走れよメロス

「メロスの全力を検証」という中学二年生が書いた論文がある。

昨日紹介したサンキュータツオ「もっとヘンな論文」でとりあげられていたが、独立した章は立てられず「番外編Ⅱ 偉大な街の研究者」で次のように紹介されている。
▼「検証された」メロスのスピード

 続いて衝撃を受けた論文は、2013年度に一般財団法人 理数教育研究所が開催した「算数・数学の自由研究」作品コンクールで最優秀賞をとった、中学二年生の村田一真くんの論文「メロスの全力を検証」だ。理数教育研究所では2013年度から全国の小中高校生から算数・数学の自由研究を公募し、優秀な作品をPDFなどで公開している。
 そのなかでも衝撃的なのが、「メロスの全力を検証」だ。

同論文はネットで読める:「メロスの全力を検証」(理数教育研究所)

Melos-route-result.jpg
この論文については、それが発表されたときにすぐに新聞などで報道されていたから、前からその存在及び主たる結論「メロスは走ってなかった」は知っていた。

着眼点のユニークさと、それを展開するノリの良さで、私も実に面白いと思った
なのでこれにさらに悪乗りして論文批判をしてみよう。(大人げないな、意地悪爺さんだな)

where-from-melos.png
シラクサから十里(39km)の範囲
まず著者は、メロスがシラクサから往復する場所は出身村で、シラクサから十里(39km)であるとする。そして本論文では道程がグラフ化されているのだが、ゴールまでの距離をこれに従って、39kmとしている。
メロスの村の場所は、太宰治の本からは、シラクサから十里としかかかれていないが、この十里は直線距離なのか、それとも実際のルートの長さなのかが明確ではない。
だが、通常、十里離れていると表現する場合は距離であることが用例としては多いと考えられるから、走ったルートの長さを十里とすることは短絡的であり、実際に走ったルートは十里より長いと考えられる。

このルートがどのようなものか、風景描写はあるものの地理的には示されていないから、その長さは不明と言わざるをえないが、2点間のルートの長さは大きければ[距離×√2]程度と仮定するのが適当と考える。

2点間のルート長さは、同じ場所を2度通らないとした場合でも、いかなる値も取りうる。
しかし実在する地勢においては、WやZ字状のルートなど、目的地から一旦遠ざかるルートをとらないとすれば、2点を対角線上に置いた正方形に格子状道路網を設定し、その各区間を選択して進むルートを想定するとルート長は[距離×√2](格子の細かさには依存しない)、これがもっともらしい上限ではないだろうか。

sin1overXgraph.png
ルートのとりようでどんな長さにもなりうる
A-B-route2.png
格子状の道路網を後戻りせずにAからBへ

Athens-Maratho-distance.png

ちなみに古代ギリシアといえば、ペルシアとの戦争でマラトンでの勝利を伝える伝令がアテネまで走った。現在のマラソンのルーツである。
このマラトン-アテネ間は、直線距離で27.84km、ルート長は約35kmである。27.84×√2は39.4kmとなる。


この仮定であれば、メロスが走ったルートの長さは、39km×√2=55.15kmとなる。
論文では、39kmを2.7km/hで走ったとしているが、このルート長であれば3.8km/hで走ったと推定できる。

ただし、3.8km/hとは、通常の人が歩く速さ(4km/h)よりも遅く、著者の「メロスは走ってなかった」という結論が翻るものではなく、同論文で提案されているとおり、
「走れメロス」は「走れメロス」と改題されるべきという主張も首肯されるものである。

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