GAL [スペイン映画]
ひと月前に『El Lobo』(2004)について書きましたが、今日の『GAL』は、あれと同じ監督・同じ脚本家の二年後の作品です。
この二作品はどうせならペアで観ておけばいいと思う。ただ、DVDのバージョンによっては字幕が無いかあるいは出なかったりするようなので、要注意。私のも。そのせいでけっこうめんどくさかった。ディクテーションしなきゃいけないからね。
GAL公式サイトなどから、ストーリーおおまかに紹介
80年代にスペインではGAL(=Grupos Antiterroristas de Liberación; 対テロリスト解放グループ)という組織が非合法的に創設された。バスク地方のテロリスト組織ETAに対抗するためのもので、1983年から1987年の間にもっぱら南フランスでETAに対して30件を超える襲撃を展開し、結果27人を死に至らしめ、また50人超の負傷者を出した。最悪なのは、少なからぬ数の犠牲者が勘違いで殺害されたという事実である。
これらの不法行為は「国家によるテロ」とも「汚い戦争」とも呼ばれている。この作品はGALの正体を暴こうとした新聞記者たちを描いたものである。
GALが生まれた背景としては、当時はETAによるテロ行為が熾烈を極めていたため「目には目を」といったムードがスペイン社会に在ったということ、それから、ETAとの‘交戦’がフランスの領土内で起こればフランス政府をも対ETA戦線に巻き込むことができるのではないかという目論見があったこと、などが考えられる。
新聞が糾弾した結果、スペインの司法はついに、GALの不法行為はスペイン政府によって組織・指揮され資金面でもバックアップされていたとし、1994年には当時の内務大臣を含む11人の公務員に対し有罪の判決を下した。それぞれ4年から10年の懲役を言い渡された。
しかし、弾劾キャンペーンの先頭を切っていた新聞‘Diario 16’紙の編集長が解雇されたりもしたのである。彼とその仲間はその後、記録的なスピードで‘El Mundo del Siglo XXI’(=El Mundo)という新聞を創刊し、その紙面でスペイン版ウォーターゲート事件とも言えるこのスキャンダルを追い続けた。
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
私はだいたいいつもメッセンジャーの名前のとこにそのとき観ている映画のタイトルを書きいれておく。そうするとスペインやブラジルの映画好きな友人たちがああでもないこうでもないとそれぞれ話しかけてくれるのでね。
昨日もスペインの友人(テレビのカメラマン; 38歳くらい)が「GALは観終わったか」と話しかけてきた。彼はまだ観ていないようで、「観たほうがいいかどうか、君から教えてもらいたいんだよね」と言ってきた。
私: うーーーーん……。あのさぁ、いいかどうかよくわかんないんだよね。私にとってこの手の作品は、一つ一つの出来事についてネットで検索してみるっていう楽しみ方があって、それらが興味深いから作品自体も興味深いように思えるのだけど、あなたたちが同じように感じるかどうかは私にはわからない。
彼: なんらかの視点から描いてある? それとも客観的に描いてある?
私: 言おうとしていたのはそれなんだよね。左から描いてるとか右からだとか、その辺があなたたちの目にどう映るのかが私にはなんとも……。
(……略…… 彼はここでいろいろ話してくれたのだけど、それはまたコメント欄で。 ……略……)
私: よくわかんないけど、ただ一つ言えるのは、「左」の政権がこれをやったってことがおもしろいなと思ったってこと。テロリストを皆殺しにしてしまいたいなんてのは、どっちかって言ったら「右」が望みがちだと思われそうなもんだけど、って私は思うのだけど、実際には「左」がガンガン殺して回ってたってのが、なるふぉどねえって。
彼: そうそう。そうなんだよね。さて、そこなんだけどね……略……(… で、これについてはもうちょっとコメント欄で数日内に書きます ……略……)
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
そんなこんなでね、IMDbの評点なんかは低いんだけど私はけっこう面白く観たんだよ。左だ右だで片付かない、ねじれた様子が興味深かったよ。それで今は、じゃぁ、低い評点をつけた人はどういうイデオロギーの人でどういう気持ちでつけたのだろうかっていうことに興味が行っている。おいおい知っていきたいと思っている。
ただまあたしかに、‘映画’の作りとしてはあっちゃこっちゃ行きつ戻りつが多くてまだるっこい印象だと思う。
←この映画の商品はamazonに無いみたいなので、とりあえずGAL関連本などを。
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監督: Miguel Courtois ミゲル・クルトワ
脚本: Antonio Onetti アントニオ・オネッティ
出演:
José Garcia ホセ・ガルシア ... Manuel Mallo マヌエル・マジョ
Natalia Verbeke ナタリア・ベルベケ ... Marta Castillo マルタ・カスティージョ
Abel Folk ... Pablo Codina: 編集長パブロ。社長に対し全責任は自分が負うと言い切り、マヌエルとマルタを擁護してくれる。
Manuel Galiana ... Alberto de Celis アルベルト・デ・セリス: 新聞の発行者
Miguel Hermoso Arnao ... Toni トニ: たれこみ電話をかけてきた。
Jordi Mollà ジョルディ・モリャ ... Paco Ariza アリサ
Ana Álvarez アナ・アルバレス ... Soledad Muñoz ソレダー: アリサの愛人
Tomás del Estal ... Marcel Molina マルセル・モリーナ
Mercè Llorens ... Gracia グラシア: モリーナの愛人
Antonio Ferreira ... Frazao フラサオ: GALの工作員。バルでの大量殺戮の実行犯じゃなかったかな。(ポルトガル人なのかな?とも思った。フランスの警官に包囲された時に「Trabalho para a polícia espanhola.」と叫んでいるように聴こえるんだよな)
Mar Regueras ... Fiscal Cristina Mateos クリスティーナ: 女性検事、マルタとは旧知の仲。
Bernard Le Coq ... Presidente 首相(←だから、まぁ、これが実質フェリペ・ゴンサレスなんだね)
Jordi Rebellón ... Carlos Peinado カルロス: えーっと、フラサオの公判を傍聴していた警察の上の方の人だったと思う。マヌエルとマルタが呼びとめて質問を浴びせた時にちょっと動揺を見せた人物。
José Ángel Egido ... Ministro del Interior 内務大臣。テレビの討論番組で編集長のパブロと激しくやり合っていた人。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 08:38
(今日はストーリーにけっこう直接ふれることになると思うので注意)
映画冒頭のテロップ:
フランコの死後、テロ組織ETAはバスク独立を求めますます殺戮を展開していた。何百もの人が殺されていく一方で、ETAはフランスにおいては政治難民と捉えられてもいたのである。
1983年、フェリペ・ゴンサレスが首相の座につく。そうしてGALが誕生した。それからの4年間でこのテロリスト集団は約30人を殺したが、死亡者の多くはETAとは無関係であった。
GALは「国家によるテロ」ではないのかという疑念は国中に拡がっていったが、真実を白日の下にさらそうとするマスコミなどほんの一握りであった。
1983年~1992年に実際におきた出来事を基にした作品。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 09:11
語句メモ
・mercenario: 4. m. Hombre que desempeña por otro un empleo o servicio por el salario que le da.
・cargarse: 45. prnl. coloq. matar (ǁ quitar la vida). 例) Se cargaron A un delincuente.
・たれこみの電話を受けて、編集長パブロがやや驚いたような表情でつぶやく: 「Tenemos ... "garganta profunda".」
→・Garganta Profunda@Wikipedia。
いわゆる「ディープスロート」。
→・ディープ・スロート (ウォーターゲート事件)@Wikipedia
(『ディープ・スロート [DVD]』のほうじゃなくて)
・a quemarropa: loc. adv. Dicho de disparar un arma de fuego: Desde muy cerca.
・meter la pata hasta las ingles
他にどんなバリエーションがあるのかとググってみたら、las orejas, las (mismas) ingles, las narices, las nalgas, las cejas などなど.....、のようだね。
・desprestigiar: 1. tr. Quitar el prestigio. U. t. c. prnl.
・infundio: m. Mentira, patraña o noticia falsa, generalmente tendenciosa.
・llevarse por delante a alguien o algo: 1. fr. coloq. Atropellarlo o destruirlo. U. t. en sent. fig
・comparecencia: 《法律》 出頭,出廷
・「俺をmindundiみたいにあしらいやがって。俺は愛国者だ。俺はプロフェッショナルだ。」
→・mindundi???
mindundiってなんですか、というスレッド
・entre la espada y la pared.1. loc. adv. coloq. En trance de tener que decidirse por una cosa o por otra, sin escapatoria ni medio alguno de eludir el conflicto. Poner, estar, hallarse entre la espada y la pared.
・de rositas: 1. loc. adv. coloq. De balde, sin esfuerzo alguno.
・carta blanca:
1. f. La que se da a una autoridad para que obre discrecionalmente.
3. f. coloq. manos libres (= facultad amplia que se da en un negocio)
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 09:18
>DVDのバージョンによっては字幕が無かったりするようなので
哀生龍が持っているものも字幕が何もでないので、理解不能で感想が書けずにいました。
特典ディスクでは時代背景等も語られているのですが、そちらも同じく理解できず・・・
英語もスペイン語も出来ませんが、地名や固有名詞だけでも分かればかなり助けになるんで、何語であっても字幕は欲しい所です。
Reineさんの記事を頼りに、もう一度チャレンジしてみようと思います。
Posted by: 哀生龍 | Tuesday, May 05, 2009 09:39
(1) (陸軍大佐とおぼしき)リカルド・パラシオスにマヌエルがインタビューをしているシーンから始まる。(リカルドは言葉を選びながらのらりくらりと、しかし優雅にかわしているといった印象)
最後の質問としてマヌエルがズバリ「あなたはGALの指揮官の一人ですか?」と尋ねると、リカルドは取材テープのストップボタンを押してから落ち着き払ってこんな風に答える:
↓↓↓
「君ね……、それ、確信があるんだったらどうぞ記事にしなさいよ。ただ、真実でありますようにって神に祈っておきなさい。真実で無くてよかったねえ。いいかい? 真実だったとして、君が真相を暴いてしまったのなら、君の命なんて三文の値打もないだろう」
(なんか違うような気もするけどたぶんこんなこと言ってると思う)
(2) アリサとモリナが車で国境を越える。そして仕掛けておいた爆弾で若者を車ごと吹っ飛ばす。この事件をマルタとマヌエルが記事に書こうとしている辺りから映画は始まる。
マルタは記事の下書きを読み上げている:
「死亡したのはフアン・ペドロ・ペレス某、ギプスコアのパサヘス生まれ、29歳、二人の幼い子供の父親、妻は身重。
フランス警察とスペイン警察との間にETAメンバーの犯罪人引き渡しに関する合意が成立しGALがその活動をぱたりと停止してから1年半が経ったが、今回の殺害事件は、GALが息を吹き返したという事実を示すものではないかと思われるのである。
しかしながらまたもや人違いだったのではないか。ペレス某は軍隊から逃亡して以来この6年間フランスに居住していたがETAとの関わりを示すような証拠は一切出てこず……」
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 09:51
(3) そこへ一本の電話がマルタ宛てに入る。これがディープ・スロートからの初めのコンタクトであった。
男はマルタ宛てに封筒を送りつけてもいた。「あんた、まだ開封もしてないんだな。まったく反吐が出るぜ。おまえらマスゴミなんてのはどいつもこいつも同じだよな」。
「‘連中’があの若いの(=フアン・ペドロ・ペレス某)を殺ったのは、なんだってやる心づもりがあるんだぜってのを見せつけるためだったんだよ」と彼が言う。
「俺もGALの一員だった。(密告したのは)別に金が欲しいからじゃない。とにかく、手遅れにならないうちに連中を止めたいだけだ。明日落ち合おうじゃないか。興味が無きゃ無いでいいんだぜ。新聞社なんて他にいくらでもあるんだからよ」
‘連中’とは、アリサとモリナのことらしい。封筒の中に入っている写真がアリサとモリナだと。電話を切ってからマルタたちはモリーナについて知る。
「マルセル・モリーナ、38歳、刑事。83年にアリサがスカウトするまで警察署勤務だった……って」
「ビンゴね……83年っていったら、GALが動き始めた年だわ。パブロ、私、この情報提供者と会って来るわ」
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:02
(4) マルタとマヌエルは情報提供者のトニと人里離れた岬で落ち合う。トニが教えてくれたとおり森の奥まで分け入って指示通りの場所を掘りおこしてみると、女物のかつら、どこかのカジノのコイン、ホテルのレシートなどなど、いろいろなものが出てくる。
その中に1985年3月6日・3月7日のホテルのレシートがあった。マルタ達はその日付でピンと来る。
「…その次の日って、バヨナのバルで襲撃事件があったんじゃなかった?」「アリサとモリナがあの襲撃計画で前乗りしてこのホテルに泊まったってことか!」
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:15
(4') バヨナのバルの襲撃事件:
「そのBARはその夜、サッカーのスペイン-アイスランド戦を見る人でにぎわっていた。8人死亡、2人負傷。犠牲者中にETAメンバーのイルレタが混ざっている。彼だけはETAテロリストだったが、その他の犠牲者はなんら関係の無い一般市民」とマルタはレコーダーに吹き込む。
↑↑↑↑
映画では1985年3月8日のバヨナのバルでの大虐殺という設定だが、現実にそういう襲撃・惨劇が起きたのは1985年9月25日のMonbarという名のバルでの虐殺事件だと思う。そして殺されたETAメンバーは、映画ではイルレタだけと言ってるが、現実の事件では4人かな。
⇒El Mundo紙: 「Tres generales en el laberinto de los GAL」
25-9-85: José María Etxaniz, Iñaki Astiazuinzarra, Agustín Irazustabarrena y Xabin Etxaide veían en el bar Monbar de Bayona el partido de fútbol España-Islandia. Murieron ametrallados.
⇒(写真) DEIA紙: 「GAL Casi cuatro años de fuego indiscriminado」
⇒(写真) NOTICIAS DE GIPUZKOA紙: 「El 'santuario' DE ETA se tambalea El GAL buscó que Francia asumiera como propio el problema」
おまけ:
人々はバルのテレビで1986年のワールドカップの予選、アイスランド対スペインの試合を観ているときに虐殺されたわけで、翌日の新聞によると、その試合は2-1でスペインが勝ったようだ。ちなみに殺戮のあったのは、映画では、アイスランドが1点先取したところでした。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:23
(5) フランスの判事のところにも取材にいったマヌエルとマルタ。「GALの実行部隊の一人と目されている人物が刑務所内で奇妙な病気で命を落とした」と判事が言う。「それは殺されたということですか?」とマヌエルが尋ねると、判事はすかさず「私が言っていないことを記事にはしないでくださいよ」と言う。
判事はモリナを知っているようだ。モリナの写真に反応を示した。
ここのシーン、フランス訛りが聞き取りづらくて字幕も何もないので勘違いしてるかもしれないが、「フランスの刑事がスペイン警察に協力を頼んだところ、スペイン側は協力するどころか、彼に警告してきたのですよ」と判事は言っているだろう。
――――――警告。
マヌエルもマルタも何度も警告を受けた。
マヌエルの家のポストには銃弾が一つ入った封筒が入れてあった。
マルタは夜帰宅したところを自宅前で男たちに襲われて殴り倒される。男たちは立ち去りながら「Podemos volver. 一度じゃ済まないぜ」と言い残す。
貴重な情報源も抹殺されてしまいマルタが呆然としているとそばの電話が鳴り、「これが裏切り者の末路だぞ」という低いつぶやきが聞こえてくる。
虐殺事件の現場であるバルで取材をしているときには男たちに殴られ、銃を額に突き付けられ、カメラをぶち壊される。
↑
ただ、これはGAL側からの暴行ではなくてETA側からの暴行だったんじゃないかな。「取材してるのよ!」と叫ぶマルタに向かって「で、サツに御報告ってか!」と言ってるし、後々のシーンで、ETAのメンバーをさんざん懲役でぶちこんだ検事が町なかで真昼間に銃殺されるのだけど、その時の実行犯グループと、この取材中のマヌエル達をぶん殴ったグループがおんなじ人だと思うんだよね。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:41
(6) サン・セバスティアンのカジノで豪遊しているアリサ。近づくマルタとマヌエル。「警察のお給料ってひと月にお幾らですか?」
アリサ: 「先週は21人もETAのテロで死んだだろう。こんな調子で毎日毎日だ。一人も逮捕できずにな」
マ: ‘逮捕できずに’ですか? ‘処刑できずに’ではなくて?
アリサ: お嬢さん、私は昔はファシストでしたよ。わかります? 今は民主主義のために尽くしている。どういうことかと言うと、始末しなきゃいけない人間がそこにいるんだったら私は殺るし、それで満足ってことです。
(7) マ: あなたとモリナが、1983年にドミンゴ・レイシャという老人を拉致するためのメンバーをリクルートしたんじゃぁないんですか? GALの最初のミッションとなったドミンゴ・レイシャの件ですよ。
↓↓↓
このエピソードが現実にはどうだったのかってのを調べると、たぶんこれかなあ。セグンド・マレイという66歳の男性の殺害事件。
⇒Clarin紙: 「LA GUERRA SUCIA CONTRA ETA EN ESPAÑA Caso GAL: crudo testimonio de un secuestrado」
El francés de origen español Segundo Marey, quien fue secuestrado por los Grupos Antiterroristas de Liberación (GAL) en diciembre de 1983, ……略……. El secuestro de Marey, de 66 años, es uno de los puntos fuertes del proceso contra los GAL, porque fue la primera acción que reinvindicaron de la guerra sucia que ejecutaron contra el grupo separatista vasco ETA, que incluyó el asesinato de 28 personas vinculadas al nacionalismo radical vasco entre 1983 y 1987.
⇒El Mundo紙: 「‘GAL’, UN ‘THRILLER’ POLITICO Cronología de los asesinatos, secuestros y condena del GAL」
⇒La Nacion紙: 「España: González, acusado por los GAL Juicio: un policía implicó al ex presidente del gobierno español y a la cúpula socialista en la "guerra sucia" contra ETA.」
Según Amedo, la cúpula socialista financió la primera acción de los GAL: el secuestro de Segundo Marey, en 1983.
……略…… "Fue una decisión política de alto nivel", aseguró el ex agente. "En 1987, Barrionuevo (entonces ministro del Interior) me llama y me dice que no me preocupe, que en esto (los GAL) estamos todos y que estoy respaldado por él y por Felipe González, y que vamos a ganar esta batalla", agregó.
……略……El secuestro de Marey fue en realidad un error, ya que se confundió a este español residente en Francia con el dirigente etarra Mikel Lujua.
人違いで拉致監禁されるのって、すっげぇ怖くない? しかも国家の指示でさ。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:49
(7') アリサが公衆電話でどこかへ指令(というか報告というか)をしている。そのシーンのアリサ(ジョルディ・モリャ)のセリフは、たぶん実際のGAL裁判の中でも証拠として出てきたセリフのまんまなのだと思う。
⇒El Mundo紙: 「Sentencia del caso GAL | Hechos probados」
En la misma fecha del 6 de diciembre, Amedo recibió de manos de Sancristóbal un papel que había sido redactado entre el propio Sancristóbal y Ricardo García Damborenea, en el que éste escribió de su puño y letra lo siguiente: "Escuche, le hablo del secuestro de Segundo Marey. Está secuestrado por sus relaciones con ETA Militar, ocultando terroristas y por participar en el cobro del impuesto revolucionario. Como éste irán desapareciendo todos, añadió el propio Sancristóbal dos palabras: "los implicados".
↑この太字部分が、アリサ(ジョルディ・モリャ)のセリフとほぼ同じ。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 10:59
(8) そしてマルタとマヌエルの記事が出る
「警察の副部長がバル襲撃の幹部か」
「対ETA襲撃を計画したとGALメンバーがアリサを名指し」
「4人のETAメンバーが死亡した襲撃事件の二日前、アリサとモリナはGALメンバーと密会」
「GALの実行部隊はOASの元部員などからスカウト」
※OASってのはなんだろうか?
→・Organisation de l'Armée Secrète@Wikipedia(・秘密軍事組織@Wikipedia)
※ここで記事見出しにバルの名前がMonbarとあったけど、それは実際の事件でのバルの名前であって映画の中では別の名前だったような気がするぜ。まぁ、こまけぇこたぁいいんだよ!!
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 11:23
(9) フラサオの公判のロビーでビルバオの警察幹部のカルロスに直撃取材をした時、カルロスは「君たちはまともなジャーナリストだろうに、そんな馬鹿げた話に毒されているとはな。君たちのやっていることは、警察の名誉を毀損するもので、反テロの活動にも悪影響だ」と言う。
カルロス: お前さんたち好き勝手ほじくり返してるけど、後悔するよ。
マルタ: マスコミを脅迫している暇があったら御存知のことを全部お話しになれば?
カルロス: 全くでたらめだな。
マヌエル: じゃぁどうしてそんなにピリピリしているんですか?
カルロス: これ以上話すことはない!
声を荒らげ、立ち去るカルロス。
(9') マルタとマヌエルの記事が出た直後、新聞社の社長のもとに大臣から直々に電話で抗議が入る。社長はもう手を退けと言わんばかり。
マヌエル: 公務員や政府が連続事件を起こしてまわってるならそれを記事に出すのが我々の仕事でしょうが!
社長: 君らは有名になりたくって、君らなりのウォーター・ゲート事件を探しまわってるだけなんだよ!
マルタ: 新聞社の社長になろうと思うような人間には肝っ玉ってもんが必要なんですよ。
編集長パブロはマルタとマヌエルを全面的に擁護。自分が責任をとると言い切る。
(9") その後、首相自らがパブロを呼びとめて「あの記事はいったいなんなんだ」と小声で、しかし激しい口調で怒っている。
首相: ETAが我々を殺すのをやめたらこっちだってあっちを殺すのをやめるともさ。
パブロ: 今のは問題発言ですよ、首相。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 11:32
(10) アリサが出頭して検事の取り調べに応じる。(ほとんど答えないけどね)
1. あなたはビルバオの警察の情報部の部長ですか。
2. ETAのテロに対する闘いに関わったことは?
7. 対ETAの非合法的な作戦について上司から指示を受けましたか。
XX. GAL以前に、たとえばBatallón Vasco Españolのような武装集団と何か関わりを持ったことは?
16. テロリズムに対抗して実行的に ...
XX. 襲撃を実行するための部隊を傭ったことは ...
XX. 襲撃の準備でポルトガル人、フランス人、イタリア人の活動家らと会合を持ちましたか。
XX. バルの襲撃事件に関与したとしてフランスで拘束された容疑者の ...
XX. 政府首脳との会合に出席し、そこでGALの創設について提案を受けたようなことは?
XX. ○○から幾ら受け取りましたか。
XX. ETAのメンバーであるイニャーキとアシエルの行方を知っていますか。
XX. あなたの上司はあなたがGALと関わっていたことを知っていますか。
198) 最近起きたペレス襲撃事件がGALの手によるものかどうか知っていますか。
(10') そして判事は決定を下す。記事が出る:
「GALの主要な指揮官として相当の手続きを進めて行く」
「アリサとモリナを収監、重大なテロ行為のかどで」
「アリサとモリナ、昨日午後 prisión incondicional comunicadaでログローニョの刑務所へ」
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 11:53
(11) GALの本丸にいよいよ近づくと、編集部には「余計なことをガタガタと書くな」という匿名の電話がひっきりなし。
首相が「私自身もそして政府もGALとはいっさい関係がないと誓って言える!」と言いきった翌日の新聞は、「セルナ判事はGALの組織図のトップにXなる人物を示した」と書き、組織図まで添えた。一番上にXの文字が黒々と記されている。
テレビではパブロ編集長と内務大臣との直接対決。
(11') もう、これって、つまり首相が最高指揮官であると言っちゃってるわけだからね。パブロは社長に怒鳴りつけられます。
「昨日のマルタとマヌエルの首相会見の席での質問、それから昨夜の内務大臣とのテレビ討論番組での君の言動、駄目押しで今日の朝刊のヘッドライン!!! 私はひじょーーーーーーにマズい状況に陥ったよ、ひじょーーーーーにマズい! こんなこと続けられた日には、うちなんてひとったまりもないんだぞ! マルタとマヌエルをやめさせろ」
パブロ: 私の責務は読者に対するものであって、政府に対してではないですよ。社長、あなたは、マルタとマヌエルが犯罪の共犯者にならないから辞めさせろというわけですか。私は彼らをクビにはしません。責任者は私ですから。
社長: じゃぁ君はすぐ荷物をまとめるんだな。クビだ。
パブロはそれで社を去ります。「我々のやってきたことに誇りをもっている」「君らと働くのは幸せだった」。そして、「俺も行く」「私も」と部下も後を追うのでした。
※まぁ、どこまで映画といっしょかわかりませんが、こうして、‘Diario 16’紙('76.10.18~2001.11.07)の編集長を89年3月8日にクビになった編集長Pedro J. Ramírezとその仲間たちが驚異的な短時間で創った新しい新聞がEl Mundo('89.10.23~)だったんだってよ。
ふーーーーん! そのとき37歳だったのか、彼は。……ぜんぶウィキペディア情報ですみませんが。(言わずもがなですが、Pedro J. Ramírezって人が映画ではパブロってわけだね)
さて、「ジャーナリスト宣言」などとがなり立てる日本の素晴らしい方々はというと、朝日の49歳は2ちゃんねるでマッチポンプだし、毎日は変態だ。そんなだからマスゴミとか言われちゃうんだよ。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 12:24
12) 7年後、マヌエルはアリサを刑務所に訪ね、面会の窓越しにEl Mundoのトップ記事を読ませる。
マリオ・ディアス、「内務省では私を助けると言った。検事と交渉する、と」
この治安警備隊の元長官はこうも語る、「アリサを騙したようにはうまくいかないよ。刑務所行きになるって言うのなら、私は一人きりでは行かない」
↓↓↓
Mario Díazではなくて実際にはLuis Roldánって人だったのかな。
Así investigamos y descubrimos la trama de los GAL Primera condena contra los GAL
・Luis Roldán@Wikipedia
12') マヌエルはアリサに揺さぶりをかける:
「アリサさん、おたくとモリナは割を食ったんですよ。みんな知ってます、おたくが馬鹿を見たって。7年も刑務所に入りましたけど、何のための7年だったんですか? おたくの上司の、GALを動かしてた連中がのうのうと生き延びるための7年だったってことじゃないですか。アリサさん、いったいどんな確約をもらってたんすか?」
そして、「全部しゃべっちゃいましょうよ」と、ついにアリサを動かした。
12") アリサらはマヌエル達に証言を始める。GALの杜撰な行動で無関係の市民が被害に遭った経緯なども含め、証拠を示しながら内情をぶちまけるのだった。
13) しかし首相は最後まで関与を否定する。
映画ラストのテロップ:
マスコミの追及によって司法は内務大臣を含む内務省の幹部を、誘拐・暗殺・殺人・公金の不正利用等の廉で有罪とし、懲役を科した。民主主義国家においてはおよそ前例がない。
しかし関与したとされる者のうち、GALを創設した最高責任者としての責めを負ったものはいないのである。
El Mundo紙は「El presidente promete ante once jueces del Supremo que no tuvo nada que ver con los GAL.」という写真入りの記事を出します。
↓↓↓↓
これは実際のEl Mundo紙の記事では「González promete ante once jueces del Supremo que no tuvo nada que ver con los GAL」となっている。
フェリペ・ゴンサレスさ。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 13:05
(ここで一休み。また後日つづきを書きます)
哀生龍さんのDVDもやっぱり字幕なかったのですね。『El Lobo』もこれも字幕があっても理解するのがめんどくさい系の作品なので、字幕無いとほんとにキツいですよね。
というわけで今回は普段よりも7割増しくらいで詳しく書いちゃいました。
Posted by: Reine | Tuesday, May 05, 2009 19:15
(4)につけたし:
これがLa Vanguardia紙の1985.09.26の紙面
Edición del jueves, 26 septiembre 1985, página 3 - Hemeroteca - Lavanguardia.es
そこには、アイスランドに勝ってW杯本大会への出場が決まりましたという記事とバル襲撃のニュースとが載っている。
バル襲撃に関しては、
・バルの外から4人の人間が発砲を始めた
・死亡したETAメンバー4人のうち3人は即死、一人は搬送された病院で死亡確認
・発砲した4人はそのまま足で逃走、うち2人は取り押さえられ、身柄はフランス憲兵に。
・逮捕された二人はマルセーユの人間 ……などなど。
この映画がらみでこうやって実際の報道を追って行くのって楽しい。けど、今日は時間がもう無いのでここらで中断。
Posted by: Reine | Wednesday, May 06, 2009 11:10
出演者の欄に書かなかったけど、冒頭のマヌエルのインタビューのシーンで冷静に凄むような受け答えをしている陸軍大佐(たぶん)を演じているのは、José Coronado。『El Lobo』のときのSECEDの指揮官・リカルドを演じていた人。
(※二作品の彼の役名を比べるとちょっとニヤっとするんだけどね)
この人の顔ってほんとに冷たくって品が良くて、人の一人や二人殺してそうで素敵……
あちこちに子供がいるようだったり、二十も年下のモデルと付き合ってたりもして、そういうとこが、なんかもうたまらん。
Posted by: Reine | Saturday, May 09, 2009 09:48
映画のおはなしには関係ないけど:
ソレダーの家からアリサが出てきてモリーナにカバンを渡して車で出かけるという序盤のシーン、撮影現場はGandariasというレストランの表だな。ソレダーはその上の階に住んでいるっていうかっこうになる。
flickrのこちらの写真がそこ
http://www.flickr.com/photos/85824446@N00/36519028
Posted by: Reine | Saturday, May 09, 2009 18:28
(9)で書いた「カルロス」の職がハッキリしてなかったんだけど、スペインの友人に質問しようと思って、その前にもう一度見直してみたらわかった。
マヌエルがカルロスを(裁判所のロビーみたいなところで)見つけて、「ビルバオの警察幹部が個人的にわざわざフランスのPauまで(フラサオの)公判を見に来ているわけですか」とかなんとか聞いているんだな。
GAL, realidad y ficciónというEl Mundoの記事より:
>Jordi Rebellón interpreta a Carlos Peinado, jefe superior de Policía de Bilbao (Miguel Planchuelo y Francisco Alvarez, jefes superiores).
Posted by: Reine | Saturday, May 09, 2009 20:36
>今回は普段よりも7割増しくらいで詳しく書いちゃいました。
お陰様で、大分混乱していた部分がスッキリし、改めて細かい部分まで知ることが出来ました。
どうもありがとうございました。
特に初めて見た時は時系列が行きつ戻りつしていると言うことが分かっていなかったので、出来事の展開やつながりが分かったのは大きな前進(笑)
哀生龍の記事内にリンクさせて頂きました。
これからもどうぞ宜しくお願い致します。
Posted by: 哀生龍 | Monday, May 11, 2009 06:16
『スペイン現代史―模索と挑戦の120年』(初版: 99年6月20日)より。
( Reine注: 改行・アラビア数字は私が勝手に)
第Ⅲ部 現代のスペイン
第11章 スペインの社会問題
第2節 テロ問題
●スペイン・フランス二国間テロ対策協定
ETAの幹部は、フランス国内のバスク地方に居住し、テロに使用する武器・爆弾を準備し、スペイン国内に潜入してテロ活動を行っては、フランス国内に逃げ戻る戦術を採っていた。……略……
……略……1984年9月、ゴンサレス首相とフランスのミッテラン大統領は、フランスにいるETA犯罪者をスペインに引き渡すことに合意し、スペインとフランスとの間で初めての「二国間テロ対策協力協定」が成立した。スペインとフランスにまたがって活動するETAのテロ問題の解決について、フランス政府が積極的でなかったのはスペイン政府にとって大きな不満の種であった。
フランス国内でETAのテロが起こる危険性は小さかったし、フランスは、フランコ独裁体制時代の対スペイン政策の伝統をそのまま引きずってETAを政治犯と見なす傾向が強かった。それゆえフランスは、ETAに対する厳重な取り締まりに積極的ではなかったのである。……略……
Posted by: Reine | Monday, May 11, 2009 21:18
(つづき)(同節)
●GAL(反テロリスト解放グループ)
……略……GALは政府自らの手によって組織された可能性が高い。90年代になると、一連のGAL事件として、複数の予備調査が行われ始めた。当時マスコミは、現職警官をも含むテロ撲滅実行グループが存在していることを知りつつも、その活動については非難するどころか、むしろ好意的に報じていた。
(……略……
民主化が訪れたとかって言っても警察官・軍人のメンタリティーはまだまだ独裁体制時代とあんまり変わってなくって、彼らは仲間をETAに殺されてるもんだからETAへの憎悪も強くって、いっくら社会や警察・軍部の機構が民主化、民主化言ったって、現場レベルだと昔っからのやり方で取り締まっていたし、彼らはむしろ政府のテロ対策が「甘い」と思っていて強攻策を採りたかった。だから現場の人間としては越権行為であれ、わりと簡単にやれちゃってた。そしてテロ撲滅活動なら黙認されるかも、みたいなとこもあった
……略……)
社会労働党政府は一貫してGALの活動に政府が組織的に関与したことは一切無いと主張している。しかし、GALの存在と活動内容を社会労働党政権が知らないはずがなかった。
GALの活動資金は巨額であり、それが内務省の秘密工作資金から捻出されていた可能性は濃い。テロリストに関する正確な情報も政府からGALに提供されていた公算は強い。
このような点から見て、GALは直接政府が関与した反テログループであったと考えられる。そうであれば、GALを黙認した、あるいは支援した政府の責任は重い。
……略……
しかし、テロ撲滅のためとはいえ、国民の了解を得ずに、「国家による暴力行使」という違憲行為を犯すことは民主主義国家で認められるものではない。……略……
Posted by: Reine | Monday, May 11, 2009 21:46
公式サイトにあるこのpdfファイルはとても面白いと思うよ。
http://www.gallapelicula.com/docs/dosier_gal2.pdf
Posted by: Reine | Tuesday, May 19, 2009 09:26
A: これはスペイン現代史、特に政界、司法・行政警察の一大スキャンダルをテーマにした映画ですね。
B: 『El Lobo』は、ドキュメンタリーとフィクションの中間、というよりフィクションとしてご覧になったということでしたが、こちらはいかがですか。
A: ああ、これは反対の印象うけました。人名はすべて変えておりますが、スペイン人の多くが、アリサは誰々、モリーナは誰々、首相は言うまでもなく内務大臣、セルナ判事・・・を同定できますから。
B: 時代的にも近いし、収監中とはいえ関係者が生存しておりますから、エンターテイメントを重視して、いたずらに歴史事実を変えることはできません。
A: おっしゃる通りです。名誉棄損や事実誤認で訴えられかねません。ですからマルタやマヌエルのような虚構の人物を登場させて、商業映画としての成功を狙ったわけです。
B: 二人の記者は、スペインがフランコ亡き後の民主化移行期に新聞界、特に’Diario 16’ で活躍していたジャーナリストたちをシンボライズして造形したわけですね。
A: ええ、限りなくプロデューサーの、当時は記者だったメルチョル・ミラリェスと、一緒にGALの取材をした記者リカルド・アルケス(Ricardo Arques)に重なるでしょうけど。ミラリェスについては、前作『El Lobo』でざっと紹介したので繰り返しません。
B: 映画では、匿名の内部告発者から爆薬や銃器の隠し場所のメモをもらって、メモを頼りにマルタとマヌエルが zulo を発見するわけですが、実際の発見者はミラリェスとアルケスだった。こんなシーンからも二人のモデルが割り出せます。
A: 雨も降ってなかったし、時限爆弾も設置されていなかったみたい。箱も四つあって、二つにはスペインのデパート、コルテ・イングレスの袋、もう二つはフランスのデパート、カルフールなどの袋に包まれたものがあった。しかし映画では商標は外されています。
B: つまりここらへんに映画的工夫がしてある。
A: バスク語で zulo というのは、こちらの辞書では「(主に地下の狭い)隠れ場所」とあり、モリネールの辞書によってます。アギラール社の『Diccionario del Espanol Actual』(1999 Manuel Seco他)では、「警察に見つかっては困るものを隠しておくための地中に掘った穴」とあり、こちらはどんぴしゃりです。
B: 隠し場所は映画と同じですか。
A: 同じようです。実は前作でミラリェスを検索していたときに、彼のドキュメンタリー『GAL』が偶然にも引っかかってきた。そのなかで隠れ場所を探しに行く再現シーンが出てくるのですが、橋とか道路も風景も同じでした。
B: どうやらミラリェスの本命は、『GAL』のほうなんじゃないかな。
A: そうね、なにしろぼかされていますが、主役みたいなもんです。ドキュメンタリーは50分ぐらいの中編で、監督自身が道案内をして、実在の人物、例えばアリサ役のホセ・アメド副警視、編集長パブロ役のペドロ・J・ラミレスなどが出てくる。編集長の服装、吊ズボンに縦縞ワイシャツがそっくりで、ちょっと笑える。
B: 匿名でタレこみ電話をかけてきた、結局トニと名乗るわけですが、これも実在の人物ですか。
A: トニ、つまりアントニー。管理人さんが教えてくれた‘GAL, realidad y ficcion EL MUNDO’によれば、これは二人の元雇われ暗殺者を合成したようです。一人はスペイン人でミラリェスたちを隠れ場所まで案内して、調査の突破口を開いた人。もう一人はスペイン在住のフランス人、元OAS(Organizacion del Ejercito Secreto)のメンバーで殺し屋稼業をしていた人。政府からGALの組織作りを依頼されたが断ったため、映画で見るような代償を払った。ミラリェス側は、彼からGALの誘拐、拷問、暗殺等の情報を入手していて、真相解明にはとても重要な人物なんですね。
B: 電話で「お金のためじゃない」とタレこみの理由をわざわざ断ったのは、前はお金で殺し屋をやっていたからなんですね。
A: この映画は、字幕がないうえに、話が行ったり来たり錯綜して、一度では筋がのみこめない。映画は繰り返し何度も見るものじゃありませんが、紐がほどけ出すとハマります。DVD時代を反映した作品です。
B: 私たちの話も映画同様、行ったり来たりして脈絡がありません。
Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, June 21, 2009 19:37
B: マルタとマヌエルが働いていた『Diario 16』という新聞はすでに廃刊していますね。社会的位置とか政治的傾向とかが分かると・・・つまりトニが、あまたある新聞のなかから、どうしてここを選んだのか。
A: ブログにあるように、フランコ没後から約1年の1976年10月18日創刊、発売当初は月曜日だけ発行、つまり最初は日刊ではなく週刊「紙」、12ペセタだったそうです。スペインは名ばかりの民主化で、フランキスタも健在だった。政治的イデオロギーはリベラル、発行者がフアン・トマス・デ・サラスです。映画ではアルベルト・デ・セリスで登場、政府の猛烈な圧力に屈して編集長パブロを解雇した人ね。『El Pais』はもう少し早く同年5月4日創刊、こちらは中道左派で、GALが指導した「汚い戦争」を黙殺したわけではないでしょうけど、『ディアリオ16』ほどじゃなかった。
B: なるほど、『エル・パイス』紙はゴンサレス率いる社労党PSOE寄りというわけですね。
A: どうせタレこむなら、綿密な調査を売りにしていた『ディアリオ16』のほうでしょう。しかし1989年、ゴンサレス政権の屋台骨を揺るがす報道に編集長が解雇され、主だった編集・経営陣も右へ倣えで辞めてしまった。このなかにはミラリェスとかサラスの弟アルフォンス・デ・サラスまでが含まれていた。次々編集長を挿げ替えたが軌道に乗らず、結局2001年11月7日に廃刊になった。
B: 辞めた人たちが、すぐさま立ち上げたのが『El Mundo』というわけですね。
A: ええ、同年10月23日創刊、創設メンバーは上記のサラス、編集長ラミレス、ミラリェス、他2名です。政治イデオロギーはリベラル路線の中道右派、社労党には批判的だが、『ABC』や『La Razon』紙の保守主義路線とは、一線を画しているんです。
B: タレこみがあったのは、2年前の1987年ですね。
A: 資料によれば7月、この電話を受けたのが前にも話したリカルド・アルケス、映画ではマルタです。GALのリーダー、ホセ・アメド(アリサ)の足跡を辿る本格的調査チームを編成して活動を開始、ラミレスとアルケス(マヌエルとマルタ)が「隠し場所」を発見した時は8月になっていた。
B: 映画では、二人の乗った車のナンバーはSSサン・セバスティアン、アリサとモリナが自動車爆弾テロを仕掛けるために乗った車も同じSSでした。ビルバオじゃなく、よりフランス国境に近いサン・セバスティアンを根拠地にしてたんですね。
A: 二人が豪遊するカジノもそこでしたね。バーでのアリサ対マルタ、マヌエルの丁々発止も見ごたえありました。会話から見えてくるのは、GALを叩くこと即ETAテロ支持という構図です。
B: 誰もエタを逮捕しないから、死体の山ができるんだ、昨日も20人だ・・。
A: 権力を持つ人の論理じゃない。
B: 当時は州都のビルバオにしか飛行場はなかったですね。
A: だからマドリッドからはビルバオ経由になる。アリサが上司カルロス・ペイナードとコンタクトを取るにはそちらに出向く。カルロスはビルバオ警察の最高幹部でGALのブレーンだった。彼もトニと同じケースで、二人の人格の合成です。閣僚、警察幹部などの役柄は途中で人事交代がありますから、勢いそうなります。
B: トニやカルロスのケース、マルタやマヌエルのようにモデルをシンボライズしたフィクションのケース、アリサや首相のように間違いなく重なるケース、三つに分類できる。
A: そうなりますね。圧倒的にです。つまり観客に誰のことを指しているか分かるということです。これは演じるほうにもプレッシャーがかかるし、ご本人も穏やかじゃなかったはず。
B: では、他にどんな人がいますか。
A: ホセ・アンヘル・エヒドが演じた内務相。1988年に更迭劇があって、大臣二人(ホセ・バリオヌエボとホセ・ルイス・コルクエラ)の合成。GALを計画したのは前者、セグンド・マレイ(=ドミンゴ老人)誤認誘拐と公金横領で実刑判決を受けている。ペドロ編集長とのテレビ討論に出たり、『ディアリオ16』の発行責任者に脅しをかけて編集長を首にさせたのが後者。
B: エヒドの演技は凄みがありました。脇役に徹して光る演技をしている。『月曜日にひなたぼっこ』や『エルサとフレド』に出演してました。
A: ラチャンブレ判事、フランスのバイヨンヌ(バヨナ)の予審判事、複数の裁判官の合成。
B: は、マルタ、マヌエル、あと誰?
A: 特別出演のマル・レゲラスが演じた、マルタの旧友クリスティーナ検事がそうだと思っていましたが、カルメン・タグレという実在の検事でした。1989年9月12日、映画と同じように白昼頭を撃たれて即死したからね。テレビ討論のキャスターがそうです。というより二人対決ではなくて、ほかにもジャーナリスト、政治家が出演していて、全体がフィクション。
B: のケースはピックアップして、映画の核心に迫る重要人物だけに絞りましょうか。
Posted by: アリ・ババ39 | Monday, June 22, 2009 22:08
A: 警察庁関係、主役のジョルディ・モリャ扮するアリサ副警部から始めましょうか。映画はマルタ、マヌエルの視点から描かれているように見えますが、監督が語りたかったのは、アリサに代表されるようなモンスターが、どうしてスペインに生まれてしまったのかということです。
B: 当時の国家警察の副警部ホセ・アメドと、はっきり同定できるんですね。
A: 7年半の禁固刑を受け、最初ログローニョ、ついでグアダラハラ刑務所に移送されています。オールバックの髪型もアメドのトレードマーク、以前に話したドキュメンタリーでは、もう少し細面でしたが。
B: 「さるかに合戦」のような単なる善玉悪玉対決の話じゃない。日本ではモリャのファンが多いですよ。外目には悪の権化になってワルに徹していますが、実はそれが自分の弱みを隠すための強がり、上った梯子から下りられなくなってしまった男の悲劇を好演してました。
A: ソレダーとの会話で、「どこかスペインじゃないところに移住したい、そしたら俺に付いてくるかい」「どこへ?」「たとえばオーストラリア…」
B: あんな弱音を吐くなんて、ちょっと泣かせるけど、フィクションかな。ソレダーというのは愛人といっても内縁関係みたいでしたが。
A: 実名も公表されていて、映画でも分かるようにマルタたちに情報を提供している。密告でなく彼を助けるためにね。奥さんじゃないけど、ほんとに愛していたんだと思う。
B: 入手したテロリスト情報が杜撰で誤認誘拐したり、間違って暗殺したり。スペインだけでなくポルトガル、フランスから傭兵、つまりお金で雇った実行犯をかき集めたのはアリサことアメドだった。
A: 直属の部下モリーナ刑事をフランスから、殺し屋フラサオをポルトガルからリクルートしてきたのがアメドでした。権力志向が激しく、愛国心が強く、リーダーの素質もあったから、権力中枢部から狙い打ちされてGAL適任者となったのではないか。
B: それにしてもステータスと現ナマの魅力は恐ろしい。一度手にすると感覚が麻痺してズルズルと泥沼に引きずり込まれてしまう。トランクに放り込まれた札束の数には驚嘆しました。
A: 札束をコマンドに無造作に手渡すときのアリサ、カジノで儲けた賭金の100万ペセタを「たったの100万だよ」と、はした金扱いするアリサ、マルタとマヌエルを「俺はファシストだったが、今じゃデモクラシーに貢献している」と恫喝するアリサ、不安と苛立ちでセックスもできなくなったアリサ、強さと弱さがアンバランスに同居している人格です。
B: アリサは常にワインじゃなくウイスキーを飲んでましたが、これも一つのステータスですか。
A: 高価でしたからそうでしょうね。刑務所内でも飲んでましたね。
B: 塀の中でもアルコール類がOKなんですか。
A: まさか、特別扱いですよ。アルコールだけでなくメニューも特注で、夜の女性のサービスもあったというのが、同じ刑務所に収監されていた受刑者たちの証言で明らかになってます。刑務所長が黙認していたわけです。
B: うーん、脚本家オネッティは、そういう証言をもとにシナリオを書いたんだ。
A: 上からの命令でやったことですから、最初はすぐに出所できると考えていた、首領<X>が助け出してくれると。しかし逆風が吹き始め、切り捨てられたことが分かってからは正気を失い、常軌を逸した言動をするようになったそうです。
B: 面会に訪れたマヌエル(マルタだったかな)が「みんな吐いちゃいなさい、騙されていたんですよ」みたいなことをいう場面があって、少し動揺する。そういうシーンがそれなんですね。
A: 映画には描かれませんでしたが、椅子を蹴飛ばしたり、怒鳴り声を上げたり、精神的に打ちのめされた時期があったそうです。エリートの弱さですね。一緒に収監されていたモリーナ刑事ことミシェル・ドミンゲスのほうは比較的冷静で、こちらは筋金入り、幻想を抱かなかったのでしょう。
B: 恩赦で出られるとかね。それに彼は愛国者じゃない。長居しました、モリーナに移りましょう。
Posted by: アリ・ババ39 | Wednesday, June 24, 2009 21:02
A: モリーナ刑事役のトマス・デル・エスタルを見て「あれっ、どこかで見た顔だ」と思った人いるかもしれない。ソダーバーグのゲバラ2部作後編『チェ、39歳別れの手紙』に出ていた俳優。あと日本公開作品では、ディアス・ヤネスの『アラトリステ』ぐらい。アリサ役のジョルディ・モリャの多さに比べるとちょっと寂しい。ドラマ、スリラー、コメディと幅広い芸域の人なのに。代表作は本作らしいが、TVドラマのヒット作に結構出ている。YouTube で見られるのもあるからどうぞ。
B: モリャにしてもスペイン映画じゃなく、例えば『ブロウ』とか、『エリザベス:ゴールデン・エイジ』のフェリペ2世役とかでファンを増やしているのではないかな。
A: それもありますが、『ハモンハモン』『パズル』『マルティナは海』などスペイン映画での登場も多いほうです。イタリア映画『カラヴァッジョ』で枢機卿になったり、語学ができる強みがある。
B: モリーナはスペイン語フランス語を完璧に操れる刑事ということで、アリサにスカウトされたんですよね。フランス側バスクのコマンドたちとの通訳をしていた。
A: エスタル自身も両方の国籍をもってるからモリーナに重なる。実在のドミンゲス刑事はフランス生れ、両親とスペインに移民してきた。つまりバイリンガルです。そのことが皮肉にも彼の人生を変えてしまった。直属上司はアリサ、アリサの上にカルロス(ビルバオ警察の最高幹部)、カルロスの上に内務相、大元締めがミスターX、という構図になっている。
B: そして最下部に雇われ実行犯がいますが、彼らはお金で繋がっていて、警察本体の組織とは切り離されている。そうやって切り捨てられたのがフラサオでした。
A: カルロスについては簡単に述べましたから、フラサオに移りましょう。GAL実行犯のなかでもひときわ残虐な、一匹狼的な暗殺者でした。
B: 最後のテロとなったモンバルの凄惨なシーンは、この映画の中でも飛びぬけています。
A: 実在のパウロ・フォンテスはポルトガル人で、アメドがリスボンでスカウトし、偽の身分証明書を作成してビルバオに連れてきた。フランス・バスクで起こしたテロで逮捕されましたから、裁判もあちら、カルロスが傍聴に来てましたね。目下無期懲役でフランスの刑務所に服役しています。あんなに殺して軽すぎると思われるかもしれませんが、死刑はありません。EUの加盟条件の一つが死刑廃止です。
B: 雇い主のアリサが密告の電話をかけました。最初からお払い箱にするつもりでやらせた?
A: そうでしょうね。前金として受け取った札束の厚みからしてハンパじゃない。次第に報奨金を釣り上げてきたのでGAL としても重荷になってきた、手をきる潮時でした。
B: 残りの成功報酬をケチったわけですね。フラサオはバルのテレビでサッカーを観戦していた数人を瞬時に撃ち殺すと、あっという間に拳銃2挺を握ったまま道路に飛び出していきますね。
A: 数分経たずに数台の車が追跡してくる。前方からも車の波、フラサオは挟み撃ちになる。空にはヘリコプターが・・・。否応なく罠に嵌まったことを悟る。一縷の望みをかけて「スペイン警察に頼まれたんだ、知らせてくれー!」と必死に叫ぶが、そのスペイン警察が密告の張本人だった。
B: 管理人さんがフラサオのスペイン語はポルトガル訛りだったと書いてましたが、事実に即したキャスティングだったんだ。
A: モリーナのケースも同じでした。アリサのテロ予告は、正確な場所や時刻は知らせていない。つまり、テロ成就と暗殺者逮捕が目的だったわけで、なんとも遣りきれない。
B: アリサのフランス語もブロークンでしたから、モリーナの存在は重要だった。
A: フラサオのほか複数の暗殺者が登場しますが、当時のモデルをミックスしてシンボライズしている。なかで黒髪の鬘をしていた過激な女性コマンドが何回か出てきた。この女性が例のzulo にトランクを埋めた人。トランクの中に被っていた鬘を脱いで入れていた。ついでにアリサから貰ったカジノのチップも口づけして入れた。事実はどうか知りませんけど、映画では二人の関係はかなり微妙、深い仲ね。クルトワ監督の観客サービスかも。
B: 実在なんですよね。
A: フォンテス(フラサオ)同様、フランスで服役中だそうです。人違いで誘拐されてしまったドミンゴ老人ことセグンド・マレー、冒頭に登場して『El Lobo』の観客をギョッとさせたリカルドことアンドレス・カッシネリョ中将をトリにしましょう。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, June 25, 2009 23:13
(※Reine注: 以下、アリ・ババ39さんのコメント中、参考ページへのリンクを入れておきました。wikipediaとかですみませんですが)
B: セグンド・マレーの誤認誘拐がGALの首を絞めたように感じます。誤認と分かった時の混乱ぶりからも。まったく無関係だったんですね。
A: スペイン系とはいえフランスの市民でしたから、下手すると国際的な大スキャンダルに発展する可能性があった。時のフランス大統領はミッテランです。1983年というのはGAL創設の年、まだ揺籃期でした。泥縄式に作った杜撰な組織でしたから、起こるべくして起こったともいえます。
B: 最初の誘拐が失敗に終わり、結局のところ解放せざるを得なくなる。
A: しかし、地下室に閉じ込められていたときに罹った風邪がもとで、解放後、肺炎を起こして死んでしまう。これも痛手でした。
B: 熱に浮かされているようにぶるぶる震えていたシーンがそれですね。
A: 裁判が始まってから、これが理由で多くの関係者が連座した。安全保障担当の国務長官ラファエル・ベラ(役名: バルプエスタ)は、最高裁によって10年の禁固刑、12年の公職停止を受けた。マレー事件だけでなく、莫大な公金横領も含まれていますが。
B: ブログのGAL, realidad y ficcionによると、ビスカヤ県知事サンクリストバル(役名: フェルナンド・ロペス)も同じ刑を受けています。
A: フランシスコ・ビダルが扮していた人ね。ビダルは1970年代から活躍していて、テレビ・ドラマの名脇役としても欠かせない一人。日本公開作品は『にぎやかな森』とか、最近、日本でも大ヒットした『パンズ・ラビリンス』で司祭になった人。
B: 聖職者にあるまじき不埒なことを言ってた人かな。
A: モリーナの愛人グラシアに接触して圧力をかけていた内務省事務官ロベルトを演じた俳優ペドロ・ミゲル・マルティネス、この人も脇役でよく見かけます。『オープン・ユア・アイズ』の医院長、『カマロン』にも出ていた。
B: 愛想笑いを浮かべてグラシアに近づき、立ち話しているところをマヌエルに盗み撮りされた人ね。
A: そう、実は脅していたわけ。武器密売の黒い噂が常に絶えなかったフランシスコ・パエサがモデルです。内務省の建物に入っていくシーンで、映画は癒着ぶりを暗示した。
B: セルナ判事ことバルタサール・ガルソン判事がまだでした。
A: ガルソン判事は、ピノチェト身柄引き渡し問題とかで有名人ですから、ゴンサレス首相同様パスしましょ。スタンドプレーをとやかく言う人もいますね。
B: では、脇役の極めつけリカルド・パラシオ役のホセ・コロナドに。冒頭にちょこっと登場しただけでしたが、強烈な印象を残しました。管理人さんも贔屓みたい。
A: 謎の人物というか、沈黙の人とか言われるアンドレス・カッシネーリョ中将に扮しました。カッシネーリョは1927年アルメリア生れの83歳。名誉職なのかもしれませんが現役です。勿論、本人はコロナドのようにカッコよくない。この人は陰の実力者みたいです。辛抱強く口が堅く、まさに軍人の鑑ね。
B: 1927年だとチェと同じ年だ。23-Fクーデタでも名前が取り沙汰された軍人ということですが。
A: 23-Fというのは、1981年2月23日にテヘロ中佐を首領に一部の軍人が起こしたクーデタのことです。翌24日に解決しましたので、24-Fとも表記される。テーマから逸れるので深入りしませんが、40代以上のスペイン人なら、このときの恐怖を忘れていないはずです。
B: マヌエルにGALとの関係を質問されて、「暴露できるならやるがいい、君の命なんか二束三文」と。さすがのマヌエルも固まってしまう。
A: 実際のインタビュアーは、ライバル紙「エル・パイス」のカルロス・ジャルノス記者でした。1953年生れ、ナバラ大学卒、インタビューは1984年ですから、31歳ということになりますね。英語、フランス語に堪能で、ジャーナリストの経験も豊富、エル・パイスには前年入社したばかりだったそうです。
B: ということは、マヌエルには他紙の記者の人格も含まれている?
A: そうです、週刊誌「カンビオ16」とか「ABC」紙とか。前述したようにマヌエルとマルタは、当時のジャーナリストたちをシンボライズして造形した人格です。ジャルノス記者は現在、チェコ、ハンガリー、ポーランドなど海外特派員として活躍、「エル・パイス」の看板記者の一人です。
B: コロナドが出ている映画、DVDとか公開されたのありますか。
A: サウラの『ボルドーのゴヤ』ぐらいかな。タイトルこれでいいかな。主演はパコ・ラバルでしたが、若いころのゴヤに扮した。あと『La caja 507』は、DVDになったかも(いい加減)。『La mirada del otro』『La vida de nadie』『La vida mancha』に主演、もっと紹介してほしい役者の一人です。
B: この作品は大勢のキャストが入れ替わり立ち替わり登場して、いちいち顔を覚えてられない。
A: さらにフラッシュバックのなかにフラッシュバックが入り込んでいて、事件の前後関係も把握しづらいですね。そんなことも評点の低さに繋がっているかもしれません。
B: スペインでも20代の若い人には、誰を指しているか分からないのではありませんか。
A: どんな歴史教育をしてるかによります。またどの政党支持か、購読新聞はなにか、警察・治安警備隊関係者か、観客層も複雑です。特にGAL糾弾のあまり、ETAが何をしたかがあまり描かれていない。犠牲者は27人どころか桁違いでしたからね。
B: じゃ、本作品の特殊性についてやって終りにしましょう。長くなりましたので。
Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, June 28, 2009 10:21
A: 登場人物が誰々と同定できるので、ドキュメンタリー風に実写を採用することができない。それに代わって多用されたのが新聞記事の大見出し、これは本作では重要なメッセージです。
B: ブログに紹介されているような「マリオ・ディアス」は「ルイス・ロルダン」とか、「内務省事務官、GAL事件の証人に圧力」とかですね。
A: 実際の新聞では、マリオ・ディアスのところがルイス・ロルダン、日本語だと男か女か分からない「証人」も、女性冠詞で「証人」がモリーナの愛人グラシアと知れる。
B: 映画のエンディングに流れる「エル・ムンド」の「El presidente promete ante once jueces del Supremo que no tuvo nada que ver con los GAL」も、管理人さんが指摘してるように・・・
A: 「El precidente」を「Gonzales」に、背景の写真をゴンサレス首相に差しかえれば本物と同じになります。
B: アリサをアメド、モリーナをドミンゲス、セルナ判事をガルソン判事に、ということですね。
A: ルイス・ロルダンのように、新聞記事だけで映画に登場しない人もいる。ミラリェスのドキュメンタリーでは、ロルダン本人の実写が挿入され、「アメドを騙したようには騙されない、刑務所に行くときは、一人じゃ行かない」と、関係者の道連れを臆せず語っている。ロルダンは自身の死亡通知を新聞に載せ、海外逃亡、国際指名手配されていたので、1995年、タイのバンコク空港で逮捕された。
B: 偽造の身分証明書を取得するには、黒幕がいないと・・・
A: 「蛇の道はヘビ」と言うじゃありませんか。彼はPSOEの元党員、元治安警備隊長だった。国家の中枢を震撼させたスキャンダルだったことが分かります。
B: クルトワ監督には、『El Lobo』のときのような自由度はなかったのかな。
A: 詳しいことは知りませんが、個人的には作家性より製作者の意向が尊重されたように思えます。ミラリェスは製作者でありますが、マヌエル、マルタの一部でもあった。
B: マルタに扮したナタリア・ベルベケも、ミラリェスやアルケス記者の話を役作りに活かしたと言ってます。
A: 政財界・警察を巻き込んだ大事件の映画化が難しいことは、素人でも分かります。ETAのテロは過去のものではなく、先日も「ダイナマイトを含む爆薬75キロを押収」「フランスでエタ2名の身柄を拘束、今年の逮捕者合計18名」「エタ執行部が穏健派を排除・・・」のニュース、今日でも進行中です。『現代スペイン情報ハンドブック』(2007、三修社)によると、1968年から2004年までの間に、エタのテロで817人が命を落としている。フランコ体制時より民主化移行期に活発化しているそうです。
B: 想像以上の人数ですが、「目には目」では、テロの連鎖は食い止められない。
A: 当たり前です。ましてや国家主導のテロなどね。ゴンサレス政権の最重要課題は、EU加盟でした。テロ解決は焦眉の急、政治の原則を誤ってしまった。EU加盟は1986年、ピレネーの向こうがアフリカでなくなった瞬間です。
B: 大事の前の小事などと言ってられない。マスメディアの出番ですね。
A: 私たちは「重要だからニュースを見るのではなく、話題になるから見る」のです。あるいは「見せられる」のかも。映画が見せる現実は、作り手が見せたい、見てほしい現実で、嘘ではないが一部にすぎません。
B: 脚本家のオネッティも「起らなかった事件をでっち上げたり、嘘は語っていない。しかし映画に欠かせない語りの要素も放棄しなかった」と話しています。
A: 急テンポのテロ実行の連続シーンのあとに、場面を回転させ静謐な時間を入れる、メリハリきかせて飽きさせない工夫が随所にもうけてあります。
B: マヌエルとマルタの大人の愛はどうですか。
A: ことが終わったシーンだけで物足りなく思う観客もいたでしょうが、これならお茶の間でも安心して見られるし、全部見せちゃいますよ的なのは、こちらの想像力を逆に刺激しない。
B: 時間的な頃合いも良かったかな。あとガラス張りのエレベーターのシーンも映像が美しかった。
A: マルタの動とマヌエルの静、マルタが怒ったときの顔、美しくてすごく良かった。期待していい女優、着々と実績を重ねています。モリャと同じくマテオ・ヒルの『パズル』に出ている。
B: 実話物の出演は初めてらしく、難しい役だったが魅力的であった、とインタビューに答えています。ときどきマルタをじっと見つめるマヌエルの顔も良かった。
A: マヌエル役のホセ・ガルシアは、スペイン系フランス人、1966年パリ生れ。本国ではベテラン俳優の仲間入りです。ドラマ、スリラー、コメディと芸域は広い。
B: 笑うとジャック・レモンに似てる。コスタ・ガヴラスの『ミッシング』、ワイルダーの『アパートの鍵貸します』と芸域の広さでも似ている(笑)。
A: 日本公開のスペイン映画では、マリア・リポールの『ユートピア』に出ています。カルロス・サウラの未公開『El septimo dia』にも出演してる。フアン・ディエゴ、ビクトリア・アブリルなど豪華キャストが出演している。これも実話の映画化ですが、公開後真偽のほどが取り沙汰された作品です。
B: スペイン語のほか英語、イタリア語もできるとか。
A: ストラスバーグが中心となって作った俳優養成所アクターズ・スタジオで学んでいるから、英語ができるのも強みかな。フランスで開催される映画祭には、プレゼンターとして贈呈者兼通訳の2役をユーモアまじえてこなしている。頭の回転が速いね。
B: 先進国では、どこでも劇場観客動員数の激減に歯止めがかからない。テレビの液晶化や大型化も影響ありますね。
A: 結果的にDVDを意識して映画を作らざるをえない。莫大な費用をかけて作るわけですから、監督もお金の心配をしなくてはならない。本作もテレビ局がスポンサーの一つ。映画館→テレビ→DVDの流れは定着しました。クルトワ監督は、そのことをよくわきまえていますね。ではでは。
Posted by: アリ・ババ39 | Wednesday, July 01, 2009 11:48