サブタイトルは「ダーウィン進化論は文化を説明できるか」
そのタイトル通り、進化論で文化を説明するという新しい学問分野について、一般向けに書かれた、分野全体を見通す本
「統合」がキーワードとして出てくる。日本語版序文では、「自然科学と社会科学の統合」「社会科学内部の統合」「国際的な統合」の3つが挙げられているが、特に主だったものは二つ目の「社会科学内部の統合」だろう。
進化論は、生物科学の世界に統合をもたらした。
20世紀初頭まで分裂していた遺伝学と古生物学は、1930〜40年代の集団遺伝学の発展によって、現代的総合と呼ばれる「統合」がなされ、ミクロな現象(遺伝)とマクロな現象(進化)についての研究が同じパラダイムを共有するようになった。
これに対して、現在の社会科学の諸分野はいまだ分裂したままである。文化人類学、考古学、歴史学のようなマクロな現象を扱う分野と、心理学やミクロ経済学のようなミクロな現象を扱う分野と、それぞれ語彙やモデルを共有してはいない。
文化進化論は、こうした社会科学諸分野を統合する方向へと働く。
文化について進化論で説明するとはどういうことか、ましてそれによって諸分野を統合するとはどういうことか
数理モデルを作る、実験を行う、実際の社会や文化を観察するなどである。
観察についても、定量的なデータを統計的に処理することが重要視される。
文化研究を自然科学的に行っていくとも言えるかもしれない。
個人的には読んでいて結構面白いと感じた部分だったが、人によっては思うところもあるかもしれない。
面白いのは4~6章
ゴルトンの問題は系統樹で解け、とか
帝国の盛衰の話もとても面白かった。もっとも、これは生態学の歴史学への応用(?)であって、必ずしも進化論ではないような気がしたけど、数理モデルを作ることで、従来の仮説に対して、変数が足りてないことが分かったとか面白かった。
それから、最小限の反直感性を持つものは伝達されやすいっていうも、とても面白かった。
超自然的な概念や宗教的な概念が、あらゆるところにある理由ではないかと推測されているけれど、そのあたりの話とかかわって面白そう。
なんでフィクションがこんなに好まれるのか、とか。リアリティを求められるけれど、現実の話じゃなくてフィクションがいいっていうのとか、こういうあたりにありそう。
もっともこれ、そういうのが伝達されやすいということが分かっただけで、なぜそれが伝達されやすいのかまでは分かってないけれど。
7章以降は、章を追うごとに勢いがやや落ちていくような感じはある。
文化進化論と聞いて、ありうる誤解について、第2章において注意が促されているが
まず、一つにはいわゆる社会進化論とは違うということである。
もう一つ重要なのは、生物進化論の考え方を使いつつも、生物の進化と文化の進化が異なるということが組み込まれている点である。
これを筆者は、ダーウィニズムではあるが、ネオ・ダーウィニズムではないと述べている。
例えば、文化進化は必ずしも遺伝子の存在を前提にしないということである。
遺伝子のような粒子的な単位は、あるかもしれないし、ないかもしれない。
生物の場合、遺伝子に基づく遺伝法則が明らかになっており、それをもとに進化についても考えられている。例えば、赤い花と白い花をかけあわせても、ピンクの花にならないことをメンデルの遺伝学は明らかにした。赤や白という表現型が、遺伝型として粒子的な単位にコードされているからである。
一方、文化進化の場合は、ピンクの花のような中間的な表現型が出てくることは当然想定される。粒子的ではなく、融合的な伝達もありうる。
また、ラマルク的な継承もありうる。
このあたりで、文化進化論は、いわゆるミーム学とは一線を画している*1。
ちなみに、筆者は1980年生まれとまだ若い。原著が出たのは2011年。
第1章 文化的な種
文化とは何か
文化はどのくらい重要か
文化か、環境か、遺伝か
文化の研究のあり方をめぐる問題
結論――文化は重要だが、正しく研究されていない
第2章 文化進化
文化の変化はダーウィンの3つの条件を示しているか
さらなる類似点
文化進化論はダーウィン的かスペンサー的か
文化進化論はダーウィン的かネオ・ダーウィン的か
ミクロとマクロの分裂を乗り越えて
結論――ダーウィン的な文化進化論は社会科学を統合する
第3章 文化の小進化
文化の伝達
誘導された変異(またはラマルク的継承)
文化選択
文化浮動
自然選択
文化移動
結論――ダーウィン的な文化進化の定量的理論
第4章 文化の大進化1 考古学と人類学
系統学――命(と文化)の木を再構成する
文化の大進化における浮動と人口統計学
結論――文化の遠い過去を進化的に洞察する
第5章 文化の大進化2 言語と歴史
言語の進化――バベルの塔の系統
写本の進化
個体群生態学と歴史の出会い――帝国の盛衰
歴史を文化進化で分析することへの反対意見
結論――ミクロとマクロの統合
第6章 進化の実験 実験室における文化進化
実験室で、生物の進化を模倣する
大腸菌から文化へ
結論――実験の利点
第7章 進化民族誌学 現実社会での文化進化
現実世界での生物の進化を調べる
現実の世界で起きる文化進化を調べる
森から研究室へ――科学者を彼らにとって自然な環境で観察する
結論――実地調査がもたらす恩恵
第8章 進化経済学 市場における文化進化
進化経済学――完全予見という神話に挑む
行動経済学――純粋な利己心という神話に挑む
結論――文化進化は、従来の経済理論より正確に、経済現象を説明する
第9章 人間以外の種の文化
社会的学習は広まり、適応性がある
社会的学習から文化的伝統へ
文化的伝統から蓄積による文化進化へ
結論――他の種にも文化はあるが、文化進化はない
第10章 社会科学の進化的統合に向けて
進化方法の利点
統合に向かって
実益
結論
解説(竹澤正哲)
第1章 文化的な種
本書では文化を「模倣、教育、言語といった社会的な伝達機構を介して他者から習得する情報」と定義する
こうした情報によって、行動が引き起こされる。
人間の行動は、遺伝(によって伝えられる情報)や個人的な学習(によって得られる情報)にも影響を受ける。が、遺伝とも学習とも異なる原因が行動を生み出している場合がある。それが文化である。
第2章 文化進化
ダーウィンの進化の三つの条件=変異、生存競争、継承
これらが文化にも当てはまることを確認し、さらに、適応、不適応、収斂といった現象が起きることも確認
文化を進化論から考える考え方は、19世紀からすでにあったが、それはダーウィン的ではなくスペンサー的な、進化というより「進歩」による考えだった。無論、本書の文化進化論はそのようなスペンサー的な進化論ではない。
・遺伝は、微粒子によって起きる
・遺伝は非ラマルク的である
・変異は自然選択に対して無目的に起きる
これらの特徴を、ダーウィン進化論に加えたものを「ネオ・ダーウィニズム」と呼ぶ
文化進化は「ネオ・ダーウィニズム」的ではない
「文化の伝達において複製されるのは、表現型である(P.74)」
個人による修正も継承されていく
第3章 文化の小進化
文化進化のプロセスについての数理モデル
これは、1970〜80年代にかけて
カヴァッリ・スフォルツァとフェルドマン、ボイドとリチャーソンによる研究によるものである
本書が紹介している「文化進化論」とは、この4人によって定式化されたものをベースとしている
以下、プロセスについて、伝達、変異、文化選択、文化不動、自然選択、移動に分類して説明している
- 伝達
伝達の経路や範囲、メカニズムについて
経路は、親からの「垂直」の伝達、親世代の他人からの「斜め」の伝達、同世代の他人からの「水平」な伝達がある
生物の場合は、基本的には垂直(水平遺伝などもあるが)なのに対して、文化は水平や斜めの場合も多い。また、範囲について、一対一だけでなく、一対多もある。
ある特徴が集団内にどのような速度で広まっていくか、経路ごと数理モデルを構築した。
垂直な伝達は、水平な伝達よりも広まり方が遅い。
こうしたことは、宗教的な信念の広まり方とファッションの広まり方の速度の違いととらえることができる
- 変異
ここも、生物の進化とは少し違う
「誘導された変異」という現象をモデルに組み込んでいる
誘導された変異とは、個人による改良が継承されていくことで、つまりラマルク的な要素
- 文化選択
ある文化的特徴が他の文化的特徴より獲得されやすく伝わりやすい状態
例えば「内容バイアス」
広まりやすい内容を持っていると、それが広まっていくというもの
内容バイアスの中には、「気持ち悪い話」「最小限の反直観性を持つ話*2」などがある。不気味な都市伝説とか、ちょっと不思議な幽霊の話とか、そういった話はそうでない話よりも広まりやすい
直観に反する要素(カボチャが馬車になる)が2つか3つ入ってると、そういう要素がない話やたくさんある話より伝わりやすい。
内容バイアスと誘導された変異の違いというのが面白い。
この2つは、より「魅力」のあるものが増えていくという点で似ているが、普及の仕方に違いがある。
内容バイアスの場合、S字カーブを、誘導された変異の場合はr字カーブを描く。
文化選択にはほかに集団内で人気のある特徴を過度に模倣する「同調」
特徴を有する人の人となりによってその特徴を模倣する「モデルによるバイアス(名声バイアスなど)」がある。
- 文化浮動
その名のとおり、遺伝的浮動の文化版
これは帰無仮説として使うことができる
文化浮動モデルは、べき乗分布をもたらす。
赤ちゃんの名前、技術特許が引用される頻度、古代西欧の陶器の模様の頻度、犬種の流行などがべき乗分布となっている。
その中で、犬種の流行については、1985年から6年間、べき乗分布からの逸脱が起きている。この年に『101』が公開されており、ダルメシアンが増えており、この時に文化選択が起きたことを示している。
- 自然選択
生存者が減るような文化は自然選択によって淘汰されるように思われる。
しかし、実際には自然選択よりも文化選択の方がスピーディに作用するので、自然選択の力は弱い
- 文化移動
ある集団から別の集団へ、文化的特徴が移動すること
第4章 文化の大進化1 考古学と人類学
系統樹と最大節約法についての説明
最大節約法は、収斂進化のもっとも少ない系統樹を選ぶ
一致指数(CI)によって評価する。CI=1では収斂進化が起きていない、1より小さくなるほど系統樹の正当性は低くなる。
考古学分野において、尖頭器について系統樹を作る試みがなされている。基部の形、縦横比などの特徴ごとに値をふって、特徴の組み合わせを型として、これらの型の系統樹を構築。CIは0.59で、生物学的な系統樹と同等の値であった
ゴルトンの問題
複数の文化的特徴が同時に見られるとき、単に歴史を共有しているからそうなっているだけで、それらが機能的に結びついていると説明することはできないという問題
例えば、地球外から来た人類学者が地球人の社会を観察したときに、裕福な社会と貧しい社会があり、裕福な社会の男性はネクタイを着けている人が多いことを発見したとする。そして、ネクタイこそが富を産み出していると考えたとする。これはもちろん誤りである。ネクタイと富の間には機能的なつながりはない。ネクタイはもともと産業革命の頃の英国の流行であり、産業革命による英国の富の拡大にともなって、機械産業とともに広まっていったにすぎない。
生物学者も同様の問題を抱えているが、系統樹を構築することで、この問題に答えを出すことができる
1994年、人類学者と生物学者の協力により、人類学でも同様の研究が行われた。
それは、1961年に発表された、父系社会と牧畜社会、母系社会と農耕社会には結びつきがあるという研究の検証である。
この研究では、現時点において、牧畜社会には父系社会が多く、農耕社会には母系社会が多いということを示したのみであって、この2つの結びつきが、単に歴史的な偶然なのか、機能的な関係があるのかまではわからない。
これに対して、言語を用いてサハラ以南の社会についての系統樹を構築。社会の移行が何度も起きていたことや、その中でも起こりやすい移行(母系の家畜社会は、父系の家畜社会か母系の家畜のいない社会に移行しやすい)があることが分かった
文化進化は樹状か
生物は分岐していくので樹状になる。が、文化は分岐せず融合することもあるので樹状にならない。文化進化に対する反論としてよく出てくるものである。
これに対して、まず生命ですらも、最近では細菌や植物では水平伝播によって樹状にならないことが分かってきている。
また、文化についても、樹状パターンを示すことが分かってきている。
トルクメン人の織物の模様、北米の尖頭器、新石器時代の陶器の装飾、食事のタブー、思春期の通過儀礼などのデータセットと、様々な生物のデータセットの系統樹について、RIという指数を調べた。この指数が1に近いほど樹状パターンとなる。生物のデータセットの平均値は0.61、文化のデータセットの平均値は0.59となった。
生物の系統樹を樹状にするのは、種の分化だが、これに対して、文化の系統樹については、「伝達分離メカニズム、略してTRIM」によって樹状になっている
TRIMの候補は、例えば言語、自民族中心主義が挙げられる。他の集団との交流が妨げられると、進化のパターンは樹状となる。
対して、20世紀初頭のカリフォルニアの先住民族が作った篭細工のデザインについては、0.35という系統樹となった。20世紀には、集団間での伝達が起きるようになっていて、樹状パターンが崩れたのだと考えられる。
人類の拡散とハンドアックス
第5章 文化の大進化2 言語と歴史
旧来からなされていた言語の比較研究と、文化進化論的な研究は、基本的な考え方については似ている(ただし、筆者は前者が主観的であるのに対して、後者はより客観的だと述べている)。
進化論の手法で得られた印欧語族の系統樹と、伝統的な方法で作られたものとはよく似ていた。
写本の変化とDNAの複製の変化の類似
帝国の盛衰
生態学者で歴史学者であるピーター・ターチン
歴史学に個体群生態学でもちいられるモデルを導入する
個体群生態学=生物の個体数は指数関数的に成長するが、環境収容力による頭打ちがあるとか、捕食者と非捕食者の個体数がお互いに追いかけあうように増減するとか
歴史において、
帝国が面積を拡大して、衰亡していく様子をモデル化できないか?
コリンズは、帝国の面積の増減を、戦争の勝利、資源、兵站の3つの要素で説明できると示唆した。
ターチンはこれを数理モデルとした。
ところが、このモデルでは、帝国は消滅するか平衡状態に収束するかのどちらかで、興亡を繰り返すという現象(「振動」)が起きなかった。
「振動」を起こすには変数を増やす必要があった。
ターチンは、もう一つのパラメータは社会的結束力ではないかと考え、それをモデルに取り込んだ。
このモデルは、より現実の歴史に起こる帝国の興亡ともあてはまるものとなった。
また、このモデルからは、帝国はたいてい結束力が高い国境地域から発生できると予測でき、ターチンはそれが事実であることも確認した。
第6章 進化の実験 実験室における文化進化
生物の進化研究でも、大腸菌を使った実験が行われている
実験の利点
・変化を正確に知ることができる
・何度も再現できる
・変数を操作できる
文化進化でも実験を行えば同様の利点を得られる
もちろん欠点もある。実環境でも実験室と同じようにふるまうとは限らないし、狩猟採集民や写本に関わっていた人々と実験に参加する現代人は振る舞いが違うはず。
しかし、人類学、歴史学、社会学などの知見とあわせることで、実験も使えるはず
伝達連鎖法
「伝言ゲーム」の実験
この実験の話は結構面白かった
まず、ゴシップの方が非ゴシップより伝わりやすいという実験
それから、最小限の反直感性を持つものに惹かれるというバイアスを確かめる実験
被験者に、見知らぬ惑星の博物館を訪れるという物語を読ませる。
その博物館に何がいるかでそれぞれ内容が異なり、最小限の反直感性をもつもの(自然な要因では簡単に死なないような動物)、平凡なもの(損傷がひどいと死ぬ動物)、非凡なもの(絶対に死なない動物)のどれかである。
平凡なものや非凡なものより、最小限の反直感性を持つを持つものの方が伝達されやすいということが実験でも確かめられた。
さらに、内容バイアスだけでなく誘導された変異も起こっていた。非凡な概念が、最小限の反直感性を持つものに変更されていた(逆の変更はめったになかった)。
世界の様々な場所で、超自然的な概念や宗教的な概念がみられる理由を説明できるのではないか、としている。
同じく伝達連鎖実験で、架空の言語を伝達させるというものもある。例えば、「弾む、赤い、四角形」は「kihemiwi」だ、というような。
この実験では、被験者は見たものとラベルの組み合わせを正確に思い出すという課題を行う。その課題によって作られた組み合わせが、次の世代の被験者に渡される。ただし、被験者自身は、自分の課題がそうやって連鎖していくことを知らない。
実験結果によると、10世代を超えるとエラー率が格段に下がることがわかった。
言語が適応度を高めて、伝達されやすいものへと変化していった。ラベルとものとの組み合わせに規則性ができてくる。
筆者は、この実験結果がチョムスキーの生得仮説への異議になるのではないかと書いてあるが、このあたりはちょっとよくわからなかった。
「アンフェアな協調ゲーム」
夫と妻とが、夫の提案に妻が同意すると、夫100妻50、妻の提案に夫が同意すると、夫50妻100の満足度が得られる。お互い同意しないと夫0妻0になるので、どちらかを選ばないといけない
複数世代にこのゲームをさせて、先行するペアすべての履歴と、一つ前の世代のアドバイスを伝える。
「アドバイスなし」と「履歴なし」のそれぞれを行うと、すべての履歴より一つ前のアドバイスの方が行動を左右する
写本の実験
学生に中世ドイツの詩を写させる。それを系統学的手法で系統樹を推定し、系統学的手法が実際の写本のつながりをうまく推定できるかを検証した
仮想矢じりゲーム
カリフォルニア州で発見された矢じりとネヴァダ州で発見された矢じり
前者はデザインが多様で、後者は統一性があった。
これは前者が誘導された変異によって、後者が名声バイアスによって広まったからではないか、という仮説
これを検証するため、考古学者マイケル・オブライエンと筆者は、仮想矢じりを設計して狩りをするコンピュータ・ゲームを作った。
個人的な試行錯誤だけで矢じりを作る実験
他のプレイヤーが作った矢じりのデザインをコピーできる(名声バイアスの介入を可能にする)状態にした実験
また、ゲーム中の矢じりの「適応度地形」をコントロールしての実験
適応度地形→最適なデザインがいくつあるか。適応度の高いデザインが複数あるという場合もある。
適応度ピークが一つだけなら、誘導された変異でも名声バイアスでも最終的にデザインは統一されていく。
第7章 進化民族誌学 現実社会での文化進化
実験は、内的妥当性はあるが、外的妥当性にかける
実地調査は、内的妥当性に欠けるが、外的妥当性がある。
生物学での実地調査
グラント夫妻、ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチに関する調査(1980年代)
もともと(20世紀初頭まで)、自然選択に大きな進化的変化を起こすことができるか疑問視されており、実地で生物を観察したりする人たちにはラマルク主義が支持されていた。集団遺伝学による数理モデルによって自然選択の強さが証明され、実験による結果が出てもなお議論は収束せず、グラント夫妻の研究は自然選択の力を実際に計測するものとなった。
文化進化の数理的なモデルを作った一人カヴァッリ・スフォルァと、人類学者のヒューレットによる、中央アフリカ、アカ族についての調査。
技能を誰から伝達されたか。伝達経路の調査。
また、アウンガーは、コンゴの食に関するタブーについて調査。スフォルツァとヒューレットの調査は、自己報告によるものだが、アウンガーは、自己報告に加えて、類似性に基づく分析を加えた。
自己報告に基づいたデータでは、アカ族についてもコンゴについても、縦の伝達(親から)が強い。
ところが、類似性に基づく分析をすると、2種類のパターンがあり、片方は樹状にならない。また、縦の伝達が自己報告よりも強くないことがわかった。実際には横やななめからの伝達もある。
生物哲学者デイヴィッド・ハルによる、科学者についての研究
科学者は確かに主観や偏見などのバイアスを持っている。しかし集団全体では、科学知識をより正確にするように進んでいる。「概念の包括適応度」
スモールネットワークもいいけど、スモールネットワークは、ある時点における社会をとらえることはできても、時間的な変化はとらえられない。文化進化論。は社会学と民族詩学をつなぐ。
第8章 進化経済学 市場における文化進化
ポラロイド社の話とか。
この章については、shorebirdさんがコメントしてる。2016-06-14
第9章 人間以外の種の文化
文化を「社会的に伝達された情報」と広義に定義すれば、人間以外の種にも文化はありうる。
人間以外の種の分化について研究することによる利点
(1)文化進化が生物進化のどこで始まったのか
(2)人間の文化とは何かがよりはっきりわかるようになる
社会的学習:別の個体から非遺伝的に情報を得ること
環境の変化が速い場合は、学習に適応上のメリットがある
文化的伝統:ある集団のほぼ全員が同じ行動を行い、他の集団のほぼ全員が別の行動を行うこと
霊長類(道具の使用)、イルカ(海綿を加えて餌をさがす、ある群れにだけ見られる行動)、鳥(さえずりパターン)や魚(回遊ルート)にもみられる
遺伝的差異では説明できない集団間の差異
蓄積による文化進化
他の種と人間との違い
蓄積を可能にしたものは何か?
仮説(1)イミテーション
トマセロ:「エミュレーション」と「イミテーション」を区別(前者は結果だけマネすること、後者は身体の活動をまねすること
仮説(2)過剰な模倣
人間の子供は、不必要な行動まで模倣する
仮説(3)切り替え
効率の良い方法があれば、これまでやっていた方法から切り替えることができる
仮説(4)教育
第10章 社会科学の進化的統合に向けて
筆者は、社会科学の諸分野を生物学の諸分野に喩える。
例えば、古生物学は考古学、歴史学、生物地理学は文化人類学、言語学。行動生態学は民族誌学。実験的な遺伝学は実験心理学や経済学など。
進化発生学と分子遺伝学にあたるものが、社会科学側にない。
文化の進化発生学?
(分子遺伝学にあたるものとして)神経ミーム学?
ミームをニューロンの電気化学的状態と考える
個人的には、ミームがニューロンの電気化学的状態というのは変な気がする。
個体間でニューロンの電気化学的状態が伝播しているわけじゃないから。
解説
現代的な文化進化論の起源は、カヴァッリ・スフォルツァとフェルドマン、ボイドとリチャーソンのそれぞれ1981年、1985年の著作にさかのぼる。彼らは集団生物学、数理生態学をバックボーンに緻密な理論化を行ったが、数学的な素養を持たないと読みにくいため、長いあいだ気づかれなかった。
進化心理学の台頭が、文化進化論が知られるきかっけとなった
進化心理学は、SSSM(標準的な社会科学モデル)を批判した
SSSM批判の上で、トゥービーとコスミデスは、「伝達される文化」ではなく「誘発される文化」を提唱。遺伝的に定められた範囲から個々が環境に適応した結果として、文化が生じるというもの。
しかし、文化は伝達されるように思われる。
文化進化論は、SSSMでもないが、伝達されるものとして文化を扱うことができる
文化進化論の二つの方向性
(1)遺伝子と文化の共進化
(1)−1 ラクトース耐性と牧畜文化
(1)−2 多数派同調バイアスの進化
(1)−3 内面化された規範と社会化の共進化
(2)文化の動態を解き明かす方向性=本書の文化進化論
【誤字脱字】
P.185 高級→高給
p.332 良いもの切り替えていく→良いものへ切り替えていく