2008年5月19日,米国第2のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)ベンダー「Facebook」が日本語版サイトの提供を開始した(関連記事)。同日の発表会の席上,Facebook創設者件最高経営責任者であるマーク・ザッカーバーグ氏は繰り返し,Facebookのサービスの基本は実名(real name)であると語った。

 ザッカーバーグ氏は,SNS上で実名を使うメリットとして,「人を見つけやすいし,人に見つけられやすい」ことを挙げる。さらに,「実名で登録していない人が発信する情報は信用されないだろう」と実名を使わない場合のデメリットを指摘し,「Facebookが急成長しているのは,実名で個人の情報を共有したいというニーズの現れだ」と語るなど,実名ベースのサービスの展開に自信を見せる。

 ザッカーバーグ氏の話を聞いて,SNSの実名使用に興味を持ったので,日本の代表的なSNSであるmixiに,どの程度のユーザーが実名登録をしているかについて問い合わせてみた。しかし,「正確な本人確認をしていないのではわからない」(mixi広報)とのことだった。

 Facebookの“実名主義”は日本に受け入れられるのだろうか。実はmixiもサービス開始当初は,「(実名使用には)知人に自分を検索して探してもらいたいと考えるユーザーにとってメリットがあるので,人と人とのつながりを特徴とするSNSを活用してもらうという観点から実名での登録をすすめてきた」(mixi広報)経緯がある。ただし現時点では,「mixiには多様な使い方があると思うので,ユーザー本人が,実名やニックネームなどコミュニケーションを楽しみやすい方法を選んでいただければ」(同)と姿勢を変化させている。筆者の周囲に限っても,mixiで実名を使っているのは全体の2~3割程度。しかも,実名を登録している人もほとんどが,漢字を使わずに,ひらがな,カタカナ,ローマ字で登録しているため,「友人を検索」の機能だけで本人を特定することは難しい。

 こうした変化についてmixiは,「ユーザー数の増加に伴ってネット初心者のユーザーも増加しており,ユーザー一人ひとりが実名の登録やその公開範囲について選んでもらうことで,自分にとって利用しやすい方法でサービスを楽しんでもらいたいから」と説明する。確かに,実名というただ一つの名前の下で個人的な情報を提供するのは,仕事でのつながり,出身学校でのつながり,趣味でのつながりなど,自分が関係する集団の数が増えるにつれて難しくなるように思える。とすると,「実名というよりは,本人であることがわかるような名前やニックネームを記入したほうが,周りの方々にもわかりやすい」という同社の説明は理にかなっているように思える。

 Facebookはもともと,ザッカーバーグ氏が米ハーバード大学の学生向けに提供していたSNSがベースになっている。大学という,一般社会に比べてコンパクトな集団においては,SNSでも「実名が基礎であり,常識」(ザッカーバーグ氏)だった。日本で実名主義が一般に受け入れられるのは,「これから大学などでSNSに参加し,『実名が当たり前』という世代が増えるとき」(Facebookの国内関係者)まで待たなければならない可能性が高そうだ。