「面白くて眠れなくなる脳科学」(その5)
毛内拡「面白くて眠れなくなる脳科学」の5回目。
この本をとりあげるのは今日でおしまいにするけれど、最後にもまた私が知らなかった話を紹介しよう。
それは「動物と人間の違いは何かという究極の問い」という節にあること。
目新しかったのは、最後の段落、前頭前野は選択肢を増やすだけで、意思決定に関与できないということ。
ここでいう意思決定の範囲もはっきりわからないが、その3で紹介したように、意思決定を自覚する前に意思決定は行われているという話とも関連がありそうだ。
将棋や囲碁ではたくさんの読みが行われるが、それには前頭前野が働くが、その中から最善手を選び出すのは、前頭前野ではないということだろうか。
あるいは数学の命題の証明は、言葉として確定するが、証明を考える過程においては、前頭前野ではないところでの直感が働くということだろうか。
最後に、自分が自分であることについて。
ならばエピソードを置き換えることで、人間は他人にもなれるのかもしれない。
記憶の不思議については、たとえばジュリア・ショウ「脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議」にさまざまな事例が紹介されていた。
本書は、ページ数はあまり多くなく、2~3時間で読める分量だけれど、多くの知見が紹介されていて、充実した本だと思う。(5回もブログネタにできたし)
この本をとりあげるのは今日でおしまいにするけれど、最後にもまた私が知らなかった話を紹介しよう。
それは「動物と人間の違いは何かという究極の問い」という節にあること。
情動と感情
ヒトを人間たらしめる要素はなんでしょうか。動物と人間は何が違うのでしょうか。ヒトで発達している前頭前野の働きは間違いなく、人間らしさの一つといえます。これまでご紹介した、ワーキングメモリやありとあらゆる欲求に打ち克つ理性の働きなどは人間ならではのものだと考えられます。
また、ドーパミンの働きで、報酬を期待し、報酬が最大になるように行動を選択するという生物的な性質は、過去から学び、未来を志向するという脳内タイムトラベルを可能にします。あの時こんなことがあった、という経験に基づく記憶であるエピソード記憶は、ヒトを人間たらしめる要素の一つではないかと考えられています。動物にもエピソード記憶を持つものがいるという報告もありますが、ヒトでは、エピソード記憶を保持できる期間が、他の動物よりも長期間におよぶため、自己同一性が長期にわたって保持されています。そのため、子どもの頃の記憶から一貫して覚えており、果ては遠い未来のことまでを思い描くことができるのです。
これによって、想像力を働かせ、壮大な計画を立てて、計画を実現するために適切な行動を起こしたり、やる気を持続させたり、新しいことにチャレンジしたりということが可能になります。
前頭前野は、どちらかというとそういったドーパミン系から湧き上がってくる無限の欲求に対してブレーキをかける働きがあると考えられます。事実、ドーパミン神経系の回路は、前頭前野にも作用しますが、フィードバックしてくる海路もあることが知られています。 幼い子どもやお年寄り、依存症の患者では、この前頭前野の働きが未発達だったり弱まったりしているために、抑制が効かなくなると考えられています。
前頭前野は、理性に基づいてビシバシと白黒つけていくようなイメージがありますが、実際はそうではないということも示されています。理性は単に選択肢を増やすだけで、意思決定には関与できないのです。実際に、我々がエイヤと決定する時に働いているのは、前帯状皮質と呼ばれる共感や情動などにも関与する領域であるといわれています。この領域に障害を負ったある女性は、選択肢が増えるだけで、まったく何も決定できなくなってしまったといいます。
ヒトを人間たらしめる要素はなんでしょうか。動物と人間は何が違うのでしょうか。ヒトで発達している前頭前野の働きは間違いなく、人間らしさの一つといえます。これまでご紹介した、ワーキングメモリやありとあらゆる欲求に打ち克つ理性の働きなどは人間ならではのものだと考えられます。
また、ドーパミンの働きで、報酬を期待し、報酬が最大になるように行動を選択するという生物的な性質は、過去から学び、未来を志向するという脳内タイムトラベルを可能にします。あの時こんなことがあった、という経験に基づく記憶であるエピソード記憶は、ヒトを人間たらしめる要素の一つではないかと考えられています。動物にもエピソード記憶を持つものがいるという報告もありますが、ヒトでは、エピソード記憶を保持できる期間が、他の動物よりも長期間におよぶため、自己同一性が長期にわたって保持されています。そのため、子どもの頃の記憶から一貫して覚えており、果ては遠い未来のことまでを思い描くことができるのです。
これによって、想像力を働かせ、壮大な計画を立てて、計画を実現するために適切な行動を起こしたり、やる気を持続させたり、新しいことにチャレンジしたりということが可能になります。
前頭前野は、どちらかというとそういったドーパミン系から湧き上がってくる無限の欲求に対してブレーキをかける働きがあると考えられます。事実、ドーパミン神経系の回路は、前頭前野にも作用しますが、フィードバックしてくる海路もあることが知られています。 幼い子どもやお年寄り、依存症の患者では、この前頭前野の働きが未発達だったり弱まったりしているために、抑制が効かなくなると考えられています。
前頭前野は、理性に基づいてビシバシと白黒つけていくようなイメージがありますが、実際はそうではないということも示されています。理性は単に選択肢を増やすだけで、意思決定には関与できないのです。実際に、我々がエイヤと決定する時に働いているのは、前帯状皮質と呼ばれる共感や情動などにも関与する領域であるといわれています。この領域に障害を負ったある女性は、選択肢が増えるだけで、まったく何も決定できなくなってしまったといいます。
はじめに | |
Part Ⅰ もっと知りたい! 脳のはなし | |
死んでいるはずの脳が生き返った? | |
人間の脳と、ほかの動物の脳はどう違う? | |
守りは堅いのに、体によくないものは大好き | |
【脳の機能① 五感+α】色や音も脳が作った幻想? | |
【脳の機能② 体の制御】脳は体の司令塔 | |
【脳の機能③ 思考する】考えるってどんなしくみ? | |
【脳の機能④ 感情】心の働きも脳が決める? | |
脳の怪我で性格までもがまったくの別人に | |
ニューロンが放出する100種類以上の化学物質 | |
脳の保護者、グリア細胞 | |
「あくびがうつる」のはなぜ? | |
記憶はどこに保存されるのか | |
ひらめきはどこからやってくる? | |
右脳と左脳のホントのところ | |
薬と毒は紙一重 | |
Part Ⅱ 脳はふしぎに満ちている | |
5000年前のパピルスに記されていた脳 | |
脳科学と心理学 | |
ないはずのものを感じる脳 | |
ここまで進歩した顕微鏡 | |
進化する実験 | |
脳波でわかること | |
生きている脳の活動を見てみたい! | |
こわい! 脳の病気 | |
ドーパミンとその異常 | |
「個性」か「障害」かの境目は難しい | |
脳科学的ストレス解消法 | |
夜コーヒーを飲むと眠れなくなるワケ | |
Part Ⅲ 脳の可能性は無限大 | |
どうして夢をみるのだろう? | |
脳を流れる水の働き | |
頭が良いってどういうこと? | |
歳をとると本当に頭が固くなる | |
大事なのは「隙間」だった | |
「ニューロン以外」の細胞が頭の良さのカギ? | |
アインシュタインと凡人の脳の違い | |
「誰でも頭が良くなる装置」は実現できる? | |
「AIのさらにその先へ」―ブレインテック市場 | |
脳は〝こうしたい〟と思う「前」に動き出す | |
なんで催眠術にかかってしまうの? | |
動物と人間の違いは何かという究極の問い | |
感性と芸術 | |
悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか | |
脳科学で「心」を理解できるのか? | |
「自分が自分だとわかる」不思議 | |
おわりに |
ここでいう意思決定の範囲もはっきりわからないが、その3で紹介したように、意思決定を自覚する前に意思決定は行われているという話とも関連がありそうだ。
将棋や囲碁ではたくさんの読みが行われるが、それには前頭前野が働くが、その中から最善手を選び出すのは、前頭前野ではないということだろうか。
あるいは数学の命題の証明は、言葉として確定するが、証明を考える過程においては、前頭前野ではないところでの直感が働くということだろうか。
最後に、自分が自分であることについて。
私たちの脳が、連続した自己があるに違いないと解釈してしまう理由の一つに、エピソード記憶が挙げられます。過去のエピソードを変わらず覚え続けているからこそ同じ自分であると考えられます。
ちなみに今のところ、エピソード記憶を持っている動物はほとんど報告されていないとされており、人間固有のものではないかと考えられています。
人間の体の細胞は新陳代謝を繰り返し、一定期間ですべての細胞が入れ替わるという。ちなみに今のところ、エピソード記憶を持っている動物はほとんど報告されていないとされており、人間固有のものではないかと考えられています。
「スタートレック(ノヴェライズ版)」には転送装置が登場する。物体を一旦バラバラ(原子レベル?)にして情報として伝え、転送先で同じものを再構成するという装置だが、ドクター・マッコイは、転送前の自分と転送後の自分は同じ自分だろうか? と疑問を持つ。
情報の本性としてコピーが自由にできるということがある。ならば転送する情報はいくらでもコピーして、あちこちに同じ人間を創り出せるのではないだろうか。ちなみに、「ハエ男」という映画では、転送時にハエが紛れ込んで、ハエと人間が混ざってハエ男ができあがるという話だった。
ならばエピソードを置き換えることで、人間は他人にもなれるのかもしれない。
記憶の不思議については、たとえばジュリア・ショウ「脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議」にさまざまな事例が紹介されていた。
ショウの本は随分前に読んでいて、このブログではとりあげていない。読み返してみようか。
本書は、ページ数はあまり多くなく、2~3時間で読める分量だけれど、多くの知見が紹介されていて、充実した本だと思う。(5回もブログネタにできたし)