エノテック・コンサルティングCEO 米AZCAマネージング・ディレクタ 海部 美知 |
毎年,正月明け早々に米国ラスベガスで開催される家電業界の展示会「International CES」。今年は,日本勢が威圧するように超大型テレビを並べ,次世代DVD規格の争いではブルーレイの勝利がほぼ確定した。
その翌週,サンフランシスコの「Macworld Conference & Expo」では,iTunes Store(iTS)での映画レンタル・サービスの開始が発表された。パソコンを介さずAppleTVに直接ダウンロードができ,高精細(HD)版もある。
テレビ放送に目を移すと,米国で2009年2月に迫った地上波デジタル移行を前に,HDテレビ受像機の販売合戦と,番組のHD化が進む。また,米AT&Tと米ベライゾン・コミュニケーションズの2社は,HD映像を含むIPTVサービスの加入者を伸ばしている。
受像機,DVD,テレビ,ネット配信のいずれの分野でも,映像作品の高精細化・大画面化が加速している。
「作品」と「情報」の分離
ここ数年,映像業界はYouTubeに代表される「ネット映像」の影におびえていた。しかし,2007年11月に始まった米脚本家組合のストライキのために人気テレビ番組に穴が開き始めているにもかかわらず,視聴者がYouTubeに大量流出する事態は起きていない。
ネット映像と一口にいっても,中味は二極分化しつつある。YouTubeのユーザー生成映像は燎原(りょうげん)の火のように広がり続ける。一方,iTSやIPTVでは,YouTubeを振り払うがごとく,大画面化・高品質化の新サービスが続々登場している。この二つは別物であり,共存は可能だ。
ユーザーから見ると,この2種類の映像の間には違いがある。デジタル音楽についてネットで提唱されている表現を借りると,前者が「情報」であるのに対し,後者は「作品」なのである。
YouTubeでは,情報として中味が分かりさえすればよいので,映像品質が低くても構わない。一方,「作品」として鑑賞されるべき映画は,映像品質に徹底的にこだわる。ユーザーがHD映像を見慣れれば,ますます違いがはっきりする。
「情報」と「作品」が分離した今,「作品」はお金が取れるから著作権保護を重視するが,「情報」については大目に見て宣伝に利用しようという考えも生まれている。
米国版NGNと「作品」化するテレビ
米国では政策的な意図から,通信事業者のIPTVはケーブル・テレビと競合する放送サービスと位置付けられている。そうしたIPTVを通信事業者はNGN(次世代ネットワーク)のサービスの軸に据えている。
明らかに「作品」である映画に比べると,放送サービスによるテレビは番組ごとに性質が異なる。従来はむしろ「情報」が多かったが,スポーツ中継やドラマなどの花形部門ではHD化で「作品」指向が強くなっている。
「作品」映像なら,しっかりお金が取れる。幸い,業界の流れは全体に「作品」化に向いている。あとは,ユーザーがどこまで財布を開いてくれるか,の問題である。
|