【ネタバレしてます】僕も長い間忘れていた作品なんですけどね。まだ、紙のマンガ週刊誌を毎週買っていた頃に「モーニング」で連載していて、「島耕作がまだ課長だった頃の」というくらい昔の作品です。
「何をいまさら」なお話ですが、当時の僕は諸星大二郎さんを追っかけていて、同時に同じ雑誌に掲載されていて似たような作風だったので「気になっていた」作品だったのです。で、過去形になっているのは、途中から消えてしまって後を追えなくなっていたからで、今頃になってヤフオクの全巻セットで見つけて読み返しているのです。
消えた理由は、「連載打ち切り」になってしまっていたからのようで、単行本は8巻までありますが、6巻からは描き下ろしとなっています。モーニングに連載していたのが2003年の49号までで、8巻が出たのが2008年の10月ですから、5年近くかかっていて、今が2019年ですから…。割と古くからやっている漫画喫茶(ネットカフェ)くらいしか置いていないでしょうね。僕が購入したものは閉店した漫画喫茶(ネットカフェ)からの「お下がり」でした。
作者の菅原雅雪さんも漫画家として活動なさっているか微妙(ブログとTwitterが2017年から更新がありません)なので、この作品は「おすすめ」というよりも、「資料」としてのご紹介になると思います。ネタバレもそういうポジションにある作品なのでという前提です。
ぶっちゃけ、あらすじは「ナウシカ」です。今のアニメが「事故死した主人公が異世界にチート転生して大活躍する」作品ばかりなのと同様に、この頃(昭和から平成初期)には、「ナウシカもどき」が大量発生していて、その中に埋もれてしまった感も少なからずある気もしています。とはいえ、よく8巻の中に詰め込めたと感心するほどの壮大なストーリーなので、「部品取り」としての価値は高いのではないかというのがここで紹介する理由のひとつです。
個人的には、ストーリーとしては(大ヒット長編どこまで続くのか作品)「ベルセルク」よりも、設定やギミックは複雑で、「ヒットしなかった理由」を探すことも、「価値」のひとつかもしれません。「可愛いヒロインの不在」と「明確な敵役の不在」というのはすぐにわかりますが。
「明確な敵役」が存在しないと、主人公はただの「喧嘩っ早い人」になってしまいますが、この作品でも主人公の「ヒルコ」はそう見えてしまっています。とりあえずこの2つは別の記事で紹介したいと思っています。「入れなければよかった」細かいプロットはたくさんありますが、その辺りをすっきりさせるというのも、作品をヒットさせるには必要なテクニックなのかなとも思っています。この作品をdisるのが目的ではないので、あくまでも「ヒット作との比較論」なのですけどね。
まず、大まかなストーリーの解説をすると
地球の環境が悪化して人間の住める状況ではなくなった遠い未来で、金星への移住計画が立ち上がり、まずは金星が人間の住める場所へとなるために環境の改善が行われました。その一環で人間の体そのものが有機物素材として使われ、数億人の人類がそのことを知らされないまま犠牲になったのでした。それから数万年の月日が流れ、金星は新たな生命を生み出し進化を続けていったのですが、一方で人類の科学も進化して、人間は永久に生き続けることが可能になり、金星への移住計画そのものが必要とされない目的を失ったものへとなっていた。というのが背景です。
金星の管理者はその目的を失い、自身の好奇心のみが金星の生物への干渉の理由になっています。金星で生まれた生物は「魂」を持っていて、死してもその「魂」は存在し続け、その一部が過去に犠牲になった人類の「魂」と融合してしまいます。一方で「精霊」と呼ばれる存在が主人公たち金星で生まれた人類の「魂」を別の方向へ誘導しようと企て、主人公たちを巻き込んで対立します。
最終的に、金星で生まれた種族たちや、犠牲になった地球から送られた人類の怨念とか、金星を管理している人間、精霊と呼ばれる存在などが入り乱れての戦いになるのですが、複雑過ぎてどことどこで対立しているのかわからない(作品がヒットしなかった原因のひとつ?)まま、「主人公たちが自分の意志で未来を選択する」という王道ストーリーで終焉を迎えます。
お話が壮大過ぎて8巻では足りないはずで、「ベルセルク」みたいに続くくらいでちょうどよい尺になるのではと思っています。
「部品取り」として使えそうなのは、
- 主人公たちは人間に見えるが、実は人間ではない
- 「悪」同士の対立
- 「時間」の使い方
- 主人公の「チート」の理由
- 超文明と原始的な生き物との接点
- 種族の違いができた理由
これらは「部品取り」のために抜き出したもので、実際のストーリーの中とは内容が変わっている可能性もあります。
最初の「主人公は人間でなかった」というのは、金星に人間を移住させるために環境を整備していたら勝手に人間型の生物が生まれていたというもので、別の言い方をすると「テラフォーマー」ですね。ゴキブリ側の視点で描いたストーリーですが、こっちのほうが先に作られています。ファンタジー作品に必須の「人間とは思えないほどの能力」も、人間じゃないのですから持っていても当然で、とっても都合の良い設定です。
「悪同士の対立」というのは、「悪」が誰なのかわかりにくいところがこの作品の弱点なのですが、それを整理すると、主人公たちを裏で操ろうとする勢力があって、ストーリーが進むとその勢力がひとつではなくてお互いが牽制しあっていて、それが元で主人公たちは争いに巻き込まれるようになっていて、どんでん返し的な想像できないような裏切りの原因を作ることに成功しています。ただ、この作品の中では、その影で操ろうとしている者の存在が、うまく描写できていない(ページの都合?)ので、せっかくの設定が、ちょっと残念な形になっています。
「時間の使い方」に関しては、せっかく金星を人間が移住できるように改良しているのに、その途中で、人間が先に進化してしまい必要なくなってしまっていた。というプロットが僕のアンテナに引っかかりました。過去の日本で、将来の木材の需要を見込んでたくさん植林をしていったのに、それらの育った現在では木材に関する状況が激変していて…みたいなことは実際に起こっていて、あまり遠い先の未来は想像の範囲を超えているということもよくあるものだなあということをフィクション作品の中に取り入れたいという願望はすごく持っていて、「使えそうなパターン」として引き出しに入れておきたいアイテムです。
主人公をチートにしたほうがストーリーを進めやすいというのが常套手段で、そのための理由も考えておかなければならなくて、最近では「異世界に転生する」というのが流行っています。「主人公が人間でない」の中に含まれるのですが、その中でも最強の称号を得ている理由は、「そう作られたから」というのもよくある設定です。「銃夢」のガリィ(アリータ)もその中に分類されるのでしょうね。花の受粉のためにミツバチを使う方法はよく知られていますが、外敵が多い場合にミツバチを強くできれば高効率化できるのですが、あまり強くしすぎると副作用も懸念されます。この作品の主人公もそういう背景を持っていて、管理者からコントロールできなくなってしまったというところまでが使えそうです。
この作品の「ナウシカ」と一番異なっている部分が「火の7日間」で滅びてしまった過去の人類と接点ができるというところだと思います。「ナウシカ」で出てくるメーヴェとかガンシップとかのガジェットで、「作った人」から助言を貰えれば更にチートに磨きがかかるのですが、宮崎駿さんはそれを選択しませんでした。「それ」を選択したい時の設定が「管理者」だったわけで、助言のレベルでチートのレベルがコントロールできるという選択肢を持っておくのもアリなのかもしれません。
「種族の違い」については、主人公を「何か」と戦わせる必要があって、その戦う理由としてわかりやすいのが種族間の争いなわけなのですが、そもそも異なる種族をどうやって作り出すのかに頭をひねらなければならなくて、手っ取り早く「異世界」を使ってしまう人も多いと思います。あとは伝説の生物みたいに「吸血鬼」だとか「鬼」だとか「妖怪」とかは使いやすい設定です。テラフォーミングによる「新種」もその中のひとつだと思うのですが、思いのほか使用例が少ないようなので、今なら「狙い目」かなとか思っています。
僕がざっとひろってみたのがこんなところでしょうか。まだまだたくさん「部品取り」できそうなものはあるので、この作品を手にすることができたら、是非ご覧になっていただいきたいと思っています。
時間があれば「なぜヒットしなかったのか?」を考える材料にも使えると思うので、それもやってみようと思っています。