ENDING ENDLESS 雑記帖

文芸・音楽系文筆業=円堂都司昭のブログ

新海均『カッパ・ブックスの時代』

カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)

カッパ・ブックスの時代 (河出ブックス)

かつて大成功したが今はない新書シリーズについて書いた本。姉妹レーベルであり、松本清張、高木彬光、森村誠一などミステリ小説を多くラインナップしたカッパ・ノベルスについても若干触れられている。
同書の主要参考文献リストの筆頭に掲げられている『カッパの本 マスコミの眼がとらえた〈創作出版〉の発生とその進歩』(非売品。光文社。1968年)を、私は中学か高校の頃に入手して読んだ。確か、神保町の古本屋の店先にある安売りコーナーで偶然見つけたのだった。
角川書店が横溝正史、森村誠一などに関し、文庫、テレビ、映画、音楽などのメディアミックスを派手に仕掛けて話題になった1970年代後半のことである。いわゆる角川商法のシャワーを浴び、執筆だけでなく、企画立案、広告宣伝も含めたビジネスとしての出版に興味を覚えた私は、その種の手法の先祖といえる光文社について書かれた『カッパの本』に興味を持ったのだと思う。この本は面白く読んだと記憶するが、いつの間にやら紛失してしまったのをえらく後悔していた。
だから、私にとって、光文社の出版事業を同社の元編集者がふり返った『カッパ・ブックスの時代』は、『カッパの本』の紛失を埋めてくれる本であり、刊行を喜んだ。
ただ、本書は出版文化史的な内容ばかりではなく、後半になると労使紛争、経営悪化などに関する記述が増え、社史に近いものになる。当時の社長への取材も行って発言を載せ、公平性を持たせようとはしている。とはいえ、リストラが行われた頃の当事者である元社員が書いているのだから、感情的と思われるところもある。出版文化史的な部分は貴重な記録だが、社史的な部分は社外の人間にはどれくらい妥当な内容なのか判断しかねる。したがって、内容次第では、光文社刊行の雑誌の書評欄でとりあげようかと思っていたのだけれど、見送ることにした次第。
それにしても、この内容で、同社のリストラを社名は伏せながらもブログで書き綴り、書籍化までしたたぬきち=綿貫智人(『リストラなう!』)に言及しないのは、釈然としない。