クーデターがどうした、軍事独裁政権がこうした、粛清がどうで、拷問がこうで……っていうようなこと、私、知りたくないんだよね。知らないで済むなら知らぬまま一生を終えたい。
そういうテーマの映画ってホンットに嫌い。リアルに描いていようがぼかしていようが、どこの国のいつ頃の話であろうが、ヤだ。怖い。身震いがするわ。(∩゚д゚)ワーワー
というわけで、観てしまった記憶を消したいのに何年経っても消せないのが、たとえばこういった作品群:
・『蜘蛛女のキス』
・『愛と精霊の家』
・『死と処女』
・『キリングフィールド』
・『ベント~堕ちた饗宴~【字幕版】』
どうして観ちゃったのかなと、呪わしい。あまり用いたくない表現だけど、‘トラウマ’ です。そして、もう一作挙げると、
・『セプテンバー11』のケン・ローチの篇 ⇒ http://es.youtube.com/watch?v=7vrSq4cievs (ポルトガル語字幕)
このオムニバス映画はたしかNYの911のちょうど1年後、つまり2002年の9/11深夜にテレビ放映されたと思う。私はそのとき観た。今、これを書くために5年ぶりに観るけど、アジェンデ政権が崩れた5分50秒から先を観たくない。あー、やだ。ほんと、観たくない。なんで、私、こんなの観直してんだろ……
………(やだやだ言いつつ観ているとこ)………
で、観終わって、たった11分の映像なのにドッと疲れているわけです。なんて恐ろしいんだろう。
IMDbのレビューよりストーリー説明:
>A man from Chile writes a letter to the American people of what happened the 11th September 1973. That was the day president Allende was killed in Pinochet's coup d'état with aid, as Loach puts it out, from CIA and support from Nixon and Kissinger. You see films from Allende's days and from the coup days, hearing stories about the sexual torture of political prisoners, including women being raped by dogs and so on.
Youtubeのポル語字幕から一部:
Um dia, na prisão, vi um homem sendo arrastado pelos braços. Ele não conseguia andar. Sangue saia de seus ouvidos. Quebraram os ossos dele e depois o assassinaram. Ficamos sabendo sobre os campos de tortura dirigidos por oficiais do Exército treinados nos EUA. Ficamos sabendo sobre os que foram estripados, jogados de helicópteros, torturados diante de seus filhos e cônjuges. Sabem o que eles faziam? Ligavam fios elétricos nos genitais. Enfiavam ratos na vagina das mulheres. Treinaram cães para estuprar mulheres.
ごめん、私、こんなの日本語にしたくない。やだ。文字打ってるだけで身の毛がよだつ。こんなこと思いつくのも正気の沙汰でないし、実行できるのはますますどうかしてるよ………っつってもたぶん我々は誰でも実行できてしまうのだろうと思えてくるから、余計に恐ろしいのである。
さて、ここでようやく『Machuca』の話に入るわけです。「チリ、サンティアゴ, 1973」という文字から始まる。
南米のことはよく知らないので、1973年のチリについて予習しないといけない。ということで、映画は始まった途端にひとまず停止。中南米の映画となると予習タイヘンすぎ。
・チリ・クーデター@Wikipedia
・日刊ベリタ : 記事 : もうひとつの9・11 チリでの軍事クーデターの日 社会の痛手は癒えたのか?
さて、予習はほどほどにして映画に戻ると、冒頭、朝のラジオニュースが聞こえてくる。
「…ホセ・トア大臣は野党の反動主義的な案を非難し…」
また停止。まだ映画は2分30秒しか観てないのに、ここまで書くのに2時間はかかってる。
えーっと、ホセ・トア大臣とは?
アジェンデ政権(=世界ではじめて選挙によって合法的に誕生した社会主義政権)の内相・国防相だった人なのですね。社会主義者。チリの911で身柄を拘束されてから半年後に亡くなったようです。亡くなったんですか、自殺したんですか、殺されたんですか。『Memoria Vivaというページ (チリ軍政下の人権侵害に関するサイト)』を読むと、半年で27キロも痩せて最後の病院施設に移送された頃には、BMIなんて13.29だったみたいじゃないですか。ひどいことされたんだろうな……((((;゚Д゚))))
で、えーっと、もうここらでホントに映画を観始めたいと思います。
つまり今日の映画『Machuca』は、チリに上述のような時代が訪れてしまう直前のサンティアゴを舞台としたお話です。ピノチェトの時代はすぐそこまで来てるんです。(予習終わり)
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DVD(スペインから購入)のあらすじ紹介:
チリ、1973年。ゴンサロ・インファンテとペドロ・マチュカはサンティアゴに住む11歳。ゴンサロは裕福な地区、ペドロは数ブロック先に最近違法に建てられた貧困層のバラック密集地にそれぞれ暮らす。学校が統合政策を試みたことで、この二人の少年は出会うのであった。二人を分かつ目に見えない強大な壁。革命の希望に満ちたこの時代、夢を実現したくてその壁を打ち破ろうと願う者もいた。
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ここまで読んだら、あのジャケ写で女の子を挟んで肩を組む二人の少年の、どっちがゴンサロ・インファンテ(お金持ち)でどっちがペドロ・マチュカ(貧乏)だか、顔でもうわかるでしょう。
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1) ネクタイも結んで制服もパリッと決めたゴンサロ少年の教室に、校長であるマッケンロー神父が、穴のあいたセーターを着た浅黒い肌の子供を数人連れて入ってきた。
神父: 新しいお友達を紹介します。この子たちは学校のすぐ近くに住んでいるので、どこかですれ違った覚えのある子も多いんじゃないかな
児童たち: ……。
神父: えぇぇ? ほんの何ブロックしか離れてないんだよ? .
児童その1: 僕あの子のこと知ってます。うちの洗濯の小母さんの子供です。
神父: ほらね。よーし。今日からは同級生ですよ。きちんと迎え入れましょう。兄弟を迎えるようにね。いいですか。
ペドロ・マチューカがたまたまゴンサロ少年の後ろの席に座ることになり、二人は仲良くなっていった。
2) いかにも意地の悪そうな卑怯な目をした狡猾で陰湿で粗暴な面もある威張り屋のガストンが、休み時間にさっそくペドロ・マチュカをつかまえて言い放つ:
「俺たちが施してやってるんじゃん。君、授業料なんか払ってないだろ? うちのお父さんたちが君らの分まで払ってやってるんだぜ」
3) ペドロの近所の、ちょっと大人びた女の子シルバーナ。ゴンサロが「momioってどういう意味?」と聞いたとき:
「なんにもわかっちゃいない金持ちのことよ、あんたみたいなね」。(※momioについては後述)
4) ペドロの父はアル中。ペドロが父にゴンサロを「友達さ」と紹介した。アル中親父は言う:
「‘友達’? ‘と・も・だ・ち’? あと5年もしたらその‘友達’とやらがどうなるか、お前はわかってんのか。このお方は大学に行くんだろーよ。お前は便所掃除でもしてるんだよ。それじゃ10年後はどうだって? 10年後はこのお友達はパパちゃんの会社で働いてるよ。お前はまだまだ便所を磨いてるんだろうが。15年後にはこの方はいよいよ会社を継いで、はい、お前は? 言ってみろ。まだまだ便所掃除だよ。‘友達’ってか。その頃にはお前の名前だって覚えちゃいねーよ」
こういう人物関係から成るストーリーです。
ゴンサロの5つ年上の姉には彼氏パブロがいる。パブロ青年はテレビに映るアジェンデを指し、「こいつ、馬鹿じゃねーの」と言っている。富裕層ではあるが社会主義にも理解があるゴンサロの父はこの若者をよく思っていないようだ。パブロ青年は、ペドロ・マチューカに初めて会ったときも、やはりと言うべきか、嘲りからかい、そして威嚇するのであった。冷たい顔をしたこの青年はやがてナショナリズムに傾倒する。
映画序盤でパブロ青年(Tiago Correa)が映った時には「いゃん♥ 冷たい系イケメン(*´Д`*)」と色めいたんだが、映画が進むにつれこの男のその後が想像されてゾッとした。『愛と精霊の家』のヴィンセント・ギャロ並みに忌まわしい存在に思えてきた。
陰険なクラスメートのガストンやパブロのような人が、もうちょっと大人になって権力や武力を手にしたら何をすると思う? ペドロたちのような‘川向こう’の人々をいったいどうするだろうね。
『Machuca』は素晴らしい映画。でも、私、これを‘いい話’とは言いたくない。
これは、恐ろしい話。
(チリ映画)
・まさに今日スペインラテンアメリカ映画祭で上映された作品
・Machuca@IMDb
・Machuca 公式
・マチュカ ─僕らと革命─@ぽすれん
・DVDGOで12.93ユーロ
2009.09.18 加筆
DVD発売日: 2009/12/18
監督: Andrés Wood アンドレス・ウッド
脚本: Eliseo Altunaga Roberto Brodsky Mamoun Hassan Andrés Wood
出演:
Matías Quer マティアス・ケール ... Gonzalo Infante ゴンサロ・インファンテ
Ariel Mateluna アリエル・マテルナ ... Pedro Machuca ペドロ・マチュカ
Manuela Martelli マヌエラ・マルテリ ... Silvana シルバナちゃん
Ernesto Malbran ... Father McEnroe マッケンロー神父(校長)
Aline Küppenheim ... María Luisa Infante ゴンサロの綺麗なママ
Federico Luppi フェデリコ・ルッピ ... Roberto Ochagavía ロベルト・オチャガビア(ママの友達)
Francisco Reyes フランシスコ・レジェス ... Patricio Infante ゴンサロのパパ
Tiago Correa チアゴ・コレア ... Pablo パブロ青年
Alejandro Trejo アレハンドロ・トレホ ... Willi ウィリー小父さん
Sebastian Trautmann セバスティアン・トラウトマン ... Gaston いじめっ子ガストン
←クレジットタイトルなどでかかる曲:
チリのバンドLos Jaivasの『Mira niñita』
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