帰国の前日,最後に訪れた訪問先は米Appleの本社である。10人ほどのMacユーザーと一緒に,宿泊地のサンフランシスコ市内のホテルから,再びシリコンバレーのCupertinoを目指した。
この訪問は,大学院卒業後,10数年間Appleに勤務している木田泰夫氏のおかげで実現した。現在の木田氏は,日本語入力を中心に,入力インタフェースのソフトウエア側で重要なポジションを担っているそうだ。つまり,今回訪れたMacユーザーの僕たちが常日頃お世話になっているはずの人である。
似ているようで違う,AppleとGoogle
おなじみのかじられたリンゴのロゴを目にしながら,Apple本社の玄関にたどり着いた。木田氏は僕たちを迎えてくれ,社内を案内してくれた。私のグループはあっち,あそこがスティーブ・ジョブスの部屋……しばらく社内を案内してもらいながら僕が感じたのは“大人なGoogle本社”というキャッチコピーだった。
どちらも「キャンパス」と呼べるような広さと景色が広がっている。青い空に低い建物で,スタンフォード大学と見分けがつかない。一方で,AppleはGoogleよりも静かに感じる。広がった芝生にはちらほらと作業をしている人がいるくらい。遊び道具がそこかしこにあるわけではない。敷地の中庭にあるカフェに向かい,木田氏とお話をする。木田氏によると,最近のGoogle本社は「昔のAppleのような空気を感じた」そうだ。Googleもいずれ,このAppleのような落ち着いた雰囲気になるのだろうか。
若いときから英語を学んで得る“言葉のひだ”
このとき訪問した10人ほどのメンバーは,ほぼ全員が大学生だった。話題は「シリコンバレーに行くならどういうタイミングがいいか」というテーマになった。
予想通りだったのは「早いうちにアメリカの大学に来て,英語を体で覚えたほうがいい」という話。ただその理由は「社会人として来る前から周りの学生と触れ合うことで,英語で会話をするときの機微やジョークといった“言葉のひだ”のようなものを使えるようになっておくことが望ましい」という興味深いものであった。
日本でいえば“空気を読む”というあたりだろうか。あるいはちょっとした会話のテンポのようなものかもしれない。ともかく,社会人になって働きながら,その“言葉のひだ”のようなものを習得するのはたしかに難しそうだ。仕事もままならないかもしれない。
そして僕が気付いたのは,僕はまだそれを得るかどうかを選択できる若さを備えていることである。エンジニアリングではないものも,まだまだ十分に学ぶチャンスがある。
そしてAppleファンの観光客へ
エントランスのすぐ横にはカンパニーストアがある。MacBookなどのハードウエアは展示のみだが,ソフトウエアや周辺機器などが販売されている。ここでしか買えないAppleグッズもたくさんある。目を光らせながら足早になるメンバー。僕も例外なくその一人になった。
財布のひもがゆるむというのはこのことだろう。手に持ちきれるかどうかギリギリのノベルティから周辺機器をレジへ持っていっていた。しかも! Appleの社員がいると社員割引になる。勤務時間中なうえ,新しいiPhone OSのリリースをひかえて忙しい時期に,レジで僕たちを迎えながら「He is my friend」と言ってくれた木田氏には,いちAppleファンとしても感謝しきれない。
帰りの車が迎えに来るまでの間,入り口にあるAppleのロゴの前で集合写真を撮った。
僕は右側の最前列。全員でMacBookを抱えているあたり,Appleへの愛を過剰に感じる写真に見える。お気に入りの一枚なので許してほしい。