arret:夫婦別姓選択制のない民法・戸籍法は違憲だとする渡邉裁判官の意見
事案は、都内の3組の事実婚の夫婦と広島市内に住む女性とが、憲法に反して夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定によって結婚ができず、不利益を受けているとして、立法不作為の違法を理由に国に賠償を求めたというもの。
原審の広島高等裁判所と東京高等裁判所は「夫婦がどちらの姓を名乗るかは協議による自由な選択に委ねられていて、規定が結婚を不当に制約するとは言えない」などとして、いずれも第1審に続いて憲法には違反しないと判断し、請求を棄却した。これに対する上告で、最高裁は決定により上告を棄却したが、渡邉恵理子裁判官が詳細な意見をつけ、夫婦別姓を認めない民法・戸籍法の違憲を論じ、この意見に宇賀克也裁判官も同調している。ただし、宇賀裁判官の理由は渡邉裁判官にではなく自分が以前に書いた少数意見に同じというものだが。
渡邉裁判官の意見の内容は、以下の通り。
1.氏名が個人の識別機能と個人として尊重される基礎であり人格の象徴でもあることから、婚姻による改姓はそれまで生きてきたアイデンティティの喪失に繋がるので、(改姓するかしないかの)意思を尊重すべきである。
夫婦いずれかが改姓しないと結婚できない現行制度は、婚姻の自由の制約であり、その制約に客観的な合理性がなければ憲法24条違反となる。
2.客観的な合理性の有無
(1)夫婦同氏が家族識別や一体感の醸成に寄与することは認められるが、婚姻をするために意に反する氏の変更をして個人の識別機能および人格の喪失という不利益を甘受せざるを得ない制約を正当化する根拠とはならない。
「家族の識別についてみると,事実婚の場合には同一氏による家族の識別機能がないことはいうまでもなく,また,法律婚についてみても,近時,離婚をする者や,外国人と婚姻する者の数は少なくなく,再婚をする者の割合も増加している現状に鑑みると,氏の同一性によっては家族を「識別」できない場合は既に相当数存在しており,離婚や再婚等が少なかった時代と同様の夫婦同氏制による家族識別機能は原審口頭弁論終結時において既に期待し難くなっていたものと考えられる。
また,そもそも,家族の一体感は,間断のない互いの愛情と尊敬によってはじめて醸成,維持され得るものであり,同一氏制度によってのみ達成できるものではない。同一の氏を名乗る家族が必ずしも家族の一体感を持っているわけではなく,また,氏の変更を回避するために事実婚を選んだ(あるいは選ばざるを得なかった)家族の一体感が存在しないまたは低いというものではないことも自明であると思われる。
さらに,同一の氏であることが家族の一体感を醸成することに役立つとしても,そのような家族の一体感が,婚姻に伴い氏の変更を余儀なくされた一方当事者の現実的な不利益(犠牲)によって達成されるべきものとすることは過酷であり,是認し難い。」
(2)子の福祉の観点でも、親と異なる姓を持つ子は色々なケースで存在し、また親の再婚により改姓が強制されて実親とのつながりが損なわれると感じる懸念もあり、子の福祉が当然に夫婦同氏を必要とするとは言えない。具体的な制度設計は国会が行う。
(3)通称使用は個人識別機能に新たな問題を生じさせ、金融機関や医療機関など使えないところもたくさんある。
(4)婚姻相手の姓に変えるかどうかを選べるときに改姓を選択することと選ぶ余地なく改姓することとは、その後の人生にも影響を与える大きな違いとなり、「このような選択の機会を与えることこそ,個人の尊厳の尊重である」。
3.以上、夫婦同氏強制は憲法に反するが、最高裁が違憲じゃないと言っちゃっているから立法不作為は職務上の義務違反には当たらない。
とても説得的である。
しかし、国賠を否定した3の論理は全くいただけない。違憲を主張しつつ、合憲判決があるから国会議員の職務上の義務違反は問えないというのだが、違憲だという前提の元では国会議員としては最高裁がどう言おうと法改正の義務を負うのではないか。これは憲法尊重擁護義務の直接の効果であるとも言える。
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