植物種
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「エバーグレーズの外来種の一覧」の記事における「植物種」の解説
生態学と環境研究の分野が発展するにつれて外来種が以前よりも注目を浴びるようになり、その影響が明らかになってきた。20世紀半ば、当時の外来種に関する知識が、環境はほとんど影響を受けないと仮定していたので、外来種に関する生物学の教科書は、警告よりも満足感の方を多く反映していた。1960年代、トマス・ロッジは、原生種ではない植物や動物が南フロリダで生きているという証拠があるが、特に注目するほどではないと記している。しかし、過去数十年間で外来種の数とその広がりが劇的に増えた。 もともとエバーグレーズは在来の植物相として1,301種を抱えていた。それらは熱帯性から亜熱帯性のものであり、約5,000年前にフロリダ半島に到達した。風、水、鳥が熱帯性植物の大半を運んできた。亜熱帯種はより北の方から広がった。2010年の時点で、それらに追加して南フロリダより外来植物が1,392種が同定され,それらはこの地に定着している。意図的にしろ偶然にしろそれらの種が人為的に持ち込まれたのであり、それには様々な経路があった。すなわち農業の実験、輸送用のコンテナ、あるいは自動車への付着などである。南フロリダは、アメリカ合衆国とカリブ海および中南米との輸送や交通の中心である。1990年の1年間で、3億3,300万の植物がマイアミ国際空港に入って来ている。アメリカ合衆国農務省とフロリダ食糧・農業科学大学の双方がフロリダ州全体にある研究所で植物の実験を行っている。 地方、州、連邦政府の機関が多額の金を遣って南フロリダから外来種を取り去ろうとしており、またこれ以上地域に入って来るのを防止しようとしている。フロリダに入って来た植物は「制限付き」か「禁止」かに区分されるが、新しい区分が考案されており、新区分である「植物危険性分析未承認 (Not Authorized Pending Pest Risk Analysis (NAPPRA))」では、科学者がその外来種が南フロリダの環境に与えるかもしれない害を評価することを認めている。フロリダ外来有害植物委員会と呼ばれる非営利団体が外来種をカテゴリーに分けた表を作成している。カテゴリーIは、「原生種に置き換わることで原生種の生態系を改変し、生態系の構造あるいは生態機能を変化させ、あるいは原生種と雑種を生じるもの」であり、カテゴリーIIは、「量的にも分布的にも増殖するが、カテゴリーIに見られるほどフロリダの植物生態系を変えないもの」となっている。100種以上の植物種がカテゴリIに登録されてきたが、その中でも数種の植物は、繁殖の速さによって潜在的な生態系に対する破壊力が最大であること、群生や日陰の形成などによって原生植物に取って代わってしまうこと、エバーグレーズの環境に対する高い適応能力、エバーグレーズ外遠く離れた地域まで生息地を広げてしまう可能性(もしくは既に広げた証拠)といった点で抜きん出ている。 学名和名(英名)原産地 / 導入年導入の目的Melaleuca quinquenervia (メラレウカ、カユプテ、white botlebrush tree) オーストラリア、ニューギニア、ソロモン諸島 / 1906年 景観作り、排水 エバーグレーズの浸水している土地から水を吸い上げさせるために、メラレウカの種が航空機で撒かれた。1970年代まで優れた景観を作る樹木と見なされており、土壌を安定化させるためあるいは防風林として運河にそって植えられた。メラレウカは原産地でよりも著しく高く育ち、大変に密に葉を茂らせ、それは翼長の大きい大型の渉禽類がその間を羽を広げて飛んで通り抜けられないほどであった。また大変急速に成長した。火や浸水の条件にも強い耐性があった。1本の木から1年で2,000万個の種を作ることが出来る。管理当局は樹木の並びを孤立させたり、既にある木を伐採したり、除草剤を使ったりしてメラレウカの繁茂を制限しようとしている。また苗を枯死させる能力があるキジラミの1種(Boreioglycaspis melaleucae)やゾウムシの1種(Oxyops vitiosa)を放ったことで、ある場所では過去10年間でメラレウカの成長の85%を減らさせ、それらの場所では植物多様性が4倍になった。メラレウカの制御は南フロリダ水質管理地区の主要な成果だと考えられ、1993年から2008年、メラレウカの生息範囲は推計2,000 km2 (50万エーカー) から1,100 km2 (27万3千エーカー) まで減少できた。 Lygodium microphyllum イリオモテシャミセンヅル(Old World climbing fern直訳すれば「旧世界登りシダ」) 熱帯アジア、アフリカ、オーストラリア / 1958年には既に到来していた 目的は不明 イリオモテシャミセンヅルは日本では八重山諸島のみに見られ、シダ類では珍しい他の樹木に巻き付く形で成長する。エバーグレーズ北部にあるロクサハッチー国定野生生物保護区の樹木島(tree island、同種の樹木が群生する地帯)で、その樹木の幾らかを完全に覆い、あるいはより背の低い植生に巻き付き、在来種の芽生えを陰にして、樹木を埋め込んでしまうことで島を奪い取っててしまった。鹿や亀といった中型から大型の動物に対する致命的な罠として働いたという証拠もある。野火がこのつるの幾らかを燃やすこともあるが、燃えるつるの部分が離れて、野火をさらに速く広がらせることもある。つるが林冠まで伸びたときには「火の梯子」が形成され、糸杉やその他の木なら耐火性があるはずの高さよりも上まで火が及ぶことになる。厚い葉軸があるつるの作るマットは、火から逃げようとする動物を掴まえてしまうこともある。南フロリダの生態的に外部要因に対して敏感な地域でこの外来植物を取り去ろうという計画は無いが、除草剤や制御しながら野火を広げることで除去する可能性が探索されている。メイガ科の1種(Neomusotima conspurcatalis)やフシダニの1種(Floracarus perrepae)のような本種を餌にして一部を破壊する天敵が2008年に放たれ、その総合的な評価が行われている。 Schinus terebinthifolius サンショウモドキ、ブラジル・ペパー、フロリダ・ホリー、クリスマス・ベリー、ペパー・ツリー ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ / 1840年代 景観作り ブラジル・ペパーはモチノキに対する南部の代替物として市場に出されている。鳥や小さな動物がその赤い実を食べ、消化したあとに種を出すことで広げてきており、ふつうなら届くはずのないかなり遠くの地域まで広がり、制御を難しくしている。低木は、農地、運河、電線の下、ハリケーンの後の自然地域など大いに障害のある地域では大変繁茂している。密度が濃いので、集中した藪を形成して在来植物に置き換わり、その植物を絶滅危惧種にしている。密度の濃い所では渉禽が渡って来たときの餌場を奪っている。エバーグレーズ国立公園以外では極めて稀である松岩場の生態系にとって特に危険である。ブラジル・ペパーは建設機械で物理的に取り去られ、大きなものは除草剤を与えている。 Casuarina equisetifolia, Casuarina glauca, Casuarina cunninghamiana トクサバモクマオウグラウカモクマオウカンニンガムモクマオウ(オーストラリアマツ、モクマオウ) オーストラリア、南太平洋の諸島、東南アジア / 19世紀終盤 景観作り 日本ではモクマオウと総称され、英名では3種の樹木が集合的にオーストラリアマツと呼ばれる(ただしマツ科でも裸子植物でもない)。20世紀半ばに、運河や農地に沿って防風林として、また日陰を作る木として植えられた。耐塩性があり、海浜でよく育ち、海岸の浸食、特に熱帯低気圧のような障害の後の浸食を防ぐ在来種に置き換わった。絶滅が危惧されるアオカイガンスズメ(Ammodramus maritimus mirabilis)の生息域が、モクマオウによって直接危険に曝されている。原生種の苗はモクマオウが作る日陰で枯れ、さらに厚く積もった枯葉で日光を受けられなくなっている。モクマオウの浅い根はウミガメやアメリカワニ(Crocodylus acutus)のように海岸に巣を作る動物にも障害になりうる。除草剤はモクマオウを除去するのに有効である。野火も有効であることが分かっているが、制御が容易でない。 Colubrina asiatica ヤエヤマハマナツメ(ラザーリーフ、アジアあるいは共通のコラブリナ、アジアヒロハセネガ) 1850年代にアジアの貿易業者がジャマイカにもたらした / 1933年までに南フロリダで帰化した 医薬品 ヤエヤマハマナツメは密なマット状に成長し、在来種の植物群落に絡みつき、あるいは日陰を作り、幾つかの種に絶滅の危惧を与えている。フロリダキーズのあらゆる保護地域で繁茂し、エバーグレーズ国立公園の遠隔地にも広がり、海岸の硬木林やマングローブの島に脅威を与えている。容易に成長するが、数を増やして広がりはしない。既にあるヤエヤマハマナツメを物理的に取り除き、定期的に若い苗をチェックすることで制御できる。 Eichhornia crassipes ホテイアオイ(ウオーターヒヤシンス、ウォーターオーキッド) アマゾン川流域 / 1884–1890 水上景観作り ホテイアオイは浮遊型であり、フロリダ北部の水路では特に問題があるが、エバーグレーズで育つようになって以来、その急速な繁殖力(6日から18日の間に個体数が2倍になり、障害が無ければ1か月で水面の25%を覆うまで増える)の故に、運河や水量を制御する装置を塞ぐことで、水の制御放出を妨げている。水質を悪化させ、他の自然の水生植物を密生させる。運河など人工構造物に大半が制限され、制御する方法として除草剤が最も効果的であることが分かっている。 Pistia stratiotes ボタンウキクサ(ウオーターレタス、ウォーター・キャベツ) アフリカあるいは南アメリカ / 1774年までにフロリダ おそらく偶然 ボタンウキクサはホテイアオイと同様浮遊型であり、急速に個体数を増やし、運河や水量制御装置を塞ぐ。またマットを形成して水中の植物や動物に対して日光や酸素を遮断することもある。ホテイアオイと同様な方法で排除しようとしている。 Neyraudia reynaudiana (ビルマアシ、シルクアシ、ケーングラス、フォールスアシ) 南アジア / 1916年 アメリカ合衆国農務省の試験庭園から脱出 ビルマアシは大きく乾燥した羽のような小花を咲かせる草であり、州内で最も危惧される生息域である松岩場生態系に侵入して、野火を誘導する。松岩場生態系は野火で維持されているが、ビルマアシは3.6 m (12フィート) の高さになり、高温でかつ高い位置で燃えるので、炎は9 m (30フィート) に達し、在来種のスラッシュマツ(Pinus elliottii var. densa)を燃やしてしまう。非常に繁殖力が強い。1つの植物体から12万個の種子を作ることが出来る。 Hydrilla verticillata クロモ(ヒドリラ、ウォーター・タイム、フロリダ・カナダモ) スリランカ / 1950年代 恐らくアクアリウムから広がった。南極を除きすべての大陸で見られる 他の水生植物と同様急速に繁殖する。浮遊型ではないが、早く成長して水面に上がって来る。細片に分かれると新しい個体を形成できる。水路を塞ぎ、日光を遮蔽し、溶存酸素量を下げる。そうでなければ水中の化学的組成を変化させる。魚類や動物性プランクトンにも害を与える。キシミー湖、ハッチネハ湖、トホペカリガ湖などキシミー湖群では、このクロモが蔓延した。物理的に除去することで管理されており、水路から草本全てを取り去ることは、今後の蔓延を避けることと一意である。除草剤の効果は様々な要素に依存しているが、その効果は評価されている。キシミー湖群からヒドリラを除去しないまでも少なくとも管理でき、許容できるレベルに抑えられる。クロモを餌にする草魚(Ctenopharyngodon idella)を放流することで対応することもある。しかし、草魚は在来種の植物も食べるので、その効果が有害とならない場合にのみ放流されている。 Dioscorea bulbifera エアポテト、ポテトヤム、エアヤム air yam アジア: 奴隷貿易の間に導入された / フロリダでは1905年までに導入 アメリカ合衆国農務省の試験庭園から脱出、景観作り エアポテトは成長の著しい蔓植物であり、地中よりも外部に塊茎が出ており、地面に落ちた時に急速な成長を促進できる。南フロリダの硬木の叢林や松岩場のような乾燥した状態で成長し、林冠まで在来植物を完全に覆ってしまうことも多く、特にハリケーンのような異常事態の後に、在来植物が戻って来る機会を持てる前に辺りを支配してしまう。 Cupaniopsis anacardioides キャロットウッド、ビーチタマリンド、ミドリハタマリンド、タッカルー オーストラリア/ 1960年代 景観作り キャロットウッドは南フロリダの海岸砂丘、海浜、沼地、松岩場、叢林、マングローブ林、糸杉湿地など多くの生息域で容易に成長している。鳥が実を食べて、種を地域に落とすことで広がっている。キャロットウッドの木についてあまり知られていないが、南フロリダに多い多様な生息域や条件に対応できる故に、固有の環境を破壊する可能性のある外来種に挙げられている。 Rhodomyrtus tomentosa テンニンカ、ダウニーローズマートル、ヒル・グーズベリー、ヒル・グアバ アジア / 1924年には到来していた 景観作り テンニンカは松岩場の生態系を占領する傾向にあることで、対応優先度の高い外来種に加えられたところである。通常の松岩場は、ノコギリヤシ(Serenoa repens)の下藪や小さなハーブの上に聳えるスラッシュ・パインで構成されている。頻繁にある野火でその生態系が維持されている。しかしテンニンカは南フロリダの全体で見いだされ、ノコギリヤシの役割を代替し、野火によってその蔓延が加速されている。以前は効果のあった除草剤に対しても耐性を見せている。
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