IT業界でプロとして活躍するには何が必要か。ダメな“システム屋”にならないためにはどうするべきか。“システム屋”歴30年を自任する筆者が経験者の立場から、ダメな“システム屋”の行動様式を辛口で指摘しつつ、そこからの脱却法を分かりやすく解説する。(毎週月曜日更新、編集:日経情報ストラテジー)
新人社員 「ありがとうございます。第1志望の当社に入れました」
先輩 「そうか、ところで当社のどこが良かったのかな?」
新人 「イメージだけかもしれませんが、何か好きなことがやれそうな気がしまして」
先輩 「そういうイメージって結構大事だね。で、何をやりたいの?」
新人 「大げさかもしれませんが、ITで社会を変えたいという希望があります」
先輩 「それはすごい。何か具体的な考えはあるのかな?」
新人 「実は父の病気で、原因が分からず、あちこちの病院で検査を受けなければならなくなってしまいました。検査結果の情報を共有すれば、もっと早く診断や治療ができたんじゃないかな、と思いました」
先輩 「そうかあ。病院の電子カルテって、ITベンダーごとに独自仕様で、標準化されていないからなあ」
新人 「やっぱりそうなんですか!それって、標準化は無理なのでしょうか?」
先輩 「ITベンダー各社の戦略だからね。実は、僕も、本当に患者のためになる電子カルテを夢見て当社に入ったんだ」
新人 「え!で、どうなんでしょうか。それは無理なのですか?」
先輩 「もう10年これをやってきたけど、ますます難しくなってきているね」
新人 「何か方法はないんですか?業界で話し合うとか、政府を動かすとか?」
先輩 「どうかなあ。とにかく熱意を持って標準化を進めている人はいないね」
新人 「どうしてですか。当社はどうなんですか?先輩はどうなんでしょうか?」
先輩 「どうしてかなあ。標準化しないほうが儲かるからかな」
新人 「生意気かもしれませんが、そんなことでは日本はダメになってしまうんじゃないでしょうか?」
先輩 「日本はダメか・・・そうかもなあ」
ダメな理由:挑戦する気持ちを忘れてしまう
第29回、第30回と、“システム屋”のリーダーのあるべき姿について触れてきました。今回はちょっと視点を変えて、新人、新入社員の視点で指摘してみたいと思います。
今年も4月に、多くの企業が新入社員を迎えました。その中には“システム屋”としての第一歩を歩み始めた人も多いことでしょう。
新入社員は経験がゼロですから、やることすべてが挑戦です。何に対しても謙虚に、かつ、挑戦する気持ちで向かうことが初心というものだと思います。ところが、経験を積むにつれ、謙虚さも挑戦心も薄らいでいくのが人の常なのかもしれません。
IT産業が立ち上がった当初にコンピュータを作った人たちは、挑戦の連続でした。コンピュータを様々な業務に応用した人たちもそうであったはずです。この数十年で次々に発明・開発された技術やノウハウはいずれも数々の挑戦の成果です。そもそも歴史の浅いITの世界に入ってきた人たちは、その多くが未解決の課題や、誰も想像しない解決策に挑戦する志を持った人たちであったものと思います。
しかし、どういうわけか“システム屋”には、初心を忘れてしまう人が多い、あるいは、若くして初心を忘れてしまう人が多い世界になってしまっているような気がしてなりません。