松本 浩彰
BMCソフトウェア
エンタープライズ・ソリューション・テクニカル・サービス
BSM シニア・アーキテクト

 今回から2回にわたって「IT運用」をテーマに取り上げ、大きく変わりつつあるIT運用管理者の役割と責任について考えたいと思います。

 私がこの「IT運用」に焦点を当てた理由は、今後ますます高まるIT運用の重要度に比べて、現在のIT運用部門(あるいはIT部門における運用担当チーム/担当者)の意識や、企業内におけるIT運用の位置づけが、まだまだ低すぎると考えているからです。裏を返せば、従来のように受身的ではなく、IT運用をもっと前向きにとらえていけば、IT運用部門は自社に対して、より付加価値の高い働きかけをしていくことができる、ということです。

 IT部門のマネジメント層の方から、実務としてIT運用に携わっている方まで幅広くご一読いただき、今後の組織運営やご自身の活動のヒントとしていただければ幸いです。

 まず今回の「前編」では、IT運用とはそもそもどのような業務なのか、また今後、IT運用はどのような方向に向かっていくのか、について述べたいと思います。

4つの領域に分類できるIT運用業務

 そもそもIT運用業務とはどのような仕事なのでしょうか。その答えを端的にいえば、「情報システムの開発が終了した後で、そのシステムを安定的にエンドユーザーに供給するための管理業務」ということになります。

 しかし、一口にIT運用といっても、様々な領域の仕事があります。具体的には、以下の4つに大別されるといっていいでしょう(図1)。

(1)ITの実務上の利用方法について問い合わせを受けて対応する窓口業務

(2)定められたオペレーションを繰り返し実施する定常業務

(3)ITに関するトラブルに対応する障害対応業務

(4)ITインフラ(ネットワークやOS・ハードなどの基盤部分)に関する管理業務(構成管理やキャパシティ管理など)

図1●「IT運用業務」の仕事は4つに大別される
図1●「IT運用業務」の仕事は4つに大別される

 上記(1)~(4)の仕事については、メインフレームの時代から、今日の分散システムやWebシステムの時代まで、それほど大差はないといっていいと思います。ただし、IT運用業務に求められる意味合いや形態は、それぞれの時代で差がありました。以下で、それぞれの時代におけるIT運用の特徴について、簡単に解説しましょう。

「メインフレーム時代」のIT運用

 もともと企業でコンピュータが使われるようになったのは、経理処理のような人的作業を自動化し、業務の効率化を図るためでした。1970年代まではメインフレーム(汎用機)という言葉も普及しておらず、一般には「計算機」と呼ばれ、IT部門も「経理部 計算課」というような名称だったのです。その後、「経理部 電算課」となり、さらに「電算部」に昇格して、情報システム課あるいは情報システム部という現在の名前に変わっていきました。

 一般にIT部門は、業務アプリケーションを企画・設計・作成する開発部門(企画は独立していることもありますが)、開発を終えて本番稼働している業務アプリケーションの“お守り”をする保守部門、業務アプリケーションやシステム基盤、社内ネットワークなどを日々運用する運用部門、という3つの担当に分かれています。

 メインフレーム時代から花形だったのは、いうまでもなく開発部門でした。一方で、運用部門は利益を生まないコスト部門として扱われており、100%完全に仕事をして当たり前、しかも、本番運用なのでミスは絶対に許されない、という最も報われない部門だったのです(ちなみに、保守は両者の中間部門として扱われていました)。

 このメインフレーム時代のIT運用では管理対象が限られていたため、様々な運用手順を管理しやすい状況にありました。さらに、システムダンプを見ればアプリケーションの不具合の原因まで特定できるなど、システムを管理する機能も充実していました。いわばメインフレームという“閉ざされた世界”の中で、IT運用に携わる方はプロフェッショナルな専門家として振る舞っていたのです。そういう意味では、メインフレーム時代のIT運用業務自体は、その後の時代のそれよりも専門的であり、業務自体もルール化されて管理が厳格だったといえます。