誰に話しても話してる最中に口が止まってしまうような話なので、言葉にしたい。
半年前の冬に、大学のゼミ生全員参加の旅行で北海道に行った。ゼミに入ってから約一年間、自分が童貞であることをやんわりとネタにしながら飲み会を立ち回っていたので、北海道旅行の計画が立ち始めた瞬間に、俺はすすきのに行って童貞を捨てるらしいという空気になり始めた。
正直まんざらではなかった。自分がこのまま異性経験のないまま社会に出て、孤独になり、幸せな他人に対して怒り、嫉妬、妬みを振りまく怪物になってしまうことが恐ろしいと思っていたため、まあ童貞を適切に捨てることはできなかったが、このままズルズル生きていくよりはマシかと思っていた。二泊三日の旅行の二日目の飲み会中、俺はゼミの先生のいる卓に突撃し、コンサルしてもらった。店が開く翌日12時に40分コース。18000円。土日ロングでバイトしなきゃ手に入らない金額の予約を電話でした。後から電話をしているときの写真を見たが、目が輝いていた。
寝る準備をして布団に入ったが、寝れない。どんな予定があっても眠りには抗えなかった俺の体が、突如降って湧いた童貞卒業のチャンスに戸惑っていた。ふとネットの言葉を思い出し、予約した嬢のSNSを見てみることにした。嬢は黒髪ショートボブのスレンダーな体型で、Sっぽいらしい。俺は自分のことをマゾだと思っていたので、ちょっと厳しめな感じの子を選んでみた。「40分の客ほんとにイラつく。だらだら話してないでさっさとしないとイケないよ?」みたいな投稿を見て冷や汗をかいた。
翌日、宿を出て店に向かった。途中で同期や先輩から分かれる際、錠剤タイプと液体タイプの凄十を両方もらった。凄百だと思った。
店についた。予約した者ですと伝えると待合室に通され、待つこと十数分。嬢が来た。確かにかわいいとは思ったが、よくあるレポ漫画で言われるほどの圧倒的な可愛さではないなとも思った。
個室に入り、嬢に服を脱ぐように言われた。部屋は薄暗くベッドのある部屋に、無理やり浴室を合体させたような作りになっていた。ちなみにこの後も含め、嬢は俺に対して指示することが何度かあるが、俺はASMRの聞きすぎで耳が遠いので何度か聞き返し、その度に機嫌が悪くなっていった。そういうプレイだと思うようにしていた。
浴室の準備ができ、呼ばれた。嬢がお湯を俺の体にかけた後、嬢の体に石鹸をつけ、体をこすりつけて洗ってくれた。が、なんだか緊張して全然エッチだとかそういう気持ちにならなかった。女性の体ってこんな感じなんだぁとか思っていた。嬢から定期的に「じっとしてろ」「力入れるな」との指示が来るが、人生初風俗に加え先ほどからとげとげしい態度を取られていたこともあり、ガッチガチの緊張は解けなかった。チンチンは電源が切れたようにうなだれていた。
やたら丁寧に股間を洗われている時、嬢が「なんで普通にできないの?」という言葉を飛ばしてきた。その言葉を聞いた瞬間に、体の上下がひっくり返るような感覚に襲われた。俺は、人生の多くの時間を自分のお調子者で、おっちょこちょいで、空気が読めなくて、無能な、”普通ではないこと”への矯正に使っていると感じていた。そもそもこの店だってそうだ。安くない金を払い、せっかく来た北海道で、俺はただ女性と性行為をしたという経験を得に店に来ている。普通の枠組みからははみ出しているだろう。そんな俺の、これまでの一生をかけても矯正できていない自分の異常性を見抜かれたと感じた。きっと真っ青な顔をしていたと思うが、嬢はこちらの顔を一瞥もしなかったため全くプレイに問題はなかった。
そこから先のことはよく覚えていない。体を洗い終わり、ベッドで仰向けになっている俺のチンチンを嬢が必死に手でいじるが、全然反応はなかった。フェラチオは気持ちよかった。いつの間にかコンドームがついていたが(イリュージョンフェラチオと呼んでいる)、いつの間にか俺のチンチンがまたしぼみ、取り外された。そうして数十分の格闘の末タイマーが鳴った。射精ゼロ回、謝罪数十回。誰がどう見ても判定負けだ。一応延長できないか聞いてみたが、「正直私はもう延長してほしくないですね」と言われKO。試合が終わってから一番強く殴られた。
金を払い。店を出るが、自分が情けなくて仕方なかった。一階にエレベーターで降りたが立ち上がることすら遠く、その横にあった階段の手すりにもたれかかった。
自分は、童貞卒業ゲームをリタイアする覚悟でこの店に来た。正当な勝ち方ではないが、一旦この重荷を捨てないことには全てが始まらないような気がしたからだ。いわば一種の損切りだ。それがどうだ?負けることすら許されず、普通になることすら許されず、ただ永遠とこの人生の確定化しつつある無差別殺傷犯ルートを眺めることしかできない。そんなことを考えていた。どうしようもないと思ったので、近くのラウンドワンに行き、カラオケを歌うことにした。もうヤケクソだった。
空港でゼミ生と合流した。感想を聞かれた際には、「あんまりうまくいかなかった。」とだけ答えた。彼らのうち数人はカメラの前で「俺、おめでとう。」と言っている動画を撮っており、それを見せられたのが何よりも苦しかった。空港内にある温泉につかり、やたらとおしりの穴の周りがヒリヒリした。おそらく嬢がしっかり洗っていたんだと思う。持ち帰れたのはこの痒さだけだった。
飛行機に乗っている間、ふと気になって成人向けASMRを聞いた。三日分勃起していた。その時、自分は欠けているのだと思った。もう普通になることは不可能なんだと思った。この旅行中初めて目から水が溢れる予感がした。
あれから半年経った。自分の精神は風俗前と比べ、明らかに悪化したと思う。半年間で、自分が欠けているという認識はより強くなった。欠陥品なんだろうなぁと思うようになった。でもそれを直視すると死にたくなるので、「欠けている人間こそが”本当”を掴むことができる」というどこかでみたような言葉を常に思い浮かべることで何とか自我を保った。陰キャはプライドが高いという通説があるがそれは逆で、社会的地位が低いが故に何かにプライドを持っていないと心が砕けてしまうのだと心で理解できた。
最近、異性と幸せそうに歩いている人を見ているのが辛い。30になるまでは怪物にならずに生きていけると思っていたため、自殺するにしても30代だろうと思っていたが、数年前にずれ込むことになるのかもしれない。俺はどうすればよかったんだろうか。
すすきのなんかな行くからだよ。君に必要なのは人間不信を癒すイチャラブ。吉原行きな。
フェミおばはこういうのは人身売買犯だと叩かないの?