Sunday, October 09, 2011

Balada triste de trompeta / 気狂いピエロの決闘 / The Last Circus [スペイン映画]

premios goyaLatin Beat Film Festival 2011 / 第8回ラテンビート映画祭 / ラテンビートフィルムフェスティバル2011 / スペイン・ラテンアメリカ映画祭: Cabinaの上映作品。

第8回 ラテンビート映画祭 | LATIN BEAT FILM FESTIVAL 2011 in TOKYO, YOKOHAMA & KYOTOより:
スペイン映画界のヒットメーカー、イグレシア監督が手掛けた異色のラブ・ストーリー。イグレシア監督は、スペインで名誉ある「最優秀映画監督賞」を受賞。また、2010年のベネチア国際映画祭ではコンペ部門審査委員長のタランティーノから絶賛され、見事、銀獅子賞と脚本賞をダブル受賞した。


おはなし
1937年、ハビエル少年の父はサーカスの人気道化師であった。父は内戦の渦に飲み込まれるようにして共和国側で戦うことを余儀なくされ、捕らえられて“戦没者の谷”建設の強制労働に従事する中、ハビエルの眼前で無残な死を遂げた。

1973年、中年にさしかかったハビエルは、父の面影を胸にサーカスで“泣き虫ピエロ”として働くようになっていた。サーカスで一番の人気者、“陽気なピエロ”を演じるのはセルヒオという男であった。酒を飲むたびに残忍な性格を剥き出しにするこの男は、恋人であるエアリアルパフォーマーのナタリアにも容赦なく暴力をふるう。しかし、子どもたちの人気を集める彼には団長もものを言うことができずにいる。

ハビエルはよりによって、このナタリアに恋心を抱いてしまった。

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忙しい時は何かの作業中にBG“V”としてDVDを繰り返し再生するという形で“鑑賞”するしかない。そんな“チラ見”の時にも“Balada triste ~(The Last Circus)”のOPには釘付けになったよ。凄くかっこいいだろ

オープニングタイトルがとても気に入った。こういうことはこれまであまりコメントしたことがないな。これは惹かれたよ。「ああ、きっと私はこの作品を気に入るし、知人のあの人やあの人にも薦めよう」と、OPを見ただけでも強く思ったわ。


アレックス・デ・ラ・イグレシアの作品なので、ちょっと痛みを感じる作りになっています。人の体に傷がつく音が、生理的な恐怖を与えてくれるというか。その代わりというか色合いは抑えてくれてあったので、私のように血が嫌いな人でもあんまり抵抗無く見ていられる。


ハビエルの父が、泣き虫ピエロのマヌエルと組んで子どもたちを笑わせ喜ばせているシーンから映画は始まる。

爆撃の音が轟きその笑い声を掻き消す。と、そこへ殺気立った兵士の一団が乗り込んで来る。庶民の暮らしをぶち壊してなだれ込んできて、子どもたちの笑顔を恐怖と涙で塗りつぶし夢も希望も踏みにじり、大人達を次々と殺戮に駆り立てる……という描かれ方をしているのが、フランコ側ではなくて共和国側であることがおもしろい。アリ・ババ39さんはこれをアレックス・デ・ラ・イグレシアの「バランス感覚」なのだとおっしゃった。

そうだと思う。こういうシーンでフランコ側を狂った狼のように、そして共和国側をぷるぷる震える白い子ウサギのように描くことは、ある意味―――乱暴に言えば―――“馬鹿の一つ覚え”だろうとも思う。

共和国側のエンリケ・リステル大佐が叫んでいたでしょう、「我々につかない者は反乱軍の者とみなす ……略…… あの扉を開けたら、ヤツらをぶっ殺すんだ、ぶっ殺さないと俺たちがぶっ殺されるんだからな。簡単な話だ」って。殺るか殺られるかだから。そして、同じ国の民同士、へたすれば親子・兄弟の間でさえも敵味方にわかれて裏切り合い殺し合わなきゃいけないのが内戦のむごさ・痛ましさでしょう。

だから我が国も、内戦は「ダメ。ゼッタイ。」



DVDやラテンビート映画祭で何度か観ているんだが、この作品、考える時間が必要な作品だよね。私はまだぼんやりとしかわかってないな。見終わるたびになんだかしくしく泣いているにもかかわらず、どうして泣いているのかハッキリとわかっていない。

ハビエルという青年の悲しみに満ちた人生と狂気、セルヒオという男の残虐と絶望、間に立つナタリアという女の弱さと狡さと浮気癖。……これらを内戦以後のスペインにあてはめて考えればいいと思うのだけど、それでもまだところどころわからなくなってしまう。やや消化不良気味だけど、今回はこの辺で。


一つ思ったのは、「アレックス・デ・ラ・イグレシアは高さのあるところでの大立ち回りが好きなんだよな」ということ。


いくつかメモ
映画『気狂いピエロの決闘』 - シネマトゥデイ
気狂いピエロの決闘 - goo 映画


戦没者の谷(バリェ・デ・ロス・カイードス)

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映画館 Cine Luchana's 

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Tuesday, August 16, 2011

Calle Mayor / 大通り [スペイン映画]

この作品については割と細かく書いてしまうと思う

おはなし
どこにでもあるごくありふれた地方都市。カテドラル、川、広場の柱廊、そして町一番の賑わいを見せるメインストリート。

35歳になって未婚のイサベルはさしずめ“敗者”である。18年前に修道女学校を出た後ずるずると時が経ち、独り身のまま来てしまった。もう未婚の女友達もほとんど居ない。

フアンはマドリード出身の銀行員。この町に赴任した当初は戸惑ったが、今ではcasino(=会員制娯楽クラブ)での遊び仲間もでき、毎日そこそこおもしろおかしくやっている。だが、いかんせん退屈である。この町の暮らしは単調の一言だ。道行く人の顔ぶれもそれぞれの生活パターンも判で押したよう。

だからフアンはcasinoの悪友と一緒になって他人にたちの悪い悪戯を仕掛けては楽しんでいる。すべては暇つぶし。「冗談だよ、ほんの冗談じゃないか」。

次にフアンの仲間が目をつけたのはイサベルであった。フアンが行き遅れのイサベルに求愛してその気にさせて、ついに結婚できると舞い上がる女の無様な姿を見て楽しもうという趣向である。

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私はよく何かの作業中にBG“V”としてDVDを再生しておく。横目でチラチラ画面を見る、耳は聞くともなしに聞いている。この作品を最初に一回“鑑賞”したのも、そんな風だった。

行き遅れだ、負け犬だと世間から煽られ追い詰められている独身女が抱くであろう当たり前の結婚願望というものを、弄ぶだけ弄び嬲るだけ嬲って嘲り嗤う、いわゆる勝ち組と思しき男たちの卑劣な笑いで埋め尽くされたような作品だった。

1回見終わった時に友人アリ・ババ39さんにメールを書く用事があったのだが、そのついでに私は、「今、一度再生してみたところだけど、calle mayor、すっごく体に悪そうなんだけど、なんなのあれ!」と“殴り書き”をしたものである。

ヒロインの受ける仕打ちがあんまりに非情で、救われもせず土砂降りの雨のなか終わってしまうので、私は別作業の手を停めて( ゚д゚)ポカーンとしていた。……FIN……ってなんだよ、なにがFINだよと。こんな目に遭わなきゃいけないような何を彼女がしたというのかと、どこかで聞いたことのある、別の作品のタイトルみたいなことでも吠えたかった。


次の日も私はこれをまた横目で鑑賞した。そしてアリ・ババ39さんにメールを送った。「今日もう一回CalleMayorをBGVとして再生してみたのですけど、あたし、たぶん少しわかったと思います。暗号を解読したような気分!」

去年の今頃は、本作のフアン・アントニオ・バルデム監督のちょうどすぐ前の作品にあたる『Muerte de un ciclista / 恐怖の逢びき [スペイン映画]: Cabina』を観た。そのとき私自身が言っていたじゃないか、2サス目線で観ててもダメだって。男女の愛憎がどうした、心の闇がどうだこうだというドラマかなんかを見るように見ていたら、スペイン映画は本当には楽しめないんだ。解読する努力を楽しんだ方がいい。


糸口をつかんでから更に何度か再生したら、悲しくて胸がちょっと苦しかった。可哀想だと思った。イサベルがというよりも、あの当時のスペインという国とそこに暮らした人々が。


(簡単に書ける話ではないので、ちょびっとずつコメント欄に書き足していきます)


Calle Mayor (1956) - IMDb
直訳: 大通り

監督・脚本: Juan Antonio Bardem フアン・アントニオ・バルデム
原案: Carlos Arniches カルロス・アルニーチェス 『La señorita de Trevélez』(⇒ 2011年8月13日 観ました

出演:
Betsy Blair ベッツィ・ブレア ... Isabel イサベル
José Suárez ホセ・スアレス ... Juan フアン

Yves Massard イヴ・マサール ... Federico Rivas フェデリコ: フアンのマドリード時代からの旧友; マドリードの雑誌“Ideas”に書いてくれるようドン・トマスに依頼するためにこの町を訪れた
René Blancard ... Don Tomás ドン・トマス: 哲学者

悪友は誰が何の職業だったか、あんまりはっきり覚えてない
Alfonso Godá アルフォンソ・ゴダー ... 悪友ホセ・マリア(ペペ、エル・カルボ): 弁護士
Luis Peña ルイス・ペニャ ... 悪友ルイス: 商店の二代目
Manuel Alexandre マヌエル・アレクサンドレ ... 悪友ルシアーノ: 地元の新聞の発行人
José Calvo ホセ・カルボ ... 悪友: 医者?

Lila Kedrova ... Pepita ペピータ: 男たちがよく遊びに行く飲み屋のママ; 「飲み屋」って言っても……
Dora Doll ... Tonia トニア: フアンに惚れている、その店の女給: 「女給」って言うか……

Matilde Muñoz Sampedro ... Chacha: イサベルの家のchacha(使用人)
María Gámez ... Madre: イサベルの母


だんだん苦悩し始めたフアンがトニアを探して店に駆け込む。店名と両隣の建物の質感なども合っているようなのでここだと思う。少なくとも外観はまさにコレ。

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Tuesday, August 09, 2011

Operación Ogro [スペイン映画]

ETAによるカレロ・ブランコ首相暗殺事件(1973年)を実行犯グループの視点で描いた作品。今回は映画そのものの話よりは、関連事項のメモをしておきます。

鬼作戦’という名で計画実行されたカレロブランコ首相暗殺事件についてはこれまでにもちょっと書いたことがあります。
El Lobo [スペイン映画]: Cabina
La pelota vasca. La piel contra la piedra [スペイン映画]: Cabina

ETAについては下記の作品でも触れました:
GAL [スペイン映画]: Cabina
Entre las Piernas / スカートの奥で [スペイン映画]: Cabina



『スペイン現代史』 第11章 スペインの社会問題 より

●ETAの前身EKINの出現
フランコ独裁体制下の1953年、バスク民族主義の活動家とPNV(バスク民族党、1894年結成の青年達は、同党の穏健路線に満足できず、独裁体制打倒のために闘うバスク愛国戦線としての組織EKIN((我らと共に行動を)を結成し、……略……後に結成されるETAの前身となるものである。しかし、EKINは、フランコ体制下で剥奪されたバスクの自治権の復権を目指す勢力とバスク地方の独立を目指す勢力との間で内部対立が深まり、フランコ体制による激しい弾圧が続いたので、1957年には解散を余儀なくされた。

●ETAの出現
弾圧を免れたEKINの構成員やバスク地方の若い学生たちは、フランス・バスク地方において、1959年、バスク民族解放のための革命グループETAを結成した。ETAは、マルクス・レーニン主義をイデオロギーに掲げ、バスク地方(スペイン側4県とフランス側3県)の国家からの分離独立をめざし、戦術としてのテロ活動を否定しなかった。


映画『Operacion Ogro』では、ちょうどこのEKINの解散とETAの結成のあいだ、1958年なのかなあと思われる頃が描かれています。学校でバスク語をしゃべったということで教師から体罰を受ける児童の様子など。

「おまえたちはスペイン人だ。ここはスペインの学校だ」といってピシリピシリと児童の手のひらを棒で叩いていく教師に対し、子供たちが「バスク人です」「バスク人です」と口答えし続ける。このシーンは『La pelota vasca. La piel contra la piedra [スペイン映画]: Cabina』で観たことがある。

主人公のチャビたちは子供の頃から夜間に警察の威嚇発砲をかいくぐって“レジスタンス”の落書きをして歩くなど、バスク人としての抵抗の精神を強く示していくのです。そうこうするうち、聖職者であるジョセバ先生は本格的に闘争の生活に入るため学校を去る決意を子供たちに明かします。(挨拶のことばはコメント欄に⇒)


これらがちょうど1958年のこととして描かれています。


ここから15年跳んで1973年に舞台が移ります。ジョセバのもとに集まったメンバーで、ルイス・カレロ・ブランコを暗殺するのか拉致誘拐して交渉の人質とするのかを投票で決めています。

このシーンにもありますが、当初は誘拐するつもりでETAは動き始めたんだね。(チャビ―――青年となっている―――は最初っからずっと暗殺派。「ルイス・カレロ・ブランコを暗殺することは僕たちの正義じゃないですか、奴はフランコの後継者なんですよ、奴こそがフランコ独裁主義をまとめあげてしまう人物なんでしょうが、奴がいる限り独裁体制は維持されてしまうんですよ!」と強く主張していた。)


再び『スペイン現代史』、さっきのつづきを読んでまとめると、フランコ独裁体制がバスクに加える弾圧があんまりにも酷いから、バスクの人々もだんだんとETAへの理解・共感を抱き、“暗黙の支持”を与えるようになったって。それでETAは1968年8月のサン・セバスティアン警察署長の暗殺をはじめとして軍人、警察官、政府要人を標的としたテロ行為を繰り広げ、次々に逮捕者を出しつつもどんどん強大化していった、と。

そして、
ETAの活動は、1973年、カレロ・ブランコ首相の暗殺で頂点に達した。フランコの右腕として独裁体制を存続させるために腐心していたカレロ首相の暗殺は、……略……独裁体制の崩壊につながった。

この頃にETAが政治闘争派と武力闘争派に内部分裂したということも『スペイン現代史』に書いてあります。その辺は『El Lobo [スペイン映画]: Cabina』にも描写があったと思う。内部抗争で武闘派が穏健派を処刑しちゃったりしてた。


こんな風に歴史の授業の副読本でも読むように淡々と進む作品なので、《映画》としては面白いんだかなんだかよくわからないです。現代史ものというと、どうしてもこうなってしまうのかな? 

でも、《副読本》としては面白いと思うんだよ。

・ETAの中での武闘派がバスクの人々の意識からはもちろん、ETAの中ですら浮いた存在になっていく感じ

・「マドリードのタクシー運転手の半分はフランコ体制の密偵みたいなもんだ」というセリフ。(スペインの友人がこないだ「スペインのタクシー運転手は《右派》、もーね、全員だよ!」と言い切っていたのを思い出してしまう)

・当時同じように弾圧されていた労働運動の様子(ストライキとスト破り)

・ETAは労働運動で弾圧される人たちにシンパシーを覚えていたかもしれないけど、さあその逆はどうだったんだい?と。(「企業家の誘拐、爆弾、警官暗殺、君らのやってることって俺には意味があると思えないんだ」とピシャリと言われてしまったり)

・ETAの人間が射殺された時のバスクの普通の市民があげる抗議の声(と、それをもう抑えられそうにない警察側の動揺)

・アメリカ(CIA)はカレロ・ブランコ暗殺の企てを知っていながら知らんぷりをして決行に至らせたんじゃないかという説があるけど、この作品でもそれらしきセリフをETAメンバーのルケが言う。(「アメリカ大使館もすぐそばにあって、これだけ悪臭と騒音をまいているというのに、誰も疑わないなんておかしいじゃないか、俺たちがカレロを殺した方がいいって思ってる人間がいるんじゃないのか」)

……などなどが描かれています。“描かれています”より“書かれています”っていう印象なんだよ、どうも、この作品。


暗殺の場所はここかな。クラウディオ・コエリョ通りとマルドナド通りの交わる辺り。なんか看板があるよね、AlmiranteなんたらCarreroなんたらって。車が吹っ飛ぶんだ。

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ETAのメンバーが入居していたのはクラウディオ・コエリョ通り104番地。ここの地下から車道に向かってトンネルを掘った。

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Tuesday, May 03, 2011

Pa negre / ブラック・ブレッド / Pan negro / Black Bread [スペイン映画]

Pa Negreおはなし
1944年。内戦終結から5年後のカタルーニャでの出来事である。

ディオニス・セギーという男が無残な死を遂げた。幼い息子のクレットを乗せた幌馬車ごと崖から落ちたのだ。アンドレウ少年が駆けつけた時、クレットは虫の息だった。

事故の目撃者としてアンドレウは父親のファリオルに付き添われ事情聴取に応じた。

「君が見つけた時あの子はまだ生きていたんだって? 何か言わなかったかい?」
「最期にピトゥリウアって言ったと思います」

「君はなんのことだと思った?」
「ピトゥリウアっていう名前の鳥がいるんです。小さくておとなしいの」

「他には?」
「バウマスの洞穴にピトゥリウアっていう怪物が住んでるんだってみんなは言っています」


官憲はディオニスは事故死したのではなく殺害されたのではないかと疑っている。そして村長はその罪をファリオルにかぶせたがっているのだ。「“赤”なんぞは粛清しなければな」。

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この2月に発表されたPremios Goya 2011: palmareses / 第25回ゴヤ賞ではこの作品が一人勝ちだったので、昨年のDONOSTIA ZINEMALDIA / 58 FESTIVAL DE SAN SEBASTIÁN / 第58回 サン・セバスティアン国際映画祭で日程が合わずついに観られなかったことが残念でならなかった。

友人からも強く薦められ観てみました。(本当は3月中にはUPするはずだったのだが、震災により延ばし延ばしになっていた)


強い印象を残す作品だと思う。いろんな映画祭で受賞しまくったことも頷ける「いい作品」。だけど厳しく重い作品。そういう理由でもって私はこれを「あまり好きではない」と言っておこう。私はもともと映画はくすくすにやにや笑うために観たいから。

前半に『Secretos del Corazón / Secrets of Heart [スペイン映画]』を連想させるポイントがたびたびあったので、『Pa Negre』はたしかに重苦しい作風ではあるけれども少しはほんわかできるシーンでも待ち受けてくれるのかもしれないなどと期待もした。しかし結局『El Laberinto del Fauno / Pan's Labyrinth / パンズ・ラビリンス』並みの緊張感を保って進む作品だった。

そうだね、これは暗くて黒い“心の秘密(secretos del corazón)”だ。



ある作品をいいと思うということと、じゃあそれが好きかどうかっていうのは、また別の話。これはいい作品ですよ。観る価値のある作品。機会があったら迷わず観たらいいと思います。


DVDを回して一回目、暗部を見つめ過ぎた子供の中に魔物が巣くい、やがてその子自身が怪物と成っていく様が薄ら寒かった。もう普通のヒトではいられないであろうその子の行く末を思って、しかしそんな子供があの当時のスペインに何千、何万いたのだろうと考え、ため息をついて目を閉じた。

2回目の鑑賞の前に公式サイトを見たら「les mentides dels grans crien petits monstres = las mentiras de los adultos crían pequeños monstruos」とあった。「大人の嘘は小さな化け物を育てるのだ」と。


(続きはコメント欄で)


撮影はだいたいこの地域だったのかなと思うけど確信なし。(⇒ PA NEGRE (PAN NEGRO) - ZINEMAにロケ地は書いてある)

Ver Pa Negre / Pan Negro en un mapa más grande

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Thursday, December 23, 2010

La gran familia / ばくだん家族 [スペイン映画]

gran familia お笑い番組でのホルヘ・サンツのスタンダップコメディを見たのは3年前のこと。その漫談の中でペペ・イスベルトが「チェンチョ、チェンチョ」と叫ぶシーンがどうのこうのと言っていますが、その「チェンチョ、チェンチョ」とはこの“La Gran Familia”の一シーンです。

友人とセビーリャ市内観光中にfnacに立ち寄った時に見かけたので買ってきた。


おはなし
建築施工士のカルロスは妻とのあいだに15人の子供をもうけた。老父も同居しており、子供たちの名付け親であるフアンも頻繁に家を訪れる。騒々しくも愉快な毎日である。大家族を養うのは楽ではなくカルロスは兼職をせざるをえない。子育て、家計…、悩みは尽きないが、子供たちの未来に思いを馳せるときカルロスと妻は幸せを噛みしめるのだった。

反抗期にさしかかった子供らに手を焼きつつも夏のバカンスを楽しく過ごした。やがて季節が過ぎてクリスマスがやってくるが、幼いチェンチョがマジョール広場で迷子になってしまう。
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ペペ・イスベルトの「チェンチョ!チェンチョ!」のシーンを見ることができたのはいいですが、内容は……

鑑賞直後のtwitter:
twitter http://imdb.to/bIdj0K La gran familia (1962) を友人と観てみた。(友人は何度か観たことがある。←クリスマスシーズンにテレビで放送されることが多かったから) 途中、乾いた笑いが漏れてしまうほどに、これは……国策映画。twitter


夫婦は仲睦まじく、子供を産めよ殖やせよ、家族は互いにいたわり合い、隣人は助け合い、理想の親子のありかた・健全な男女のつきあいとはこういうものであり、国民は働くことでこのようなバカンスを楽しめるはずであり、神に祈りは届くものであり、国家警察は人民のためには迅速に動いてくれるものであり、テレビという新しいメディアは万能である、と。

そういう社会の理想像を御国がひとまとめに授けてくださっているような映画。


あまりにもメッセージが露骨なので呆気にとられた。そして苦笑い。この大家族のちょっとしたセリフに思わず「うっわ゛……」と声を漏らし、目を白黒させ、隣で観ていた友人の方を「ちょっと、どうすんの、これ」と言う顔で見遣ってしまった瞬間もあった。

そんなとき友人は「みなまで言うな、みなまで言うな」という表情で私を見ていた。

最後、「次に生まれてくる子の名前はクリスマスにちなんでヘスス(=イエス,イエス・キリスト)にするわ」というシーンではついに私は「ぃひゃぁっ」という形容しがたい声を発して仰け反ってしまったよ。

プロパガンダ映画って体によくはないね、やっぱり。今日これを書くのにDVDを見なおしてみたが、脂っこいものを食べたあとみたいな気分、いま。


監督: Fernando Palacios フェルナンド・パラシオス  Rafael J. Salvia ラファエル・J・サルビア

原案・脚本: Pedro Masó ペドロ・マソー  Rafael J. Salvia  Antonio Vich

出演:
Alberto Closas アルベルト・クロサス ... Carlos Alonso カルロス・アロンソ(父)
Amparo Soler Leal アンパロ・ソレル・レアル ... Mercedes Cebrián メルセデス(母)
José Isbert ホセ・イスベルト(ペペ・イスベルト) ... El abuelo おじいさん
José Luis López Vázquez ホセ・ルイス・ロペス・バスケス ... Juan フアン(名付け親)

Chonette Laurent ... Luisa Alonso ルイサ(旅先で恋に落ちる娘)
Jaime Blanch ... Carlitos Alonso カルリートス(落第した息子)
Pedro Mari Sánchez ... Críspulo クリスプロ(いたずらっ子)
Alfredo Garrido ... Chencho チェンチョ(末弟)

Tomás Picó ... Jorge ホルヘ(旅先でルイサに恋する男)

ばくだん家族@goo
La gran familia@IMDb

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Wednesday, August 04, 2010

Muerte de un ciclista / 恐怖の逢びき [スペイン映画]

muerte de un ciclista おはなし
マドリードのブルジョア階級の人妻マリア・ホセと大学で教鞭を執るフアンは愛人関係にある。二人はマドリードを離れては逢引きを重ねてきた。ある日の逢引きの後、マリア・ホセの運転する車が自転車に乗った男を轢いてしまった。

助手席からおりたフアンが駆け寄った時、その男はまだ息があった。しかし非情にも二人は瀕死の男を見捨てて車で逃げ去る。「私こわいわ」「誰も見ていなかったさ」。


この作品のストーリーは意外とあちこちの映画情報サイトで扱われているようです。日本でも公開されたからでしょうか。(されたのですよね)

が、そのほとんどが―――おそらく全てが―――見当違いなことに焦点を絞ってあるから、「しかし、この作品は案外あっさり。全く盛り上がりません」などと言い捨ててしまう被害者が生じる。被害者であり加害者かもしれないけれど。

「女性のエゴイズムを描いたサスペンス」「男女の偽善と恐怖を追求した」といった切り口で見るのは、そんな2サス目線で見るのは、この作品を読み解くための登山道の入り口にも到達してない段階。


この作品は怖いよ。怖かった。

と言っても、「私が当時権力側にいたならばさぞかし怖かっただろうな」と想像した場合の「怖かった」です。私が当時の為政者だったら、こんな映画の存在は恐ろしく、そしてとても目障りだったと思う。「こんなん作られちゃたまらんよ」と。ひねり潰してやりたくなっただろう。

それほど「お上」から苦々しく監視されたであろう作品という、その存在意義が怖いわけです。この作品の刃先の鋭さが怖いのです。スペイン映画は“判じ物”。そのように観る努力・工夫をしながら観たほうが格段に面白いしまた怖いのです。


Muerte de un ciclista@IMDb
直訳: あるサイクリストの死
英題: Death of a Cyclist

監督: Juan Antonio Bardem フアン・アントニオ・バルデム(カルロス・バルデム、ハビエル・バルデムの伯父)

脚本: Juan Antonio Bardem  
(原案?): Luis Fernando de Igoa ルイス・フェルナンド・デ・イゴア

←この書籍は知らないけど、たぶんこの作品に言及していると思うのでメモ。

Cast (in credits order)
Otello Toso オテッロ・トーゾ ... Miguel Castro ミゲル・カストロ: 実業家

Lucia Bosé ルチア・ボゼー ... María José de Castro マリア・ホセ・デ・カストロ: その妻
Alberto Closas アルベルト・クロッサス ... Juan Fernandez Soler フアン・フェルナンデス・ソレール: 愛人

Alicia Romay ... Carmina カルミナ: フアンの姉
Emilio Alonso ... Jorge ホルヘ: カルミナの夫つまりフアンの義兄; かなりの高位の人物で大学にも影響力を持っている
Julia Delgado Caro ... Doña Maria マリア: フアンの老母

Bruna Corrà ブルーナ・コラ ... Matilde Luque Carvajal マティルデ・ルケ・カルバハル: フアンの大学の学生
Carlos Casaravilla カルロス・カサラビーリャ ... Rafael "Rafa" Sandoval ラファエル・“ラファ”・サンドバル: 美術評論家

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Saturday, March 28, 2009

El Lobo [スペイン映画]

lobo今回はストーリーの細部にふれるつもりなので注意してください


本作は1973年から1975年11月20日までを描いている。


スペインハンドブック』、第二章 歴史、§3 フランコ時代、 (4) フランコ体制の終焉、より:

(……略……オイルショックのあおりで経済不安、それで政治不安で、なんやかや諸問題が深刻化してっていうかんじ……略……)

フランコ政権に対する反対勢力も次第に力を増していった. (……略……労働運動の活発化とか教会の離反とか……略……) 

バスクでは民族運動が急進化し,ETAはテロ活動の路線を採用し,1968年から暗殺テロを開始した.フランコは幾度も非常事態宣言を発し,共産党指導者グリマウを処刑し(1963年),過激派に過酷な刑を言い渡す(1970年のブルゴス軍事裁判)など厳しい弾圧政策をとったが,反対勢力を鎮圧することはできなかった.

1975年になると治安状態は極端に悪化し,同年にフランコ政権はテロリスト取締法を公布して過激派活動家の処刑を行ったが,このことは逆に国内外の反フランコの声を強めることになった.1974年から1975年にかけて反フランコ政治勢力の結集も強まった(共産党・王党派などの「民主評議会」,社会労働党などの「民主勢力結集評議会」).各地の民族主義・地方主義の運動も昂揚していった.


スペイン・ポルトガルを知る事典事典』の「バスク」の項より: (※私のは旧版だがね)

(……略……1936年10月にはバスク自治憲章が成立してバスク自治政府ができたんだけど、1937年6月にはフランコ陣営がビルバオを陥落させたのでバスク政府は亡命して……略……)

これ以後のフランコ時代においてバスク民族運動は弾圧され,バスク語の使用も禁止された.……略……穏健な地方自治要求をするPNVに対し,分派した《祖国バスクと自由》(ETA,1959年創設)は根強いバスク人の独立要求とフランコ体制への不満に支えられ,暴力手段によるスペインとフランスの両バスクの統一を目ざすゲリラ集団として活動し,テロ行為により社会不安を惹起した

[近年の動向]
ETAは民族運動の創始者アラナの思想を純粋に継承し,フランコ体制の抑圧を背景にバスク解放の武力闘争を展開した.……略……バスク工業発展から取り残されて弾圧に苦しむ民衆の支持を受けたETAは,急進化する.

1970年にはブルゴス裁判でのETA活動家を含む死刑判決に対する抗議運動(後に減刑),73年首相カレロ・ブランコ暗殺,75年ETA活動家が裁判で死刑判決を受けるなど,フランコ体制末期にETAは軍事組織を結成し,抵抗運動のシンボル的存在になった. (Reine注: PNV=バスク・ナショナリスタ党)

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予習が終わったところで、じゃぁ、ストーリー
フランコ体制末期、スペイン政府はETAの武力闘争の激化に頭を抱えていた。警察は内通者を送り込む作戦を何度かとったが、諜報員の正体がETAにばれてしまい失敗に終わっていた。

そこで情報機関SECED(=Servicio Central de Documentación)は完全なる密偵を送り込むことを企図した。こちら側の人間を密偵に仕立て上げるから失敗するのである、ETA側の人間に内偵させれば疑われる心配もなく、従来は到達不可能と考えられていたETAの中枢まで把握することができる、という奇抜な発想を実行に移すのは、SECEDの担当者リカルドにとっても大きな賭けであった。

「狼作戦: “Operación Lobo”)」と名付けられたこの作戦で、コードネーム=ロボ(狼、の意)と呼ばれたのは、愛妻と、歯が生えてきたばかりの一人息子と静かな生活を送っていたにすぎない一人のバスク人青年チェマであった。(実話に基づく)

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『El Lobo』は4年前のスペイン旅行で、‘ファミリー’の末娘と二人で観たものの、私は声が聞き取れず末娘は画面が見えずといった『見ざる聞かざる目撃者見ざる』状態だったので内容はなんとなくしか理解していなかった。

今回あらためて本気鑑賞に臨んだが、これ、あれだわ、あのとき理解できなかったのも無理はないわ。4年前の私などは予備知識がなかったのだから、よしんばあのとき全てのセリフを聞き取れていたとしても理解は十分にはできなかったんじゃないかな。

語彙もやや難しめです:
・バスク語の単語が混ざっている(ETAのメンバー同士はスペイン語でしゃべっているけれども、ところどころに単語がね)
・SECEDの‘狼作戦’の責任者リカルド(ら)の語彙に、辞書でいったら《格式語》なんて記されていそうなものが多い。彼の氏素性的なものもあるのだと思うし、どうしたって官吏だからね、役所言葉的なしゃべり方のシーンが多い。


まぁ、ちょっと難しめですがお薦めです。

結局のところ警察・国家がチェマという青年と、ひいてはETAの存在そのものを政争・権力闘争の道具にしたのではないか、チェマは国家に翻弄されたのか、それとも時代の犠牲だったのか、憎しみの連鎖を断ち切ることなど土台無理なのか……などなどと問いかけられて、鑑賞後は無力感に襲われるかもしれませんが、非常に面白いです。

省庁間の縄張り争いとか、キャリアとノンキャリとの懸隔とか、これまでに何度も書いてきたけど‘嫉妬感情というスペイン人の特性’とか、バスクの普通の人とETAの意識の違いとか、そういうこともろもろ描かれています。

(つづきは長々とコメント欄で)

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Sunday, November 09, 2008

El Laberinto del Fauno / Pan's Labyrinth / パンズ・ラビリンス [メキシコ映画][スペイン映画]

laberinto laberinto laberinto

私はこのブログで映画作品についてだらだらと長ったらしい文を書いていますが、ストーリーのポイントにはほとんど触れないように腐心してきたつもりです。私はここで書くにあたって「如何に書かないか」を練るのに最も時間を割いている。

昨日(土曜)の朝、どうやら情報番組で『永遠のこどもたち』が紹介されたらしく、その時間帯のアクセス数が突出していた。検索ワードに「永遠のこどもたち ネタバレ」「スペイン 映画 永遠 結末」などと探して来ているのも少なからずあった。

「なめんな」と思った。これから日本で公開される作品について早々にネタバレするような人間がいると思ってこのブログにアクセスされるのは心外だ。


laberintoしかし『パンズ・ラビリンス』についてはもうかなり多くの人が観た後だろうと思うので、今回は私は、ネタバレしないようにという配慮をたぶんいつもよりは少なめに書きます。そのつもりで進んでください。(まぁ、ネタバレと言っても私のネタバレなんて可愛いもんだから)

パンズ・ラビリンス@gooからあらすじ
1944年、内戦終決後のスペイン。父を亡くした少女オフェリアは、身重の母と共にゲリラが潜む山奥で暮らし始める。そこは母が再婚したフランス軍のビダル大尉の駐屯地だった。体調の思わしくない母を労りながらも、冷酷な義父にどうしても馴染めないでいた彼女の前に妖精が現れ、森の中の迷宮へと導く。そこではパン(牧神)が王女の帰還を待っていた。オフェリアは魔法の王国に戻るために3つの試練を与えられるのだった。


映画を観てここに書き終えるまでは情報を完全に排除したいと願っている私ですが、『パンズ・ラビリンス』に関してはRSSで拾えてしまうブログ概要などでもいやでも目に入ってしまっていたので、「口を縫う」シーンがあるっていうことだけは知っていました。だからずっと避けていた。「口縫うって何!」と、身震いしていた。

「ぜーーーったい観ない」とほぼ決めていた。(貸してくれたAbetchyも「あーた、これ、無理かもよ」と言ってくれてたことだし…)

しかし先日、IMDbで「言語にスペイン語が含まれている作品」をざっと5600作品くらい拾い集めて、さらにそこから1600作品くらいにまで削って私なりのリストを作って眺めてみたところ、得票数は『パンズ~』がダントツの1位だった。そのリストにおいては二位の作品の優にダブルスコア以上の票を集めていた。

やっぱりこれはいつまでも逃げ回ってなどいられない作品なのですねとそこで観念した。


途中何度か画面を手で覆い隠したけれども、最後まで辿り着きました。終盤はえっくえっく泣いた。登場人物が声を上げて泣き出すシーンで、私も同じタイミング・同じ調子で泣いていた。映画館でこれを鑑賞するのは私にはとても無理だったろう。

泣いて泣いて、観てからすぐに風呂に入ったがそこでもしゃくり上げて。ひっくひっくしすぎて物理的に胸が痛んだよ。悲しい悲しい現代史だった。


「いっそ殺してくれ」と乞う人がいた。「いっしょに連れて逃げてくれ」とすがる人もいた。「死んだ方がまし」というのが軽口でもぼやきでもなくて現実であり日常だった時代が、ついこないだまでスペインにあったのだね。

El laberinto del fauno/ Pan's Labyrinth ペーパーバック
Pan's Labyrinth [Soundtrack] [Import] [from UK]
Pan's Labyrinth [Soundtrack]

監督・脚本: Guillermo del Toro ギジェルモ・デル・トロ

出演:
Ivana Baquero イバナ・バケーロ ... Ofelia オフェリア
Ariadna Gil アリアドナ・ヒル ... Carmen Vidal カルメン: オフェリアの母

Sergi López セルジ・ロペス ... Captain Vidal ビダル大尉
Manolo Solo マノーロ・ソロ ... Garcés ガルセス: 部下
César Vea セサル・ベア ... Serrano セラーノ: 部下

Álex Angulo アレックス・アングーロ ... Doctor フェレイロ医師
Maribel Verdú マリベル・ベルドゥ ... Mercedes メルセデス
Roger Casamajor ... Pedro ペドロ: メルセデスの弟
Ivan Massagué ... El Tarta タルタ: 吃音の人
Gonzalo Uriarte ... Francés フランセス: 脚を悪くしている人

Doug Jones ... Fauno / Pale Man パン

(コメント欄につづく)

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Saturday, November 01, 2008

Esa pareja feliz [スペイン映画]

esa pareja felizEsa pareja feliz@IMDb
直訳: あの幸せなカップル


この作品については『スペイン映画史』にかなり詳しい解説があるので助かりました。


第5章 混沌の時代 1950~1961
§2 50年代のスペイン映画界の実状  から、切り貼りする:

この時期のスペイン映画の特徴は、フアン・デ・オルドゥーニャラディスラオ・バフダなどに代表される古い映画と、フアン・アントニオ・バルデムルイス・ガルシア・ベルランガなどに代表される、国立映画研究所を母体とする監督たちによる新しい映画とが混在した点     

国策に沿った形であくまでも「娯楽の王様」としての映画作りに携わった人たちと、映画を映像を用いた新たな芸術の表現手段と捉える人たちとがいたということ。その新しい流れを象徴するのが『あの幸せなカップル』の出現

バルデムとベルランガは国立映画研究所出身の第一期生であり、50年代から続々と頭角を現してくる新しい映画人を代表する存在

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


キャスト・スタッフ(『スペイン映画史』によるストーリー紹介を混ぜ合わせつつ)

監督・脚本: Juan Antonio Bardem フアン・アントニオ・バルデム Luis García Berlanga ルイス・ガルシア・ベルランガ

出演:
Fernando Fernán Gómez フェルナンド・フェルナン・ゴメス ... Juan Granados Muñoz フアン: 映画の撮影所で働くフアンは、ゆとりのある暮らしができるようにと通信教育でラジオ技師の資格を取ろうとしている

Elvira Quintillá エルビラ・キンティジャ ... Carmen González Fuentes その妻、カルメン: 働き者だが、宝くじとか懸賞の類に夢を託している

José Luis Ozores ホセ・ルイス・オソーレス ... Luis 隣人、ルイス: 劇場の裏方をしている

Félix Fernández フェリックス・フェルナンデス ... Rafa ラファエル
Fernando Aguirre ... Organizador 懸賞企画の案内人


フアンとルイスは、
エキストラのラファエルの口車に乗り、写真屋で大儲けをしようとする。フアンが撮影所からフィルムを調達し、ルイスが資金繰りをし、ラファエルが自分のカメラで撮影するはずであったが、フィルムの持ち出しがバレてフアンはクビになってしまう。おまけにラファエルの話は信用できず、ルイスも詐欺にあったと騒ぎだす。

そんなときカルメンが応募した石鹸会社の懸賞に当たり、二人は「幸運なカップル」として、横断幕を張った乗用車でマドリードの一流店を巡り歩き (以下略)

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆



(ひきつづき『スペイン映画史』による解説)
『あの幸せなカップル』は、コメディー・タッチを基調としながら、随所に社会批判が散りばめられている。

フアンの働く撮影所が出てくるが、そこで撮影されているのは四十年代に数多く制作された国民意識高揚歴史映画であり

フアンとカルメンが観に行った映画のラストのキス・シーンがカットされていて、観客の一人が「すぐカットなんだから」と文句を言う。

     Reine注: 忌々しげに「Vaya, ya han cortado el beso.」と呟く
     Reine注: ⇒当時の体制下の検閲について
     
ルイスが働いている劇場で上演しているのはサルスエラであり……略……上演の裏側を見せながらこれを茶化している。一方、主人公のフアンとカルメンの出会いから結婚、新婚生活の回想の中や現在の生活の描写の中で、それとなく時代を切り取ってみせる。

『あの幸せなカップル』は五一年の制作であるが、公開にこぎつけたのは二年後

公開された結果、特に若い世代は、国が認め普及させようとしている「公式のスペイン」「公式の文化」と「現実のスペイン」「現実の文化」との間には大きな差があることを知った。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


引用ばっかりでいけませんね。すみません。


これは2月にDVDGOで購入(そしてスペイン在住の友人宅にて預かっておいてもらい、9月に持ってきてくれました。ありがとう!) 

6.44ユーロ(@158.4円くらい 2/19)

古い作品だから仕方ないけど、音が本当に悪いです。自分は水槽の中で泳いでいて、外で人が話すのが聞こえてくる、みたいな音質。

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Monday, February 11, 2008

El Pisito [スペイン映画]

pisitoEl Cochecito』のDVDで「こちらもお勧め」と紹介されていたのが『El Pisito』。

かなり私が好きそうな作品と思えたので、楽しみはとっておこうと思っていたのだが、脚本のラファエル・アスコーナが肺癌と闘っているという記事を目にしたので、頑張れラファエル・アスコーナということで、急遽今日観ちゃうことにした。


Biblioteca Virtual Miguel de Cervantesで見かけたファイル和訳:
『El Pisito』はバルセロナで実際に起きた出来事が基になっている。
35歳男性が80歳くらいの女性と婚姻をした事例である。この結婚は、女性が死んだあとで彼女の住まいであったマンションを男性が手にすることのみを目的としたものであった。この一件は50年代スペインの住宅問題を簡潔かつ非情に描き出した。ラファエル・アスコーナはこれにヒントを得て小説を書き、またマルコ・フェレーリ監督の作品の脚本とした。

映画では舞台は50年代のマドリードである。
主人公ロドルフォは安月給に喘ぐサラリーマンで、夢も野心も持とうにも持ちようがない状況にある、どこにでもいる若者。老女(マルティナ)が借りているマンションの一室を又借りしている。彼の収入ではマンションなどとても手が届かないのだ。マンションさえあれば恋人ペトリータとも結婚できるというのに。彼女との交際は15年になんなんとする。身寄りの無いマルティナは、自分の賃借権をそのままロドルフォに遺そうと考えている。

しかし法的にはそれが許されないので、老女と転借人は、恋人の承認の上で結婚という最終手段に出ることにした。マルティナが死んだ時には賃借権はロドルフォに移り、その後でペトリータと結婚すればよいのだ。

マルティナが死んでしまわないうちにと、大急ぎで婚姻を済ませた。しかし、誰かの妻であり男に守られる身となったという自意識がマルティナに喜びを与えたか、彼女は生への欲求を新たにしてしまうのだった。普通の生活が送れるくらいに体調も回復して、そこから実に2年も長生きする。その間、この‘夫婦’と‘夫の恋人’は他に類を見ない暮らしを共有することとなる。


pisito■DVDの箱にあったあらすじ和訳:
「あなた、マンションがお望みですか?――― 『El Pisito』 ――― 住宅不足問題に解決をもたらす映画」

家庭を築きたくても住まいを見つけられないがために結婚できずにいる貧しい若者は五万といるが、ロドルフォとペトリータもそんな一組のカップルである。二人は、ロドルフォに一室を転貸してくれている85歳の病弱な老女ドーニャ・マルティナが亡くなるのを待ち続けてかれこれ12年である。ドーニャ・マルティナは家財道具とマンションをロドルフォに遺すと約束してくれていたのだ。

しかしロドルフォとペトリータにとって不運なことに、訴訟代理人がある法律を知らせてきた。賃借人が死んだ場合、部屋の権利は不動産の所有者に渡るというものだ。

マドリードのマンション事情は、近郊も含めてきわめて厳しい。入居者募集中のマンションは分譲であるか、あるいは賃料が恐ろしく高い。落胆するペトリータであったが、最初はほんの冗談のつもりであったある提案をする。

「ロドルフォがドーニャ・マルティナと結婚すれば?」



・(スペイン映画)
・直訳: 『小さなマンション』
El Pisito@IMDb

監督: Marco Ferreri マルコ・フェレーリ  Isidoro M. Ferry イシドロ・M・フェリー
原作: Rafael Azcona ラファエル・アスコナ
脚本: Rafael Azcon  Marco Ferreri

出演:
José Luis López Vázquez ホセ・ルイス・ロペス・バスケス ... Rodolfo ロドルフォ
Mary Carrillo マリ・カリージョ ... Petrita ペトリータ
Concha López Silva コンチャ・ロペス・シウバ ... Doña Martina ドーニャ・マルティナ
José Cordero 'El Bombonero' ホセ・コルデロ ... Dimas ディマス (うおのめ治療師; ロドルフォとおなじくマルティナからの転借人)
Celia Conde セリア・コンデ ... Mery メリー (転借人)
Ángel Álvarez アンヘル・アルバレス ... Sáenz サエンツ (ロドルフォの同僚)
Gregorio Saugar グレゴリオ・サウガル ... Don Manuel ドン・マヌエル (ロドルフォの上司)
Chus Lampreave チュス・ランプレアベ ... Secretary (ロドルフォの会社の秘書)


※昨年12月に知り合いのおぢさんがスペインに帰るときに「買って来て」と何の気なしに言ったところホントに買って来てくれた。FNACで14.95ユーロ。

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