「動物の読み薬」
新宅広二(著)・きのしたちひろ(イラスト)
「あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬」について。
長いタイトルだが、図書館の書棚で目についたのは「読み薬」という部分。
以前、週刊文春に「読むクスリ」(上前淳一郎)という連載記事があった。なるほどとか、考えさせられる内容とかが、ちょっとユーモラスに書かれていて、面白く読んでいた。
タイトルからその週刊誌記事を思い出して、同じような期待感をもって読んだ。
全部で80の悩みを挙げて、それぞれの「処方箋」と称する動物が紹介される。
一つの悩みについて見開き2ページで統一されていて、右ページに「処方箋」となる動物名とイラスト、そしてその動物についての簡略な説明を「おくすり手帳」として添える。左ページにその「処方」の意味(これが本文と言ってよいだろう)が載せられ、下の方に「追加の処方箋」という短いトリビアが付属する。
本文もトリビアが詰め込まれているようなものだから、全部がトリビアづくしというわけだ。
そういう構成だから読むのに力を入れる必要もない。
ただし動物学の本のように、その動物の形態・行動などの意味を深堀りするようなものではない。動物学系の本との違いとしては、動物園での裏話がちょくちょく掲載されていることだろう。
その中でメインの悩みとははなれてコラムに興味深いことがあったので紹介しておこう。
檻とは動物の安全地帯を作るものということだが、これで思い出したのはコンラート・ローレンツの本に「逆檻」というのがあったこと。
ローレンツが言う逆檻というのは、人間(子供)を入れておく檻である。
ローレンツの家にはさまざまな動物がいて、それらは檻に入れられず自由に家の中を動き回る。動物が危険ということではないが、何かの拍子に子供と動物の間で何か事故が起こる可能性が排除できないから、子供のほうを檻に入れるというものだ。
また、引用文中、「外でパニックにならない限り、結局は必ず戻ってきます」とあるが、これに関してもローレンツは、檻から「逃げた」動物(鳥が多い)が戻ってこないのは、戻り方がわからないからであって、檻を嫌い自由を求めるからではないと書いている。檻は、その動物を虐待するようなことがなければ、快適な〝家〟というわけだ。
おもしろいトリビアがたくさんあるので、気楽に読むのに良いだろう。
悩みの「処方箋」になっているとはあまり思えないけれど。
「あなたにゴリラを処方します。悩みがちょっと軽くなる動物の読み薬」について。
長いタイトルだが、図書館の書棚で目についたのは「読み薬」という部分。
以前、週刊文春に「読むクスリ」(上前淳一郎)という連載記事があった。なるほどとか、考えさせられる内容とかが、ちょっとユーモラスに書かれていて、面白く読んでいた。
タイトルからその週刊誌記事を思い出して、同じような期待感をもって読んだ。
全部で80の悩みを挙げて、それぞれの「処方箋」と称する動物が紹介される。
悩みのうち「もう死にたい……。」には「処方箋」は「ありません」になっている。これは、動物で自殺が確認された例はないからだそうだ。
一つの悩みについて見開き2ページで統一されていて、右ページに「処方箋」となる動物名とイラスト、そしてその動物についての簡略な説明を「おくすり手帳」として添える。左ページにその「処方」の意味(これが本文と言ってよいだろう)が載せられ、下の方に「追加の処方箋」という短いトリビアが付属する。
本文もトリビアが詰め込まれているようなものだから、全部がトリビアづくしというわけだ。
Amazonにサンプル・ページも掲載されているので興味があれば。
はじめに | |
1 小さな悩み | |
音痴なのが悩みです。→ウグイス /食べ物の好き嫌いが多くて……。→ハゲワシ /爪を噛むクセが治らない。→トラ /寝相が悪いんですけど……。→ジャイアントパンダ /口臭がヒドくて悩んでいます。→ペンギン /整理整頓ができません。→リス /方向音痴で、すぐ道に迷います。→アザラシ /後先を考えないって叱られます。→ラーテル /将来、大物になりたい。→カンガルー /何のとりえもないんです……。→ダンゴムシ | |
動物園の読み薬1 ゴリラに栄養ドリンク | |
2 容姿・性格の悩み | |
背が低いのがコンプレックスです。→ゴリラ /ファッションセンスを磨きたい。→カンザシフウチョウ /ヘアスタイルが決まらない。→カニクイザル /実は、薄毛なんです……。→ラッコ /最近、白髪が増えてきました。→シルバールトン /友人に暗いって言われます。→クアッカワラビー /怒ると手が出てしまいます。→ライオン /友だちが少ないです。→キタシロサイ /怖がりで、ストレスが多いです。→ゴンドウクジラ /ダイエットに失敗しました。→クマ | |
動物園の読み薬2 ゾウにオブラート | |
3 仕事の悩み | |
パワハラ上司に困ってます。→サムライアリ /仕事が楽しくなくて……。→ミツバチ /働かないとダメですか?→ミツバチのオス /労働環境の良い職場に転職したい。→リカオン /共働きで、子育てが大変!→コウテイペンギン /育休を取りたいけど……。→タツノオトシゴ /仕事の手柄を横取りされた!→ヒキガエル /頼れる上司って思われたい。→ニホンザル /何か新しい仕事に挑戦したい。→ハダカデバネズミ /仕事でミスをやらかした!→アカゲザル | |
動物園の読み薬3 キリンの爪切り | |
4 家庭の悩み | |
親が過保護でうざい……。→ツカツクリ /マイホームを持つのが夢。→ビーバー /実は、夫婦仲が悪くて……。→ドクトカゲ /収入が安定せず、不安です。→ワニ /夫が家事をしません。→タマシギ /私、見たんです……。→スズメ /DVが辛いです。→マントヒヒ /オレオレ詐欺に遭いました。→カッコウ /姑とうまくいきません。→イルカ /ストーカーにつきまとわれてます。→オオカミ | |
動物園の読み薬4 サルの花粉症 | |
5 恋愛・子育ての悩み | |
結婚できるか不安です。→ハクガン /うまく告白できません。→クモ /妻と倦怠期なんです。→テナガザル /恋愛するのがめんどくさい。→アホウドリ /家柄が厳しくて自由に恋愛ができません。→ムカシトカゲ /育児に自信が持てません。→ジャイアントパンダ /赤ちゃんの夜泣きに悩んでいます。→フクロモモンガ /過保護って言われます。→ライオン /反抗期の子供にまいってます……。→ゾウ /子離れできません。→キツネ | |
動物園の読み薬5 ペンギンにカビが生える!? | |
6 教育の悩み | |
子供のクラスに乱暴な子がいます。→ニホンザル /息子に帝王学を学ばせたい。→ライオン /子供が落ちこぼれないか心配です。→アネハヅル /子供が不良グループで悪い遊びを覚えます。→イルカ /お前のやることはサルと同じとバカにされました。→チンパンジー /あきらめが早過ぎるって言われます。→オオカミ /おばあちゃんがいろいろと教えたがります。→ゾウ /娘が家事を手伝いません。→ナマケモノ /難しいことが苦手です。→ダンゴムシ /お腹が弱い息子……心配です。→ヒョウ | |
動物園の読み薬6 塩をなめる動物たち | |
7 性の悩み | |
おちんちんが小さいのがコンプレックスです。→サバンナモンキー /変態性癖があるのですが……。→ボノボ /好きな気持ちに性別は関係ありますか?→ゴリラ /女装するのが趣味です。→イルカ /パートナーが早漏なんです。→ムササビ /いわゆる草食系男子で、異性に興味がありません。→シカ /オナニーは身体に悪い?→ゴリラ /自分の体臭が気になります。→ジャコウネコ /ドMなんです。→チョウチンアンコウ /テクニシャンって言われたい。→ヤマアラシ | |
動物園の読み薬7 麻酔銃を使え!? | |
8 老いと死の悩み | |
老いるのが怖いです。→フラミンゴ /体の自由が効かなくなり、人に迷惑をかけないか心配です。→シャチ /大切な人が死にました。→チンパンジー /終活はしたほうがいい?→ガラパゴスゾウガメ /殺したいほど憎い人がいます。→チンパンジー /いじめにあって、生きるのが辛い……。→チベットモンキー /若返りたい!→ウーパールーパー /死んだらどこに行くのですか?→ゴリラ /もう死にたい……。→ありません /生き甲斐が見つかりません。→ヒト | |
動物園の読み薬8 ライオンの虫歯 | |
あとがき | |
動物こぼれ話1 結局、最強動物って何? | |
動物こぼれ話2 人間って、動物なの? |
ただし動物学の本のように、その動物の形態・行動などの意味を深堀りするようなものではない。動物学系の本との違いとしては、動物園での裏話がちょくちょく掲載されていることだろう。
その中でメインの悩みとははなれてコラムに興味深いことがあったので紹介しておこう。
動物園の読み薬1 ゴリラに栄養ドリンク
「動物園の動物はかわいそう……」。そういう意見をときどき耳にします。その理由は「自由がないから」というもので、彼らを囲む檻が刑務所の囚人を連想させるのでしょう。しかしながら、動物園の檻の本当の役割は逆です。動物が逃げないようにしているのではなく、人間が近寄って来られないことを動物にアピールする役割が大きいのです。四六時中観客にジロジロ見られても彼らが展示場でゆっくり寝ていられるのは、人間や他の動物が入れない彼らの〝聖城〟を作る、つまり檻で遮断することで、心理的な不安を取りのぞいてあげられているからです。仮に不測の事態が起こり、動物が興味本位で飼育スペースから出てしまっても、自分の生まれ育った〝家〟が落ち着くので、外でパニックにならない限り、結局は必ず戻ってきます。彼らは自分たちが知らない場所の方が不安になるのです。
さて、動物園でも第一級に飼育が難しい動物がゴリラです。ヒトに近い彼らは知能が高いため、ストレス持ちで、同居ゴリラとのちょっとした相性などで食が細くなってしまうこともあります。そんな元気のないゴリラには、人間用の市販の栄養ドリンクを与えることも。ファイト一発!
「動物園の動物はかわいそう……」。そういう意見をときどき耳にします。その理由は「自由がないから」というもので、彼らを囲む檻が刑務所の囚人を連想させるのでしょう。しかしながら、動物園の檻の本当の役割は逆です。動物が逃げないようにしているのではなく、人間が近寄って来られないことを動物にアピールする役割が大きいのです。四六時中観客にジロジロ見られても彼らが展示場でゆっくり寝ていられるのは、人間や他の動物が入れない彼らの〝聖城〟を作る、つまり檻で遮断することで、心理的な不安を取りのぞいてあげられているからです。仮に不測の事態が起こり、動物が興味本位で飼育スペースから出てしまっても、自分の生まれ育った〝家〟が落ち着くので、外でパニックにならない限り、結局は必ず戻ってきます。彼らは自分たちが知らない場所の方が不安になるのです。
さて、動物園でも第一級に飼育が難しい動物がゴリラです。ヒトに近い彼らは知能が高いため、ストレス持ちで、同居ゴリラとのちょっとした相性などで食が細くなってしまうこともあります。そんな元気のないゴリラには、人間用の市販の栄養ドリンクを与えることも。ファイト一発!
檻とは動物の安全地帯を作るものということだが、これで思い出したのはコンラート・ローレンツの本に「逆檻」というのがあったこと。
ローレンツが言う逆檻というのは、人間(子供)を入れておく檻である。
ローレンツの家にはさまざまな動物がいて、それらは檻に入れられず自由に家の中を動き回る。動物が危険ということではないが、何かの拍子に子供と動物の間で何か事故が起こる可能性が排除できないから、子供のほうを檻に入れるというものだ。
また、引用文中、「外でパニックにならない限り、結局は必ず戻ってきます」とあるが、これに関してもローレンツは、檻から「逃げた」動物(鳥が多い)が戻ってこないのは、戻り方がわからないからであって、檻を嫌い自由を求めるからではないと書いている。檻は、その動物を虐待するようなことがなければ、快適な〝家〟というわけだ。
おもしろいトリビアがたくさんあるので、気楽に読むのに良いだろう。
悩みの「処方箋」になっているとはあまり思えないけれど。