〝英語の歴史から考える 英文法の「なぜ」〟

617huvATKVL.jpg 朝尾幸次郎〝英語の歴史から考える 英文法の「なぜ」〟
について。

外国人の日本語で、ちょっと違うなぁと感じるとき、それは"てにをは"の使い方がちょっと違うという場合が多い。
「私は行きます」と言うべきところで「私が行きます」と言う、あるいはその逆、などである。

「は」は特称とか話題提示と言われ、既知のものをあげて、それがどうするかに注目しており、「が」はその逆で、行くのが誰かという点に注目している。


これを意図的にしているのが、ドラマなどで、"てにをは"を抜いた台詞は、外国人であることを表す標識になっていたりする。時代劇でも時代性を感じさせるために、"てにをは"を省く台詞にしているものもある。
つまり、「私、行く」というような台詞である。

さて、前置きが長くなったが、このあたりの事情を英語側から見ると、本書の第2章「てにをは」はどこにあるということになる。

まえがき
 
1 英語の始まり
ブリテン島の攻防/現代英語/近代英語/中英語/古英語
<英文法こぼれ話> 日比谷公園のルーン文字
 
2 「てにをは」はどこにある
「は」はどこにある/屈折の話/英語は聞き取りにくい
<英文法こぼれ話> アポロストロフィー大論争
 
3 代名詞にだけ主格・目的格があるのはなぜ
古い姿を残す1人称代名詞/単数にも複数にもyouを使うのはなぜ/文法的性を捨てた3人称代名詞/同じ起源だったwho, what, why/主格と目的格のせめぎあい
<英文法こぼれ話> whowhom, どちらを使う
 
4 屈折はなぜ消えた
英語消滅の危機/消えた屈折/代名詞theyはどこから来た
<英文法こぼれ話> ポアロはことばの名探偵
 
5 格はどこへ行った
主語・目的語は何でわかる/なぜIt's meと言うのか/なぜThere is/areと言うのか/なぜgo homeと言うのか
 
6 <3単現>だけでない動詞の謎
不規則動詞は例外か/<3単現>に-(e)sをつけるのはなぜ/be動詞が無秩序なのはなぜ
<英文法こぼれ話> 『トム・ソーヤーの冒険』に現れる古英語の<3単現>
 
7 未来形はどこにある
「未来形」の謎/willが未来を表すのはなぜ/shallが未来を表すのはなぜ
 
8 仮定法は仮定を表すのか
なじみの薄い「法」/ものの見方・とらえ方/従節に現れる仮定法現在/影の薄い仮定法/過去形で現在を表すのはなぜ/命令文に動詞の原形を使うのはなぜ
 
9 can, may, must-sをつけないのはなぜ
canに<3単現>の-sをつけないのはなぜ/仮定法の意味を担うようになったmay/なぜmustには過去形がないのか/could, mightの将来
 
10 覚えきれない単語の謎
英語史上最大の危機/こんなに語彙が多いのはなぜ/不思議な綴り字の謎
<英文法こぼれ話> U・V・Wの謎
 
11 前置詞ofの意味はなぜ混乱している
「の」では理解できない/前置詞ofが所有格の意味を表すのはなぜ/所有格とofのどちらを使う
 
12 英語は歴史的かなづかい
母音を目で見る/姿を変えた英語の母音/規則的に不規則な英語の綴り字
<英文法こぼれ話> ghotiの謎
 
13 Aの謎:可算・不可算はどうして決まる
数詞から生まれた不定冠詞/可算・不可算はだれが決めた/形あるもの・ないもの/なぜa fewと言うのか
<英文法こぼれ話> 歴史に残った不定冠詞のつけ忘れ
 
14 定冠詞の謎:theはつけるの、つけないの
指示代名詞から生まれた定冠詞/認識の共有/輪郭をつくる/とりたて
<英文法こぼれ話> ハックルベリー・フィンとトム・ソーヤー
 
15 関係代名詞にthatwh-があるのはなぜ
thatを接続詞に使うのはなぜ/that, who, which, whatを関係代名詞に使うのはなぜ/関係代名詞は省略されたのか
<英文法こぼれ話> 二重否定は肯定か
 
16 thatで程度・結果を表すのはなぜ
なぜso/such...thatと言うのか/なぜso that...で結果・目的を表すのか/なぜthatが「そんなに」と言う意味になるのか
 
17 不定詞にtoがつくのはなぜ
なぜ「不定詞」と言うのか/不定詞にtoがつくのはなぜ/疑問文・否定文にdo/does/didが現れるのはなぜ
<英文法こぼれ話> 明治時代の助動詞do
 
18 不定詞は何を表す:to不定詞と原形不定詞
to不定詞の意味はどこから生まれる/動名詞とto不定詞、何が違う/知覚動詞と使役動詞:原形不定詞を使うのはなぜ
 
19 現在完了形にhaveを使うのはなぜ
現在完了はなぜ<have+過去分詞>なのか/完了・結果・経験・継続の意味になるのはなぜ/なぜhave toという言い方をするのか
 
20 進行形は進行を表すのか
進行形はなぜ<be+...ing>なのか/クローズアップで見せる進行形/なぜbe going toという言い方をするのか
 
あとがきに代えて
――『オックスフォード英語辞典』を使う
この問いについては、語の「格」―主格、対格、属格、与格がその働きをしていると理解される。ちなみに、日本語では、助詞を添えることで、語順は比較的自由になるが、古英語など、格が厳密な言語でも、語順の自由度は高いらしい。

語学は詳しくないし、古英語はもとより普通の英語もあやしい、フランス語は大学の第二外国語で履修したものの、格がよりうるさいといわれるドイツ語は知らない、もちろん格概念のない日本語を母語とする者としては、格の説明を聞いてもピンとこないわけだけれど、納得はできる。

繰り返し訓練すれば、納得から直観へと深化するのかもしれない。


私が高校生のとき「試験に出る英単語」という受験参考書が出た。関西地区では「シケタン」と略称されていた(関東では「デルタン」だったとか)。
「試験に出る」というのは、大学入試に出る読解問題は、出典が、それなりの論文などカタイものが多くて、そういう文章には、日常生活では使わない単語が多く出る、それらがキーワードになっていることが多いから、それを知っているかいないかが大きな違いである、そういう単語をセレクトした、という趣旨である。
であるが、この本の特徴は、単語とその日本語訳で終わらせていないこと。単語の語幹を指摘し、接頭辞や接尾辞に分解して、語の成り立ちを説明していたこと。
今でも憶えているが、最初の単語は、intellectだったと思うが、inte(r)「内」とlect「言葉」というように説明されていたと思う。

このように説明されると、dialect、lectureとも関連することが了解され、効率的な記憶ができるというわけだ。

漢字教育でも、部品(部首、符)をきちんと説明することで、漢字の記憶が効率的になる。だから、部品が常用漢字に入っていないというのは良くないと思う。例えば、「従」が常用漢字なのに、その本字「從」や「从」が常用漢字にないというのは不適切だろう。


本書は「歴史から考える」というわけで、古英語からの説明が多い。前述のように、これは説得力があり、納得もできるのだけれど、古英語を並べて説明されると、やっぱり頭が痛くなる。

その点、歴史をふまえつつも、現代感覚に則して説明されると、思わず膝を打ちたくなる。
なんといっても、言語表現は、発話者の認識が表面に現れたものなのだ。
文法は文中の言葉の関係のルールではなくて、表現者の内心(認識)に関わったルールなのである。
その端的な例は、"a proud Graham"というように、人名にも"a"が付くことだろう。

これはグラハムには、陽気なグラハム、落ち込んだグラハムなど、一人のグラハムにいろんな面があって、その一つの面として、誇り高いグラハムがあるという含意。


表現された形態ではなく、その表現を産んだ内心、それを理解しなければ、誤読につながる。
それには、冠詞がaなのか、theなのか、ついていないのか、複数か単数かという細かい(と思える)部分に敏感になることが求められる。

ネイティブの人だったら、日本の学校英文法とは違う表現をしたとしたら、そこにはその人の認識の内面が表現されている、と考える。
だけど、私が同じ表現をしたら、文法的に間違いだと言われるに違いないけれど。

ところで、本書の最後に、英語学習に最適の本として、OED(Oxford English Dictionary)が紹介され、その記述方法なども丁寧に説明されている。OEDは語義は歴史的順序で並べられているから、どうしてその意味を持つようになったのか、その変遷を追うことができるとしている。
私も同感である。
といってOEDを買う気はまったくないけど。

たしか、岩波英和辞典は歴史的順に語義が並んでいて、頻度の高い意味を太字にしていたと思う。こっちなら手が出そうだが。


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