「英語の読み方 ニュース、SNSから小説まで」
小学校から英語学習が導入されている。
日本人の英語力が他の非英語圏の人たちに比べて低いから、小さいうちから英語を身に着けさせようという意図のようだ。
小学校の先生たちに英語教育ができるのかという現場の問題を指摘する人もいるし、英語を使う環境に全くない日本の子供と、まがりなりにでも英語を使う必要がある他国の人たちでは置かれている状況が違うという意見などもある。
そして文科省が進める英語教育は、4技能(読む、聞く、書く、話す)をバランス良く鍛えることが必要というものであるが、本書はそれを否定しないものの、会話力が低いからといって、聞く・話すに重点を置くことについて疑問を向けている。
以前、大学入試改革という記事にこういうことを書いた。
使える英語といって会話を重視する風潮があるが、昔、国際的な企業人の話として、英語が使える人というのはやっぱり東大卒とかで、ビジネスで必要なのは高度な単語・表現で、そしておよそ日常会話ではありえない、そういう文章が出題される入試を突破した者にそれが期待できる、というような趣旨のことを読んだ覚えがある。(ネイティブの子供は、6歳ぐらいまでに、日本の生徒が高校までに習う単語の数より1桁ぐらい多い単語を覚えるともいわれている)
はじめに | ||
第1章 英文を読む前に | ||
―日本人に適した英語の学び方― | ||
1.1 なぜ読解力が大事なのか | ||
英語4技能 /「読む力」の現実 /読解力の錯覚 /偏りを強みへ /英文を読むための前提 | ||
1.2 文法の重要性 | ||
英文法の意義について /スッキリしない感覚の正体 /主語と動詞を確定する /複雑な構造をどう捉えるか /文の骨格を見抜くヒント /オススメの学習参考書 | ||
1.3 単語・熟語・イディオム | ||
語彙力の問題 /クイズで力試し(単語) /クイズで力試し(熟語) /参考になる語彙力増強本 | ||
1.4 背景知識について | ||
侮れない背景知識 /背景知識を活用した学習法 /インターネットの活用 | ||
第2章 英文に慣れる | ||
―インターネットを活用したリーディング― | ||
2.1 Wikipediaの記事 | ||
ネット上の巨大百科事典 /日本に関する記事 /海外に関する記事 /専門的なトピック /使用上の注意点 /長大な記事の利用法 | ||
2.2 英文多聴の方法 | ||
読むから聞くへ /ネット上の素材を使ったリスニングの注意点 /英語力向上に役立つニュースサイト /ニュースの英語に挑戦 /YouTubeやTED talksの活用 /オススメのTED talks | ||
2.3 インターネットのさらなる活用法 | ||
俗語や新語に強いUrban Dictionary /語源が分かるOnline Etymology Dictionary /Google検索を発信に活用する /最近の用例をチェックする /信頼できるサイトに限定する | ||
2.4 インターネット以外のメディアの活用 | ||
比較的入手しやすい英字媒体 /オススメの英字新聞 /オススメの洋書 | ||
第3章 時事英文を読む | ||
―新聞、ニュースに挑戦― | ||
3.1 時事英文はこう読む(1)―短文編 | ||
見出しの読み方 /ネイティブでも迷う見出し /時事英文を読むための5つの法則 /①発言者や情報源を示す文末の主語+思考伝達系の動詞 /②分詞構文の多用 /③節の内容を1語で言い換える同格語 /④接続詞ifの代用をする省略表現 /⑤連鎖関係詞節を使った判断の主体の明示 | ||
3.2 時事英文はこう読む(2)―長文編 | ||
Whole Part法 /長文に挑戦(1)―ネット中傷と政治 /長文に挑戦(2)——新型コロナウイルスと五輪 | ||
3.3 ネイティブでも間違えやすい様々な表現 | ||
新聞や雑誌でも話題に /問題の表現① 助動詞+of+過去分詞 /問題の表現② could care less /問題の表現③ cannot be underestimated /問題の表現④ 二重のbe動詞 /問題の表現⑤ "who" or "whom"? /問題の表現⑥ 分詞構文? /もっと知りたい人のために | ||
第4章 論理的文章を読み解く | ||
―スピーチ、インタビュー記事から論文まで― | ||
4.1 スピーチやインタビュー | ||
スピーチの英語 /スピーチを読む(1)―ボリス・ジョンソン /スピーチを読む(2)―アーノルド・シュワルツェネッガー /学者のスピーチ―ウィリアム・ジェームズ /学者のインタビュ―バートランド・ラッセル | ||
4.2 論文やノンフィクションの文章 | ||
言語の変化に関する論説文 /文法家の論説文 /社会科学を扱った文章 /英語の言語的特徴から考える /哲学的文章 /読みやすいものから読み進める /伝記を読む /フィクション的要素を楽しむ―ダーウィンの自伝 | ||
第5章 普段使いの英文解釈 | ||
―SNS、コミック、小説を読みこなす― | ||
5.1 SNSの英語 | ||
SNSの英語も原則は同じ /ツイートを読む(1)―マーク・ハミル /ツイートを読む(2)―スティーブン・キング /ニュースメディアのツイート(1)―フィナンシャル・タイムズ /ニュースメディアのツイート(2)―タイムズ /SNSやインターネットから生まれた言葉 | ||
5.2 4コマ漫画やグラフィックノベルの英語 | ||
4コマ漫画 /グラフィックノベル | ||
5.3 小説の英語 | ||
小説英語の読み方 /ジョージ・オーウェル『1984年』を読む /情景の描写 /心理の描写 /会話のシーン /エドガー・アラン・ポー「黒猫」を読む /語り手の心理描写 /理屈っぽい文体 | ||
あとがき | ||
巻末付録 「一歩上」に進むための厳選例文60 | ||
―解釈や作文に活かせる重要語彙、 文法、イディオムを身につける― |
本書は「英語の読み方」というタイトルだけれど、著者は英語の会話力が低いのは、読み方ができてないからであると喝破し、本当に英語力を身につけるための実践的なトレーニングを示してくれている。
この本を読むだけで英語力が付くわけではないけれど(実践しなければならない)、勉強の方向性を間違えないために読むべきだろう。(会話重視という文科省の役人も)
本書では第1章で、日本人の「読めるけど聞けない、話せない」という状況を説明し、何が足りないのかを明示する。長くなるが引用しよう。
「読む力」の現実
(略)
「時間をかけて辞書を使えば、新聞記事などもそれなりに意味は分かる。しかし、ニュースで言っていることや映画のセリフなどはさっぱり聞き取れない。やはり、読む力のほうが聞く力よりはるかに高いということではないか」
このような感覚が、「読めるけど聞けない、話せない」というイメージを支えてきた側面があると思われます。しかし、この感覚は必ずしも正しいとは言えません。
読解力の錯覚
結論から言えば、そのような感覚は「読む」ことに対する基準と、「聞く」ことや「話す」ことに対する基準が全く異なることから生まれる、一種の錯覚です。
(略)
しかし、英語話者の読解スピードと言われる「1分間に200語<略>」という基準から見ると、大半の人は恐らく半分以下(場合によっては3分の1以下)のスピードでしか読めていないと思います。
(略)
ところが、上のように「読めるけど聞けない、話せない」という感覚を持っている人は「聞ける」や「話せる」のほうにはネイティブスピードやそれに近い基準を当てはめる傾向があるように思えます。
つまり、「日本人は読めるけど聞けない、話せない」という主張は、「日本人はネイティブスピードの半分以下の速度でなら読めるけど、ネイティブスピードで会話はできない(聞けない、話せない)」という、いたって当たり前のことを言っているに過ぎないのです。
(略)
意外に思われるかもしれませんが、ニュースや講演のように、話者が聞き手を意識してはっきりと話している英語を聞き取れないとすれば、実際は発音や耳の問題だけでなく、読解力も原因だと考えてほぼ間違いありません。
(略)
英語話者向けのニュースで、キャスターやリポーターに英字新聞に近いレベルの英語を1分間に約150~200語のスピードで話しています。新聞記事を1分間に70~100語しか読めないとすれば、ついていけなくて当然なのです。
逆に言うと、読むレベルが分速150語以上になってくれば、かなりリスニングも楽になるでしょうし、分速200語で標準レベルの英文が読める人が全く聞き取れないということは、そうそうないと思います。
偏りを強みへ
(略)
なぜなら、英語圏での長期滞在などによって、環境の中で自然と英語を身につけ、シンプルな英語でのやりとりには特に困らないという人がよく行き詰まるポイントが、実は大学入試問題に出題されるような英文読解だからです。
(略)
日本で教育を受けてきた人なら、読解力の基礎を強みとして他の能力にも応用していくほうが、そこまでのやり方をすべて捨てて、突然英会話の練習をするよりはるかに効率がよいと思います。本書が「読む」能力に焦点を当てている背景には、こういった考え方があります。
いかがだろう、私には実に腑に落ちる説明で、冒頭にあげたビジネスに必要な英語の習得という点でも、的を射たもののように思える。
そして英文を読む(理解する)ための前提条件を3つに分類し、次のように説明する。
英文を読むための前提
(略)
英文を読んでいくにあたっての前提条件となるものを大きく3つに分けると、「文法の理解」「広い意味での語彙力」「英文の内容に関する背景知識」に分類できます。
このうち最初の2つについて言うと、文法が大学受験レベルでもかなり網羅されているのに対し、語彙力(あるいは単語や熟語、語法の知識)は受験レベルと実践レベルにかなりの乖離があるという特徴が挙げられます。
また、3つ目の背景知識については、知識の有無や多寡がもたらす理解度の差が読解(あるいはリスニング)の学習にどのような影響を与えるかということは、理解しておいて損のないトピックだと思います。英文で書かれている内容に関する知識が豊富にあれば、語学力で不足している部分を補うこともできますが、逆に知識が乏しい分野の英文だと語学的に易しくても苦戦することがあるからです。
そしてこの3分類に沿って第1章の各節が立てられている。
なお第2章以降は、それを念頭におきながら実践的トレーニングについて示されている。
「広い意味での語彙力」というのは冒頭のビジネス英語の話にでてきた、(ネイティブの子供は、6歳ぐらいまでに、日本の生徒が高校までに習う単語の数より1桁ぐらい多い単語を覚えるともいわれている)に通ずるものだと思う。
本書では、そのうち文法、語彙力について、読者へテストをしている。
まず文法の理解について、次の例文が示されている。
① The person believed to have helped the thief escape has denied he had anything to do with the incident.
② What I think is important is if this restaurant will become a hit among young people.
③ When I opened the door, I was so shocked that he was there that I was utterly speechless.
私はこのテストについては全く迷うことなく正解できた(えへん)。おそらく多くの人もそうだろう。
しかし単語・熟語についてのテストはほとんどわからなかった。それぞれから1問ずつ転載しておこう。
Q1 US China Trade Deal - BBC News (『米中の貿易交渉』) | ||
① ceasefire | 答を見る | |
② reciprocal | 答を見る | |
③ subsidize | 答を見る | |
④ thorny | 答を見る | |
⑤ truce | 答を見る |
Q6 『台湾の総統が中国に警告』 | ||
② hit home with... | 答を見る | |
③ bring A home to B | 答を見る | |
④ by (in) a landslide | 答を見る | |
⑤ beef up | 答を見る |
次の背景知識とも多いに関連するが、専門分野の単語なら、日常の使用頻度が低いものでも知っているわけだが、こういう政治分野に疎い私などはさっぱりである。
「レトロ」という言葉が流行り始めた頃、この原語はretrospectiveと正しく答えられたのは医学関係者だったという話を聞いたことがある。retorospectiveは疫学で後ろ向き研究という意味で使われ、prospectiveの対立語である。
ちなみに、数学はあまり特殊な用語はないと思うが、日常用語が特殊な意味で使われる。
たとえば、almost everywhereは例外領域の測度が0であるという意味だし、completeとはコーシー列が収束するという意味だ。わかりやすいものを挙げれば、groupとは演算が結合律を満たし、単位元・逆元を持つ代数系という意味だ。
2章以下は目次でわかるように、いろんなタイプの英文例を使って、独特の言い回しなどを丁寧に説明している。ネイティブ・スピーカーも冒しがちな文法ミス、誤用などもおもしろい。
読んでいて思ったのだが、これは大学入試のために英文解釈の参考書を読んでいるのと同じだ。例によってこの本も通勤の車内で読んだわけだが、知らない単語などに出くわすと辞書がほしい。
あまりなじみのない重要語句は説明されているのだが、そうではない語句で私の知らないものもちょくちょくある。辞書はスマホに入ってるがいちいち引くのも面倒。こういうときは電子版だと良いだろう。
また、本書には、英文解釈の参考になる情報源、インターネット・コンテンツがたくさん紹介されている。
本ブログでときどきネタに使っているOnline Etymology Dictionaryも紹介されている。
そうそうGoogle検索の便利な使い方も書いてある。
人生の黄昏時にある私は、ついにまともに英語がしゃべれずに終わりそうだが、英語を学び、身につけたいという気持ちだけはかきたてられる本である。
どのぐらいトレーニングしたら、1分間に約150~200語のスピードの英語が聞き・話せるようになるんだろう。
あぁ、もう50年若かったらなぁ。