Googleが2006年6月6日(現地時間),Web表計算サービス「Google SpreadSheets」のテスト公開を開始した(関連記事)。
記者にとってこのサービスは2つの点で意外だった。
ひとつめは,GoogleからWeb表計算サービスがこんなにも早く提供されたこと。GoogleがSun Microsystemsと提携した2005年10月,SunがOpenOffice.orgをオープンソース・ソフトウエアとして公開していることから,Googleの提携によってWebオフィス・ソフトが開発されるのではないかと期待された。しかしGoogle創業者のサーゲイ・ブリン氏は「Webオフィス・ソフトの計画はない」と語ったと報道された(関連記事)。その後Webワープロ・ソフトのWritelyを買収した(関連記事)という伏線があったとはいえ,Googleによるこんなにも早いWeb表計算の提供は驚きだった。
もうひとつは,Google SpreadSheetsの機能だ。AjaxベースのWeb表計算サービスにはすでに「num sum」や「Zoho Sheet」,「iRows Online spreadsheet」などがある。いずれも,セルに関数を書けるのはもちろん,JavaScriptで線グラフや棒グラフなどを描画する機能を持ち,マウスでグラフの位置や大きさを変更することもできる。
記者はGoogle SpreadSheetsを試用してみたが(関連記事),Google SpreadSheetsにはグラフ描画機能はない。実用上どこまで重要かは置くとしても,見た目のインパクトでは明らかに競合サービスに劣っている。
Googleのこれまでの勝ちパターンは,検索にせよメールにせよ地図サービスにせよ,技術力で既存のサービスを圧倒し,シェアを獲得するというものだった。だが,Google SpreadSheetsでは競合サービスよりもプリミティブなものを出してきた。これは何を意味するのだろうか。
ひとつの考え方は,Googleといえどもすべてのサービスが卓越しているわけではないというものだ。ある意味では当然だ。
質で圧倒できなくとも,Googleは矢継ぎ早に新しいサービスを投入している。Googleの技術者は,社内では数百の開発プロジェクトが動いていると示唆する(関連記事)。「100社に投資して,99社がだめでも1社がホームランになれば回収できる」というのがシリコンバレーの流儀だ。多くのサービスを提供すればそのうちのいくつかが大化けするかもしれない。少なくともライバルが始めたサービスは押さえておく。トータルで勝てればいい。巨額の資金と多くの人材を得たGoogleはそういう方針を採るようになったのだろうか。
もうひとつの考え方は,「Googleが作ろうとしているのは表計算ソフトではない」という仮説だ。
デスクトップのオフィス・ソフトをWebで再現することにどれほどの意味とニーズがあるのかまだわからない。Webでいくらがんばっても,デスクトップの機能は超えられない。どれだけExcelに似せてもExcelにはなれない。もしかしたらGoogleは,はなからExcelの機能を追いかけていくことは考えていないのかもしれない。だとしたらブリン氏のかつての発言とも符合する。
しかし,Google SpreadSheetsは,名前も外見もどう見ても表計算ソフトだ。「表計算ソフトのように見えてそうでないもの」に,これから進化していくことがあり得るのだろうか。ひとつのヒントは,Google SpreadSheetsが持つ,シートをリアルタイムで共有する機能ではないか。Google SpreadSheetsは多くのユーザーが共有できるデータベースを目指すのかもしれない。
「数打てば当たる」か「すでにあるものではない何か」か。記者がどちらを期待しているのかは,言うまでもないだろう。