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イニシェリン島の精霊

マーティン・マクドナーは、前作『スリー・ビルボード』を映画テン年代ベストテンの1位に選ぶほど評価しており、新作が出ればもちろん観に行くつもりだったが、この地味な(?)タイトルのため、危うく逃すところだった。

ワタシはマクドナーの上質なブラックコメディの作風が好きなのだけど、彼のルーツであるアイルランドの孤島を舞台とする本作も、トラジコメディに分類されるのだろうが、それこそバンバン銃撃がある『セブン・サイコパス』よりある意味遥かに陰惨で、とても心を揺さぶられるものがあった。

それには個人的な事情があり、ワタシ自身、長年の親友に一方的に絶縁されるという本作の主人公と同じ体験をしたことがあるからだ。とても平静に観ることができなかった。

狭いコミュニティに生きる田舎者同士のトラブルが思いもしないところまで転がってしまい、果たして俺らいったい何やってんだろねという地点にいたるところは『スリー・ビルボード』とも共通するが、およそ100年前の内戦中のアイルランドを舞台とする本作は、主人公二人の問題はこの内戦自体の(無益さの)象徴でもあるんでしょう。

主人公の友達だったコルムも筋を通しているようで、主人公の妹に一言でその浅さを指摘されているが、その彼女が図書館の職のため島を出るのは、この島を出るということ、読書により知を求めることが救いとなっていることのあらわれなのだろう。ただ、島を出た彼女が手紙にただ良いことばかり書いてたのは、前述の内戦の構図を考えると疑問を感じた。

思えば、マクドナーって意外にも悲惨な状況での親切を描くのがうまいのな。それは例えば『スリー・ビルボード』で火炎瓶で病院送りになったディクソンが、自分が病院送りにしたレッドと隣同士になり、そのレッドの行為に涙する場面がそうだが、本作でも絶交を言い渡しながらも、警官に手ひどく殴られた主人公をコルムが馬車に乗せてあげる場面がある。しかし、主人公の立場からすれば、あれはなお辛いものだったのではないか。

そうしたあたり、あとマイルスが受ける仕打ちを含め、本作はシビアなのだけど、見応えのある映画だった。

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