モバイル機器,特に携帯電話の未来に大きな影響を与えそうな技術が,実用化に近付いている。それが「拡張現実」(AR=augmented reality)。現実世界の映像にデジタル情報を重ね合わせて,利用者の活動を支援するユーザー・インタフェースの技術である。
その適用範囲は幅広い。ARの研究開発を専門とするアスカラボの角田哲也社長は「広告やゲームなど,多様な応用例があり得る」と説明する(図1)。
例えば,旅行先でビルや道路に携帯電話のカメラをかざすと,その名称や住所がオーバーレイされた状態でディスプレイに表示される,遺跡でヘッド・マウンテッド・ディスプレイ(HMD)を装着すると,かつてそこにあった建築物が3次元コンピュータ・グラフィックス(3次元CG)で再現される──といった具合である。
ARの研究は1990年代の初頭に始まった。かつては大掛かりなハードウエアを必要としたが,CPUの高性能化,小型カメラやディスプレイの高解像度化,各種センサーの発達,無線ブロードバンド・サービスの普及などを背景に,現在ではモバイル機器でもARを実現できるようになってきた。
ARは昨年ころから専門の研究者以外にもその概念が広く知られる存在になった。
その理由の一つが,ARに似た技術が普及している街を舞台としたアニメ「電脳コイル」(写真1)。主人公たちは「電脳メガネ」というインターネットに常時接続されたメガネ型コンピュータをかけ,いろいろな情報を見たり,“電脳ペット”を飼ったりしている。この電脳メガネはARのHMDを想起させるものだった。
ニコニコ動画でも話題
動画投稿サイトなどでもARが話題になっている。ARアプリケーションの映像がニコニコ動画やYouTubeに投稿されたことで,多くのプログラマを刺激(写真2)。追随者を生み出し,ネットのソフトウエア開発者のコミュニティではARアプリケーション開発がブームになっている。
これら投稿された動画のARアプリケーションの多くは,「ARToolKit」を使って開発されていた。ARToolKitは奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の加藤博一教授が開発した,ARアプリケーションを開発するためのC言語のライブラリである。パソコンとWebカメラ,基本的なC言語や3次元CGの知識があれば,比較的簡単にARのアプリケーションを作成できるものだった。