総選挙を打つタイミングもない
こうした流れを解散・総選挙で断ち切ることはできないかと安倍首相周辺が考えるのは当然で、トランプ米大統領が11月に再選を果たせば早速12月にも来日を求め「強固な日米同盟」を演出して年末ないし年初に解散という話も持ち上がっているようだが、戯言に等しい。
第1に、今秋にはコロナ禍は国内的には一段落しているかもしれないが、米国をはじめ世界はどうなっているか分かったものではない。
第2に、その中で、ほとんど酔っ払いのおじさんのようになっているトランプが再選されるかどうかは、ますます疑わしくなっている。
第3に、大物の国賓としては今春の来日を延期した習近平=中国主席を年内にも招くのが先で、その前にトランプを挟むのは筋違いである。
第4に、それ以前に、来秋はこの数カ月の自粛による経済破綻が一気に爆発して大変なことになっている公算大で、とうてい安倍首相の「政権立て直し」という自己都合のための総選挙に国民は付き合ってはいられな
い。
安倍首相の下でも、ましてや麻生臨時代理の下ではなおさら、総選挙はありえず、来年9月に選ばれる自民党新総裁の下で、10月の任期満了までの間に行われると見るのが順当である。
てんでんバラバラの政権運営
「安倍一強」と言われてきた政権がなぜこれほど無様なことになってしまったのか。
致命的な要因は、昨年9月の人事で首相秘書官の肩書で満足仕切れなかった今井尚哉が首相補佐官をも兼任して官邸を取り仕切る権限を得、菅義偉=官房長官を意思決定システムから排除しようとしたことである。
安倍政権がこれほどまでに長続きしてきた最大の要因は、良かれ悪しかれ、菅のいかにも旧自民党の党人派的な人脈管理術に基づく根回し能力であり、菅がいればこそ二階=幹事長や公明党の山口那津男=代表とのパイプも繋がっていた。また菅とその脇を離れない警察出身の杉田和博=官房副長官とは全省庁に目配りをし、その政策と人事の動きを情報管理していた。
それに対して、今井、その副官である佐伯耕三=秘書官(アベノマスクや安倍自宅リラックス動画アップの発案者)、西村康稔=経済再生症/コロナ対策相など、いずれも東大→経産エリート官僚の道を歩んできたグループは、本当のところは、その場限りを切り抜けるだけの小賢しい浅知恵しか持ち合わせていないのに、それで安倍首相を操ればこの国を取り仕切れると勘違いして、菅という「盲腸」を切って捨てようとしたのである。
安倍首相は、「今井ちゃんに聞けば、何だってすぐ答えが出てくるんだよ」と、その圧倒的な学力の差に感服しまくっていて、それはその通りなのだろうが、その今井らの「学力」とは上述のような「小賢しい浅知恵」以上のものではないので、その結果が政権の迷走状態となって発現するのである。
このようにして、菅を無視したことで二階にも山口にも話が行き渡らず、結果として安倍首相が大恥をかくことになった。さて、これから二階や山口は、どういうタイミングで安倍首相を見限ることになるのだろうか。
image by: 首相官邸