報告され、私としてもどのように解釈すれば良いのか分かりませんでしたが、郷地先生は福島と対象3市の被験者の対象数、年齢、性別などを調べ、対象地域の被験者数が少ないという問題に加え、その年齢構成、性別比率などが揃っていないことを突き止められました。すなわち福島の被験者は、「甲状腺異常がでない」年齢層(0~5歳)が全体の25.9%であったのに対して、対象3市では4.3%、また「異常がでやすい」年齢層(16~18歳)が、福島では12.2%であったのに対し、対象3市では20.8%、またその年齢層の女性に「異常がでやすい」にもかかわらず、福島の被験者の女性の比率はほぼ50%であるのに、対象3市では61%であり、このような調査では何も言えないとおっしゃっていました。



納得のいかないことは、自分でしっかりと調べ、あらゆる可能性を探り、苦しんでいる人たちとともに問題を見つめ、行動されているお姿に、ほんとうに感動しました。


私の拙い報告文だけでは、このすばらしい講演の一部でさえもお伝えすることはできません。郷地秀夫先生の講演会の動画が、当日中継をしてくださったIWJさんのサイトに掲載されています。ぜひご覧ください。

■IWJ(Independent Web Journal)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/81716
「放射能社会を生きる連続セミナー 第1回『被爆者医療から見た原発事故』」
1/2 (開始より15分頃から先生の講演が始まります。)
2/2(開始より5分ごろから、内部被曝についての詳しいお話です。)




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