アリ・ババ39さんが『Fresa y Chocolate / 苺とチョコレート [キューバ映画]: Cabina』にコメントをしたいとおっしゃるので、いっぱい書いてくださいとおねがいしていました。私がたぶん一生知らずに済ませてしまうであろうことをアリ・ババ39さんが教えてくださる。いつも本当にありがとう。
では、以下に書き写していきます。
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原作と映画は「かなり違う」が印象
A: 今やキューバ映画の古典入りした感じの『苺とチョコレート』ですが、最近、原作を再読する必要があって、映画も改めて鑑賞しなおしました。
B: 1994年秋、岩波ホール20周年記念作品として公開されました。キューバ映画を見るのはこれが初めてという観客が多かったのではないか。
A: 今でも「キューバ映画はこれ1本」という人も(笑)。キューバ大好き人間には叱られそうですが、それくらいマイナーです。
B: 例年12月に首都ハバナで開催される新ラテンアメリカ国際映画祭(Festival Internacional del Nuevo Cine Latinoamericano)で最優秀作品賞に与えられる珊瑚賞のほか8部門制覇という快挙を果たしました。
A: 通称ハバナ映画祭と呼ばれていますが、これまたマイナーな映画祭です。世界が注目したのは珊瑚賞受賞ではなく、翌年のアカデミー外国語映画賞ノミネートです。キューバ映画がノミネートされたのも史上初めて。国交断絶以来の両国のぎくしゃくを思って感慨深かった人もいたのでは。
B: 残念ながら結果は露仏合作『太陽に灼かれて』のニキータ・ミハルコフの手に落ちましたが。このブログでは既にお馴染みになっているゴヤ賞スペイン語外国映画賞受賞にも輝いた。
A: 当時の日本ではゴヤ賞の存在すら殆んど認知されておりませんでしたが、ベルリン国際映画祭銀熊賞の一つ「審査員特別賞」の受賞は報道されました。男優賞は『フィラデルフィア』のトム・ハンクスが受賞した。
B: ゲイ対決ともいわれたが、残念ながらディエゴ役のホルヘ・ペルゴリアは涙を呑みました。
A: しかし、この年のベルリンは殊のほか豊作で、金熊賞はジム・シェリダン『父の祈りを』、銀熊賞の監督賞はキェシロフスキの『トリコロール/白の愛』だったから、カリブの小さな島からやってきた『苺とチョコレート』が審査員特別賞に選ばれたのはサプライズだったのです。
B: 意外性をアピールする主催者側の政治的力学もはたらいたかな。
B: カビナさんはアップ段階では原作を読んでいないようで、いくつか疑問が出ています。
A: まず原作『狼と森と新しい人間』は、ハバナ大学生ダビドのモノローグで進行します。物語が時系列ではなく、フラッシュバックを織りまぜての行ったり来たりです。
B: 映画は小細工なしの時系列で進むから安心して見ていられる(笑)。
A: ディエゴは既に亡命していて、これから語られることは回想であることが分かる仕掛けです。
B: 大雑把にいうと、物語は「コッぺリア」で始まり「コッぺリア」で終わるという円環的なせいか、どうもこれで終わったという感じがしない。
A: 閉じられていないから、ダビドのその後を書いてくれなくちゃという印象でした。モノローグのなかに「 」なしに相手のセリフが挿入されることもあり、時々読み手は迷子になる。決して読みやすい小説とはいえず、翻訳も細かい工夫が凝らされ、結果かなり大胆なところもあります。
B: キューバの歴史や文化に関する本の題名、人物名がこれでもかと繰り出されてきて、初めて目にするだけに注記がないとお手上げです。
A: 無視して読むことも可能ですが、キューバの政治体制、経済や文化的な背景を知って読むと面白いということね。映画とは登場する人物名にも違いがあり、小説と映画の受取り手の違いを考えて、うまくバランスを取っています。
B: 結果的に各国で翻訳されましたが、日本では映画化がなければ翻訳されなかった作品かもしれない。まずは海外に暮らすキューバ人、次いで国内のキューバ人向けだったのではありませんか。
A: 原作のダビドは映画のような共産主義青年同盟のステレオタイプ的な学生ではなく、ずっと知的好奇心にあふれたナイーブな青年として描かれている。ディエゴのアパートに行くことになったそもそもは、彼がちらつかせるバルガス=リョサの新作『世界終末戦争』に釣られてのことです。
B: キューバでは発禁本の小説ですね。原作には「ナンシー姐さん」は出てこないし、ビビアンの出番も刺身のツマ程度です。
A: ダビドはビビアンに振られてしまっているようだが完全に切れてるようでもなく、映画のように外交官とも結婚していない。ダビド以上に教条主義的な友人ミゲルがいない。
B: 反対に原作で重要と思われる人物イスマエルが、用心深く映画では消されてしまっています。
A: 目指すテーマは同じように見えながら、二つは≪かなり違う≫が印象です。
B: しかしシナリオもセネル・パスが一人で書いていて、クレジットにもアレア監督の名前はありません。
A: オフィシャルにはそうなっていますが、ナンシー役のミルタ・イバラによれば、二人で相談しながら大枠を決めていったようです。
B: 周知のことかと思いますが、彼女は監督夫人。
A: 『狼と森と新しい人間』1本での映画製作は無理で、物語を膨らませるためにナンシーを絡ませることにしたと。シナリオは三つの短編を素材に組み立てられている。
B: どの映画にもいえることですが、シナリオ通りかどうかも実は分かりません。
A: パスは原則として、シナリオを渡してしまったら撮影現場には出向かないそうです。執筆中に他人にあれこれ言われたくないから、自分も撮影現場に出かけて監督や俳優たちに干渉したくないということです。
B: 当時の監督と脚本家の力関係からすると「変更あり」も考えられるかな。
A: そういう個所が随所に見えますね。特に助監督のフアン・カルロス・タビオと思われるユーモアがね。監督の仕事はハイ「スタート」、ハイ「カット」だけではありません(笑)。
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