クルーグマンが語る足元のインフレの見方

今年の米国のインフレの展望の一つのよすがとして、ここで紹介した以降のクルーグマンのインフレに関するツイートをまとめてみる。

Surveys of inflation expectations aren't the most reliable indicators, since normal people don't really think in terms of a number. But for what it's worth, no sign of expectations losing their anchor 1/
And worth noting that the most salient price, gasoline, is way down. So very little reason to believe that an inflation spiral is looming any time soon 2/
(拙訳)
普通の人々は数字を真剣に考えているわけではないため、インフレ予想調査は最も信頼できる指標ではないが、そのことは置いといて、インフレ予想から錨が外れて上放れしたという兆候は見られない。

それと注目に値することに、最も上昇が目立っていた価格であるガソリンがかなり下がっている。ということで、今にもインフレスパイラルがやってくると考えるべき理由はあまりない。

A month is only a month, and still better to focus on 3-month rates of inflation. But if you bear in mind the lagged effect of rent disinflation, this sure looks like underlying inflation under 4. 1/
It's almost as if the 2021-2 inflation surge was tr-tr-tr ... something that ends with "tory". 2/
(拙訳)
単月指標は単月指標に過ぎず、3か月のインフレ率に注目した方がまだ良い。しかし賃料のディスインフレの遅延効果を念頭に置くならば、今回の指標は基調インフレが4%以下にあることを確かに示しているように見える。
恰も2021-2年のインフレの急騰は一、一、一、・・・「的」で終わる言葉だったかのようだ。

Jason is doing an excellent service here. How I sort-of think about it too 1/


If you're of a certain (advanced) age, "supercore" makes you think of childhood TV 3/
(拙訳)
ジェイソンはここで素晴らしい作業をしている。私も大体そのように考えている。

(ジェイソン・ファーマンのツイート)
そしてこれは、アパートメントリスト*1とジロー*2の民間指標を用いてすべての賃料を現在価格に置き換えた私独自の指標である。生計費としては良い指標では無いが、インフレの行方を考える上ではより良い方法ではないだろうか。

それとある(結構な)年齢の人ならば、「スーパーコア」は子供時代のテレビ番組を想起させる*3。

Thoughts about inflation. It should go without saying that we need to be cautious. Yesterday's good report came <2 weeks after a nasty negative shock on wages. Much too soon to celebrate 1/
That said, I find myself thinking about Dornbusch's Law — originally about currency crises: the crisis takes longer to arrive than you imagine, then happens faster than you imagine 2/
Maybe something similar on disinflation? Obv we don't know that, but past underprediction of inflation is no guarantee of future performance 3/
More substantively: many people trying to estimate "underlying" inflation. But less clarity about what that means, and this matters 4/
Standard macro says that inflation can be self-perpetuating — that is, persist even in the face of above-normal unemployment — if entrenched in expectations. But ... 5/
... one-year expectations elevated, but that's just lagged gas prices; medium-term not at all, and no sign future inflation seeping into price and wage setting 6/
Alternative notion of "underlying" is inflation caused by general excess demand rather than temporary disruptions. Wage data and most core measures show some of that 7/
But if inflation isn't entrenched — and probably won't be, given low headline rates — isn't it likely that cooling demand will bring inflation down fast? 8/
(拙訳)
インフレについての考えのまとめ。慎重であるべきことは言うまでもない。昨日の良い数字は、賃金の非常によろしくないショック*4から2週間経たないうちに出た。言祝ぐには早すぎる。
とは言え、私はドーンブッシュの法則について考えざるを得なかった。元々は通貨危機についての話で、危機が訪れるのは思ったよりも時間が掛かるが、その後に思ったよりも速く生じる、というものだ*5。
ディスインフレも同様になるのではないか? もちろん先のことは分からないが、過去のインフレを過小予測したからといって、先行きについてもそうだと保証されるわけではない。
より実質的な話として、多くの人が「基調」インフレを推計しようとしている。しかしそれが意味することは必ずしも明確ではなく、そのことが問題になる。
標準的なマクロ経済学は、インフレは自らを永続化し得る、と述べている。即ち、予想に根を下ろしたならば、通常よりも高い失業率の下でも継続する、ということだ。しかし・・・
・・・1年予想は高まったが、それはガソリン価格が遅れて表れたに過ぎない。中期はまったく上がっておらず、将来のインフレが物価と賃金の設定に入り込んだという兆しはない。

「基調」の別の考え方は、一時的な混乱ではなく全般的な需要超過によって引き起こされるインフレのことだ。賃金データと大半のコア指標は、そうしたインフレを幾分か示している。
しかし、もしインフレが根を下ろしていないならば――総合インフレ率の低さを考えるとおそらく根を下ろすことは無いだろう――需要を冷やすことによってインフレ低下が速くなる、という可能性が高くはないだうか?

  • 12/15(上記ツイートに反応したCalculated RiskブログのBill McBrideへの返信)

Yes. Or use market rents instead of BLS. But even "supercore" excluding shelter is running at 3.6% over past 3 months if you also exclude used cars. Still curb our enthusiasm time, although dire Volcker scenarios look ever less likely


(拙訳)
そうだ。もしくは労働統計局データの代わりに市場の賃料を使うべきだ。しかし、住宅サービスを除いた「スーパーコア」でさえ、中古車も除くならば過去3か月は3.6%になっている。まだ喜べない数字だが*6、恐ろしいボルカー型のシナリオの可能性はさらに小さくなっている。

(Bill McBrideのツイート)
世帯形成が(コロナ禍において大きく伸びた後に)急激に鈍化したため、賃料は急速に(季節性に起因するものよりもかなり速く)低下している。
このことはインフレにとって重要だ。賃貸の供給が上向く中、需要は落ちている。おそらくは住宅サービスを除いたインフレを見るべきではないか。

A quick note about "core" inflation. I'm aware of at least 6 measures:
Traditional
Median
Trimmed mean
Supercore (traditional ex shelter)
Superdupercore (super also ex used cars)
Furman core (use market rents for shelter)
They all tell different stories!
Here's what I get (using Zillow in place of BLS shelter)
(拙訳)
「コア」インフレについての簡単なメモ。少なくとも6つの指標がある:

  • 従来型
  • 中央値
  • 刈込平均
  • スーパーコア(従来型から住宅サービス除く)
  • 超スーパーコア(スーパーから中古車も除く)
  • ファーマンコア(住宅サービスについて市場の賃料を使う)

これらは皆違う話を伝えている!
数字は以下の通り(経済統計局の代わりにジローのデータを使っている)

Reupping this: current measures of core inflation tell you whatever you want to hear. 3-month rates annualized 1/
Definitions:
Traditional
Median
Trimmed mean
Supercore (traditional ex shelter)
Superdupercore (super also ex used cars)
Furman core (use market rents for shelter) 2/
More in forthcoming newsletter 3/
(拙訳)
コアインフレの話の再掲。現在のコアインフレの指標は、何でもお望み通りの話を聞かせてくれる。3か月指標の年率。

定義:

  • 従来型
  • 中央値
  • 刈込平均
  • スーパーコア(従来型から住宅サービス除く)
  • 超スーパーコア(スーパーから中古車も除く)
  • ファーマンコア(住宅サービスについて市場の賃料を使う)

より詳しい話は今後の(NYT)ニューズレターにて。

I'm not going to try picking over the entrails of the latest inflation report. Just noting the role reversal. A year ago inflation optimists kept trying to explain away the bad news ... 1/
Now the pessimists are working overtime to explain away the good news. To be fair, always a good idea to be cautious. But recent reports really have been encouraging 2/
And one thing the data really don't support is the notion that reducing inflation must require a big rise in unemployment. All of the good news has happened with labor market still strong 3/
(拙訳)
今回は直近のインフレの数字の細かい話をするつもりはなく、役割の逆転について触れておきたい。1年前、インフレ楽観論者は、悪いニュースを大したことは無いと片付けようとしていた・・・
今や悲観論者が、良いニュースを重視すべきではないと説明するのに四苦八苦している。公平を期すために言っておくと、慎重になることは常に良いことである。しかし直近の数字は実に勇気付けられるものであった。
それとデータが本当に支持していないことの一つは、インフレを下げるためには失業率の大幅な上昇が必要になる、という考えだ。良いニュースはすべて労働市場が依然として強い中でもたらされた。

*1:cf. Apartment List - Wikipedia。

*2:cf. Zillow - Wikipedia。

*3:cf. スーパーカー (人形劇) - Wikipedia。

*4:cf. ここ。

*5:奇しくもクルーグマンの「論敵」のサマーズも、ここで紹介したインタビューで、今後訪れるであろう不況についての話の中で、(ドーンブッシュの名前は出していないが)この法則について触れている。

*6:原文の元ネタ。