2つの驚くほど馬鹿な考え

と題したエントリ(原題は「Two Amazingly Stupid Ideas」)をマンキューが上げている。

It is hard to tell which is worse:
The Trump administration may exclude government spending from GDP
Trump calls for creation of a ‘crypto strategic reserve’
Bad as these ideas are, neither is as dangerous and morally bankrupt as cozying up to the autocratic war criminal who is trying to violently annex his neighbor.
(拙訳)
どちらが悪いかを言うのは難しい:
トランプ政権はGDPから政府支出を除外か
トランプは「暗号通貨戦略準備」の創設を要求
これらの考えは悪しきものだが、どちらも、隣国を暴力的に併合しようとしている専制主義的な戦争犯罪人に擦り寄るほど危険で倫理的に破綻しているわけではない。

マンキューとウクライナ - himaginary’s diaryで紹介したエントリでマンキューは「今回の危機へのバイデン政権の対応についてはコメントしない。私には外交政策の専門知識はなく、関係するトレードオフの複雑さを完全に理解することは私の手に余ることは承知している。しかし我々の指導者が正しいことをする勇気と手段を持っていることを祈りたい。長い目で見て、人類のために。」と書いていたが、さすがにトランプの行動は目に余ったようである。

政策介入とコロナ禍の初期段階における中国の株式市場

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Policy Interventions and China’s Stock Market in the Early Stages of the COVID-19 Pandemic」で、著者はSteven J. Davis(スタンフォード大)、Dingqian Liu(アメリカン大)、Xuguang Simon Sheng(同)、Yan Wang(同)。
以下はその要旨。

China’s stock market greatly outperformed other national markets during the first several months of the COVID-19 pandemic, and it did so even before it became evident that early containment efforts would flounder in the United States and many other countries. As to why, one view holds that aggressive monetary and credit easing propped up Chinese equity values. To assess this view, we consider several interventions that eased monetary and credit conditions in the first six months of 2020. Our analysis finds clear evidence that these interventions raised implied stock market volatility but little evidence that they influenced stock price levels. We also consider policy actions that restricted short selling, limited stock sales, and boosted stock purchases. These efforts to raise net equity demand were small in scale and highly time-limited, as we discuss, suggesting that any direct effects on stock prices were also modest. Neither our study nor other work known to us provides a ready explanation for the extraordinary performance of China’s stock market in the first half of 2020. This performance is even more striking in hindsight, given later developments in China’s economy and stock market.
(拙訳)
中国の株式市場は、コロナ禍の最初の数か月において他国市場を大きく上回り、それは、米国や他の多くの国が初期の封じ込めに四苦八苦することが明らかになる前に既にそうであった。その理由については、積極的な金融と信用の緩和が中国の株式価値を支えた、というのが一つの見方である。この見解を評価するため、我々は2020年の最初の6か月において金融と信用の状況を緩和した幾つかの介入を検討した。我々の分析は、それらの介入が株式市場のインプライドボラティリティを上昇させたという明確な証拠を見い出したが、株価水準に影響したという証拠はほぼ見い出さなかった。我々はまた、空売りの制限、株式売却の制限、株式購入の促進を行った政策措置を検討した。純株式需要を高めようとしたそれらの措置は、我々が論じるように規模が小さく、時間の制約が極めて大きいため、株価への直接的な影響はやはり小さいことが示唆される。我々の研究、もしくは我々の知る他の研究のいずれも、2020年前半における中国株式市場の非常な好成績をすぐに説明することができない。この好成績は、その後の中国経済と株式市場に基づく後知恵からすると一層驚くべきものである。

以下は論文の図。

この図を見ると金融政策措置が株価を押し上げたようにも見えるが、論文ではイベントスタディを基にその効果を否定している。素人目にはイベントスタディが対象とするような短い時間スパンではなく、時間を掛けながら政策効果が浸透していったように見えなくもない。
なお、コロナ禍の封じ込めに比較的成功したことが株価に寄与したという見方もできるが、これについて論文では、同様に封じ込めに比較的成功した韓国の株価が2月17日から3月23日に掛けてほぼ半値になったことを反証に挙げている。ただ、「2020年のアジア株式市場の振り返りと見通し 新型コロナの影響により回復力に格差が生じたアジア株式市場 | 三井住友DSアセットマネジメント」に掲載されている以下の図を見ると、その後韓国株価は盛り返して中国株価と概ね同様の経路を辿っているので、一時的な暴落の差に過ぎないようにも見える。

金融政策当局者にとって使えるマクロ経済理論の発展する中核

というシカゴ連銀論文ã‚’Mostly Economicsが紹介している。原題は「The Evolving Core of Usable Macroeconomics for Policymakers」で、著者は同銀の Jonas D. M. Fisher、Bart Hobijn、Alessandro Villa。
以下はその要旨。

We provide a brief primer on how the core of usable macroeconomic theory for monetary policymakers has evolved over the past 50 years. Today’s policy discussions center on the New Keynesian (NK) synthesis, which builds on the Neoclassical growth model and the AS-AD framework. It incorporates nominal and real rigidities, financial and labor market frictions, the importance of expectations, and inspired terms used by policymakers such as “anchored inflation expectations” and “forward guidance.” While essential for communication during the Great Recession and Covid-19 pandemic, these events also revealed the NK model’s limitations. Newer models incorporating heterogeneous agents potentially offer richer policy insights but add complexity and the challenge of distilling their main policy implications going forward.
(拙訳)
我々は、金融政策当局者にとって使えるマクロ経済理論の中核が過去50年間にどのように発展してきたかについて、簡単な手引きを提供する。今日の政策論議は、新古典派成長モデルとAS-ADの枠組みを基礎とするニューケインジアン(NK)総合を中核としている。それは名目と実質の硬直性、金融市場と労働市場の摩擦、予想の重要性を織り込んでおり、それを受けて「アンカーされたインフレ予想」や「フォワードガイダンス」といった言葉を政策当局者が用いるようになった。大不況やコロナ禍におけるコミュニケーションでは基本的なものとなったが、それらの事象はNKモデルの限界も明らかにした。不均一主体を織り込んだより新しいモデルは、政策へのより豊かな洞察を提供する可能性があるが、複雑性と、主要な政策的含意を引き出す難しさを増す可能性もある。

以下はFOMCで使われる用語の推移と、関連するトピックならびに研究を示した論文の図。

1980年代半ばまではマネタリズムが主たるパラダイムであり、それは固定された垂直に近い総供給(AS)曲線に沿って総需要(AD)曲線がシフトするという考え方に基づいていたが、キッドランド=プレスコット(1977)(KP)は、AS曲線は固定されておらず、中央銀行の信認に左右されると論じた。KPは、裁量よりもルールに基づく政策が良いことを示し、インフレ目標の採用(1989年のニュージーランと2012年のFRB)につながった。また、信認も1970年代後半から1980年代初めにかけての高インフレ期に繰り返し言及されるようになり、グリーンスパンが議長に就任した後、ならびに合理的期待が経済の主流の一部になるにつれ、その傾向はさらに顕著になった。
インフレ予想は、KPの議論の中核であったものの、ニューケインジアンモデルが生み出された1990年代初めまであまり言及されることがなかった。ニューケインジアンモデルは、合理的期待を初めてDSGEに組み込んだRBCモデル(キッドランド=プレスコット、1982)が、名目硬直性のモデル、就中カルボ(1983)などの粘着的な価格のモデルと組み合わさって生み出された。
ニューケインジアンモデルの中核は、AS曲線、政策ルール、AD曲線に相当する3本の方程式から構成されている。AS曲線に相当するのはニューケインジアンフィリップス曲線(NKPC)、政策ルールはテイラールール(1993)であり、AD曲線相当は消費のオイラー方程式から傾きと位置が決定される。
Gertler, Gali and Clarida(1999)はNK研究の初期のサーベイで、3方程式モデルを詳細に論じている。 Woodford(2003)はNKモデルの参考書の決定版である。
Erceg, Henderson and Levin(2000)の拡張(資本と賃金の粘着性の追加)を経て、Christiano, Eichenbaum and Evans(2005)が拡張したNKモデルは、FRBを含む各国中銀の標準モデルとなり、シナリオ分析などに使われるようになった。FOMCの会議資料に取り入れられた代替シナリオ(Alternative Scenarios)などのシナリオ分析は、リスク管理への言及の高まりに対応したものだが、この分野においては理論が実務に遅れを取っており、Evans et al.(2015)などの研究はあるものの、いまだ初期段階にある。

NKモデルが導入された1990年代半ば以降の幾つかの出来事で、NKモデルの3つの方程式の限界も明らかになった。
テイラールールは、中銀が名目金利をゼロより下にできないことを織り込んでいなかったが、日本のデフレはゼロ金利下限(Zero Lower Bound、ZLB)の問題を浮き彫りにし、クルーグマン(1998)は流動性の罠に陥る危険性を明らかにした。
エガートソン=ウッドフォード(2003)は、フォワードガイダンスを一つの解決策として提示した。2008年の金融危機時にFOMCはそれを採用し、1994年以降に公表されるようになったFOMCの会議後の声明は、そのためのコミュニケーションツールとして有用であった。
ただ、フォワードガイダンスの定量分析には問題があり、ベースラインのNKモデルにおける消費のオイラー方程式上は家計がかなりフォワードルッキングであるため、フォワードガイダンスの政策効果も強力なものとなった。そこからKaplan, Moll and Violante(2018)のHANKモデルなど、借り入れ制約により一部の家計の消費や貯蓄が金利にあまり反応せず、手持ちの流動性資産の量に依存するモデルが開発された。
フォワードガイダンス以外のZLBへの対策としては、量的緩和(QE)があった。世界金融危機後、FRBを始めとする中銀はQEを実施した。しかしこれにも理論上の問題があり、ベースラインのNKモデルでは、政策ルールとフォワードガイダンス以外では長期金利に中銀が影響を及ぼせないはずであった。そのため、Gertler and Karadi(2013)のような、そうした直接的なリンクが壊れており、QEが伝統的な金融政策を超えた影響を及ぼせるモデルが開発された。
2020年以降の関心は、低インフレと流動性の罠から、コロナ禍後のインフレの急上昇と急低下の説明に移った。研究者は、需給間の新たな相互作用の追究や、非線形性のミクロ的基礎付けによるNKPCの再検討(Harding, Lindé and Trabandt, 2023)を行っている。こうした研究はまだ揺籃期にあるが、金融政策当局者にとって使えるマクロ経済理論の中核の発展の次の段階の重要な一部になると思われる。

一時的な現金給付はマクロ経済を刺激するか? 4つのケーススタディの実証結果

というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者のページ)。原題は「Do Temporary Cash Transfers Stimulate the Macroeconomy? Evidence from Four Case Studies」で、著者はValerie A. Ramey(スタンフォード大)。

This paper re-evaluates the effectiveness of temporary transfers in stimulating the macroeconomy using evidence from four case studies. The rebirth of Keynesian stabilization policy has lingering costs in terms of higher debt paths, so it is important to assess the benefits of these policies. In each case study, I analyze whether the behavior of the aggregate data is consistent with the transfers providing an effective stimulus. Two of the case studies are reviews of evidence from my recent work on the 2001 and 2008 U.S. tax rebates. The other two case studies are new analyses of temporary transfers in Singapore and Australia. In all four instances, the evidence suggests that temporary cash transfers to households likely provided little or no stimulus to the macroeconomy.
(拙訳)
本稿は、4つのケーススタディの実証結果を用いて、一時的な所得移転がマクロ経済を刺激する効果を再評価した。ケインズ的な安定化政策の復活は、債務経路の上昇という後に残るコストをもたらすため、そうした政策の便益を評価することは重要である。各ケーススタディについて私は、所得移転が効果的な刺激をもたらした、ということとマクロデータの推移が整合的であったかどうかを分析した。ケーススタディのうち2つは、2001年と2008年の戻し減税についての私の最近の研究*1における実証結果の総説である。他の2つのケーススタディはシンガポールとオーストラリアにおける一時的な所得移転についての新たな分析である。4つの事例すべてにおいて、実証結果が示すところによれば、一時的な家計への現金給付はマクロ経済に刺激をあまり、もしくはまったくもたらさなかった可能性が高い。

この論文は昨年11月14-15日のIMFの25回目のジャック・ポラック(Jacques Polak*2)コンファレンス「Rethinking the Policy Toolkit in a Turbulent Global Economy」におけるマンデル=フレミング講演に基づくもので、IMF Economic Reviewに掲載予定とのこと。

結論部では、税制変更による大きな乗数効果を見い出したローマー=ローマー(2010*3)などの研究と自分の結果は矛盾するものではない、と指摘している。というのは、自分の研究は一括の所得移転を対象にしているのに対し、それらの研究は歪んだ税制の変更を対象にしているから、とのことである。Rameyは、Axelle FerriereとGaston Navarroの最近の研究を引きながら、税制の歪みを拡大するような財政再建はGDPの観点から高く付くかもしれない、と警告している。
また、今回の結果の一般性については、自分のケーススタディは先進国が対象だったので低中所得国にはそのまま当てはまらないかもしれないが、そこで取り上げたのと同様の問題は他の経済や他の状況でも影響するだろう、と述べている。そのほか、コロナ禍は特殊な状況なのでケーススタディの対象にしなかった、と断っている*4。

*1:マクロの反実仮想を用いた尤もらしさの評価:2001年の戻し減税の限界消費性向を用いた説明 - himaginary’s diaryで紹介した論文(Economic Journal掲載予定)と、そのエントリでリンクした2008年の戻し減税を分析した論文(掲載版=Micro MPCs and Macro Counterfactuals: The Case of the 2008 Rebates* | The Quarterly Journal of Economics | Oxford Academic)。

*2:Jacques J. Polak - Wikipedia。

*3:cf. これ。

*4:コロナ禍支援はどの程度効果的だったのか? - himaginary’s diaryで紹介した論文ではRameyの研究も参照されていたが。

在宅勤務の測定

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Measuring Work from Home」で、著者はShelby R. Buckman(スタンフォード大)、Jose Maria Barrero(メキシコ自治工科大)、Nicholas Bloom(スタンフォード大)、Steven J. Davis(同)。
以下はその要旨。

Headline estimates for the extent of work from home (WFH) differ widely across U.S. surveys. The differences shrink greatly when we harmonize with respect to the WFH concept, target population, and question design. As of 2025, our preferred estimates say that WFH accounts for a quarter of paid workdays among Americans aged 20-64. The WFH rate is seven percentage points higher for workers with children under eight in the household and about two percentage points higher for women than men. Desired WFH rates exceed actual rates in every major demographic group – more so for women, workers with young children, and less educated workers.
(拙訳)
米国の在宅勤務について発表される推計値は調査によって大きく異なる。在宅勤務の概念、対象者、および質問のデザインについて我々が調整したところ、その差は大きく縮まった。2025年時点では、我々の推奨する推計値によると、在宅勤務は、20-64歳の米国人における有給の労働日の四分の一を占める。家族に8歳以下の子供がいる労働者では在宅勤務率は7%ポイント高くなり、女性は男性より約2%ポイント高くなる。すべての主要な人口統計集団において望ましい在宅勤務率は実際の値を超えており、女性、幼い子供のいる労働者、学歴の低い労働者ではその傾向が強い。

本ブログでも紹介してきたように、Barrero、Bloom、Davisは、在宅勤務やコロナ禍に関するNBER論文をこれまでも何本か上げている。また、在宅勤務のメリット - himaginary’s diaryで紹介したように、Bloom単独の研究もある。在宅勤務嫌いのイーロン・マスクがテスラやXだけでなく連邦政府職員の勤務も差配するようになったことでどのような変化が生じたか、という実証研究もいずれ出るかもしれない。

景気循環変動とインフレはどの程度の犠牲を伴うのか? 世論調査手法

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「How Costly Are Business Cycle Volatility and Inflation? A Vox Populi Approach」で、著者はDimitris Georgarakos(ECB)、Kwanghwan Kim(延世大)、Olivier Coibion(テキサス大オースティン校)、Myung-Kyu Shim(延世大)、Myunghwan Andrew Lee(NYU)、Yuriy Gorodnichenko(UCバークレー)、Geoff Kenny(ECB)、Seowoo Han(延世大)、Michael Weber(シカゴ大)。
以下はその要旨。

Using surveys of households across thirteen countries, we study how much individuals would be willing to pay to eliminate business cycles. These direct estimates are much higher than traditional measures following Lucas (2003): on average, households would be prepared to sacrifice around 5-6% of their lifetime consumption to eliminate business cycle fluctuations. A similar result holds for inflation: to bring inflation to their desired rate, individuals would be willing to sacrifice around 5% of their consumption. Willingness to pay to eliminate business cycles and inflation is generally higher for those whose consumption is more pro-cyclical, those who are more uncertain about the economic outlook, and those who live in countries with greater historical volatility.
(拙訳)
13か国の家計調査を用いて我々は、景気循環を無くすために個人がどの程度支払う意思があるかを調べた。こうした直接的な推計はルーカス(2003*1)に倣う従来の指標よりかなり大きくなる。即ち、家計は、景気循環変動を無くすために、平均して生涯消費の5-6%を犠牲にする用意がある。インフレについても同様の結果が成立する。インフレを望む水準とするために個人は、消費の5%を犠牲にする意思がある。景気循環とインフレを無くすために支払う意思は、消費がより順循環的な人、経済見通しより確信が持てない人、および、過去の変動が大きかった国に住んでいる人において高かった。

13か国はベルギー、ドイツ、ギリシャ、スペイン、フィンランド、フランス、アイルランド、イタリア、韓国、オランダ、ポルトガル、米国で、欧州はECBのConsumer Expectations Survey(CES*2)、米国はニールセン調査(Nielsen Homescan Panel)、韓国はマクロミルエムブレイン*3調査(Macromill Embrain Panel)に基づいているという。

本文の導入部では、ルーカス(1987*4)は全ての景気循環を無くすために消費者は生涯消費の約1/20%のみ削減する意思があると述べたことで有名だが、その後の研究の進展に鑑みてルーカス(2003)は、これを1/100%単位程度に下方修正するとともに、この数字はインフレを10%ポイント減らす厚生利得よりも桁違いに小さい、と強調したことを引用している。

貧困はどのように減少したか

という論文をタイラー・コーエンが紹介している。原題は「How Poverty Fell」で、著者はVincent Armentano、Paul Niehaus、Tom Vogl(いずれもUCサンディエゴ)。
以下はその要旨。

The share of the global population living in extreme poverty fell dramatically from an estimated 44% in 1981 to 9% in 2019. We describe how this happened: the extent to which changes within as opposed to between cohorts contributed to poverty declines, and the key changes in the lives of households as they transitioned out of (and into) poverty. We do so using cross-sectional and panel sources that are representative or near-representative of countries that collectively accounted for 70% of global poverty decline since 1990. The repeated cross-sections show that all birth cohorts experienced the decline of poverty over time in parallel, such that poverty decline can be viewed as a primarily within-cohort phenomenon. The panels show substantial within-cohort churn: gross transitions out of poverty were much larger than net changes, as many households also lapsed back into poverty. The overall picture is of a slippery slope rather than a long-term trap. The role of sectoral transitions varied across countries, though progress within sectors generally played a larger role than transitions between sectors.
(拙訳)
極貧下で生活している世界の人々の割合は、1981年の44%という推計値から2019年の9%に劇的に低下した。我々はこれがどのように起きたかを説明する。即ち、コホート内の変化がコホート間の変化に比べてどの程度貧困の低下に寄与したか、および、貧困から(ならびに貧困へ)遷移した際の家計の生計の主要な変化である。その際に我々は、合計で1990年以降の世界の貧困の減少の7割を占める国*1を代表する、ないしほぼ代表するクロスセクションとパネル分析のデータを用いた。クロスセクション分析の繰り返しにより、すべての出生コホートが時間の経過とともに並行して貧困の減少を経験したことが示される。従って貧困の減少は主としてコホート内の現象であると見做せる。パネル分析は、顕著なコホート内の変動を示した。貧困からの総遷移は純遷移よりもかなり大きかった。これは、貧困に戻る家計も多かったためである。全体的な構図は、長期の罠というよりも滑りやすい坂である。部門の遷移が果たす役割は国によって違ったが、概して部門間の遷移よりも部門内の進歩が大きな役割を果たした。

コーエンは、所得再分配の進展や農業からの遷移が貧困減少の主な原因ではないことを記した箇所を本文の導入部から引用して、他にも多くの興味深い結果があり、今年の最も重要な論文となる可能性が十分にある、と激賞している。

*1:中国、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカの5か国。