「ウチのエンジニアはコミュニケーション能力が低くくってさあ。困っちゃうよ」

 こうした嘆きをIT企業の経営者やIT職場の管理職から、よく聞かされる。確かにエンジニアは営業職の人たちなどに比べれば、寡黙な人が多い印象はある。筆者もIT企業で働いた経験があるので、人前でうまく話せなかったり、プレゼンテーションに苦手意識を持っていたりするエンジニアを大勢見てきた。それはそれで確かだ。

 しかし本当に、エンジニアはコミュニケーション能力が低いのだろうか。筆者の答えは「ノー」。断言してもいい。

 「エンジニアはコミュニケーション能力が低い」。これは大いなる誤解である。

「コミュニケーション」の見方が偏っていて古い

 IT職場で上司はエンジニアのどこをどう見て、「コミュニケーション能力が低い」と言っているのだろうか。先日、筆者は経営者が集まる場で講演をする機会があった。そこで参加者に直接、聞いてみた。彼ら彼女らの答えは概ね、次の通りだった。

・あいさつをしない
・説明がしどろもどろ
・報連相ができない
・電話に出ない、電話対応が苦手
・人前でアガってしまう

 なるほど。筆者が想像していた通りの答えが全て出そろった感じである。だがこれらは全て「口頭での対話」であることに、どれだけの人が気づいているだろうか。

 どうやらマネジメントの立場にある人は「コミュニケーション=対面の会話」と考えている人が多いようだ。しかしそれだけで、部下(エンジニア)のコミュニケーション能力が低いと決めつけてしまうのは、あまりにももったいない。もっと強くいえば、誤解も甚だしい。

 対面のコミュニケーションを苦手とする人はエンジニアに限らず、結構多くいるものだ。筆者の経験では、これはエンジニアに限った話ではない。その人の性格や特性である。

 一方、チャットやSNSなど、非対面でのデジタル空間では「とても饒舌(じょうぜつ)になるエンジニア」を、筆者はこれまた数多く見てきた。

 口頭での説明はしどろもどろでも、メールやチャットでは大変論理的で、分かりやすく物事を伝えてくれるエンジニアが大勢いる。きちんと考える時間を与え、伝えるべき情報を整理してから話したい(メールやチャットを書きたい)。そういう人だっているのだ。

 あいさつやプレゼン、口頭での報連相など。対面の会話だけをとらえて、「あいつはコミュニケーション能力が低い」と決めつけてかかる。それはいささか、強引ではないか。

 確かに20年前はそうだったのかもしれない。しかし、デジタルネイティブ世代が社会人の主力になりつつある現代。上司が考えるコミュニケーション能力の常識自体が「古い」のかもしれない。

 そんなふうに考えたことを、経営者や管理職は一度でもあっただろうか。おそらくないはずだ。