脳を参考にすることで、全く新しいコンピュータを生み出せるのではないか――。世界中で「脳型コンピュータ」に関する研究開発が進められている。しかし脳型コンピュータの実現は容易ではない。それを象徴するスタートアップがある。米Brain Corporationだ。

 事業内容を隠して活動する「ステルス」の状態を脱し、2015年9月に初めての製品を発売したBrain Corporationは、二つの意味で注目に値するスタートアップだ。一つ目の理由は、同社が2015年9月に小型ロボット開発用の商用ソフトウエア「BrainOS」を発売したこと。もう一つの理由は、同社が脳型コンピュータの開発から事業転換して、ロボット用ソフトの発売に至ったということだ。

写真1●米Brain Corporation Senior Vice PresidentのTodd Hylton氏
写真1●米Brain Corporation Senior Vice PresidentのTodd Hylton氏
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 カリフォルニア州サンディエゴに拠点を置くBrain Corporationは、米Qualcomm社や米国防高等研究計画局(DARPA)から出資を受け、「脳の神経回路に着想を得た新型コンピュータの基礎研究を行っていた」(同社Senior Vice PresidentのTodd Hylton氏、写真1)ことで知られる。

 2009年に同社を起業したのは、脳やその一部をコンピュータ上に再現し、脳内の電気活動を計算する「脳神経系シミュレーション」の研究者であるEugene Izhikevich氏。脳神経系シミュレーションに詳しい国立情報学研究所(NII)情報学プリンシプル研究系の小林亮太助教は「Izhikevich氏は、脳の中にあるさまざまな神経細胞のシミュレーションに成功し、世界に先駆けて脳全体のシミュレーションに挑戦したことから、同分野では非常に有名だった」と語る。

「SyNAPSE」のプロジェクト責任者も参加

 さらに2012年に同社に加わったHylton氏は、DARPAでニューロン細胞の機能を再現するチップの開発プロジェクト「SyNAPSE(Systems of Neuromorphic Adaptive Plastic Scalable Electronics)」を立ち上げた人物。2人の有名人が主導する同社は、脳型コンピュータの開発を目指す研究者の中で、知られた存在だった。

 しかし実際にBrain Corporationが9月に発売したBrainOSは、ARMプロセッサを搭載する小型Linuxコンピュータ「Raspberry Pi 2」で動作する、ロボット用のミドルウエア群だった。