RoHS指令をキッカケに,一気に進んだはんだのPbフリー化。長年使われてきた従来のSn-Pb共晶はんだ(Sn-37Pb)から,Sn-3Ag-0.5Cuといった組成のはんだに切り替わった。組成が変われば,材料価格にも違いが出る。
高価なAgを使うSn-3Ag-0.5CuなどのPbフリーはんだの価格は,従来のSn-Pb共晶はんだに比べて高くなる。しかも,ここ数年のAgの価格高騰によって,ますますその価格差が広がっている。最近の金属相場を基にした手元の単純計算では,Sn-37Pbの材料価格が約1300円であるのに対し,Sn-3Ag-0.5Cuの材料価格は約3400円にも及ぶ。
こうした状況では,はんだをできるだけムダにしないような工夫が,コストダウンに大きく結び付いてくる。その工夫の一つが,はんだのリサイクルである。リコーマイクロエレクトロニクスは,鳥取環境大学と共同で,これまで廃棄対象だったはんだペーストをリサイクルする技術を開発し,2007年6月から運用を始めている。この取り組みについて,同社 技術統括室 生産技術室 生産技術グループ リーダーの内田隆男氏と,リコー 秦野事業所 電装ユニットカンパニー 秦野生産室 製造2課 課長の飯田隆広氏に話を聞いた。(聞き手:小谷 卓也=日経エレクトロニクス)
――このリサイクル技術の概要は。
プリント基板の製造において使用する,はんだペースト(リフロー用はんだ)は,容器から取り出して数時間経過すると,使えなくなってしまう。はんだペーストに含まれるフラックスが揮発して粘性が高まるためだ。こうしたはんだペーストは,従来は廃棄していた。これを廃棄せずに,リサイクルして再び利用できるようにするのが我々が開発した技術だ。2007年6月にリコーマイクロエレクトロニクスで運用を始め,2008年1月からはリコー・グループの4拠点に運用範囲を広げた。
――このような技術を開発した背景は。
よくよく調べて見ると,廃棄していたはんだペーストが,それがものすごい量であることが分かった。リコー・グループ全体では,年間約4.8トンのはんだペーストを購入している。このうち,半分の年間約2.4トンを廃棄していた。事業所からの廃棄物の量をできるだけ削減したいという狙いから,2004年4月にリサイクル技術の開発に着手した。
――Pbフリーはんだが高価であることも開発を後押ししたのか。
当初狙っていたのは,あくまで廃棄物の削減。しかしその後,Pbフリーはんだへの切り替えで,どんどん価格が高くなってきた。想定外だった。このリサイクル技術の効果が予想以上に出てくる結果となった。
――どの程度,設備投資したのか。
試験装置が100万円,量産装置が350万円,これに経費を加えて約700万円。これは,1年で償却できる額だ。
――はんだペーストをどのようにリサイクルするのか。
使えなくなったはんだペーストを独自開発した装置で加熱して溶かし,比重の重いはんだ成分と,比重の軽いフラックス成分に分離する。このうち,はんだ成分のみを抽出して,棒はんだ(フロー用はんだ)にする。つまり,はんだペーストから棒はんだにリサイクルする。回収率は90%。残り10%がフラックスとなる。当初は,はんだペーストからはんだペーストへのリサイクルも検討したが,どうしても最初の成分に戻すことが難しいため,それは断念した。
――技術的なポイントはどこにあるのか。
はんだ成分とフラックス成分を,いかに分離するのか。ここが難しく,苦労したポイントだ。はんだとフラックスでは融点などが異なるため,どのような方法で分離するべきか試行錯誤を重ねて条件出しを繰り返し,現在の方法(装置)にたどり着いた。
――今後の展開は。
既に,このリサイクル技術に関して外部から何件かの問い合わせがある。我々としても,はんだの回収ビジネスや,装置ビジネスといった展開が考え得る。しかし現時点ではまだ,具体的にはなっていない。将来を考えると,金属資源の枯渇という問題があったり,一部のPbフリーはんだには希少金属であるInが使われていたりする。こうしたことからも,リサイクルの必要性は,ますます高まっていくだろう。