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大そうじへの備え
morningrain.hatenablog.com
副題は「その言説に根拠はあるのか」。税制をめぐるもっともらしい言説を実際のデータで検証しようとした本になります。 冒頭はいわゆる「年収の壁」をとり上げていて非常にタイムリー。「働き控え」をしている人にはぜひ読んでほしいですし、同時にあまりに複雑すぎる仕組みを見て政治家や官僚にはなんとかして欲しい(必ずしも控除額を引き上げるというわけではなく、普通の人にも理解できる仕組みにして欲しいという意味で)という思いも湧いてきます。 それ以外にも「企業減税は経済成長を促進するのか?」「消費税の軽減税率は役に立っているのか?」など、興味深い問いが並んでおり、税制を語る前にまず読むべき1冊となっています。 目次は以下の通り。 第1章 「年収の壁」と配偶者控除―配偶者控除は就業調整を引き起こすのか 第2章 課税と労働供給―労働所得税は勤労意欲を削ぐのか 第3章 課税と再分配―税は格差の縮小に貢献できるのか
社会的にも政治的にも日本で最も大きな影響力を有していると思われる宗教団体の創価学会について、カナダに生まれ、現在はアメリカのノースカロライナ州立大学の哲学・宗教学部教授を務める人物が論じた本。 副題は「現代日本の模倣国家」で、創価学会をミニ国家になぞらえた見取り図のもとで議論が行われているのですが、本書の何よりの面白さは著者によるフィールドワークの部分ですね。 創価学会の家庭に入り込み、任用試験とそれに向けての勉強、創価学会における女性の役割、信者と池田大作の関係などを明らかにしていく部分は、日本人の書いた創価学会本でもなかなか描かれていないものではないかと思います。 ここでも、そのフィールドワークの部分を中心に紹介したいと思います。 ちなみに校閲もかなり厳密になされており、著者のいくつかの誤解なども注で指摘されています。 目次は以下の通り。 はじめに 第一章 模倣国家としての創価学会 第
自分は1970年代半ばの生まれで、90年代の前半に明治大学に入学したのですが、入学式の日にヘルメットを被った活動家の人たちが新入生にビラを配っている光景に驚いたのを覚えています。 もうなくなったと思っていた学生運動的なものがまだ残っていたことに驚いたわけですが、それくらい70年代後半〜90年代にかけて学生の政治運動というものは退潮してしまった(少なくともそのイメージがあった)状態でした。 これはなぜなのか? この70年代後半〜90年代にかけての若者の政治や社会運動からの撤退の謎を、1974年に創刊され、85年に刊行を終えた雑誌『ビックリハウス』の分析を通して明らかにしようとしたのが本書です。 『ビックリハウス』については糸井重里による「ヘンタイよいこ新聞」のコーナーなどが今までも社会学者などによって分析されてきたので、ご存じの方も多いでしょう。自分も世代ではないですが、宮台真司や北田暁大の
1924年の加藤高明の護憲三派内閣以降、政友会と憲政会(→民政党)が交互に政権を担当する「憲政の常道」と言われる状況が出現しますが、なぜ、このような体制が要請されたのでしょうか? そして、この政権交代の枠組みを運営したのは誰なのでしょうか?(明治憲法のもとでは議会での多数派が組閣を導くわけではない) また、護憲三派内閣以降の政党内閣の歴史は「政友会の堕落の歴史」のように語られることがあります。 田中義一は鈴木喜三郎などのファッショ的な人物を政友会に取り込んで選挙干渉を行い、対外政策では幣原外交を捨てて対中政策で失敗し、その後の浜口内閣に対しては軍部と結託して統帥権干犯問題を持ち出し、五・一五事件のあとは鈴木喜三郎総裁への西園寺の不信感から政権が回ってこず、天皇機関説問題では右翼と組んで政党内閣を支えた理論にとどめを刺す、こんなイメージもあるのではないかと思います。 なぜ、初の本格的政党内閣
副題は「デジタル経済・プラットフォーム・不完全競争」、GoogleやAppleやAmazonなどの巨大企業が君臨するデジタル経済において、その状況とあるべき競争政策を経済学の観点から分析した本になります。 基本的にGoogleのような独占企業が出現すれば市場は歪んでしまうわけですが、例えば、Facebookが強すぎるからと言ってFacebookを分割すればそれがユーザーにとって良いことかというと疑問があります。Facebookは巨大だからこそいろいろな人とつながれって便利だという面もあるからです。 本書はこうした問題に対して、「不完全競争市場こそがスタンダードなのだ」という切り口から迫っていきます。 このように書くと難しそうに思えるかもしれませんが、全体的に読み物のような形に仕上がっており、また、高校の教科書の記述などを拾いながら書かれていて、経済学にそれほど詳しくない人でも読めるものにな
出版社は飛鳥新社で400ページ超えの本にもかかわらず定価が2273円+税で、みすず書房とかの本を買い慣れている人には「???」という感じなのですが、決して怪しい本ではありませんし、35歳の若さでオックスフォード大学の正教授になったという著者が、現代の政治がうまくいかない理由を実証と理論の両面から教えてくれる非常にためになる本です。 監訳者は『大阪 大都市は国家を超えるか』や『分裂と統合の日本政治』の砂原庸介ですが、砂原庸介・稗田健志・多湖淳の教科書『政治学の第一歩』と同じように、本書も集合行為論をキーにさまざまな問題が論じられており、具体的なテーマを通じて政治学の理論も学べる形になっています。 目次は以下の通り。 第1部 民主主義―「民意」などというものは存在しない 第2部 平等―権利の平等と結果の平等は互いを損なう 第3部 連帯―私たちが連帯を気にするのは、自分に必要なときだけ 第4部
著者の湊氏よりご恵贈いただきました。どうもありがとうございます。 近年、特に中国に対抗するためのパートナーとしてインドへの注目が高まっています。日米豪印の「クアッド」という枠組みがつくられ、そこではインドは民主主義や法の支配といった基本的理念を共有する国として紹介されています。 しかし、本当にそうなのだろうか? ということを本書は突きつけています。 インドのリーダーとして、あるいはグルーバルサウスのリーダーとして注目を浴びているモディ首相ですが、本書を読めばその政治スタイルはかなり権威主義的で、インドの民主主義はモディ首相のもとで大きく毀損されています。 日本はインドと基本的理念を共有しているといいますが、むしろインドが中国と近いのでは? と思わせるような内容です。 目次は以下の通り プロローグ 大国幻想のなかのインド 第1章 新しいインド? 第2章 「カリスマ」の登場 第3章 「グジャラ
2023年にノーベル経済学賞を受賞したゴールディンによる一般向けの書。 ここ100年のグループを5つに分けてアメリカの女性の社会進出の歴史をたどるとともに、それでも今なお残る賃金格差の原因を探っています。 世代についての叙述も面白いですが、ここでは現在の賃金格差の原因となっている「どん欲な仕事」についての部分を中心に紹介したいと思います。 目次は以下の通り。 第1章 キャリアと家庭の両立はなぜ難しいか―新しい「名前のない問題」 第2章 世代を越えてつなぐ「バトン」―100年を5つに分ける 第3章 分岐点に立つ―第1グループ 第4章 キャリアと家庭に橋をかける―第2グループ 第5章 「新しい女性の時代」の予感―第3グループ 第6章 静かな革命―第4グループ 第7章 キャリアと家庭を両立させる―第5グループ 第8章 それでも格差はなくならない―出産による「ペナルティ」 第9章 職業別の格差の原
ハン・ガンによる済州島4.3事件をテーマとした作品。 ハン・ガンは個人的にはノーベル文学賞を獲って当然と考える作家で(同じ韓国の作家ならパク・ミンギュも好きだけど、こちらはノーベル賞を獲るタイプではない)、そのハン・ガンが韓国現代史の大きな闇である済州島4.3事件をテーマにしたということですごい作品なんだろうなと予想しながら読んだわけですが、想像とはちょっと違う形でやはりすごい作品でした。 この作品は作者のハン・ガンを思わせる主人公のキョンハが疲弊しきっている状態になっているところから始まります。キョンハは光州事件と思われる事件についての著作を書き上げましたが、そのために疲弊しきっています。 そこにカメラマンでもあり短編のドキュメンタリー映画もつくっている友人のインソンから連絡が入ります。インソンは故郷の済州島で木工の仕事もしていたのですが、そこで指を切断する怪我をしてしまったのです。 こ
ちょっと変わったタイトルのように思えますが、まさに内容を表しているタイトルです。 第2次安倍政権がなぜ長期にわたって支持されたのかという問題について、その理由を探った本になります。 本書の出発点となているのは、谷口将紀『現代日本の代表制民主政治』の2pで示されている次のグラフです。 グラフのちょうど真ん中の山が有権者の左右イデオロギーの分布、少し右にある山が衆議院議員の分布、そしてその頂点より右に引かれた縦の点線が安倍首相のイデオロギー的な位置であり、安倍首相が位置が有権者よりもかなり右にずれていることがわかります。また、衆議院議員の位置が右にずれているのも自民党議員が右傾化したことの影響が大きいです。 では、なぜ有権者のイデオロギー位置からずれた政権が支持されたのでしょうか? 『現代日本の代表制民主政治』では、自民党の政党としての信用度、「財政・金融」、「教育・子育て」、「年金・医療」な
『番号を創る権力』の羅芝賢と『市民を雇わない国家』の前田健太郎による政治学の教科書。普段は教科書的な本はあまり読まないのですが、2010年代の社会科学においても屈指の面白さの本を書いた2人の共著となれば、これは読みたくなりますね。 morningrain.hatenablog.com morningrain.hatenablog.com で、読んだ感想ですが、かなりユニークな本であり教科書としての使い勝手などはわかりませんが、面白い内容であることは確かです。 本書の、最近の教科書にしてはユニークな点は、序章の次の部分からも明らかでしょう。 この教科書ではマルクスを正面から取り上げることにしました。それは、マルクスの思想が正しいと考えるからではなく、それを生み出した西洋社会を理解することが、日本をよりよく知ることにつながると考えたからです。 20世紀以後の日本の政治学は、欧米の政治学の影響を
1972年生まれの韓国の女性作家の短編集。河出文庫に入ったのを機に読みましたが、面白いですね。 「優しい暴力の時代」という興味を惹かれるタイトルがつけられていますが、まさにこの短編集で描かれている世界をよく表していると思います。 「優しい暴力」の反対である「優しくない暴力」は80年代半ばくらいまでの韓国には吹き荒れていました。本書の訳者である斎藤真理子が訳した同じ河出文庫のチョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』では、むき出しの直接的な暴力が描かれていました。 ところが、経済が成長し、民主化が進み、軍が民衆を弾圧するようなむき出しの暴力は鳴りを潜めました。 でも、「暴力」は社会の中にあって、ふとした瞬間に顔を見せているというのが、本書が描く世界です。 冒頭の「ミス・チョと亀と僕」は、父の恋人でもあったミス・チョことチョ・ウンジャさんと高齢者住宅で働く主人公の奇妙な関係を描いた作品で、ユ
東京大学出版会のU.P.plusシリーズの1冊でムック形式と言ってもいいようなスタイルの本です。 このシリーズからは池内恵、宇山智彦、川島真、小泉悠、鈴木一人、鶴岡路人、森聡『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』が2022年に刊行されていますが、『ウクライナ戦争と世界のゆくえ』がウクライナ戦争の世界への影響を論じていたのに対して、本書はヨーロッパへの影響を論じたものになります。 morningrain.hatenablog.com どこまでを「ヨーロッパ」とするかは(特にロシアはヨーロッパなのか?)というのは議論が分かれるところでしょうが、ウクライナ戦争は「ヨーロッパ」で起こった戦争として認識され、それゆえに非常に大きなインパクトを世界に与えました。 そして、当然ながらヨーロッパ各国にはより大きなインパクトを与えているわけです。 本書はそんなヨーロッパへのインパクトを豪華執筆陣が解説したものにな
新年初日から能登半島で大きな地震があって、「今年はどうなってしまうのか…」という状況ですが、今できることをやるしかないので、毎年恒例の紅白歌合戦の振り返りを行いたいと思います。 今年の山場はなんといってもYOASOBIの「アイドル」における、「オールアイドル総進撃」で、しかも、その場に日本のアイドルシーンに君臨してきたジャニーズのタレントがいなかったということでしょう。 ジャニーズ勢が不在ということで「枠が埋まるのか?」という心配もありましたが、とりあえず枠は埋まった。ただし、ジャニーズ勢の不在がもたらす紅白の変質もあった。ここから「ジャニーズとは何だったのか?」という大きな問いが生まれていくることになるわけですが、その答えについては今後の研究の進展に期待したいと思います。 このYOASOBIの「アイドル」とジャニーズの問題については、さまざまなところですでに論じられていると思うので、ここ
今年は読むペースはまあまあだったのですが、ブログが書けなかった…。 基本的に新刊で買った本の感想はすべてブログに書くようにしていたのですが、今年は植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本BP)、川島真・小嶋華津子編『習近平の中国』(東京大学出版会)、ウィリアム・ノードハウス『グリーン経済学』(みすず書房)、リチャード・カッツ、ピーター・メア『カルテル化する政党』(勁草書房)、黒田俊雄『王法と仏法』(法蔵館文庫)といった本は読んだにもかかわらず、ブログで感想を書くことができませんでした…。 このうち、植杉威一郎『中小企業金融の経済学』はけっこう面白かったので、どこかでメモ的なものでもいいので書いておきたいところですね。 この1つの原因は、秋以降、ピケティ『資本とイデオロギー』という巨大なスケールの本を読んでいたせいですが、それだけの価値はありました。 というわけで、最初に小説以外の本を読んだ
本書を「『21世紀の資本』がベストセラーになったピケティが、現代の格差の問題とそれに対する処方箋を示した本」という形で理解している人もいるかもしれません。 それは決して間違いではないのですが、本書は、そのために人類社会で普遍的に見られる聖職者、貴族、平民の「三層社会」から説き始め、ヨーロッパだけではなく中国やインド、そしてイランやブラジルの歴史もとり上げるという壮大さで、参考文献とかも入れると1000ページを超えるボリュームになっています。 ここまでくるとなかなか通読することは難しいわけですが(自分も通勤時に持ち運べないので自宅のみで読んで3ヶ月近くかかった)、それでも読み通す価値のある1冊です。 本書で打ち出された有名な概念に「バラモン左翼」という、左派政党を支持し、そこに影響を与えている高学歴者を指し示すものがあるのですが、なぜそれが「バラモン」なのか? そして、本書のタイトルに「イデ
副題は「死者はいかにして数値になったか」。 本書の序章の冒頭では、著者がボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争における死者を調べていて、20万人という数字と10万人という数字が出てきたというエピソードが紹介されています。 死者数というのは戦争の悲惨さを伝えるためのわかりやすいデータではありますが、それが倍近くも食い違っているのです。 特に文民の死者数となると、なかなか正確な数字は出ません。 しかし、実際に何人の兵士が死んだのか? 戦争によってどれだけの文民が犠牲になったのかというのは非常に重要なデータです。 本書はこうした戦争での死者がいかに数えられるようになったのか? 誰が数えているのか? どのようにカウントされているのか? といったことを過去に遡って明らかにしながら、戦争とデータの問題を考えています。 今まであまり光の当たっていなかった問題をとり上げた興味深い本です。 目次は以下の通り。 序章
『幕末社会』(岩波新書)の須田努と、『喧嘩両成敗の誕生』(講談社選書メチエ)や『戦国大名と分国法』(岩波新書)などの清水克行の2人が、縄文から現代に至るまでの「日本史」を語った本になります。 もともとは明治大学の文学部史学科以外の学生を対象にした「教養日本史」的な授業のテキストブックという形でつくられたものになります。 ですから、「歴史とはなんぞや?」「中世とはいかなる時代か?」といった大きな問いから入るのではなく、まずは歴史上の面白い事象を紹介し、そこから時代の特徴を探るような構成になっています。 歴史というと古い時代から順番に学んで、その変化を見ていくといった形になりやすいですが、本書では「流れ」よりも、当時の人々が生きた社会を直接つかみにいくようなスタイルです。 目次は以下の通り。 第0講〜第6講までを清水克行が、第7講〜第13講を須田努が担当しており、第14講が2人の手によるものに
私たちはさまざまなものを「所有」し、その権利は人権の一部(財産権)として保護されています。「所有」は資本主義のキーになる概念でもあります。 同時に、サブスクやシェア・エコノミーの流行などに見られるように、従来の「所有」では捉えきれない現象も生まれています。 本書は、この「所有」の問題について研究者が集まって書いた本なのですが、まずは冒頭の岸政彦とつづく小川さやかの論文で、私たちが生活していく上でかなり強い足場として認識している「所有」が、そうした足場になっていない社会の様子が紹介され、その後に経済学や歴史学や社会学の立場から「所有」が論じられています。 「所有」だけではなく、「制度」や「秩序」といったものについても考えが広がる、面白い内容になっています。 目次は以下の通り。 第1章 所有と規範―戦後沖縄の社会変動と所有権の再編(岸政彦) 第2章 手放すことで自己を打ち立てる―タンザニアのイ
現在、欧米は物価上昇に対応するために利上げを続けていますが、それまでは日本を含めた先進国の多くで低金利政策がとられていました。 そうした中で、財政政策や財政赤字に対する考えを変える必要があるのではないかというのが本書の主張になります。 ローレンス・サマーズ、ベン・バーナンキ、ポール・クルーグマン、アルヴィン・ハンセン著/山形浩生編訳『景気の回復が感じられないのはなぜか』を読んだ人であれば、コロナ前の世界について、低金利で株価も上がっているのに投資は十分に回復していない「長期停滞」の時代だったのではないか?という議論を知っていると思いますが、本書はその「長期停滞」時代の財政論といった形です。 morningrain.hatenablog.com 基本的な考えは、(r(実質安全金利)-g(実質経済成長率))がマイナスであるならば、財政政策や財政赤字には今までとは違った考えが求められるだろうとい
「民主主義」の反対となる政治体制というと「独裁」が思い浮かびますが、近年の世界では金正恩の北朝鮮のようなわかりやすい「独裁」は少なくなっています。 多くの国で選挙が行われており、一応、政権交代の可能性があるかのように思えますが、実際は政権交代の可能性はほぼ潰されているような体制の国がけっこうあります。 独裁からこういった選挙があるけど政権交代の可能性がほぼない国までひっくるめて政治学では「権威主義」、「権威主義体制」と言い、近年では今井真士『権威主義体制と政治制度』、エリカ・フランツ『権威主義』のように権威主義を分析した本や、川中豪『競争と秩序』のように民主主義と権威主義の狭間で動くような国(東南アジアの国々)を分析した本も出ています。 こうした中で本書は権威主義体制の戦略、特に権威主義体制における選挙の利用について分析した本になります。 権威主義体制に選挙は必要ないような気もしますが、先
実は本書の著者は大学時代のゼミも一緒だった友人で、いつか書いた本を読んでみたいものだと思っていたのですが、まさか「あとがき」まで入れて761ページ!というボリュームの本を書き上げてくるとは思いませんでした。 タイトルからもわかるように三木武夫の評伝なのですが、タイトルに「戦後政治」と入っているように三木武夫を中心としながら三木が亡くなるまでの戦後政治をたどるような内容になっていることと、「政局」と「政策」の双方を追っているとことが、本書がここまで厚くなった理由でしょう。 「バルカン政治家」という異名からもわかるように、三木武夫というと「政局の人」というイメージが強いですが、本書はその「政策」をきちんと追うことで、三木の行動原理のようなものがわかるようになっています。もちろん、その判断は権力闘争と密接に絡まっているわけですが、権力闘争と政策が渾然一体となっているところが三木の面白さかもしれま
著者の西谷公明氏からご恵投いただきました。どうもありがとうございます。 本書は『通貨誕生 ー ウクライナ独立を賭けた闘い』(都市出版、1994)が岩波現代文庫で文庫化されたものになります。巻末には2014年のユーロマイダン革命をうけて書かれた「誰にウクライナが救えるか」、さらに2022年のロシアによるウクライナ侵攻をうけての「続・誰にウクライナが救えるか」が新たに収録されています。 文庫化にあたって「ウクライナ」というタイトルが前面に出されたように、本書の面白さはウクライナという国家とロシアとの関係がわかることです。ウクライナの地域ごとの違いや、ロシアと密接な関係を持ちつつも、「ロシアから独立したい」という強い思いがあったことがわかります。 さらに本書の面白いところは、一国の経済、そして市場経済をどのようにして立ち上げるのかという問題と、その過程での悪戦苦闘が描かれている点です。 物と物と
去年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、多くの専門家が状況の変化に伴走する形でテレビや新聞、雑誌などのメディアでこの戦争に関する分析を提供してきましたが、著者もそうした専門家の一人です。 もともと著者は欧州現代政治や国際安全保障を専門としており、『EU離脱』(ちくま新書)などの著作がありますが、今作もタイトルに「欧州戦争としての」とあるように、「ヨーロッパ」という切り口からこの戦争を分析しています。 国際情報サイトの「フォーサイト」に書かれた文章が中心ですが、内容が細切れだったり重複してしまっている感じはなく、一貫した内容のある分析が読むことができます。 目次は以下の通り。 第一章 ウクライナ侵攻の衝撃 第二章 ウクライナ侵攻の変容 第三章 結束するNATO 第四章 米欧関係のジレンマ 第五章 戦争のゆくえと日本に突きつけるもの 今回の戦争はロシアとウクライナの間の戦争ですが、
去年の夏に出たときに読もうと思いつつも読み逃していたのですが、これは読み逃したままにしないでおいて正解でした。 著者が2013年に出した『経済大陸アフリカ』(中公新書)は、アフリカの現実から既存の開発理論に再考を迫るめっぽう面白い本でしたが、今作も人口について基本的な理論を抑えつつ、それに当てはまらないアフリカの動きを分析していくことで、未来の世界が垣間見えるような面白い本です。 目次は以下の通り。 第1章 人口革命と人口転換 第2章 グローバル人口転換 第3章 アフリカの人口動向 第4章 人口と食糧 第5章 人口と経済 18世紀後半からイギリスで1%を上回る人口増加が持続的につづいたことが人口革命の始まりと言われています。その結果、イギリスの人口は1801年の約1600万人から1920年には約4682万人まで3倍近くになりました。 これがアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド
新型コロナウイルスの感染拡大の中で、まさに本書のタイトルとなっている「公衆衛生の倫理学」が問われました。外出禁止やマスクの着用強制は正当化できるのか? 感染対策のためにどこまでプライバシーを把握・公開していいのか? など、さまざまな問題が浮上しました。 そういった意味で本書はまさにホットなトピックを扱っているわけですが、本書の特徴は、この問題に対して、思想系の本だと必ずとり上げるであろうフーコーの「生権力」の概念を使わずに(最後に使わなかった理由も書いてある)、経済学、政治哲学よりの立場からアプローチしている点です。 そのため、何か大きなキーワードを持ち出すのではなく、個別の問題について具体的に検討しながらそこに潜む倫理的な問題を取り出すという形で議論が展開しています。 そして、その議論の過程が明解でわかりやすいのが本書の良い点になります。 「これが答えだ!」的な話はありませんが、問題点が
90年〜00年代にかけて日本ではさまざまな改革が行われました。小選挙区比例代表並立制が導入され、1府12省庁制となり、地方自治では三位一体の改革が行われました。それが良かった悪かったかはともかく、これらの改革が日本の社会に大きな変化を与えたということは多くの人が認めるところだと思います。 ところが、本書が取り扱う司法改革に関しては、改革がどのような変化をもたらしたのかが見えにくくなっています。鳴り物入りで設立されたロースクールの多くが閉校に追い込まれましたし、法曹人口の増加も当初の計画のように入っていません。裁判員制度の開始は大きな変化ですが、これが社会にどのような影響を与えているかというと、これもあまり見えてきません。 こうした中で、改めて司法制度改革を点検し、その問題点や達成を探ったのが本書になります。論者によってスタンスは違いますが、副題に「理論なき改革はいかに挫折したか」とあるよう
今回紹介する本はいずれも去年に読んだ本で、去年のうちに感想を書いておくべきだったんですが、書きそびれていた本です。特にホックシールドの本は非常に良い本だったのですが、夏に読了した直後にコロナになってしまって完全に感想を書く機会を逸していました。 というわけで額賀美紗子・藤田結子『働く母親と階層化』を簡単に紹介しつつ、そこでやや疑問に思った部分をA・R・ホックシールド『タイムバインド』の議論につなげてみたいと思います。 まず、額賀美紗子・藤田結子『働く母親と階層化』です。いわゆる日本の女性に降りかかる仕事と子育ての両立という負担を分析した本です。 現在の日本では、家事や子育ては母親中心とされながら、同時に母親には外で稼ぐことも求められているような状況です。これを三浦まりは「新自由主義的母性」の称揚と位置づけましたが、本書もそうした問題意識をもって、母親たちがどのように家事・育児と仕事というダ
気がつけば今年もあと僅か。というわけで恒例の今年の本です。 今年は小説に関しては、朝早起きしなくちゃならない日が多かったので寝る前に読めず+あんまり当たりを引けずで、ほとんど紹介できないですが、それ以外の本に関しては面白いものを読めたと思います。 例年は小説には順位をつけているのですが、今年はつけるほど読まなかったこともあり、小説も小説以外も読んだ順で並べています。 ちなみに2022年の新書については別ブログにまとめてあります。 blog.livedoor.jp 小説以外の本 筒井淳也『社会学』 「役に立つ/立たない」の次元で考えると、自然科学に比べて社会科学は分が悪いかもしれませんし、社会科学の中でも、さまざまなナッジを駆使する行動経済学や、あるいは政策効果を測ることのできる因果推論に比べると、社会学は「役に立たない」かもしれませんが、「それでも社会学にはどんな意味があるの?」という問題
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