奇跡のリンゴ 感想(ネタバレあり)
かつて林檎の実は小さく固く食べられるものではなかったが、長い年月をかけて人々の品種改良によって美味しく変わり、100年ほど前に日本に伝来すると、全国各地で栽培が広まった。しかしその生産の難しさから、各農家が諦めていく中、青森県だけが林檎の栽培を諦めなかった。
青森県弘前市に生まれた三上秋則は幼い頃から機械を分解してその構造を確かめずにはいられない性格で、おもちゃや時計、テレビまでも分解してしまった。
成長してもその性格は変わらず、もっちゃん(池内博之)から借りたバイクをバラバラに分解して、改造するほどだった。
またある時には、エレキギターのアンプを改造して大出力にするも、出力を上げ過ぎて大爆発してしまう。
そんな秋則は父・三上幸造(伊武雅刀)に叱られてしまうが、秋則の唯一の理解者である母の三上葺子(原田美枝子)は秋則が落ち込んでいるのはなぜ失敗したのかを考えているからだと見抜いていた。
鼠や牛などは笑わず、笑う事が出来るのは人間だけが持つ性能だと考える秋則だが、同級生の木村美栄子はそんな秋則がバカだと笑う。
高校を卒業した秋則(阿部サダヲ)は、父親の反対を押し切って東京の電機メーカーに勤務する。
そこでの生活に満足していた秋則だったが、実家から林檎の大不作の電報を受けて帰省することになってしまう。
両親の薦めでお見合いすることになった秋則だが、りんご農家が好きでないため気の進まないままもっちゃんに強引に連れて行かれるも、そこで待っていたのはあの木村美栄子(菅野美穂)だった。
秋則は美栄子と結婚して木村家の養子となり、りんご農家を継ぐことになる。
りんごの栽培には年に16回ほど農薬を散布する必要があったが、散布した農薬によって体が痒くなることも珍しくなかった。
しかし生まれつき農薬に弱い美栄子は農薬を散布した後は、必ず体調を崩して長い時には一か月も寝込んでしまうほどだったが、義父の木村征治(山崎努)はリンゴ農家の定めだと諦めていた。
秋則は美栄子のために少しでも負担を減らそうと、若者たちを集めて、減農薬による栽培を提案する。自分たちで未来を作ろうと意気込む彼らは、秋則が計算にて減農によって林檎が病気などの被害が出た場合でも、減らした農薬の費用と比較すれば収支はプラスだとという結論に達する。
秋則は征治に頼んで4つの畑のうち、1つを減農栽培することにする。
そうした中、美栄子が秋則の子供を宿し、長女の木村雛子が誕生する。
初めての子供喜ぶ秋則は育児の本を買いに行くが、そこで偶然手にしたのは無農薬による自然栽培に関する書物だった。
書物を読む秋則は最初こそバカにしていたものの、読み終えた時にはこれこそがリンゴ農家の未来だと確信し、征治に無農薬による栽培をさせて欲しいと頼み承諾を得る。
無農薬に挑戦しようとする秋則とは対照的に、他の青年たちは減農薬によって林檎が虫に喰われたらそれを親たちに叩かれたりと、減農に対する意気込みを失いつつあった。
絶対に不可能だと言われる無農薬栽培に挑戦する秋則。
最初の三か月は順調に進んでいたが、三か月を過ぎると林檎の樹は“黒星病”や“輪紋病”に掛って失敗してしまう。
それでも諦めない秋則は、農薬の代わりに他のものを散布して樹を守ればいいのだとチャンレジを繰り返す。
秋則は自分には覚悟が足りなかったのだと、征治に頭を下げて4つある畑の全てを無農薬栽培に挑戦する。
征治は戦時中、敵の森の奥深くに入った時、孤立して食糧なども尽きた時に、荒地に畑を耕したが、まともに手入れしていない畑で何もできるはずがないと思ったにも関わらず、たわわに実り、生き延びる事が出来たのだという経験談を語る。彼はその時の畑の土をわずかに持ち帰って大切に保管していた。
征治は絶対に不可能と言われている無農薬での栽培に挑戦するのは、戦地に赴く覚悟だと秋則に決意をさせる。
征治は自分の貯金を全て引き下ろして、秋則の無農薬栽培を後押しする。
そこから様々なものを使っての無農薬に挑戦する秋則だが、失敗が続いていく。
それでも少しずつ成果が出始め、今年こそと思った5年目に、彼らを襲ったのはおぞましいほどに大量の害虫の発生だった。
秋則たちは3人の手作業で害虫を取り除いていくが、それは気の遠くなるような作業だった。
幸造と葺子は息子のしでかしたことに頭を下げ詫び、お金を差し出すも、征治は秋則は自分の息子であり、息子の不始末は自分の責任で、秋則に無農薬栽培を認めたのも自分だとお金を受け取ろうとはしなかった。
深津(笹野高史)は征治に秋則がしようとしているのは自分たちの祖父がやっていたことだと非難する。
彼らの祖父は試行錯誤を繰り返し、大量の害虫や病気と戦い苦労をしてきた。
そんな中で、農薬の力を得てようやく安定した暮らしを得ることが出来るまでに至ったのだ。
それを承知したうえで、征治は義息を支援し続ける。
もはや貯金は底を付き、車も売ってしまい、リンゴ畑の脇で美栄子と3人の娘が育てる野菜を町で売って手に入れる僅かな金だけが生活の糧となっていた。
秋則は人々から財産を食いつぶす『カマドケシ』だと陰口を叩かれるようになって、誰にも遭わないように、日の出前に家を出て、日が暮れてから帰宅する日々となった。
大量の虫の発生のショックから、木々に訴えかけるように話かける秋則。
その光景を隣の畑の住人に見られた秋則は、逃げるように立ち去っていく。
借金もかさみ、4つある畑のうち2つを売却しなければならない状況へと追い込まれる。
そして秋則はいつしか笑わなくなってしまい、人間だけに与えられた性能だと言っていた笑う行為を、「無駄な性能」だと吐き捨てるようになる。
当時、林檎は高値で取引されるようになっており、リンゴ農家で出稼ぎに出るのはもはや秋則一人となっていた。
東京で工事現場の警備員をする秋則は、節約のために公園で寝泊まりしていたが、不良たちに襲われて折角稼いだ金を荷物と共に奪われてしまう。
それでも後に引けずに無農薬を続ける秋則だったが、もっちゃんから長女の雛子(畠山紬)がもっちゃんの娘にもらった消しゴムを妹たちのために3つに切り分けたという話を聞かされる。
もっちゃんは美栄子のためだと始めた無農薬栽培だが、家族に苦労を掛けてまで続けている今の彼はただの自己満足だと切り捨て、もはや友人ではないと決別を告げる。
父・幸造に借金の申し込みをする秋則だが、幸造に無農薬栽培を止めろと言われて追い返されてしまう。
唯一の理解者だった母からも、諦めることを教えなかった自分が悪かったと拒絶されてしまう。
失意の中、秋則はこれ以上は苦労を掛けるだけだと美栄子に離婚を切り出す。
無農薬を諦めようとしていた秋則だが、それに反対したのは娘の雛子だった。ここで諦めたら何のために自分が苦労をしているのか、と強く非難した雛子は高熱を出して倒れてしまう。
車もなく、隣人の協力も得られない秋則は病気の雛子をおぶって、美栄子と共に救急病院まで走る。
医者からはストレスからくる発熱であり、数日間の入院が必要だと伝えられる。
雛子の看病をしていた美栄子が、荷物を取りに帰宅すると、自宅にいたのは征治と二人の娘、木村咲(渡邉空美)と木村菜ツ子(小泉颯野)だけで、先にいなくなった秋則の姿が無くなっていた。
秋則を捜して畑へ向かった美栄子は、畑の小屋で秋則の日誌を目にする。
そこには無農薬栽培に関する情熱と、家族への愛が綴られていた。次第に苦悩に満ちた文章へと変わっていく日誌。
最後には美栄子への感謝と別れの言葉が綴られていた。
ねぶた祭りで賑わう街中を、秋則を探して走り回る美栄子。
だが、秋則は自殺するため、ロープを手に山の中へと足を踏み入れていた。
首吊り用のロープを掛けようとして失敗した秋則は、そこで自然の中に生えた林檎の樹を発見する。
驚いて駆け寄った秋則は、林檎ではなく胡桃の樹だと知って落胆するも、胡桃の樹がまるで虫に喰われていないことに驚く。
理由を探ろうとする秋則は、土壌が自然の堆肥で豊かだと気付き、自分が土にまで気を配っていなかった事を悟る。
秋則を見つけられずに落胆して帰宅する美栄子だったが、そこに元気を取り戻した秋則が駆け出してきた。
秋則は美栄子にもう一度やり直しても良いかと確認を取り、改めて無農薬に挑戦する。
林檎の木々の根本に、山から持ってきた土を植え、これまで不要だと刈り取っていた雑草を敢えて放置し、土壌を豊かにするため、大豆を巻いた。
当然、様々な虫や動物も畑に集まるようになってくる。
秋則は雛子のスケッチから、樹に生息する虫も全てを駆除するのではなく、害虫と益虫を上手く利用すればいいのだと気付く。
多くの蛾が飛び交い、隣の農家が苦情と共に、雑草を刈り取れと命じてくるが、全ての害虫は秋則の畑に集まり、隣の畑には向かおうとはしていなかった。
林檎だけでなく、大きく実った野菜など、周囲の人々は秋則の成果を確かに感じ取るようになり始めていた。
もっちゃんは木村家が滞納していた電気代を密かに支払ってくれ、葺子はこっそりとお米を差し入れしてくれる。
順調に林檎の木が育つ中、これまで秋則を支えてくれた征治が胃腸炎で入院してしまう。
しかも痴呆症まで併発してしまった。
そしてある日、畑の様子を目撃したもっちゃんが慌てて秋則を呼びに来る。
二人は不安を抱きながらもっちゃんのバイクを借りて畑に向かうのだった。
・キャスト
木村秋則:阿部サダヲ
木村美栄子:菅野美穂
もっちゃん:池内博之
深津:笹野高史
三上幸造:伊武雅刀
三上葺子:原田美枝子
木村雛子:畠山紬(幼少期:小西舞優)
木村咲:渡邉空美
木村菜ツ子:小泉颯野
木村征治:山崎努
銀行支店長:本田博太郎
・スタッフ
監督:中村義洋
脚本:吉田智子、中村義洋
公式サイト:http://www.kisekinoringo.com/
石川拓治の原作小説『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録』の映像化。
日本で初めて無農薬無肥料林檎の栽培に成功したという木村秋則さんの実話を元にしたお話です。
ただし原作者の石川さんはあくまでも人間ドラマであって、農業の本ではないと主張しています。まぁ、農業をメインにしても地味になるだけで、それを題材にした上での人間ドラマを書く方が面白く仕上がるわけですからね。専門家ではない作家に無農薬栽培の正確なところは判らないわけだし。
この無農薬無肥料については批判するリンゴ農家なども存在しています。
異議の内容に関しては、木村氏の農業手法は本当の意味で無農薬でも無肥料でもないというもの、農薬が本当に悪なのかというものだったり。
木村氏が宇宙人と遭遇したとか口走ったりしている人というのを問題視している人もいるみたいだ。
宇宙人云々は横へ置いたとして。
フィクションではないのだから、農業についてもきちんと検証して正しく表現するべきという意見もありますが、たとえ実話を元にしていたとしても、ドキュメンタリーではない以上、映画においてはそのまま事実を描く必要もないかと思っています。
作中で謎だったのは、成功するまで全く花が咲いておらず、土を変える事でようやく花が咲くというところだったのですが、実際には花自体は遅れて咲いていたらしい。
花が咲かないという事は、樹が枯れてしまっているので、土を変えてもまた花が咲く確率は極めて低いでしょうから。
お話は物事を一度始めたら解決しないではいられない主人公の秋則が、妻のために無農薬栽培を始めるというお話。
ただ、物語途中でもっちゃんが口にしている通り、完全に目的が妻のためというよりも、自分のために切り替わっているという印象は受ける。
無農薬という夢のためとはいえ、収入がなるなるほどに全部の畑を使う必要が本当にあったのか。
当然ですが、無農薬などでやれば全てが綺麗になるわけではなく、当然虫の付く林檎や病気になる林檎も出ます。
リンゴ農家として生活することを考えた場合には、それは非常にリスクが高くなる。
当然、一つ一つの販売単価は高くなり、売れ行きが悪ければたちどころに生活は厳しくなります。
現在では有機栽培の野菜などもスーパーなどで多数販売されてますが、やはり価格は少し高い。ただ、近年では健康志向などから高くても体に良いものを買おうという人も出てきているので、なんとか商売が成り立っているようですが。
毎年のように食料品の価格が向上している中で、この先果たしてどうなるのか、という気もするが。
農薬を使う農家が悪いわけではない。農薬にしても基本的には「現時点で」国が認めた中で健康を害さないように行っているわけだし。
ただしもちろん農薬などは健康には害がないとは言っても、接種を続けて体にいいというものではないので、減らせることが出来ればそれに越したことはない。
だから若者たちは減農にも最初は乗り気だったけど、虫が湧いて収穫量が減った時に、自分たちの生活となどを考えて強行することは出来なかったのだろう。
実際、作中では子供たちはかなり貧しい生活を強いられているわけだし、父親が本当にあんな風に村中から叩かれていたとしたら、子供たちもイジメの対象になってしまうのではないだろうか。
ともあれ、無農薬云々の現実性を除いて、物語として見た場合には良く出来た感動ストーリーになっていると思う。
義父が死んだ時に林檎を握りしめて離さないところとかも良い感じだけど、自分たちで食べるよりも先に届けていたという事なんだろうな。
逆に言うと、林檎が出来たことに安心して死んだのかもしれない。
そういや、一切収入のないこの家は、どうやって義父や娘の入院治療費を支払ったんだろう。電気代も滞納して、農地も半分が差し押さえられている家に借金させてくれる人がいたとも思えないし。
当時のりんごは高値で取引されていたため、出稼ぎに出るのが秋則一人となっていますが、現在ではりんごの価格はかなり安いため、後継者すらなかなか育たないという状況にあります。
しかし出稼ぎ先で金を鞄の中にしまった時点で、盗まれるな、と思ったのは俺だけではないはず。大事な金なんだから、鞄にいれるよりも身に着けておいた方がいいだろう。
銀行員の本田博太郎がなんか異様に印象に残った。
完全に脇役なんだけど、存在感があるんだな。
個人的評価:65点
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