ひよこを飼っていた事がある。
脂ぎっているような白熱灯の元で、うじゃうじゃとまるで「蜘蛛の糸」を待つカンダタのような感じで、糸が垂れてくるのを待っている、縁日で売られていたひよこである。
なぜ、俺がひよこを欲しがったのかわからないし、付けた名前も忘れたが、とにかくひよこを飼った記憶がある。
ところで「ひよこ」と普段キーボードで打つことが余り無いので気付かなかったのだが「ひよこ」とタイプすると、なぜだかわからないが心がとても落ち着き、非常にピースフルな気分になる。皆さんもぜひ試してみて欲しい。
縁日の夜、我が家にて飼われる事になったひよこは、段ボールを改造したひよこハウスに入れられる事となった。
ひよこハウスの中は、柔らかいタオルケットのようなものが敷かれ、湯たんぽが安置されるという豪華暖房付きで、ひよこも心なしか居心地が良さそうだったのを覚えている。
こうして小さなワンルームの住人となったひよこの餌はなぜか「米糠」であった。
これは実家が米穀店を営んでいたことに起因すると思うのだが、今思うと水に濡らされて若干ぱさぱさ感の取れた米糠を延々と主食として食わされるひよこの心中は、いかほどだったのであろうか。
不思議と米糠をつつきながら、ぴよぴよと鳴くだけで、あとは暖かいタオルケットにくるまって寝るという、落語の道楽若旦那もうらやむような生活をしていたひよこは、いつのまにやら通常の人間が想起するひよこよりも、はるかに巨大になっていた。米糠だけであんなに大きくなるものなのだろうか。
こうして、すくすくと育っていったひよこであるが、大きくなってしまった結果、ひよこハウスでは少し手狭になってしまったので、我が家の庭にて飼育されることになったのである。
暖かいひよこハウスから、突如屋根無し生活のブルーシーターと化したひよこであるが、文句一つ言わずにひょこひょこと歩き回っていた。時々クビをかしげていたような記憶もあるのだが、あれは鳥類特有のものだろう。
ところで、日本人ならば成人式を迎えた日、ユダヤ教ならば割礼をした日、どこかの部族なら入れ墨をした時に「大人」と認められるのだが、ひよこはいつから鶏になるのだろうか。
鶏冠が生えて来た時だろうか。それとも、ある朝いきなり「コケッコッコー」と「今日から大人ですよわたしー!」と高らかに鳴いた時なのであろうか。
そんなことを子供ながらに考えていたある日、裏の駐車場にあった、鉄パイプを組んだ足場で遊んでいたところ、遠くから「ひよこがぁ! ひよこがぁ!」と祖母の叫び声が聞こえた。
大きくなり、湯たんぽの庇護を必要としなくったゆえに野晒しにされていたひよこは、野良猫に捕まえられ、抵抗の際に抜け落ちたと思われる数枚の羽毛を残してどこかへ消えてしまったのである。
こうして、行方不明になってしまったひよこであるが、その後近所で「野良鶏」を見なかったことから、おそらく猫に食われてしまったのかも知れない。
と、いうわけで、未だに縁日で売られているひよこだったり、どこかで鶏を見かけたりすると、米糠ばかりつついていたあのひよこを思い出して、ちょっぴり切なくも、懐かしい気持ちになる。
ちなみに、アメリカの研究チームがティラノサウルスの骨のタンパク質のアミノ酸の配列を解析したところ、ニワトリに最も似ているとの結論になったらしい。
何万年後かに、何かのはずみで地球の重力が少なくなったり何かして、突然変異で色んな生物が大きくなってしまったり、先祖帰りをしたとして、ティラノサウルスばりに大きくなったひよこが猛り狂ってぴよぴよしているのを、見てみたいものである。
長い割につまらん。やりなおし
ひよこかわいい
カンダタが複数形で気持ち悪い
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