28編もの短編が収録されている短編集
いわゆる「サイエンス」なSFというよりはむしろ、奇妙な話、不思議な話というテイスト
わりと現代のロンドンを舞台にしたような作品が多い気がした
28編もあるので、面白いものもあればそうでもないものもある。というか、自分がちょっと集中力欠いている状態だったこともあり、全然よく分からなかったものもある。
面白かったのは「ポリニア」「〈蜂〉の皇太后」「〈ザ・ロープ〉こそが世界」「恐ろしい結末」「バスタード・プロンプト」「コヴハイズ」「ウシャギ」「デザイン」あたりかなあ
ここにあげた8編だけでも、方向性が割とバラバラだったりする。
ミエヴィル読むのこれが初めて
で、読み終わった後にちょっと検索してたら、本人の写真を見つけて驚いた
スキンヘッド、ピアスじゃらじゃら、マッチョ、タトゥーありの強面白人男性だったので
Wikipediaによれば、イギリスの左翼政党に属しており、下院選挙に立候補した経験もあるらしい。同じくWikipedia記事だと、「イギリスのファンタジー作家」とあり、自身では「怪奇小説」と説明することを好み、「ニュー・ウィアード」というジャンルに属するらしい。
とりあえず、「ニュー・ウィアード」でググってヒットした記事を二つ以下に挙げておく。
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スチームパンクをめぐる冒険(2) - SF行為記録保管所
爆発の三つの欠片(かけら) (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
- 作者: チャイナミエヴィル,引地渉,日暮雅通,嶋田洋一,市田泉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/12/08
- メディア: 単行本
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爆発の三つの欠片
ポリニア
〈新死〉の条件
〈蜂〉の皇太后
山腹にて
クローラー
神を見る目
九番目のテクニック
〈ザ・ロープ〉こそが世界
ノスリの卵
ゼッケン
シラバス
恐ろしい結末
祝祭のあと
土埃まみれの帽子
脱出者
バスタード・プロンプト
ルール
団地
キープ
切断主義第二宣言
コヴハイズ
饗応
最期の瞬間のオルフェウス 四種
ウシャギ
鳥の声を聞け
馬
デザイン
爆発の三つの欠片
2〜3ページしかないので、正直よく分からなかったといえばよく分からなかったんだけど
爆発を使って広告を出すのが流行になっている世界の話
ポリニア
ロンドン上空に突然いくつもの氷山が浮かぶようになった話
男の子が主人公で、氷山に惹かれる子供時代が描かれている。同じ氷山好きな友人がいるのだけど、友人グループの中であんまりイケてない奴だから本当はそんなに親しくしたくないんだけど、氷山という共通の趣味があるからどうしても親しくなっちゃってという
〈新死〉の条件
ある時から、死体がみんな観察者の方に足を向けるようになってしまった、という話
死体が方位磁針のように回転する。観察する人が多数いる場合、それぞれの方向に向いている。とある難破事故が起きたとき、遺体がみんな同じ方向を向くということが起きたらしい。
〈蜂〉の皇太后
これはおそらく、この短編集の中で1,2を争う面白い話
ギャンブラーの間に伝わる隠れスートの話
タイトルとなっている「〈蜂〉の皇太后」というのは、主人公が初めて遭遇した隠れカード。「〈ハート〉のキング」とかそういう感じで「〈蜂〉の皇太后」というカードがポーカーやっている時に出てきた。
その瞬間だけ現れて、あとで探しても見つからない。その瞬間だけ、ルールブックにこのカードで出来る手役についての説明が出てくる。
「〈蜂〉の皇太后」以外にも色々あるけれど(〈チムニー〉とか〈チェーン〉とか)、知っている人たち同士でもおおっぴらに話されることはない。
山腹にて
遺跡を発掘してる話
クローラー
この短編集の中に何本か収録されている、映画の予告編シリーズの一つ。
秒数が書いてあって、そのシーンの説明が書いてあって、全部で3〜4ページくらいの作品
わりと意味不明
これはなんか、ゾンビ映画の予告編
(普通のゾンビとクローラー(這う者)というゾンビがいて、相争う話っぽい)
神を見る目
定期的に船が現れる島の話
九番目のテクニック
兵士の残したヘルメットとかそういうものがオカルト的な品として取り扱われている世界
グアンタナモで使われた虫を手に入れる女性の話
〈ザ・ロープ〉こそが世界
軌道エレベーターをテーマにした、この短編集の中では珍しいわりとSFっぽい短編
世界で最初に作られ始めた(しかし、建設が遅れ完成は中国とアメリカに追い抜かれた)軌道エレベーター〈ザ・ロープ〉の物語
上客は先に完成したエレベータに取られちゃって、採算が悪くなっていって、中間部のメンテナンスが悪化していくという経緯が綴られていく。
でも、その中で生活している人たちもいて、降りることも昇ることもなく生涯を過ごしていく彼らにとって、〈ザ・ロープ〉こそが世界だよねっていう話
飛び降り自殺が流行ったとかそういうエピソードも
ノスリの卵
戦争で隣国から奪ってきた、その国の神様の石像を塔の中で世話している男の話
ゼッケン
これはもう完全にホラー
女性研究者と女子大生のフランスの田舎に別荘借りてバカンスしてるのだけど、女子大生がなんか変な音を聞くようになる。
「ここマジでやばいから一緒にイギリス帰ろう」って頼むんだけど、話が通じなくて女子大生1人だけで帰国。そしたら、研究者の方がその別荘で亡くなったという報せが入る。
で、色々調べていたら、中世以前に行われていた死刑で、受刑者と雄鶏やらヘビやら猿やらを同じ袋に入れて水に沈めるというものがあって、それの霊が祟っていたっぽいということがわかってくる(女子大生が聞いた不審な音は、動物の鳴き声とか)
恐ろしい結末
ある心理カウンセラーの話
これは何というか、ほぼギャグに近い
トラウマの媒介物を取り除くための独特の療法を行っているカウンセラー
祝祭のあと
お祭りのイベントとして、豚の頭を被ることになった男性の話
他にも、色々な動物の頭部をかぶった人たちがいるのだけど、その中の何人かが、触手に侵入されて気がふれてしまう
土埃まみれの帽子
これは、左翼セクトの集会に土埃まみれの帽子をかぶった男が入ってくるという話
セクトが分裂していくところが描かれていて、読んでいた時は、何故こんな話が? と思っていたのだが、ミエヴィル自身が左翼だったのかー、と
脱出者
映画の予告編シリーズ第2弾
バスタード・プロンプト
主人公の恋人は売れない役者をやっているのだが、ある時から、疑似患者の仕事を請け負うようになり、そちらを本業とするようになる。
疑似患者というのは、医者の教育・研修のために、患者の演技をする者で、役者経験者が多く従事している。
彼女は、疑似患者として高い評価を得るようになっていくのだが、次第に奇妙な間違いをするようになる。今までに報告されたこともないような奇妙な症状を訴える演技をするようになったのだ。
ルール
飛行機のなくなった世界でも、飛行機の真似をして遊ぶ子供たちがいる世界
団地
団地に戻ってきた男
キープ
溝ができるという謎の感染病(?)が蔓延している世界の話
切断主義第二宣言
これは、切断主義という芸術運動の宣言(マニフェスト)という体の文章
他の絵画を切断して、その断面を作品とするというもの
芸術SFなんじゃないでしょうか
「爆発の3つの欠片」は、爆発を広告として使っている話だけど、あらすじ紹介だと爆発芸術とか書かれているし、この後に出てくる「ウシャギ」や「デザイン」もある種芸術に関わるような作品ではないかと思うが
コヴハイズ
石油プラント怪獣小説
これ、以前読んだことがあった→『SFマガジン2013年4月号』 - logical cypher scape
元軍人の男が娘を連れて立入禁止区域に忍び込む
そこに、石油プラントが上陸する
海に沈んだ石油プラントが、突然動き出して上陸するようになった世界の話
まるで怪獣のような扱い
卵とか産むし
饗応
反ユダヤ的な映画の脚本家の失踪から始まり、その映画をめぐるドキュメントタッチな作品
最期の瞬間のオルフェウス 四種
ウシャギ
これも結構不気味な雰囲気漂う話
学生時代の後輩を下宿人として住まわせる夫婦
その後輩は、定職に就かず自主制作アニメを作ってwebにあげていたりの活動をしているのだけど、あまりクオリティは高くない。
拾ってきた怪しい絵とかを勝手にダイニングに飾ったりして、あまつさえ、幼い息子がその絵に興味を持ち始めていたりするので、妻の方は次第に彼を嫌い始める。
タイトルの「ウシャギ」は、彼女の息子が「ウサギ」のことをそう言っている。原題は、rabbet
ウサギというのは、その後輩が作ったアニメに出てくるキャラクター
なんか謎の額縁があって、後輩はそれを手に入れたことで、作品がかわる
鳥の声を聞け
映画の予告編シリーズその3
馬
もし日本だったら、SFではなくて『群像』とかに載ってそうな雰囲気の作品に思えた。
メリーゴーラウンドの馬の模型が飾ってある窓の前で泣きはらす少年が出てくるところから始まる。
デザイン
遺体の骨に絵が描かれていたという話なのだけど、2人の男性のどこかブロマンス的な(?)関係を描いた作品でもある。
この短編集の中では非常に少ない(あるいは唯一の*1 )過去が舞台になっている作品で、戦前・戦中くらいの時期の話
(他の作品は、明らかに未来とか異世界とかもあるけど、わりとスマートホンとかSNSとかが出てきて「あー現代が舞台なんだなー」と分かる。あーそういえば、この奇妙な風景と現代的なガジェットが何気なく同居している感じは、プリースト『夢幻諸島から』とも雰囲気が似ているかもなーと思った。閑話休題。この作品は、時代が明示されている)
とある医学生が、解剖実習のさなか、骨に絵が描かれていることに気付き、その遺体を丸ごと盗み出す
*1:ちゃんと確認してない