図1 IPネットワークでは何もしないと早い者勝ちでパケットは処理される
図1 IPネットワークでは何もしないと早い者勝ちでパケットは処理される
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図2 QoSではパケットの種類を区別して優先順位を付けて処理する
図2 QoSではパケットの種類を区別して優先順位を付けて処理する
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 QoSとは,ネットワークが提供するサービスの品質,すなわちネットワークの性能を意味する言葉である。このQoSを左右する要素には,遅延,帯域,パケット損失率がある。

 アプリケーションが異なると,要求される品質も異なってくる。例えば,プログラムのデータをまとめてダウンロードする場合,パケットが失われても再送をすればよいし,これによってダウンロード時間が多少増えても実用上の問題はない。しかし,インターネット電話で音声が途切れなく聞こえるためには,送り出される音声データが滞りなくあて先に届くようにする必要があるし,パケットが失われないようにしなければならない。

 基本的にIPネットワークはベストエフォート型の処理をする。特に何も制御をしないときは,先に到着したパケットから順にルーターがあて先に向かう回線に送り出す。だが,複数の回線から1本の回線に向かって一度にパケットを送ろうとすると,ネットワークが混雑してしまう。これは複数の車線から1本の車線にたくさんのクルマがなだれ込んで合流地点が混雑するのと同じだ(図1)。すると,ルーターでの待ち時間が長くなり,パケットの遅延が大きくなる。度が過ぎると,ルーターのバッファにパケットを保存しきれなくなり,ルーターがパケットを捨てることもある。これでは,アプリケーションの要求する品質を満たすことはできない。

 この問題を解決するには,QoS制御というしくみを使う。QoS制御ができるルーターは,パケットを到着順に処理するのではなく,パケットの種類を判別して遅延やパケットロスが許されないものを優先的に処理する。優先度の高いパケットはヘッダーなどに目印が付いていまて,ルーターはこれを見て先的に処理するパケットを区別している。 IPの場合,ルーターはIPヘッダー中のTOS(Type of Service)フィールド,あるいは送信元やあて先のIPアドレスでパケットの種類を判別する。

 このQoS制御は,サイレンを鳴らして走る救急車や消防車のようなものである(図2)。サイレンを鳴らして周りに緊急車両ということをアピールすることで,渋滞している道を優先的に走行できるのだ。

 ルーターでは,パケットを送出する回線1本に対して複数のバッファを用意し,優先度の異なるパケットは別々のバッファ(待ち行列)にいったん保存する。そして,ルーターは優先順位の高いバッファからパケットを取り出して回線に送出する。こうして,アプリケーションごとに異なるネットワークの品質を確保している。


●筆者:水野 忠則(みずの ただのり)氏
静岡大学創造科学技術大学院 大学院長・教授。情報処理学会フェロー,監事。現在の研究分野はモバイル&ユビキタス・コンピューティング,情報ネットワークなど。
●筆者:石原 進(いしはら すすむ)氏
静岡大学工学部システム工学科助教授。現在の研究分野はモバイル環境のネットワーク・アーキテクチャやアドホック・ネットワークなど。
●イラストレータ:なかがわ みさこ
日経NETWORK誌掲載のイラストを,創刊号以来担当している。ホームページはhttp://creator-m.com/misako/