凸版印刷はスーパーの店舗にデジタルサイネージ端末を設置し,広告ビジネスを含めた形でその運用に乗り出した。デジタルサイネージ端末は2009年9月28日に発表した「プロモーションマシン(通称サンプリン)」である。商品情報や広告といったコンテンツを表示するディスプレイに加え,サンプル商品を配布する機能,デジタルサイネージを見た人数を測定する機能などを備える。デジタルサイネージ端末に表示する広告から得られる広告費と,サンプル商品配布による販売促進費が凸版印刷の収益源になる。

 凸版印刷が自らデジタルサイネージを使った媒体事業を手がける背景について,「自社で運営している電子チラシ・サイト『Shufoo!』の経験が大きく影響している」と凸版印刷 情報コミュニケーション事業本部 メディア事業開発本部 本部長の山岸祥晃氏は説明する。

購買に直結する仕組みがほしい

 「Shufoo!」は当初,紙のチラシを電子化してWebサイトで閲覧してもらう形だったが,現在はそのチラシに掲載されている商品にカーソルを合わせると,その商品の広告が表示されるシカケになっている。最初はスーパーから得る販売促進費が収益だったが,メーカーから広告費を得る広告媒体としての性格を持ち始めた。

 ただし広告を出稿するメーカーから,「電子チラシ上で商品を認知しても,スーパーでは忘れてしまう場合もあり得る。実際の購入を促して売り上げに直結する仕組みを作れないものか」という要望があり,行きついた答えがプロモーションマシンだったという。

 プロモーションマシンのサンプル商品配布機能を備えたのも,売り場に設置する販売促進という明確なコンセプトに基づいている。ICカードや二次元コードを読み取る機能があり,顧客にスーパーの会員カードやShufoo!の携帯電話向けサイトなどで得た二次元コードをかざしてもらうことで,サンプル商品が出てくる。

 サンプル商品をプロモーションマシン上部にあるカメラにかざすと,サンプル商品を配布する機構部の上にあるディスプレイに顧客の姿とアニメを合成した商品広告が表示される。「単純にデジタルサイネージで商品の広告を流しても,当事者意識がないために見てもらえない場合がある。サンプル商品を持つことで,広告に対する関心を高めることができる」(山岸氏)と狙いを説明する。

 顧客の属性が分かるプロモーションマシンを使うことで,サンプル商品を受け取った顧客に対してアンケートを実施することができる。そのため,どのような顧客がどのような商品ニーズを持っているかというデータも取得できるという。また,サンプル商品を配布する機構部の横に設置する商品陳列棚の上にあるディスプレイにも,効果的な広告を配信できることがメリットだという。実店舗での実証実験では,サンプル商品を配布すると,プロモーションマシンの前に行列ができる。列に並んでいる間は,このディスプレイを見る人が多いためである。

 広告だけではなく,辻学園と協力して作成した料理レシピのコンテンツも表示する。このディスプレイの上部にもカメラが設置してあり,こちらは顔認識技術を使って,広告やコンテンツを見た人の人数やそれぞれの性別,年代を判断できるようになっている。

スーパーは関連商品の販促につながる

 プロモーションマシンを設置することは,設置場所を提供するスーパー側にもメリットがあるという。その一つが送客効果である。「サンプル商品がもらえることで,Shufoo!を見た顧客が複数の候補となる店舗から,自店を選んでもらえるきっかけになる」と説明する。

 それに加え,サンプル商品に関連した別の商品を販売できる可能性もあるという。例えば,カレーのサンプル商品を配布した場合,上部のディスプレイにカレーの広告だけでなく,「カレーの隠し味にはバナナが最適」といったバナナの広告を表示する。ほかにも,クラッカーと牛乳を一緒に食べると,栄養のバランスがいいといった広告を表示するという使い方ができる。サンプル商品をかざす際にあらかじめ会員登録で得た情報から性別も判断できるので,男性ならばボリュームがでる食材を表示し,女性なら栄養バランスがさらによくなる食材を表示するといった,きめ細かな訴求もできるという。

 凸版印刷はShufoo!において接点のあるスーパーを中心に設置の交渉を続け,2010年3月末までに50台のプロモーションマシンを設置することを目標にしている。