コント:ポール君とラリー君――軟着陸宣言は早計かの巻

前々回エントリで紹介したツイートの前の2つの12/30のツイートで、サマーズは以下のように述べている。

I think there's still a risk that the market is probably underestimating: that we're not going to quite make as much progress on inflation as people hope, and there's not going to be quite as much room for Fed easing as people hope.
https://bloomberg.com/news/articles/2023-12-29/summers-says-investors-probably-underestimating-inflation-risk?utm_source=website&utm_medium=share&utm_campaign=twitter via @economics
(拙訳)
市場が過小評価しているかもしれないリスクが未だに存在する、と私は思う。即ち、インフレについて人々が望むほどの進展を我々が十分に達成できないかもしれず、FRBの緩和余地は人々が望むほど十分に無いかもしれない。

I’m not really sure we’re a 2%-target-inflation country in any durable sense. To declare that proverbial ‘soft landing’ to have taken place seems to me to be premature. I’d certainly say it looks better and more likely than it did six or eight months ago.
https://bloomberg.com/news/articles/2023-12-29/summers-says-investors-probably-underestimating-inflation-risk?utm_source=website&utm_medium=share&utm_campaign=twitter via @economics
(拙訳)
我々が何らかの持続的な形でインフレが2%目標に乗っている国となったかどうかについて、私は本当に確信が持てない。人口に膾炙している「軟着陸」が達成されたと宣言することは、私には早計に思える。6ないし8か月前よりも事態が良く見えるとは確言できる。

一方、クルーグマンは、「クルーグマンのインフレあれこれ2 - himaginary’s diary」で紹介したように8月のCPIを見て勝利宣言を行ったが、9月のCPIを基に10/13に再度勝利宣言を行った。

The war on inflation is over. We won, at very little cost
(拙訳)
インフレとの戦いは終わった。我々は非常に小さなコストで勝利した。

しかしこれについては、食料、エネルギー、住宅サービス、中古車を除いたCPIを見るのはミスリーディングであり、全品目のCPIは未だ3.7%である、というコミュニティノートが付き、同様のレスポンスも多く付いた。それを受けて、同日の連ツイでクルーグマンは以下のように釈明している。

I was too flip here. I've been using this particular measure for a while, so want to be consistent. But it has flaws (medical insurance too optimistic). But almost every measure now <3 percent. 1/
When you look at the whole distribution, we do seem quite close to prepandemic inflation 2/
And PCE inflation, which doesn't share the same flaws, showing us closing in on 2 percent. E.g. 3/
People have been reluctant to call this. But the data really want to tell us that inflation has very nearly normalized 4/
(拙訳)
このツイートでは浮かれ過ぎた。私はしばらくの間この特定の指標を使ってきており、それで一貫しようとしていた。だがこれにも欠点はある(医療保険が楽観的過ぎる)。だがほぼすべての指標が今や3%を下回っている。
分布全体を見ると、確かにコロナ禍前のインフレに極めて近付いているように見える。


そして同様の欠点が無いPCEインフレは、2%に近付いていることを示している。例えばこれ*1。

人々は判定するのを躊躇っている。しかしデータはインフレがほぼ常態化したことを本当に伝えたがっている。

この一件はクルーグマンにとってそれなりのトラウマになっていたようで、12/22のツイートでは11月PCE公表を受けて改めて自分が正しかったことを強調している。

I've almost given up on this site, because Nazis. But maybe one how it went/how it's going 1/
So much abuse over a post about tracking underlying inflation (NOT the cost of living). But I was right ... 2/
(拙訳)
ナチスの件でこのサイトには見切りをつけていたが、過去の状況と今どうなっているかを一つ投稿しておこうか。


(生計費ではない)基調インフレを追った投稿についてあれこれ言われたが、私は正しかった・・・。

このツイートにあるようにクルーグマンはイーロン・マスクを嫌ってX(旧ツイッター)からブルースカイに拠点を移しているが、そこでも12/22に以下のように述べている(ただしこれはPCE公表前)。

I got huge grief for this post in Muskland. But can we now say that I was right?
(拙訳)
マスクランドでのこの投稿で私は大いに叩かれた。だが今や私は正しかったと言っていいかな?

同日のPCE公表後にはVJデーに準えて以下のような投稿も行っている。

It's V-I (victory over inflation) day. Core PCE up 1.9% annual rate over past 6 months
(拙訳)
今日はV-I(対インフレ勝利)デーだ。コアPCEは過去6カ月の年率で1.9%上昇だった。

ちなみにその投稿のおよそ40分前には次のように述べている。

A nerdy gripe while waiting for BEA: I still have analysts in my inbox saying "core inflation is still 4 percent". Um, that's a one-year figure; the past 6 months is only 2.9 percent. And a lot of that is lagged housing rents. Anyone who says "4 percent" is basically signaling being out of touch.
(拙訳)
経済統計局の発表を待つ間のマニアックな嘆き。「コアインフレはまだ4%」だと言うアナリストのメールが未だに入ってくる。えーと、それは1年の値だ。過去6カ月は2.9%に過ぎない。そしてその多くはラグのある家賃だ。「4%」と言う人は皆、基本的に、分かっていないというシグナルを発している。

*1:cf. ここ。