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響かなかった――『なぜ世界は存在しないのか』 マルクス・ガブリエル

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うえしん
 なぜ世界は存在しないのか 講談社選書メチエ マルクス・ガブリエル

 なぜ世界は存在しないのか 講談社選書メチエ マルクス・ガブリエル



 「哲学界のロックスター」とよばれ、話題になったのはこの本が出た2018年ころのことだったろうか。このタイトルも気になるし、読みたい気もあったのだが、図書館で見かけるようになった今ごろにようやく読んだ。

 やさしい言葉で語っているのはたしかだが、議論が錯綜していて、「はて? 世界とはどのようなことをいうのか」レベルでさえ私には疑問が残ってしまった。

 基本的に私はマルクス・ガブリエルが批判の俎上にあげる構築主義・ポストモダンの思想にとらえられており、まだじゅうぶん追究つくせたとは思っていない。さらにはもっと幻想だ、実在しないという方向に追究をつづけているので、ガブリエルの主張にうなずくことはできなかった。神秘思想探究は、この途上にある。

 私が熱中しているいま・ここの世界だけがあり、時間は存在しないという考えは、奇妙な考えであり、間違った存在論の結果に他ならないといわれることに対しては、反発しか感じない。ガブリエルは「私の敵だ」と思っていたが、この本を読んでも納得できる反論に出会えたわけでもない。

 ガブリエルが主張する「世界」とはなんだろうか、その言葉を追ってみる。たんに「世界像」のことをいっているにすぎないのか迷ってしまう。

「こうして世界とは、わたしたちなしでも存在するすべての事物・事実だけでなく、わたしたちなしには存在しないいっさいの事物・事実もそのなかに現に存在している領域である、ということになります」



「世界とは、すべての意味の場の意味の場、それ以外のいっさいの意味の場がそのなかに現象してくる意味の場である」



「つまり、存在するいっさいのもの、現象するいっさいのものが結局のところ示しているのは、世界など存在しないということなのです。というのも、いっさいのものが存在しているのは、世界が存在しないからにほかならないからです。世界について考えることはできません。世界について考えようとして捉えられるのは、何でもないこと、すなわち無にすぎません。もっと正確に言えば、それは「無以下」のものでしかありません。世界についていかなる思考も、世界のなかでの思考です。上方から俯瞰して世界を考えることはできません」



「この世界像は、感覚で捉えられるものの領域を、存在することそれ自体と取り違え、人間にとっての感覚の必要を、銀河の拡がり全体に投影しています」



「人間は、自らを世界から抹消し、世界を冷たい家郷――すなわち宇宙――と同一視し始めました。こうして人間は、再びこっそり世界像という観念に密入国したのでした。この世界は本質的に観る者のいない世界であるという想定それ自体が、当の想定が抹消したがっている「観る者」なしにはありえないものだからです」



「どんな科学的世界像も成り立たないのは、なぜでしょうか。第一の理由は、ごく単純に、そもそも世界が存在しないことにあります。そもそも存在しないもの、思考のなかにさえ存在することのありえないもの、そのようなものについて像を描くことはできません。…第二の理由は、…わたしたちが世界についての像を描けないのは、外から世界をながめることができないからだということに関連しています」



 世界像というのは、観る者・観察するものを含まず、除外することにによって成り立つ世界である。これは量子力学の世界でよく観察者の干渉ぬきに量子をとらえることはできないという話でよく聞く。また見る者から切り離した世界は存在しないというのは仏教でもよく聞く話である。ヤスパースも主観と対象に分離した世界など存在しないともいっていた。この「世界像」のことをいっているのか。だとしたら、そんなに目新しいものではない。

 私はまだまだ構築主義にとらわれている。「言葉が現実をつくる」という構築主義やポストモダンはまだ追究し足りないし、言葉の世界も、感覚の世界も実在しないという言説を、仏教や神秘思想に追っている。頭の中で思い描く世界を崩壊させたい、流散させたいのである。実在とよばれるものを徹底的に無に帰したいので、ガブリエルのとなえるような「新しい実在論」にはなびくことはできないのである。

 ポストモダンの相対主義は、「真理などない、それぞれの絶対と正義があるだけだ」という絶対のない世界を生みだして、寄る辺のない問題多き置き土産を現代に表出させているのはたしかだ。しかしその問題に向き合うほどの基礎固めすら、私にはまだまだ途上なのである。





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Posted byうえしん

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