一昔前、「厚い財布」は、お札をどっさり入れて高級店に出入りする「お金持ち」の象徴だった。貨幣と交換でモノやサービスを買う社会では、お財布の厚みによって受け取れるモノやサービスの量が決定されたからだ。
しかし、クレジットカードや電子マネーが普及して高額の現金を持ち歩く必要性がなくなった現在では、厚い財布は「スマートさに欠ける人」を指す表現になっている。大量の現金を持ち歩くのは不用心だし、クレジットカードやポイントカードなどで財布が膨らんでいると「お得」や「特典」といった言葉に踊らされている人だと思われがちだからだ。
情報システムの納品物となるドキュメントも、かつてはその厚みが数億円ものコストを象徴していた。基幹系システムなら、ドキュメント一式でキャビネットが数段占有されるのが当然のことだった。
しかし、いまや紙のドキュメントはお荷物。更新が大変なのでソースコードと乖離しやすいうえ、同時に複数人で見られず、保管場所も取る。さらに、用語説明や関連項目を参照するのにも一苦労だからだ。
印刷が前提だと作成側の負担も重い
印刷して読む前提のドキュメントは、作成する側にも重い負担がのしかかる。日経SYSTEMS 9月号の特集1「ドキュメントダイエット法」で取り上げたある開発現場では、従来はユーザーに納品するドキュメントをMicrosoft Wordで作成し、紙に印刷していた。
ドキュメントの作成者は、フォントの種類やサイズ、色、インデントの位置、文章の装飾、改ページの位置など、本来注力すべき文章の内容以外のさまざまなことを気にかける必要があり、工数が膨らんでいたという。
例えば、ページの最下行に見出しが配置され、その見出しにひも付く文章が次のページに配置される “泣き別れ”が起こった場合には、見出しの前に改行を入れて防いでいた。ただ、そうすると別の泣き別れが生じるなどの副作用が出る場合があり、体裁を整える作業に多くの時間を取られた。Wordには泣き別れを防ぐ機能もあるが、こうした高度な機能を多用すると、今度はWordに精通した人でないとメンテナンスできなくなる。そうなると、担当者が変わったときの引き継ぎが煩雑になってしまう。