http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2012/06/post-7a96.html
偶然はてなブックマークの上の方にあがっていた極東ブログの記事を読んでうんざりしたので、思うところを書いておきたい。とは言え、finalvent氏の議論それ自体を批判するつもりはない。その裏側にある、「不景気の主因を日銀に帰さないと気が済まない人たち」の困った思考パターンに対して一言もの申したいのである。
氏のちょっと出来の悪い陰謀論については措いておこう。気になるのは、というより、前から気になっていたのは、日銀を非難する人たちは何故こうも自分の意見の正しさに確信を持てるのだろうかということだ。自分たちの意見の方が間違っている可能性を慎重に考慮した議論をついぞしばらく見たことがない。現状の日本で金融政策が有効である、インフレターゲットを採用すれば期待インフレ率は上がる、量的緩和すべきだ、等々、自信満々でまくし立てておられる。たまに反論があってもまるで聞く耳を持たないご様子だ。
しかし、当の経済学界においては、これらの意見はどれもコンセンサスとは言えない。どちらかというと、2000年代半ば以降「ゼロ金利下での金融政策の有効性」についてはあまり目新しい論考が出ていないというのが現実と言って良いのではないか。「不景気から脱却した後も利上げをせず、過剰なインフレを放置することを約束すれば、ゼロ金利下でも中銀は影響力を行使できる」というKrugman他の議論は、「でもその約束を信じる理由がないじゃん」という十年来のツッコミに対して依然として回答できていない。この議論が死に絶えたわけではないが、最近の議論ではこの「約束」を信じてもらえない(=金融政策が機能しない)可能性にあらかじめ言及する論文が多いように思う(Mankiw and Weinzierl (2011)など)。
一方で、財政政策の研究は急速に進んでいる (ゼロ金利下では財政乗数が大きくなるとしたChristiano et al (2011)やWoodford (2010)などが代表的だろうか)。これは、むしろ復活したという表現の方が正しいのかも知れない。いわゆるDSGEマクロモデルでは財政政策の効果は無きに等しくなるので、マクロ経済学者の間では「景気対策は金融政策で行うべき、即ち、中銀が責任を取るべき」、という理解が一般的になった。いわゆる「リフレ派」とかその界隈の人たちが日銀をやたらと非難したがるのも、元々はこの理解を出発点としている(はずである)。だが、ゼロ金利下では、この常識それ自体が成立しないらしいことが少しずつ分かってきたのである。
この「常識の通用しない世界」では、色々なことが起こりうる。「ゼロ金利下では減税が景気を悪化させうる」としたEggertsson (2009)の論文もそうだし、逆に「消費税増税でデフレから脱却できる」と論じた論文もある。今年のアメリカ経済学会で話題になったCorreia et al (2011)の論文がそれだ。結論は、「ゼロ金利の下では金融政策は有効ではなく、むしろ消費税を緩やかに増税していく(同時に裏で所得税を減税する)ことで利下げと同等の効果が得られる」というものだ。大雑把に言えば、消費税増税でも物価は上がるわけで、これがインフレ(=実質金利低下)と同じ効果をもたらすという理屈になる。ちなみに、所得税減税を伴わず、消費税増税単体で景気回復が可能とする論文をWren-Lewis (2000)が10年も前に書いている。彼のブログに簡単な解説があったので、興味のある人は読んでみると良いだろう。
http://mainlymacro.blogspot.co.uk/2012/04/more-on-tax-increases-versus-spending.html
ちなみに、アメリカ経済学会ではこれ以外にもゼロ金利関連で面白い論文が発表されていたのだが、The Economistの以下の記事が良い要約になっているのでそちらを参照してもらいたい。金融政策に対して学界が悲観的になりつつあることも、これを読めば概ね理解できるだろう。書き手は金融政策の有効性を信じる人らしく、金融政策はもう無効だという考えを少し批判的に書いている記事なので、自分に都合の良い記事しか読みたくない類の人も気持ちよく読めるのではないかと思う。
http://www.economist.com/blogs/freeexchange/2012/01/monetary-policy
さて、ここまで読んでなお「日銀は議論の余地なくワルモノ」と思えるものだろうか。日銀改革が景気対策の最優先課題と断言できるのだろうか。別にリフレの信仰を捨てて日銀を真の神として崇めなさいと言いたいのではない。世の中には正誤定かならぬ「よく分からない」ことが山ほどあるのであって、この金融政策をめぐる議論もそのひとつだと理解してもらいたいだけのことだ。
知識の足りない人ほど目の前の景色が世界の全てだと思い込む。その景色を共有しない人を見下したがる。知識が足りないことが悪いのではない。自分だって景気対策は門外漢で、趣味で気が向いたときに論文を追っているに過ぎない。大切なのは、自分は世の中をろくに理解できていないということを理解した上でモノを語ることだと思う。
Twitterでの議論を見ていると、知識の足りない人同士が互いの誤解を肯定しあって自信を漲らせていく過程をたまに見かける。なんだか、毒虫が相食んで更に自らの毒を強める蟲毒の壺を覗き込んでいるような気分になったのを今でも覚えている。たまには壺から出て外の空気も吸おうよ。
Christiano, Eichenbaum, and Rebelo (2011) “When is the Government Spending Multiplier Large?”, Journal of Political Economy.
Correia, Farhi, Nicolini and Teles (2011), “Unconventional fiscal policy at the zero bound”, mimeo.
Eggertsson (2009), “What fiscal policy is effective at zero interest rates?”, FRBNY Staff Paper.
Mankiw and Weinzierl (2011), “An exploration of optimal stabilization policy”, Brookings Papers of Economic Activity.
Wren-Lewis (2000), “The limits to discretionary fiscal stabilization policy”, Oxford Rev of Economic Policy.
Woodford, (2010), “Simple analytics of the government spending multiplier”, mimeo.
とはいえ先日日銀がインタゲについて数字を挙げた途端に円安・株高になりましたな。 少なくとも市場は日銀の緩和を景気浮揚要因として考えているという事実はあると思う。 そもそも...
だったら、「どうすればいい」んだよ?お前みたいな奴はいつも確信を言わずにはぐらかすだろ。分析なんてどうでも良いんだよ。今の経済状態を打破するにはどうすればいいか、お前...
良くも悪くも、経済問題に対して即効性のある解答を求めてしまうのが大衆である、というのがよくわかる。 こういう人たちにも分かって、効果も確認しやすい経済政策、という条件を...
批判されるのは2000年に政府の反対押し切ってデフレなのにゼロ金利解除して失敗したという前科があるからだろ 金融緩和が無効だからと言って引き締めの悪影響がなくなるわけではない...
わかってないなあと思うのは、日銀は往々にして緩和の前後に引き締めを行うってことと、自らの政策を否定するようなアナウンスを行うということ。 金融政策の有効性はどうかなんて...
もしすべての経済学者が円座になって座ると、結論には至らないであろう。 バーナード・ショー 沈黙は軽蔑の最も優れた表現である。 バーナード・ショー http://anond.hatelabo.jp/2012...
正直、コンテンツとしてはみな飽きが来ている
反証可能性 - Wikipedia 疑似科学 - Wikipedia http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/economy/article274_5.html 早稲田のちょいわるオヤジ日記: (続)なぜ経済学者の論争は不毛か:消費税アップの是非につい...
学問を使ってパチンコやりたがる人にとってはそうなのかもしれない。
一期満期の債券のみを考える通常のDSGEモデルとは違い、現実の市場ではより長い満期の債券が取引されており、 市場が中央銀行の約束を信じなくても、(中央銀行にその意思さえあれば...
http://anond.hatelabo.jp/20120628102420 この指摘は経済学ではこうだという指摘であって、現在の経済をどうすべきだという指摘が一切ない。 経済学界隈の人々は実態経済よりも自分の理論が正...
それが今の経済学の限界って事でしょ。それで君はその限界を超えられるの。
自分の意見は間違っているかもしれない、と考えるところからちゃんとした議論は始まるのではないでしょうか。 他者否定だけでは何も生まれない。その先にある議論が見たいです。
http://anond.hatelabo.jp/20120628102420 偶然はてなブックマークの上の方にあがっていた記事であるが、この増田はまだまだ勉強不足な未熟者であることがうかがえるのに高飛車な態度を取ってし...
http://anond.hatelabo.jp/20120628102420 偶然はてなブックマークの上の方にあがっていた記事であるが、この増田はまだまだ勉強不足な未熟者であることがうかがえるのに高飛車な態度を取ってし...
この人は本当に挙げた論文を読んでいるのか? Correia et al.(2011)やWoodford (2010)にしても、Wren-Lewisのブログにしても、中央銀行が多少インフレになっても低金利を継続することがキーになる...
今年度 総合 タイトル ブクマ数 日付 カテゴリ 1 (14) 先日倒産したメモリメーカーの友人と飲んできた話 2085users 2012/02/29 コンピュータ・IT 2 (15) "Hello world!" ...
今年度 総合 タイトル ブクマ数 日付 カテゴリ 1 (14) 先日倒産したメモリメーカーの友人と飲んできた話 2085users 2012/02/29 コンピュータ・IT 2 (15) "Hello world!" ...
なんでこんな古いものを今更。しかもその後の「異次元」金融緩和が需要を喚起しなかったという結果が出た後にこれを取り上げるとはどういう了見なのか。まぁ、個人的にはやってよ...
”需要喚起するのはあくまで政府の仕事でしょう。” https://jp.reuters.com/article/column-tetsuya-inoue-idJPKBN2WL053 「中央銀行が政策金利を上げ下げすると、企業や家計の設備投資や消費といった...