概要
2007年11月に開局した韓国のMBC一山放送局制作センター(MUNHWA BROADCASTING CORP. ILSAN BROADCASTING COMPLEX:竣工後の名称は「MBCドリームセンター」)の実施設計(2003~2004年)や現場監理(2006~2007年:録音スタジオ系の施工監理)の技術協力を行った内容を紹介します。
1. 経緯
2003年に韓国の音響設計施工会社(NACエンジニアリング株式会社)から実施設計に於ける音響設計協力を打診されました。制作センターをイルサン(ILSAN:ソウルから25キロ程西北の都市)に新築する計画は、この時点で既に5年の歳月をかけて構想から基本計画が進捗していました。
写真1 建設前の計画地(中央の空き地)
設計事務所(Samoo A&E、以降:Samoo設計と記す)は「施主側の条件」を満たせる音響専門会社として、韓国企業と海外企業とのJV(共同企業体)により、「音響設計を含めた実施設計図作成」を受けてくれる企業を求めている・・・当業務の切掛けがこの情報でありました。
写真2 完成後の音楽録音スタジオ(POST RECORDING STUDIO)
写真3-1 設計時の3Dパース
写真3-2 設計時の3Dパース
2. 初期情報
まずは放送局の規模や配置計画及び各室の用途が示された計画図と要求が示された資料を入手することからスタートしました。
建物は10階建て、映像系スタジオ(6杯)、音楽系スタジオ(5杯)、多目的ホール(シネマ1杯)、その他関連施設を有するスタジオ棟でありました。
音楽系のスタジオは4階にあり、2~4階吹抜けの芸能スタジオや公開ホールの天井グリッド部分(4階)の空間と界壁で接しています。
図1 4階の全体計画の平面図
図2 建物断面図(1階から10階)
3. 事前現地調査
2004年の2月に訪韓しました。Samoo設計関係者との打合せと、MBC本局(Yoido-Dong、SEOUL)のテレビスタジオや生放送や収録に使用している音楽用の公開ホールの視察を目的としました。
現局の公開ホールで番組収録中の状況を知るために、当時の新人タレント「東方神起」も出演した歌番組を舞台袖や客席位置で、設計に用いる「発生音」を調査しました。
音圧レベルは、舞台近傍で110~115dB(平均値)を、壁際で105dB(125Hz~1kHzの帯域)を記録しました。
図3 遮音設計に用いる発生音の音圧レベル
4. 音響設計のコンセプト
映像系と音楽系の音響設計で要望された「基本方針」は「東洋で一番」の施設を目指すことでありました。
- 公開スタジオ、芸能スタジオA、芸能スタジオBでは「生放送」や「録画・録音」を行う。
- ポップス系・ロック系の生音やスピーカ再生音が相互のスタジオ(録音)に影響しないこと。
- 映像系の芸能スタジオA,Bと公開ホールのホリゾントは3面とも傾斜(フラッターエコー軽減対策)とする。
- 音楽録音系スタジオは、他の施設と同時に利用する。映像系スタジオがオンエアの状態で「音楽スタジオの録音」に支障がない性能を確保する。
- コントロールルームは一部の室を除き、ハードバッフル仕様でスピーカをビルトイン方式とする。 5.1chサラウンド対応とし、リアスピーカは位置調整を可能とする。
- 音楽系スタジオは基本的にライブな音場とする。メインスタジオのブースは5室(計画時6室)とも、ライブとする。
- 材料は韓国製のものをなるべく使用する。
- 浮遮音構造の浮壁は「コンクリートブロック」(以降CB)や「レンガブロック」を用いる。地震がない国では普通に「天井まで高く、高く」積み上げている。
- 内装に用いる吸音材は「SKY VIVA」(スカイ ビバ)という可燃性材料の商品(韓国製)を使用する。グラスウールに比べて高音域の反射があるものの、繊維の飛散がなく扱いやすいことで使用することにしました。
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5. 実施設計
2004年7月から実施設計に対する音響検討として、スタジオ全般の遮音計画を手始めに行うことになりました。
生放送用の映像系スタジオと録音スタジオ系が界壁で隣接しており、計画で避けたい配置となっていました。
映像系スピーカ(タワー式に積み上げる方式)から再生される音楽(ポップス系、ロック系)が録音スタジオに侵入しないように、遮音構造は「躯体RC250mm+固定壁CB200mm)」を固定遮音層として、両室共に浮構造を提案しました。浮遮音層は映像系側に「石膏ボード15mm×3枚」(LGS下地)を、音楽系側のスタジオ、コントロールルームに「CB+表面モルタル10mm」を提案し、室間の遮音性能がD-85以上を確保できるように計画しました。
1) 遮音計画
遮音計画は遮音等級D値にて提示し、映像系や音楽系の同系統スタジオ間はD-70~85としました。
図4 映像系と音楽系スタジオの遮音計画(断面)
図5 映像系と音楽系スタジオの遮音計画(平面)
2) 防振計画
映像系と音楽系スタジオは全て浮構造で計画しました。
浮床の防振構造は室の用途と配置から、芸能A,Bと公開スタジオをGW50t96kg(防振パッド併用)とし、ドラマスタジオ(3杯)を鉄骨下地の防振ゴム(固有振動数10Hz以下)としました。音楽系は全て防振ゴム(M-5タイプ)を採用しました。
6. 設計・デザイン
実施設計は、音響設計だけでなく、NOE(弊社)&NACで内装デザインの全てを提案することも業務となっており、膨大な規模の仕事となりました。基本計画はSamoo設計とNACで決めており、NOEは遮音構造と吸音スペースの仕様による壁厚や壁面の傾き程度の変更と室内音響を含めたデザイン(色も含めた)を行いました。
各部の防振・遮音仕様や参考ディテールを作成しましたが、実際の設計図書作成はハングル語での作成となるため、NACの設計スタッフ(女性3人)の作業となりました。
- 写真4-1 メインスタジオ天井残響可変部模型
- 写真4-2 コントロールルーム天井模型
作業は韓国で行いました。NAC崔氏の意見とスタッフ(徐さん)のアイディアを合わせてポンチ絵(手書きスケッチ)を描き、NOEのデザインとして設計図にまとめてもらう作業となりました。
図6 天井サウンドトラップ配置計画
写真5 天井サウンドトラップ
TVスタジオ(芸能ST&ドラマST)
芸能(33m×32m×17mH)&公開ホール(58m×32m×17mH)は日本での実績から韓国で初めての三面3度の傾斜ホリゾント(13mH)としました。
吸音壁はクロス貼り+ワイヤーメッシュ+アルミ縁押さえとし、デザインはNOEの仕様に合わせました。吸音部クロスは法規的にも難燃椅子貼りクロスでOKとなり、韓国産でグレー色の椅子地を採用しました。
写真6 芸能スタジオ(傾斜ホリゾント)
遮音構造は日本のTVスタジオと同様に三方向防振ゴムを壁ブラケットにて支持する角パイプフレーム防振支持工法を採用しています。このタイプの防振ゴムは韓国にはありませんでしたので、日本から納入しています。
写真7 防振支持工法
公開スタジオ
実際の収録時の使い方は、ローホリ付のホリゾント壁をバックに仮設舞台をセットし、PA装置による歌謡番組を収録していました(毎週生放送)。カメラクルーとスタッフが舞台の前のゾーンに陣取り、客席は公開ホール的な感じで、TVスタジオとホールが合体した様な作りになっていました。
設計方針が既存と同じ様な規模と形状(長方形)であり、天井グリッド+拡散反射板仕様とし、壁にも拡散反射ユニットを配置しました。また、腰部には吸音リブ材を傾斜貼りし、客席に反射音が返るよう考えました。両サイド、後部に副調整室よりキャットウォーク経由でアクセス可能な投光室が計画されました。後壁は木製リブを縦に配置し視覚的な目隠しとし、デザイン上のポイントと考え凸形状を提案しました。
写真8 公開ホール(正面ホリゾント、側壁拡散体)
写真9 公開ホール3Dパース
副調整室
ドラマ&芸能、公開STの調整室の吸音仕上材は天井、壁ともクロスパネルを基本とし、腰部は吸音リブ材(MDF素材)木目仕上としました。
天井はモニターへの映りこみを考えた折上げ照明BOXを提案し、天井の折り上げ部のリブ材とBOX天井部のカラーをさし色(芸能STは赤色、ドラマSTは青色)とする事でコントラストとインパクトをねらいました。
写真10 副調整室 芸能ST(赤)とドラマST(青)
芸能スタジオ副調整室の音声エリア(音響室)を韓国側の要望もあり、隔離する設計としました。映像エリアとの覗き窓をハンガー式のスライド窓とすることで開閉可能としました。
モニタースピーカー部は木製軸組+SP台(コンクリート打ち)としました。映像モニター部も木製+クロス仕上げとし、金属製の特有のビビリ音を無くし、吸音処理が可能な仕上げとしました。
基本的な仕様と色合いはレコーディングスタジオに準じたデザインとなりました。
レコーディングスタジオ
現在の日本にもない規模のスタジオ(外寸:20m×20m×11mH)でメインスタジオと5種の専用ブース(ピアノ・ドラム・パーカッション・ボーカル・管楽器)があります。
図7 レコーディングスタジオ計画 平面図
韓国ではライブ志向との事から壁、天井にも拡散を考えた反射面を多く採用し、大理石と角材の拡散体と木練付板の反射板、各種木製スリットと横目地クロスパネルの組み合わせでデザインしました。
写真11 スタジオメインフロア
天井には残響可変を考え電動の可変天井と中央部には照明の付いた反射・拡散浮雲(床面まで下がる)を吊りました。設計時には固定タイプでしたが、実施段階で音場可変と照明メンテナンスを考え電動式に変更していただきました。
写真12 メインスタジオ天井残響可変
ブースはR形状の拡散天井とし、ボーダー部と一部天井に吸音スリットを設け、フラッターエコー防止と低域の吸音を考えました。
写真13 ピアノブースとドラムブース
設計時は反射天井下部にデザインとしてR状の吸音&照明設置パネルと考えておりましたが、実施時に照明ユニットとバトンとして使用可能なサークルラインをダブルで設置しました。壁は後壁を上向きの反射壁とし、高域の拡散を考え40ミリ角の凹凸タイル状の石貼りとしてあります、コーナー部は吸音部と考え、隅切りし、横目地パネルとのマッチングを考え縦木製スリット貼りとしました。
写真14 ブース後壁の拡散壁
コントロールルーム
日本では考えられない広さと天井高がとれました。
ハードバッフル壁が天井まであると視覚的に重たい感じになることと、音像位置が上部へ定位することを懸念し、CH2700レベルの下がり天井とスピーカーバッフル面の高さを2700mmとしました。5.1chマルチサラウンド用スピーカ(GENELEC社製)をビルトイン方式としています。
写真15 コントロールルーム 3Dパース
モニタースピーカー周りの壁は、超ワイドな覗き窓の上枠をコンクリート台としたハードバッフル+クロスパネル仕上げとしました。低域のパワー感と音響定位を考え、最終的にパネル内の吸音材の調整による音響調整が可能な仕様としました。
写真16 完成後のコントロールルーム
内装仕上材は基本的に横貼りのクロスパネルで、腰部のみ横スリットとしました。後壁に拡散反射板をとNAC崔氏から最近韓国で採用している、木製スリットをランダムに貼った拡散体(ディフューザー)を設計に盛り込みました。
実施では横方向面積を小さくし、横方向の拡散を考慮に入れ、横スリットを縦スリットに変え、両サイドにゼブラ模様の練り付け柱でアクセントとしました。
写真17 コントロールルーム背後の拡散スリット
POST MIX-DOWN STUDIO
スタジオの背面に拡散反射板を設け、10個×700wの山形ユニットが左右に移動でき、吸音部と反射部の位置が変えられる方式を提案しました。
天井も全体的な吸音天井に片流れの木目練り付け天井板が吸音目地350wの間隔を設けることで、ぶら下がっている立体的な天井に視えるようにしました。
写真18-1 スタジオの背面に拡散反射板
コントロールルームは5.1chマルチサラウンド効果用スピーカをR状バトンに吊るし、移動式として角度調整も可能としています。
写真18-2 リアスピーカ用バトン
POST DUBBING STUDIO(1)
このスタジオはフォーリースタジオ(効果音)を兼ねるとのことで、スタジオ内部の浮床に効果音をとるための歩行音収録用に砂利・砂・板・コンクリートなどを設置するステンレスBOXを埋める必要がありました。
したがって、スタジオ浮床を部分的に200hの段差を設け、浮床RCとステンレスBOXを埋め込みました。
写真19 フォーリー用ステンレスBOX部分
実施時には採用しませんでしたが、設計時には残響可変装置の提案もありました。天井には大きな山形の反射面と吸音面を配置し、響きを変える予定でありました。
コントロールルームは5.1chマルチサラウンド用に、スピーカ(Dynaudio Acoustics 社AIR)をビルトイン方式として配置しました。(ハードバッフルは表面クロス仕上げ)
写真20 コントロールルーム
POST DUBBING STUDIO(2)
このスタジオの浮き遮音ブロックは大きな山形の凸形状とし、その山の部分に石を貼り反射・拡散体、コーナー部クロスパネル+木製横スリットの吸音部とする事で、リズム系の楽器の収録も考えています。
写真21 スタジオ(石を貼り反射・拡散体)
POST DUBBING STUDIO(3)(4)
今回のスタジオの中では一番小さいスタジオでマシンルームを挟んで左右対称に配置されています。(コントロール後部に窓を設置し覗ける様になっております。)
モニタースピーカーをビルトインせず置き型とし、窓上部のバッフル面は吸音パネル仕上げとしています。
スタジオはPOST MIX-DOWN STUDIOのイメージですが、壁の可変機構をなくし、背面壁と天井に木練り付反射板を配し、拡散を考えながら吸音処理をしています。
- 写真22-1 スタジオ3
- 写真22-2 スタジオ4(残響時間測定)
写真23 コントロールルーム(スタジオ3)
多目的(会議室)試写室
実施設計業務が始まった頃に、1Fエントランスホール横に多目的な試写室の提案をして欲しいとの依頼がありました。丁度日本で完成した室のスピーカシステムを提案しました。
フロントスピーカー(JBL)を200インチ音響透過スクリーンの背面にビルトインし、後部にプロジェクターを設置できる機材室を配置しています。
写真24 多目的室
上階が公開ホールという事で上部躯体は二重スラブの設計でしたので、遮音天井のみ防振構造としてあります。
階段状の客席で長方形の形状でしたので、躯体壁の内側にCB-200tを設けノコギリ形状の拡散壁とし、吸音、仕上壁はフラットとしています。
7. 施工
建物はSK Engineering&Construction(以降:SK建設と記す)が施工し、建物全体の品質管理を施主側から依頼を受けた企業によって、総合的に監理される体制となりました。
品質管理は材料を現場搬入時に受けることもあり、不備な物については現場内の仮設に敷設した加工場(地下階や4階通路などあらゆる場所が工場)で修正することがありました。POST DUBBING STUDIO(2)施工の様子を紹介します。
- 写真25 防振ゴム(M-5タイプ)
- 写真26 浮床(ワイヤーメッシュ)
- 写真27 ブロック積み
- 写真28 浮遮音層(モルタル塗り)
- 写真29 吸音層木軸下地
- 写真30 吸音層とバッフル板
施工中の現場検査は、「浮床用の防振ゴム配置」、「配管の貫通絶縁」、「浮床の絶縁」、「防振吊りハンガー位置確認:スプリングとゴムで絶縁するタイプ:韓国製」、「浮遮音層:ブロック積み絶縁」、「貫通部分のモルタル詰め遮音処理」、「木軸下地材のサイズや含水状態」、「吸音材:サウンドトラップ吊り用針金の太さ」、「吸音材の間隔と吊るす向き」、「軸組みと吸音体の非接触」、「設備貫通と浮構造との絶縁」、「ダクトのクロストーク実験」、「仕上げクロスパネルの布の皺や汚れ確認」、「施工時の納まり」等など音響諸室すべての室で、建設側と共に行いました。
写真31 現場検査(浮遮音層:ブロック積み)
特に、建設側はサウンドトラップの寸法と設置方向や間隔について、図面との違いを指摘するなど、日本では経験しない検査が行われました。このため、トラップが「芸術作品」のように美的となりました。
写真32 現場検査(トラップの吊り方と方向)
8. 測定
施工後の測定はゼネコン側(SK建設)の音響担当者(チャン氏)とNAC(徐さん)との共同で実施しました。遮音測定と残響時間の測定は、音楽系スタジオやコントロールルーム及び映像系の副調整室、音響室について実施しました。
事例として、公開スタジオとPOST DUBBING STUDIO(2)間の遮音性能と、メインスタジオのメインフロアとコントロールルームとピアノブースの残響時間を示します。
室間音圧レベル差はD-85以上で設計値を満たせました。建具は2段戸当り1重で45~50dB/500Hz、2重で65~70dBを確保しています。
メインフロアの残響時間は0.58秒/500Hz程度で天井の残響可変効果が0.1秒(250Hz)、コントロール側0.3秒、ピアノブース0.26秒で平坦な特性となっています。
図8 遮音性能(測定結果)
- 図9 公開ホールとミックスダウン間遮音性能
- 図10 建具(1重と2重扉)
図11 メインスタジオ残響時間
9. 音調整
放送局運用中に機器システム完成後の2008年1月、メインスタジオコントロールのスピーカ(GENELEC:1039A)再生音の聴感による音場調整(弊社:崎山)は、スピーカ周りの角度変更、スピーカBOX周りの荷重の増減やスピーカ周りバッフル壁表面の吸音処理を行ったことで、音の定位(ボーカルや楽器位置)や周波数特性が良好となりました。
写真33 スピーカ再生音調整
10. 韓国側の業務担当者の回想(崔氏と徐さん)
韓国側視点での経緯
NACエンジニアリング株式会社にMBC一山制作センター設立の話があったのは2002年6月ごろでした。
基本設計が始まる前に日本のテレビ局や建物の見学会(ベンチマーキング)を企画して、なんと49人の大部隊が同年9月1~7日まで大阪のNHKを初め日本のKey局スタジオの視察を行いました。(関西空港⇒新幹線移動⇒東京⇒成田空港の大移動)
2003年10月に日本音響エンジニアリング株式会社(NOEと記す)とNAC共同でSamoo設計事務所と音響設計委託業務について契約を結びました。業務範囲はNOEが音響基本設計(図書作成を含む)と実施設計のチェック、NACが図書まとめと実施設計図書の作成を担当しました。
2004年12月に音響基本設計(仕様書など)作成及び最終書類の提出。
2005年4月実施設計図書提出、MBC要望による訂正・提出に2006年5月まで続きました。
2006年8月に全体工事の責任施工会社であるSK建設からNAC・NOE共同責任施工の条件付で工事随意契約(NACは工事の責任、NOEは音響仕様の責任)となりました。
2006年11月~2007年9月まで音響工事ということで実施しました。
NACの役割
音響設計の立場から見たNACの役割は、MBC建設企画団の音響担当、音響関連の仕事が始めてのSK建設設計・音響担当、Samoo設計担当、間のコーディネーターの立場を任されました。コーディネーションすることは、空調設備、電気設備(弱電込む)、消防関連などの遮音関連(絶縁など)と仕上げに関わる内容について相互理解しながら設計業務を進めていかなければならないということもありました。予算の変動が問題となったこともありました。打合せが多く時間ばっかり経っても設計業務が中々進まない。また、納期に追われて検討しないまま作業は完了ということもありました。よい仕事というのは、よいチームワークであることこそ可能になると、つくづく思っています。
音響内装工事
音響関連重要室内装工事は、NACは施工、NOEは工事監理という事で2006年11月にスタートしました。韓国の気候というのはちょうど冬に向かい寒くなる時期です。
浮床のコンクリート打ちは建物の内部まで寒くならないうちに間に合いましたが、壁遮音層は、低音の遮音量も兼ねた重量ブロックの湿式工法で、浮床の上に鉄骨の間柱を立てて横・縦に鉄筋補強してブロック積んだ後モルタル塗り(片面、両面)が一番寒い時になりました。
寒い時期の工事に関する規則がありまして、室内温度が最低5℃を保たない場合、湿式工事は出来ないということで、仮設暖房しながらブロックを積み上げたりモルタルを塗ったり大変なことが2007年2月下旬まで続きました。
- 写真34ブロック積み(浮遮音層)
- 図12 浮・固定ブロック壁
こうやって徹底的に遮音性能を高めるという希望は、この工事に関係する皆さんが(電気・空調・防災設備など)認識を共有する必要がありました。現場進捗中に、ダクト・配管などの設備貫通部分はSK建設直営の穴埋め専用職人さんが埋め戻したり、やり直したりしました。
写真35 配管などの設備貫通部分遮音処理
仕上げ工事に入るとSK建設により、早期工事完了という要求になり、突貫作業が始まり職人さん・材料手配や搬入、他の工程などで混乱し、手戻りが発生し手間ばかりかかって能率の悪い日々が続きました。NACとしては、ここが一番辛いところでありました。
設計段階でやるべき事項
私は、MBCドリームセンター新築工事の建築音響パート担当の一人として、最初の計画から工事完了までの全過程に渡り、設計やコーディネーターの役割の重要性を改めて痛感しました。これほど大きな規模の物件になりますと、人間一人や二人の打ち合わせ終わるものではなく、大係りになって、中々コンセンサスを取りにくくなります。責任のないお互いの協力は言葉に過ぎないことになってしまいます。建築音響設計についても、各室の機能や性能検討も重要でありますが、その室を取り巻く付帯設備の取り合いも大切であります。音響担当者は性能ばかり追求する傾向となり、使用する側はより現実的で収納棚とかテーブルを置く場所の確保など細かい、使い勝手を重視するからです。
基本設計を行う際には、施主側の担当者とのやり取りも然ることながら実際使う部署側の要望を漏れなく傾聴して、反映する必要があります。そこに関わっている皆さんが建築音響の基本的なことを理解しなければ効果的な結果は期待できなくなります。
おわりに
韓国では、習慣や言葉や進め方など日本との違いがある中で、「日本人」の音響設計方針を快く理解して頂けました。
会議では石を投げると「金さん」に当たるというほど同名が多く、10人中3人が金さん、2人が李さんでありました。共同作業(他社の方)を実施した設計者や現場担当者の方々の名前と顔が一致しないまま、業務が終了しました。
貴重な業務経験でありましたが、感謝の意を伝えられないことが心残りとなっています。本件業務終了後に、MBC音声中継車の音響内装工事に係る技術協力を崔さんと行い、2008年6月に音声中継車の音場調整の合間に、イルサンのスタジオで音調(SPの左右バランス確認)を行いました。
最後に、NACエンジニアリング株式会社から2008年4月に独立し音響設計会社を設立した、崔さん「JONG-HO CHOI」、徐さん「MYOUNG-HEE SEO](現在:S+E&D株式会社)との共同業務により創造したスタジオが韓国でいつまでも評価の高い施設であることを願っております。
- 写真36 徐さん(遮音測定)
- 写真37 崔さん(監督中)