約2時間半で1億5300万ドル(約170億円)を調達――。イスラエルのスタートアップ企業であるBancor(バンコー)は2017年6月にICO(Initial Coin Offering)に踏み切り、巨額の資金を集めたことで世界の注目をさらった。「Bancor」と言えば、著名な経済学者であるケインズがブレトンウッズ会議で提案した世界通貨の名。同社はそれを、現代に蘇らせようとしている。目指すのは、あらゆる人々が簡単に通貨を生み出し、それが仲介人の手を借りずに流通する世界だ。

 ICOを巡っては中国や韓国が全面禁止に乗り出すなど、規制が強まっている。バンコーの共同創業者であるガイ・ベナッティ氏は、規制当局の取り組みに理解を示しつつも、「技術の進歩にたちはだかることは許されない」と断言する。

(聞き手は岡部 一詩=日経FinTech

バンコー 共同創業者 兼 ボードメンバー ガイ・ベナッティ氏
バンコー 共同創業者 兼 ボードメンバー ガイ・ベナッティ氏
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 「double coincidence of wants(“欲望の二重の一致”)」――。経済学の世界でよく知られた問題だ。正反対のニーズを持った2人の人間を同時に見つけ出すのは難しい。あなたがトマトを持っていて、私がニンジンを持っていたとしよう。あなたがニンジンを欲しがり、私がトマトを欲しがる。それがまったく同じタイミングで起こることは、非常に稀だ。

 “欲望の二重の一致”を解決する手段こそがお金。売ることと買うことを分離できるからね。今買って後で売る、といったことが可能になるわけだ。2人の人間がリアルタイムで会う必要がなくなる。テキストメッセージも同じ。電話ならば、2人の人間が同時に話す必要がある。テキストメッセージであれば、今書いた内容について、後で回答を受け取れる。

 「Bancor Protocol」は、あらゆる通貨、あらゆる資産の交換で生じる“欲望の二重の一致”を解決する。ビットコインをイーサリアムに交換するときも、米グーグルの株を米ドルに交換するときも、売りたい人と買いたい人が同時に存在しなければならない。すべての通貨、すべての資産、世界中の株式やコモディティに、このことは当てはまる。

 何百年もの間、この問題への解決策は両者のニーズをマッチングさせる共通の場所を提供することだった。人々は取引所に集まり、それぞれの資産を交換する。ただし、仲介者にマッチングしてもらわなければならないという問題があった。仲介者はマッチングを除いて大した価値を生み出していないのに、多くの利益を得ているわけだ。

 Bancor Protocolは、暗号通貨の新しいスタンダードを創造する。「ERC20」と呼ばれる規格に基づいて発行されたトークンを交換するためのトークンだ。お金のためのお金、と表現できるかもしれない。我々が発行する「Smart Tokens」にはスマートコントラクトを使った価格決定の仕組みを埋め込んでいて、取引の相手がいなくても自動でマッチメイキングできる。仲介人も不要だ。

 大切なことがもう一つある。インターネットが情報コンテンツの交換を民主化したように、ブロックチェーンは価値交換を民主化しようとしている。Bancor Protocolも同じなんだ。

 主要な通貨は取引所で盛んに取引される。ただし、コミュニティ通貨や地域通貨などの多くは規模が小さく、数万ドルの市場しかないものも多い。これでは取引所に並べても、流動性がないので活発な取引を期待するのは難しい。他の通貨と交換できない通貨は、それほど有用なものとは言えないはずだ。

 Bancor Protocolでは規模に関係なく、世界中のすべての通貨と交換できるトークンを作れる。しかも簡単に。私の母親でもやり方が分かるほどシンプルなものだ。ブロックチェーンについて知る必要はない。

 仲介人なしに世界中の通貨と交換可能なトークンを簡単に作れるようになれば、何が起きるだろうか。例えば、大学ごとにトークンが作られるだろう。農作物ごとの市場でトークンが作られるかもしれない。

 今はイーサリアム上でしか稼働しないが、最終的にはイーサリアムを超え、様々なブロックチェーンをまたいで発展させていくつもりだ。