外延効果によるニューケインジアン経済

というNBER論文が上がっている(ungated版へのリンクがある著者の一人[石出旭氏]のページ)。原題は「New Keynesian Economics through the Extensive Margin」で、著者はSaki Bigio(UCLA)、Akira Ishide(同*1)。
以下はその要旨。

This paper reformulates the New Keynesian model to incorporate output adjustments through the extensive margin. Shifting from adjustments through the intensive to the extensive employment margin, the model introduces predetermined output, altering key properties of the New Keynesian framework. First, the Taylor principle is inverted: stability is achieved when nominal rates respond less than one-for-one with inflation. Second, the model significantly alters the output responses to changes in monetary policy. We argue that this represents a challenge and an opportunity for the literature. Sticky information allows the model to correct the sign of impulse responses.
(拙訳)
本稿はニューケインジアンモデルを再定式化し、外延効果を通じた生産の調整を織り込んだ。内延効果から外延効果による雇用調整に変更すると、モデルは先決的な生産を導入し、ニューケインジアンの枠組みの主要な特性が変わる。第一に、テイラー原理は逆転する。即ち、安定性は、名目金利が1対1よりも小幅で反応すると達成される。第二に、モデルは金融政策の変更に対する生産の反応を有意に変える。このことは、この分野の研究にとって課題と機会を提供する、と我々は論じる。粘着的な情報は、モデルがインパルス応答の符号を変えることを許容する。

ニューケインジアンモデルの標準的なバージョンでは労働時間の調整(内延効果)に頼ってきたため、失業と求人、ならびにそれらの労働指標とインフレや政策金利との統計的関係に関する実証的な予想ができなかった。実際の主たる調整手段である雇用の調整(外延効果)を取り込むには、ダイアモンド=モーテンセン=ピサリデスのサーチ・アンド・マッチング(SAM)モデルと組み合わせる必要があるが、後者には生産が先決的という問題がある。そのため、これまでの試みでは求人後の雇用が即座に発生すると仮定してきたが、その仮定はSAMモデルのそもそもの趣旨であるフローとストックの区別を曖昧にするだけでなく、期間の単位の選択(年、四半期、月、日)によって結果が変わってくるという理論的な問題も引き起こす。
この論文では、SAMモデルの整合的なタイミングに戻した場合、NK+SAMモデルの主要な予測が反転することを示したとの由。そのうちのテイラー原理の逆転には3つの利点*2があるが、政策金利を引き下げると生産が減るという予測はよろしくないので、完全情報の合理的予想というルーカスの島モデルから離れ、総消費への応答を時間的に分散させる必要があるだろう、とのことである。

*1:前述のHPによると4月から東大。

*2:均衡決定が均衡外の脅迫(cf. これ)ではなく初期条件の存在によって達成されること、金融ショックへのこぶ型のインパルス応答関数が批判の多い習慣形成や資本調整コストといった追加的摩擦抜きで生成されること、テイラー原理が無ければ内生的な金融政策の反応と分離してショックを追究できること。

早期介入は将来の子供の虐待を減らせるか?

というNBER論文が上がっている。原題は「Can Early Intervention Reduce Future Child Maltreatment?」で、著者はAnna Aizer(ブラウン大)、Emilia Brito Rebolledo(同)。
以下はその要旨。

Children with a disability are 3.5 times more likely to be maltreated. Federal Early Intervention (EI) serves 426,000 children 0-3 with a disability, 3.7% of the entire population under three. EI’s objective is to support families in caring for their children’s special needs. Compared to children evaluated but ineligible for EI, children receiving EI in the first year of life are 3.3 percentage points less likely to be maltreated later in life, a decline of 45%, with smaller effects for those receiving services later. Targeting at-risk children, intervening early, and engaging with families in a cooperative manner effectively reduces future maltreatment.
(拙訳)
障害を持つ子供は虐待を受ける可能性が3.5倍になる。連邦早期介入(EI*1)は、3歳児以下の総人口の3.7%に相当する障害を持つ42万6千人の0-3歳の子供にサービスを提供している。EIの目的は、子供の特別なニーズの面倒をみている家族を支援することにある。生後1年間にEIを受けると、審査されたがEIを受ける資格を得られなかった子供と比べて、その後の人生で虐待を受ける可能性は3.3%ポイント低下する。これは45%の低下で、サービスを受けるのがそれよりも遅くなると効果は小さくなる。リスクのある子供を対象として早期に介入し、家族と協調的な形で関与することは、将来の虐待を効果的に減らす。

フィッシャー=シュルツ講演:分離不可能なパネルデータの線形推定

というNBER論文が上がっている。原題は「Fisher-Schultz Lecture: Linear Estimation of Structural and Causal Effects for Nonseparable Panel Data」で、著者はVictor Chernozhukov(MIT)、Ben Deaner(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)、Ying Gao(MIT)、Jerry A. Hausman(MIT)、Whitney Newey(同)。
以下はその要旨。

This paper develops linear estimators for structural and causal parameters in nonparametric,nonseparable models using panel data. These models incorporate unobserved, time-varying, individual heterogeneity, which may be correlated with the regressors. Estimation is based on an approximation of the nonseparable model by a linear sieve specification with individual specific parameters. Effects of interest are estimated by a bias corrected average of individual ridge regressions. We demonstrate how this approach can be applied to estimate causal effects, counterfactual consumer welfare, and averages of individual taxable income elasticities. We show that the proposed estimator has an empirical Bayes interpretation and possesses a number of other useful properties. We formulate Large-T asymptotics that can accommodate discrete regressors and which bypass partial identification in this case. We employ the methods to estimate average equivalent variation and deadweight loss for potential price increases using data on grocery purchases.
(拙訳)
本稿は、パネルデータを用いて、ノンパラメトリックかつ分離不可能*1なモデルにおける構造的で因果的なパラメータについての線形推定量を構築する。こうしたモデルは、説明変数と相関している可能性のある、観測されない時変的な個別の不均一性を織り込んでいる。推計は、個別の特定のパラメータの線形篩仕様*2による分離不可能モデルの近似に基づいている。分析対象の効果は、個別のリッジ回帰のバイアスを修正した平均で推計される。我々は、因果効果、反実仮想的な消費者の厚生、および個別の課税所得の弾力性の平均の推計にこの手法がどのように適用できるかを示す。提示された推計量が実証的なベイズ解釈を有するとともに、他の多くの有用な特性を持つことを我々は示す。我々は、離散的な説明変数を許容し、その場合に部分識別*3を迂回する大きなTの漸近性を定式化した。我々はこの手法で、食料雑貨購入データを用いて、価格が上昇した場合の平均等価変分*4と死荷重損失を推計した。

計量経済学会*5のフィッシャー=シュルツ講演のサイトはFisher-Schultz Lecture | The Econometric Societyで、今回の論文の対象である2023年講演はyoutubeに上がっている。講演者は論文の共著者のうちのWhitney Newey(Whitney K. Newey - WikipediaによるとNewey–West estimatorで最も有名との由)。

*1:ググって見つけたこれã‚„これなどによると、擾乱項などの観測できない項目が加法的な形でモデルに入っておらず、分離可能でないことを指すらしい。

*2:cf. セミパラメトリック条件付きファクターモデル:推計と推定 - himaginary’s diary。

*3:Set identification - Wikipedia。

*4:cf. Equivalent variation - Wikipedia、等価変分 | 消費者理論 | ミクロ経済学 | 経済学 | ワイズ。

*5:cf. Econometric Society - Wikipedia。

42か国におけるCEOと企業のミスマッチと生産性

というNBER論文が上がっている(ungated(SSRN(EBRD))版)。原題は「CEO-Firm Matches and Productivity in 42 Countries」で、著者はAmanda Dahlstrand(チューリッヒ大)、Dávid László(LSE)、Helena Schweiger(欧州復興開発銀行)、Oriana Bandiera(LSE)、Andrea Prat(コロンビア大)、Raffaella Sadun(ハーバード大)。
以下はその要旨。

Firms are key to economic development, and CEOs are key to firm productivity. Are firms in countries at varying stages of development led by the right CEOs, and if not, why? We develop a parsimonious measure of CEO time use that allows us to differentiate CEOs into “leaders” and “managers” in a survey of 4,800 manufacturing firms across 42 countries, with income per capita ranging from USD 4,000 to 45,000. We find that poorer countries have fewer leaders and relate this to training opportunities. Even when suitable leaders are available, they often do not lead the firms that would benefit the most, resulting in mismatches that can cause up to a 20% loss in productivity for the mismatched firms. The findings imply that policies that address the causes of mismatch could significantly enhance growth without additional resources.
(拙訳)
企業は経済発展の鍵であり、CEOは企業の生産性の鍵である。各種の発展段階にある国の企業は正しいCEOに率いられているのだろうか、そしてもしそうでないのであれば、それはなぜか? 我々はCEOの時間の使い方のパラメータ節約的な指標を開発したが、それによって、一人当たり所得が4,000~45,000米ドルにまたがる42か国の4,800の製造業企業のサーベイにおいて、CEOを「リーダー」と「マネージャー」に区分することができた。国が貧しいほどリーダーは少なくなることを我々は見い出し、そのことを訓練の機会と関連付けた。適切なリーダーが利用可能な場合でも、最も多くの人に恩恵を与える企業のリーダーとならないことが多い。その結果として生じたミスマッチは、ミスマッチの起きた企業において生産性の最大2割の損失をもたらす。この発見は、ミスマッチの原因に対処した政策によって追加資源なしに成長を有意に高めることができることを示している。

著者のうちBandiera、Prat、Sadunらの以前の研究(CEO Behavior and Firm Performance | Journal of Political Economy: Vol 128, No 4、ungated版)ではCEOの日記データを収集したが、さすがにそれを多くの国に拡張するのは無理なので、その中からCEOの時間の使い方に関する以下の5項目をピックアップしてサーベイした(正確には他のサーベイ*1に相乗りする形で質問を突っ込んだ)、との由。

  1. Cスイートの重役(C-suite executives*2)、役員(board members)、事業体マネージャー(business unit managers)、もしくは親会社のマネージャーとの会議
  2. サプライヤーとの会議
  3. 生産活動に従事する従業員との会議
  4. 一人より多い参加者のいる会議
  5. 1時間以上の会議

このうちサプライヤーとの会議と生産活動に従事する従業員との会議は純粋なリーダーの行動の確率と負の相関があったが、他は正の相関があったという。
残念ながら調査対象の42か国に日本は含まれていないが、日本についてサーベイを実施した場合の結果を知りたいところではある。

*1:EBRD-EIB-WBG Enterprise Surveys。なお、そちらのサーベイは41か国が対象で、今回の論文の表A.1と比較するとスペインが入っていない(理由は不明)。

*2:cf. Cスイート - Google 検索。

大都市は経済成長にとって重要なのか?

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Are Big Cities Important for Economic Growth?」で、著者はMatthew Turner(ブラウン大)、David N. Weil(同)。
以下はその要旨。

Cities are often described as engines of economic growth. We assess this statement quantitatively. We focus on two mechanisms: a static agglomeration effect that makes production in bigger cities more efficient, and a dynamic effect whereby urban scale impacts the productivity of invention, which in turn determines the speed of technological progress for the country as a whole. Using estimates of these effects from the literature and MSA-level patent and population data since 1900, we ask how much lower US output would be in 2010 if city size had been limited to one million or one hundred thousand starting in 1900. These effects are small. If city sizes had been limited to one million people since 1900, output in 2010 would have been only 8% lower than its observed value.
(拙訳)
都市は良く経済成長のエンジンと評される。我々はこの主張を定量的に評価した。我々は2つのメカニズムに焦点を当てた。都市がより大きければ生産がより効率的になるという静的な集積効果と、都市の規模が発明の生産性に影響し、それがさらに国全体の技術進歩の速度を決定するという動的効果である。従来の研究におけるこれらの効果の推計値、および、1900年以降のMSA(大都市統計地域*1)レベルの特許と人口のデータを用いて我々は、都市の規模が1900年以降百万もしくは十万に制限されていた場合に2010年の米国の生産がどれほど低くなっていたであろうか、という問いを追究した。その効果は小さかった。1900年以降に都市の規模が百万人に制限されていた場合、2010年の生産は観測された値に比べて8%低くなっていたに過ぎない。

結論部では、自分たちの推計ないし結論が間違っている可能性を4つ挙げている。

  1. 生産性における都市の規模の効果、ないし研究における同様の規模の効果のパラメータ化を誤った。
    • しかし各研究で推計されたパラメータの範囲の高い端を用いても、結論がひっくり返ることは無かった。
  2. 静学にせよ動学にせよ、自分たちが拾い損ねた都市の規模の効果があった。
    • その点は直前の節で論じた。
  3. 都市の規模が制限された場合、都市の数が多くなり、その中には実際に観測されたのとは違う基本的な生産性を持つものも出てくるだろう。それは、新たな都市が実際の都市ほど望ましい場所に立地していないためであろう。
    • もしそうならば、経済成長のエンジンは都市そのものというよりも良い立地ということになる。
  4. 解釈の違い。都市の規模の効果が米国の経済成長の1割を説明するのであれば、成長のエンジンと言って良いのでは、という人もいるかもしれない。

全域平均処置効果の線形推計

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「Linear Estimation of Global Average Treatment Effects」で、著者はStefan Faridani(ジョージア工科大)、Paul Niehaus(UCサンディエゴ)。
以下はその要旨。

We study the problem of estimating the average causal effect of treating every member of a population, as opposed to none, using an experiment that treats only some. We consider settings where spillovers have global support and decay slowly with (a generalized notion of) distance. We derive the minimax rate over both estimators and designs, and show that it increases with the spatial rate of spillover decay. Estimators based on OLS regressions like those used to analyze recent large-scale experiments are consistent (though only after de-weighting), achieve the minimax rate when the DGP is linear, and converge faster than IPW-based alternatives when treatment clusters are small, providing one justification for OLS's ubiquity. When the DGP is nonlinear they remain consistent but converge slowly. We further address inference and bandwidth selection. Applied to the cash transfer experiment studied by Egger et al (2022) these methods yield a 20% larger estimated effect on consumption.
(拙訳)
我々は、母集団の一部のみ処置する実験を用いて、母集団のすべての人を処置した場合の誰も処置しない場合と比べた平均処置効果を推計する問題を調べた。我々は、波及効果に全域的な支援があり、同効果が(一般化された概念としての)距離とともにゆっくりと減衰する状況を検討した。我々は、推計量と実験設計の両方についてのミニマックス最適レート*1を導出し、それが波及効果の空間的な減衰割合とともに増加することを示す。最近の大規模実験の分析に使われるような最小二乗法の回帰に基づく推計量には一致性があり(ただし加重を除いた後のみだが)、データ生成過程が線形の場合にミニマックス最適レートを達成し、処置クラスターが小さい場合に逆確率加重*2に基づく代替手法よりも速く収束する。これは最小二乗法の遍在性に一つの理論的根拠を与える。データ生成過程が非線形の場合は、一致性は依然としてあるが、収束は遅くなる。我々はまた、推定とバンド幅選択の問題に取り組んだ。Egger et al(2022*3)が調べた現金給付実験に適用すると、この手法は消費について2割大きな効果を推計する。

国際貿易の未知の水域

というNBER論文が上がっている(ungated版)。原題は「The Uncharted Waters of International Trade」で、著者はPol Antràs(ハーバード大)。
以下はその要旨。

The field of international trade has undergone significant theoretical and empirical advancements over the last twenty-five years. A key breakthrough has been the emergence of firm-level approaches to studying exporting, importing, and global value chains. The field has also experienced a quantitative revolution, driven by medium-scale models that rapidly assess the implications of trade cost shocks on real income. Additionally, a branch of the empirical literature has unshackled itself from the discipline of theoretical frameworks and from traditional data sources. Yet, several underexplored areas, or `uncharted waters,' remain in international trade research. I outline new potential areas for theoretical research, including incorporating oligopolistic (strategic) behavior into core models, and fostering greater cross-disciplinary collaboration with other fields in economics and social sciences, such as behavioral economics or political science. I also discuss potential uncharted waters for empirical trade economists, while identifying potential new sources of data and ways in which official trade statistics could be improved. Finally, I explore how big data and artificial intelligence could reshape the design of international trade policy in coming years.
(拙訳)
国際貿易の分野は過去25年に理論と実証で重要な進歩をみせた。主要なブレークスルーは、輸出入とグローバルバリューチェーンを調べるための企業レベルのアプローチの出現であった。この分野はまた、貿易費用ショックの実質所得への影響を素早く評価する中型モデルを牽引役とする定量的な革命を経験した。さらに、実証研究のある分野は、理論的な枠組みの原則と従来のデータソースの束縛から自らを解き放った。しかし、幾つかの探究が不十分な分野、ないし「未知の水域」が国際貿易の研究には残っている。私は、中核モデルに寡占的な(戦略的)行動を織り込んだり、行動経済学や政治学などの経済学や社会学の別の分野との学際協力をさらに推進する、といった理論研究の新たな可能性を秘めた分野を概説する。私はまた、実証貿易経済学者にとっての未知の水域の候補を論じるとともに、公的な貿易統計を改善し得る新たなデータソースと方法を示す。そのほか、ビッグデータと人工知能が今後の国際貿易政策のあり方をどのように作り直す可能性があるかを追究する。

こちらは1年前のスライド資料。以下は企業レベルのアプローチについて説明したスライドからの引用。

  • It is not countries or industries that trade with each other, but rather firms
  • Very skewed distribution of exporters and importers:
    • most firms do not export or import
    • top 1% of exporters/importers accounts for huge percentage of exports most countries
  • Remarkable within-industry heterogeneity in performance correlated with trade participation
  • Extensive margin of exports and imports (i.e., number of firms; entry/exit) account for most of the cross-country variation in international trade flows
  • Multinational firms account for a huge percentage of world trade flows
    • And intrafirm trade (within multinationals) constitutes a very significant share of world trade

(拙訳)

  • 相互貿易を行うのは国や業界ではなく、企業である
  • 輸出入業者の分布は非常に歪んでいる
    • 大半の企業は輸出もしくは輸入を行わない
    • 大半の国において輸出入業者の上位1%が輸出の大きな割合を占めている
  • 業界内の業績における大いなる不均一性が存在し、それは貿易参加と相関している
  • 輸出入の外延効果(即ち、参入・退出する企業数)が国際貿易フローの国家間の違いの大半を説明する
  • 多国籍企業が世界貿易フローの大きな割合を占めている
    • そして(多国籍企業内の)企業内貿易が世界貿易の非常に有意な割合を占めている

以下は定量的貿易理論について説明したスライドからの引用。

  • There is currently huge demand for computing counterfactuals
    • What are the real income implications of the US-China trade war or of Chinese ’decoupling'?
    • How was real income in Germany affected by the war in Ukraine?
  • 20th century: computable general-equilibrium (CGE) models (Shoven, Whalley, Kehoe...)
  • 21st century: quantifiable general-equilibrium models (Eaton and Kortum, 2002, and follow-up work)
  • What are the main differences?
    • Theoretical work has shown that a few sufficient statistics are sufficient to answer certain counterfactual questions
    • Don't need to compute the equilibrium to shed light on certain counterfactuals
    • All you need is data and a (small) vector of trade elasticities that can be 'credibly' estimated

(拙訳)

  • 現在、反実仮想を計算することへの大きな需要がある
    • 米中貿易戦争や中国の「デカップリング」が実質所得に与える影響は?
    • ウクライナ戦争がドイツの実質所得に与えた影響は?
  • 20世紀:計算可能一般均衡(CGE)モデル(Shoven、Whalley、Kehoe、等々*1)
  • 21世紀:定量化可能一般均衡モデル(Eaton and Kortum, 2002*2, およびその後の研究)
  • 主要な違いは何か?
    • ある種の反実仮想問題に答えるには数個の十分統計量で十分であることが理論研究で示された
    • ある種の反実仮想問題の解明においては、一般均衡を計算する必要がない
    • 必要なのは、データと、「高い信頼性で」推計できる貿易の弾力性の(小さな)ベクトルのみ

また、従来の実証研究を束縛していた理論として、ヘクシャー=オリーンと重力方程式を挙げている。その束縛から解き放たれた研究としては、ランダム化比較試験、疑似自然実験、地域別の貿易ショックの影響、貿易と様々なテーマ(児童労働*3、学歴*4、環境、戦争*5、文化、失われた都市*6など)の組み合わせ、を挙げている。

ビッグデータと人工知能については、ジャック・マーはオスカル・ランゲ*7的な市場社会主義の実現可能性が近づいたとしたが*8、Antràsは、AIもハイエクの「知識問題(knowledge problem)」を解決するわけではなく(=社会主義の失敗は計算能力とは関係が無く、市場に基づく価格シグナルが存在しないことによる)、またビッグデータと機械学習が因果推論を可能にするわけではない、と指摘している。それでもビッグデータとAIによって政府介入の賛否の議論は変わっていくだろう、との由。

*1:cf. Computable general equilibrium - Wikipedia。

*2:cf. 相互主義と中国ショック - himaginary’s diary、米中貿易戦争とグローバルバリューチェーン - himaginary’s diary、ディキシット=スティグリッツ、ソロー、ルーカス(1972) - himaginary’s diaryで孫引きしたクルーグマンの言葉。

*3:cf. The effect of trade liberalization on child labor - ScienceDirect。

*4:cf. Endogenous Skill Acquisition and Export Manufacturing in Mexico - American Economic Association。

*5:cf. Make Trade Not War? | The Review of Economic Studies | Oxford Academic。

*6:cf. Trade, Merchants, and the Lost Cities of the Bronze Age* | The Quarterly Journal of Economics | Oxford Academic。

*7:cf. オスカル・ランゲ - Wikipedia。

*8:論文(とスライド)ではマーの2016年の次の言葉を引いている(その引用部分を見る限り、マー自身はランゲに触れていない):「Over the past 100 years, we have come to believe that the market economy is the best system, but in my opinion, there will be a significant change in the next three decades, and the planned economy will become increasingly big. Why? Because with access to all kinds of data, we may be able to find the invisible hand of the market. [...] In the era of big data, the abilities of human beings in obtaining and processing data are greater than you can imagine. With the help of artificial intelligence or multiple intelligence, our perception of the world will be elevated to a new level. As such, big data will make the market smarter and make it possible to plan and predict market forces so as to allow us to finally achieve a planned economy.」