写真1●横浜商科大学 貿易・観光学科の小濱哲教授
写真1●横浜商科大学 貿易・観光学科の小濱哲教授
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 横浜商科大学は商学科、貿易・観光学科、経営情報学科の3学科からなる文科系大学だ。同大学は2010年4月から、ソフトバンクグループとの産学連携の取り組みの一環として、約1600人の全学生・教職員にiPhone 3GSを無償貸与している。学生および教職員は、基本料金や通信費を負担することなく(他社の携帯電話/固定電話との通話、21時から25時までの通話、パケット通信を除く)iPhoneを利用できる。

 iPhoneを配布するにあたり、同大学はつるみキャンパス(横浜市鶴見区)に約100台の無線LANルーターを導入し、大学敷地内であればどこでも使える無線LAN環境を整備した。これにより学生や教職員は、キャンパス内であれば有償の携帯電話によるパケット通信を行うことなくインターネットを利用できるようになった。また、ソフトバンクモバイルはつるみキャンパス付近に携帯電話の基地局を4局新設した。

 同大学 貿易・観光学科の小濱哲教授(写真1)は、「スマートフォンの配布を検討し始めた2009年の時点では、iPhoneが普及率、コンテンツの量ともに秀でていた。また、当大学では2009年に学内メールをYahoo!メールに切り替えており、Yahoo!メールとの親和性からも、全学生・教職員が使う端末としてiPhoneが最適だった」と説明する。

動画教材コンテンツを在学生向けに配信

 同大学が、学生にiPhoneを配布する目的は大きく二つある。一つは、eラーニングを使った新しい教育モデルの構築である。「国内の18歳人口は減少しており、大学の運営を継続するためには、eラーニングコンテンツを使って、社会人や、海外の学生にも教育を提供していく必要がある」(小濱教授)。

写真2●「A'OMAI」を使って在学生向けに配信しているeラーニングコンテンツ
写真2●「A'OMAI」を使って在学生向けに配信しているeラーニングコンテンツ
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 eラーニング導入の第1段階では、在学生向けにeラーニングコンテンツを配信する。全学生が同一スペックのスマートフォンを保有することで、学習環境を損なうことなく、(1)講義の予習・復習にeラーニングを活用する、(2)講義の資料に動画コンテンツを使用する、(3)教材資料をWebサイトからダウンロードしてiPhoneで閲覧する---などの新しい試みを実施できる。具体的には、ソフトバンクBBが提供するeラーニングシステム「A'OMAI(アオマイ)」をプラットフォームとし、公務員試験対策など学習に役立つ動画教材(写真2)を在学生向けに配信するといった試みを実施している。

 今後は、eラーニング導入の第2段階として、語学学習の補完のためのeラーニング活用、推薦入学者を対象とした就学前学習へのeラーニング活用、在学生の就職前のキャリアデザインを補完するためのeラーニング活用を実施していく予定だ。さらに第3段階では、社会人、海外在住の学生に向けてeラーニングコンテンツを配信していくという。

 iPhone導入のもう一つの目的は、学生同士のコミュニケーション活性化だ。「当大学はゼミが必修ではない。また、サークル活動もあまり活発ではなく学生同士のつながりが希薄だった」(小濱教授)。小濱教授によると、iPhone導入以降、Yahoo! JAPANのコミュニティ上などで、学生同士がコミュニケーションする様子が見られるようになったという。実際に同大学内を歩いてみると、キャンパスや構内のあちこちで、iPhoneを使って連絡を取り合う学生の姿を見ることができる。

受験生2割増はiPhone効果?

 iPhoneの無償配布による思いがけない効果もあった。同大学の2011年の受験生が、前年比で約2割増加したのだ。小濱教授によると、「志願者の増加はiPhone導入の影響だけではないかもしれない。しかし、キャンパスの無線LAN環境整備や文系大学として初めてソフトバンクとコラボレーションしたこと、eラーニング導入など、iPhoneに関連する新しい試みによって当大学のブランドイメージが向上したことは確かだ」としている。