デザインに投資すべきか。この問いに対する答えは,様々なことを明確にしてくれます。デザインを見栄え中心のお化粧直しという意味で捉えているのか,デザインの持つ「力」に気づいてそれを活用しようとしているのか。今,デザインやUI(ユーザー・インタフェース),UX(ユーザー・エクスペリエンス)と呼ばれるものをどう経営資源と観るか,そこにその企業のヴィジョンが感じ取れます。
デザインの対費用効果[ROI]
デザインは経済的効果を生まないか?
Web開発において,デザインに多額の開発費を投入するには勇気が要ります。対費用効果を読み切れないからです。経営会議等において,数字を土台にした説得力のあるプレゼンがしにくいからでしょう。
事実,デザインにどれだけ投資したから,どれだけのリターンがあったかとう数字は余り表に出てきません。成功体験を後続部隊にみすみす教えてくれる企業は少ないからです。しかし,皆無ではありません。多くのデータは,Webでは削除されて行くので(それはそれで大問題なのですが),ニュースソースを明記しませんが,個人的にスクラップしていたものから拾ってみましょう。
例えば,「RIA」という言葉の発祥の地でもある,Broadmoor Hotel。日付指定,部屋選択,カード情報入力という三つのページを一つの画面にまとめ,リフレッシュという思考の分断をなくそうとした,このRIAシステムによって,予約が89%増加し,客室使用率が66%増加したことが報告されています。
自分仕様のカスタマイズができ,それを友人に伝えることが可能だった,MINI USAでも数値が出されました。登録ユーザー数で,目標の152%超。2002年の米国での売り上げ目標において,125%超。そして,登録者の73%が自分仕様のMINIを構成したことも明らかにされ,サイト内での滞在の長さと,ツボにはまったサイトであったことがわかります。
日本にも数値データはあります。トヨタは,Webを戦略的なチャネルとして活用していることでも有名な会社ですが,このIsis(アイシス)スペシャルサイトに記録的なアクセス数を獲得し,幅広い年齢層へアピールすることに成功しています。そして,発表から1カ月で,月間目標台数の4,000台の4倍となる役16,000台を記録。勿論サイトだけの効果ではないでしょうが,Webサイトのデザインも,大きな役割を果たしたと言えるでしょう。
昔の例だけでもありません。数字ではありませんが,Googleの浸透が,そのデザイン(UI)と無関係であったと主張する人は少ないでしょう。そげるだけそいだシンプルなデザインは,訪れるすべてのユーザーに検索することを,いわば強要し,情報をリンクから辿っていくのではなく,いきなり見たい情報に検索から辿りつく文化を広げました。その結果はご存じの通りの,企業としての成長です。
損失を抑えるブレーキ効果
企業損失を語る際によく出される指標として,時間があります。例えば,勤務時間の私用ネット利用によって,企業はどれほどの「損失」を受けているのか,などです。算出方法は,至って簡単で,一人当たり1日15分私的にネットを利用したとしたら,1000人規模の会社では年間で15分x200日x1,000人=3,000,000分=50,000時間の損失。例えば時給2000円だとすれば,100,000,000円/年の損失,というロジックです。少し古いですが,下記のニュースの根拠はこれと同じものです。
2002/9/18 : INTERNET Watch
従業員のインターネット私用がもたらす損害についての試算を発表した。日本企業は,年間でなんと1兆7,700億円の損害を受けている
同じロジックで,デザインの有効性を計算することができます。毎日使う業務アプリで,5分間全社員が5分間苛立つとします。精神的な話に絞ることも必要ありません。三つの数値を,三つの表から探し出し,それらを比較し,大きな数値のものを選択する,といった業務でもかまいません。その作業を,醜いUIの(操作性の悪い)システムでは3分,優れたUIのシステム1分で処理できたとしたら,業務効率は少なくともその部分においては三倍上がっています。
しかし,こうした数値が出ることは稀です。そもそも数値データの蓄積がされていない点,そして,調査をしないが故に「個人差」という壁を論破できないからです。とは言っても,操作の時間短縮が可能なシステム,改善余地のあるシステムに対しては,UIの改善(リデザイン)により損失を抑える効果があるのは確かだといえるでしょう。
まさに,ユーザーインタフェース(UI)というデザインが,人間のやるべき仕事を肩代わりしてくれている状態と言えます。
下駄を履かせてくれるデザイン