レイトスターターと言わないで

ニューヨークタイムズの記者だったAri Goldmanという今年65歳の男性が、憧れだったチェロを始め、オーケストラに加わるまでの道のりを綴った "The Late Starters Orchestra"という本を出版したそう[Slippediscより]。

このような、チェロのレイトスターターの挑戦を綴った本としては、これまでにも ジョン・ホルト著「ネヴァー・トゥー・レイト―私のチェロ修業」や石川敦子著「Cello Love ニューヨーク・チェロ修行」などがあり、これらの本に勇気づけられた方も多いと思いますが、この本もこうした中の一冊に加わることになるかどうか。

***

この機会に、「レイトスターター」の一人として、ここ数年感じていることを書くと…

憧れだったチェロを大人になって弾き始めてからの歓びや苦労は、それぞれの人生──仕事や家庭やいろいろ──の中での「個人的な物語」で、だからこそ同じチェロという楽器を選んだ者の間では、歩んできた人生は違えど、共感せずにはいられないわけです。

ただ、チェロを通じて色々な経験をし、色々な人と出会ってみると、
「レイトスターターなのにここまで来れた」
「上手くならないのはレイトスターターだから仕方ない。でも楽しもう」
といったことを言葉にするのは、少し恥ずかしいこと、という気もするようになってきました。

そうした「無邪気な『レイトスターター』の連呼」は、自分の心の中でだけならいいですが、人前では言い訳のようで潔くないし、「個人的な物語」の押しつけになって、周りの人に苦々しい思いをさせているかも知れない。

たとえばオーケストラやアンサンブルで別の楽器の人と付き合っていると、彼らにとって自分はチェロの一人でしかなく、何よりまずチェロとしての役割を果たさないといけない。彼らがバイオリン奏者としていかに経験があり優れていても、代わりにチェロを弾いてくれるわけではない。そんな中で「自分はレイトスターターだから」と言ってみても何の意味もない。おそらく彼らは心の中で思うことでしょう。「いいから、ちゃんとやれ」と。

(チェロアンサンブルでも事情は同じかも知れませんが、チェロ同士はもう少し優しい)

おそらく「レイトスターター」ということが自分にとって意味を持ち、支えになる時期の後に、それほどでもなくなる時期、あるいはそんなことは言っていられない時期が来る、ということじゃないかと思います。

このブログも、チェロのことを書くとき、「レイトスターターだから」ということは、言葉にしないまでも書いている視点や前提として、もしかしたらぷんぷんと匂ってしまっているかも知れませんが、そこは所詮「個人的な物語」ということでご容赦ください…

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10 Comments

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R  

同感です

はじめまして。よくブログ拝見させていただいております。
チェロ弾きにとって興味深い内容のご提供、いつもありがたく思っています。

レイトスターターの記事、今まさに悩んでいたところだったので
真剣に拝見しました。
私はチェロアンサンブルをしているのですが、
レイトスターターな他メンバーの「どうせやるなら、楽しくやろう」の一言で
音楽表現が頭打ちになっている状況にあります。(音程はいいかげんでOKなど)
レイトスターターでも音楽的モチベーションや上達の根性、素直な心(?)
があれば、そうはならないのかな・・とも思います。
なので、「レイトスターター」な言い訳をアンサンブル上
(特に少人数)に持ってこられうとキツイなあ、というのが本心です。
難しいですね。。

2014/08/06 (Wed) 05:42 | EDIT | REPLY |   

そると  

チェロ特有?

ふと、思ったんですけど、
レイトスターターって本まで書いてしまうのって、ウ゛ァイオリンやウ゛ィオラにあったかなあと、、、、大人になって始めたバイオリン、ビオラのブログはたくさんあるけど、本はなかった気がします、チェロは何冊もあるのに。
プロもアマも一緒に隔てないお付き合いや演奏会、そもそも楽器を選ぶところから精神構造が違うのかなあ。
興味深いです。

2014/08/06 (Wed) 14:40 | EDIT | REPLY |   

yoshi  

Re: 同感です

> Rさん
ありがとうございます。チェロアンサンブルでの様子、似たような光景がいろいろ思い浮かんでドキドキしてきます(^^;)。
そういうときどう対処するか、難しいですねえ…。レイトスターターは音程が悪いことの免罪符ではないんですけどね(^^;)

2014/08/06 (Wed) 17:56 | EDIT | REPLY |   

yoshi  

Re: チェロ特有?

> そるとさん
あっ、そういえば、大人になって楽器に挑戦する方はたくさんいますが、本になったケースはチェロ以外あまりないのでしょうか?
ピアノでもギターでもどの楽器でも「物語」は同じだと思うのですが。なぜでしょうねえ…。

2014/08/06 (Wed) 18:02 | EDIT | REPLY |   

楽音  

NoTitle

ちょうど今図書館からNever Too Lateを借りて読みかけていたところでした。が、こういった本はここだけの話(笑)あまり面白く感じられません。私にとってはこちらのブログの方がずっと面白いですよ。

私も58歳でチェロを始めたんで、立派なレイトスターターの一人なんですが、子供の頃ヴァイオリンを習っていたとの理由で、仲間内からは「違う」と言われています(^^ゞ
楽器を習う人って、やっぱり言い訳が多いですよね。レイトスターターもその一つですが、楽器が悪い、弓が悪い、弦が悪い、などなど。一番大事なことを忘れているんじゃないかと思うんですよね。それは練習です。それも大人なんだから、自分で自分の弱点に気づいて、それを克服する練習、そして理想の音、音楽を奏でるためにどうしたらいいかを考えること。
大人ってそれができるお年頃だと私は思うんですよ。だからレイトスターター万歳!

2014/08/06 (Wed) 19:37 | EDIT | REPLY |   

yoshi  

> 楽音さん
ありがとうございます!いただいたコメントで思い出したのですが…
最近は減りましたが、以前はアメリカでもチェロのレイトスターターのブログが盛んで、そうした中の一人がブログの副題に一言 "It's about the process" と書いていたのに「そうだよなあ」と深く共感したことがあります。
ゴールじゃなくてプロセス、「どこまで行くか」でなく「どのように道を歩むか」が大事だということですね。

2014/08/06 (Wed) 22:26 | EDIT | REPLY |   

まかべ  

NoTitle

ご無沙汰しております!
今回の記事、とても共感いたしました。
私もレイトスターターという言葉に違和感を感じまくっていました。
「まだ始めて○年で・・・」というのも同様。
甘えというか言い訳というか、“そちら”の事情なわけで・・・。
私も気をつけなきゃ(汗)。

2014/08/07 (Thu) 00:47 | EDIT | REPLY |   

yoshi  

yoshi">

> まかべさん
こちらこそご無沙汰しています(^^;)。まかべさんとは同じ時期にチェロを始めて、二人ともほぼ始めてのアンサンブルでお会いしたので、あれから何年も経って、お互い少し変わったということでしょうかねえ(しみじみ)。

2014/08/07 (Thu) 10:41 | EDIT | REPLY |   

chiibou  

まったくその通りですね

いつもタイムリーな情報や貴重なお話ありがとうございます。私も57でチェロ始めて7年になりました。甘えられた許される時期はとっくに案外短く、指揮者から「楽器の数は多いけど音が出てない」とか、家人から「簡単な部分になると音が大きくなる」とか言われて恥ずかしいと感じたときからは、オケの一員として真剣にならざるをえなくなりました。
 ただ楽器を始めてだんだん弾けるようになり、合奏に参加する喜びは他には代えがたいものがあります。そんな気持ちを取り戻そうと思い、ご紹介いただいた書籍、英語で読めないとは思いますが、購入いたしました。ありがとうございます。

2014/09/19 (Fri) 11:14 | EDIT | REPLY |   

yoshi  

Re: まったくその通りですね

> chiibouさん
コメントありがとうございます。57で始められてオケでがんばっておられるのはすごいことだと思います。しかもオケではそれを言い訳にできない...苦労お察しします。chiibouさんも本が書けますよ!(^^;)

2014/09/19 (Fri) 20:43 | EDIT | REPLY |   

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