jugement:確認の訴えが法律上の争訟ではないとされた事例
東京地判令和3年12月27日(判決全文PDF)
なかなか複雑な事案ではあるが、要はホテルオークラ東京の建て替えに伴い、旧本館の寿司店久兵衛が新本館に移転することとその間別館で仮店舗営業をしていたが、新本館に割り当てられた店舗スペースを巡って争いとなり、司法判断を求めたというものである。
久兵衛側は当初ホテルオークラ東京に旧本館の店舗の使用妨害禁止の仮処分を申請して、建て替え自体に抵抗をしていたようだが、それは和解により終結し、新本館での賃貸借予約契約と、そこで店舗を再開するまで別館で営業を続けるという条件で落ち着いた。この和解の中では、新本館での賃貸借契約を定めるという予約にとどまり、その内容については協議すること、賃料は売上の20%というラフな合意をしていた。
しかしその後、新本館の店舗の割当プランが出てくると、その割当場所に不服の久兵衛側が交渉を続け、その一方で本件訴訟を提起した。その請求の趣旨は、新本館の賃料が137万8800円を超えないことの確認と、被告が協議なしに新区画を提示したことが信用毀損になるとして損害賠償1000万円を求めるというものであった。
判決文中からはその金額の根拠があるのかどうかもよく分らないが近隣賃料等と比較して算出したものなのであろう。
ところがその後、新本館での賃貸借契約の交渉が行き詰まる中で新本館自体のオープンが決まると、原告久兵衛は第二の仮処分を申請した。その内容は明らかでないのだが、この第二仮処分事件も和解により終結した。その和解内容は、新本館の賃貸借(仮)契約で、場所は被告が提示した区画で、賃料については金額が判決文から不明なものの「暫定賃料」を支払うこと、そして本件訴訟は継続し、この賃貸借契約と暫定賃料に基づく主張立証は行なわないこと、本件訴訟の判決確定後も原告が本件区画での営業継続をする場合は暫定賃料の賃貸借契約または本件訴訟で定められた内容に沿った契約を締結する義務を両当事者が負うこと、本件訴訟が訴え却下となった場合はその判決確定から60日以内に他の法的手続をとらないときは賃貸借契約が締結されるまで、または他の法的手続が確定するまで、原告は本件区画を使用することはできず賃料支払い義務も負わない、というものであった。
ともあれ、両当事者は、また仮処分裁判所も、本件訴訟で賃料に関する何らかの判断がくだされるものという期待を持っていたが、場合によりそれは却下されるということ念頭に和解内容を定めたようである。
以上のような経過のもとで、本判決はどういう結論をだしたかというと。
賃料の137万8800円を超えない債務の不存在は、訴え却下で、損害賠償請求は請求棄却であった。
訴え却下の理由は、賃貸借の賃料を定めるに足りる合意等は締結されていないのであるから、当事者間に適切妥当な賃料を定めるというのは法令の解釈適用により行うことのできる紛争ではなく、要するに法律上の争訟に当たらないし、その点をおくとしても、賃料について本件賃貸借契約に基づく賃料を裁判上主張することは本件賃貸借契約に基づく訴訟行為を行わないという訴訟契約に反するので違法であり、結局訴えが不適法であるということであった。
原告は、借地借家法の32条類推適用を訴えたが、認められなかった。
法律上の争訟がこういうところに出てきたのは興味深いところである。
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